『ラスト・ブラッド』:2009、香港&フランス

16世紀、応仁の乱によって流血地獄となった日本では、人間に化けたオニたちが血を餌にして増殖した。勇敢なサムライであるキヨマサがオニたちを退治したものの、最も邪悪なオニゲンによって殺された。その後は何世紀に渡って暗黒の時代が続いたが、秘密組織と手を組んだ謎の少女がオニゲンを倒すべく忽然と現れた。1970年、東京。地下鉄に乗っていた少女サヤは、人間の男に化けたオニを追い詰め、日本刀で真っ二つにした。駅で降りたサヤに、待っていた秘密組織カウンシルのマイケルが「時間が無い。任務に就け。一匹殺すごとに、標的に近付く」と告げる。「カスに用は無い」と苛立つサヤに、彼は「もう少しの辛抱だ。焦るな」と述べた。
サヤは町を歩きながら、山里で暮らしていた頃の出来事を回想する。彼女は死んだ父のことを、家来のカトウに尋ねた。「父上はまさしくサムライです。最も勇敢なお人でした」と言うカトウに、サヤは「父上は、どうやって人かオニかを見極めていた?」と問い掛けた。カトウは「目を真っ直ぐに見つめれば、そこに魂が無いのが分かります。父上はオニゲンに殺されました。父上の仇を討ち、父上の後を継ぐことこそ、サヤ殿の天命です」と述べた。
アメリカ空軍の関東基地では、一週間で3人がオニに殺害されていた。マイケルはサヤを呼び、基地内のハイスクールに潜入するよう指示した。「奴らを殺し、オニゲンを誘い出せ。次は奴らが変異するまで待て。念のため、何事も慎重に。不用意に正体を明かすな」と彼は説明した。サヤがハイスクールへ行くと、同じクラスにはマッキー将軍の娘であるアリスがいた。クラスメイトのリンダとシャロンは、何かに付けてアリスを冷やかしていた。
体育教師のパウエルは、アリスに剣道の居残り練習を命じた。リンダとシャロンは、練習に付き合うことをパウエルに申し入れた。アリスが体育館で練習を始めようとすると、リンダとシャロンが日本刀を抜いて襲い掛かって来た。そこに駆け付けたサヤはアリスに「逃げろ」と告げ、体育館から彼女を締め出した。サヤがリンダとシャロンを抹殺する様子を、アリスは覗き見た。彼女は慌ててマッキーの元へ行き、目にしたことを説明した。アリスと入れ違いで、カウンシルの死体処理班2名が体育館へ赴いた。
マッキーはフランクたちに命じ、カウンシルの男たちが乗っている車を包囲する。そこへマイケルが相棒のルークを伴って現れ、CIAの作戦担当主任と自己紹介する。マイケルは「彼らは部下だ。上司から連絡が行く」とマッキーに言い、解放するよう要求した。アリスが父を連れて体育館へ戻ると死体は消えており、サヤの姿も無かった。マッキーはフランクに「奴らの狙いを探れ」と命令した。
マイケルとルークはカウンシルのボスから呼び出された。「将軍がCIAとワシントンに連絡し、お前たちを調べている。目立つ行動は困る」とボスに釘を刺され、ルークは「処理します」と告げた。ボスは2人に、オニゲンが現れたことを教えた。アリスはパウエルを尾行してバーに入り、「リンダたちが私を襲うと知ってたわね。なぜ私を」と話し掛ける。パウエルは「本当の戦争とは、大昔から続く、君の種族と私の種族の戦いだ。そして我々の勝利は近い」と彼女に語る。パウエルも店にいる連中も、全員がオニだった。
アリスは店を飛び出すが、オニに取り囲まれた。そこへサヤが助けに入り、日本刀を使って全員を始末する。アリスはサヤの手当てを受け、「リンダとシャロン、パウエルは何者だったの」と尋ねる。サヤは「3人の正体は、人間に化けたオニよ」と告げる。「他にもいるの」という質問に、彼女は「予想以上に」と答える。アリスが「私に出来ることは?父は将軍よ。話せば手伝ってくれるかも」と告げると、彼女は「長生きしたければ誰にも言うな。これは私の戦い。家に帰れ」と冷たく言う。
カウンシルの死体処理班を尾行していたフランクは、車のトランクから鞄を盗み出し、マッキーの元へ届けた。入っていたのは謎の武器だった。そこへルークが来て、2人を始末した。帰宅したアリスはルークを棒で殴り倒し、その場から逃げ出した。ホテルに戻ったサヤは、瓶に入れておいた血を飲んでいた。彼女は人間とオニのハーフだった。そこへアリスが来て、「パパが貴方の仲間に殺された。なぜ殺したの」と非難した。アリスを狙う狙撃手に気付いたサヤは、彼女を突き飛ばした。
サヤがアリスを連れて廊下に出ると、ルークが立ち塞がった。ルークが自由を構えて「アリスを渡せ」とサヤに要求しているところへ、マイケルがやって来た。マイケルはルークに、銃を下ろせと要求する。ルークは従ったと見せ掛け、隙を見せたマイケルを銃殺する。サヤはルークの右腕を切り落とし、アリスを連れてホテルから逃走した。2人はトラックを奪い、山奥へ向かう。傷を負っているサヤが意識を失ったため、アリスは自分の血を飲ませて彼女を救う…。

監督はクリス・ナオン、脚本はクリス・チョウ、製作はビル・コン&アベル・ナミアス、共同製作はアリス・ヤン、製作協力はチャン・ジェンイェン&クレイグ・ミッチェル&ホアン・チェンシン、コンサルティング・プロデューサーはハンス・バウアー、撮影はプーン・ハンサン、編集はマルコ・キャヴェ、美術はネイサン・アマンドソン、衣装はコンスタンサ・バルドゥッシ&シャンディー・ルイ・フン・シャン、アクション監督はコーリー・ユエン、音楽はクリント・マンセル。
出演はチョン・ジヒョン、アリソン・ミラー、リーアム・カニンガム、JJ・フィールド、小雪、倉田保昭、マイケル・バーン、コリン・サーモン、アンドリュー・プリーヴィン、ラリー・ラム、コンスタンティン・グレゴリー、マシエラ・ルーシャ、アイリッシュ・オコナー、ジョーイ・アナヤ、カリー・ペイトン、リウ・レイ、サンティアゴ・アロンソ、ヘクター・アロンソ、チュン・イヘ、ライ・チーヤン、アルベルト・シルヴァ、ルイス・サバティーニ、ネイサン・アマンドソン、フリオ・フリエス、セルヒオ・カレッリ他。


日本の映像制作会社“Production I.G”が制作した48分のフルデジタル・アニメーション映画『BLOOD THE LAST VAMPIRE』を基にした作品。
監督は『キス・オブ・ザ・ドラゴン』『エンパイア・オブ・ザ・ウルフ』のクリス・ナオン。
サヤをチョン・ジヒョン、アリスをアリソン・ミラー、マイケルをリーアム・カニンガム、ルークをJJ・フィールド、オニゲンを小雪、カトウを倉田保昭、カウンシルのボスををマイケル・バーン、パウエルをコリン・サーモンが演じている。

香港とフランスの合作映画だが、『BLOOD THE LAST VAMPIRE』と同じく北米の市場を意識したのか、チョン・ジヒョンは英語の台詞を喋っている。
リュック・ベッソンのヨーロッパ・コープと同じようなやり方だね。
チョン・ジヒョンは出演者の表記まで英語圏を意識したのか「Jeon Ji-hyun」じゃなくて「Gianna」となっているので、「誰だよ」とツッコミを入れたくなった。
ただ、じゃあ出演者の全員が英語を喋るのかというと、倉田保昭は日本語だったりする(小雪も日本語台詞の箇所がある)。

アニメーション映画『BLOOD THE LAST VAMPIRE』と比較してどうなのか、ということで言えば、どっちもどっちかな。
『BLOOD THE LAST VAMPIRE』って、色々な賞なんかも貰っているし、どうやらアニメ好きな人からの評価も高いようだけど、私はそんなに面白いと感じなかった。
「セーラー服姿の女子高生が日本刀を振り回して化け物を斬る」というヴィジュアル・イメージはキャッチーだけど、その設定で思考が止まっていると感じた。
他にも、「1966年という時代設定の意味が無い」「横田基地を舞台にしている意味が、英語が飛び交う場所という以外に無い」「重要な役割を担う保健医が美女じゃなくて肥満体の冴えないオバサンってのは違うだろ」「謎が多く残ったままで、TVシリーズのパイロット版みたいな感じ」など、色々と不満の多い仕上がりだった。

さて、この実写版である。
『BLOOD THE LAST VAMPIRE』は48分の作品だったが、それを引き延ばしているわけではなく、その後ろに物語をプラスした形で構成されている。つまり、後半部分がオリジナルのストーリーというわけだ(前半部分にも脚色が加えられている)。 ただ、「内容が無いよーん」ってのは基本的にアニメ版と一緒。
アニメ版は48分だったので、映像だけで勝負しても、何とか誤魔化すことが出来た(そんなことを書いている私は退屈に感じたのだが)。
しかし上映時間が約2倍に伸びて、それでも「内容はスッカスカで、映像だけ、っていうかアクションシーンだけで勝負」というのは、なかなか厳しいものがある。

まず愚かだなあと感じるのは、冒頭のテロップで「一人の少女がオニ退治に現れた」という事情を明かしてしまっていること。
その後のアヴァン・タイトルで地下鉄のシーンが写るのだが、ここは冒頭の説明が無かったら、「冴えないサラリーマン風の男をヒロインが無言で追い詰め、日本刀で真っ二つにする」という風に見えるだろう。
だが、冒頭の説明を先にしちゃってるから、そのサラリーマンがオニの化けた姿であることが分かってしまう。
それは勿体無いでしょ。

サヤは基地のハイスクールに潜入するという設定なので、セーラー服を着る必要性は無い。他の生徒たちは私服で、セーラー服なんてサヤだけだ。だから、その制服を生徒たちはバカにして笑っている。
任務のことを考えれば、あまり目立っちゃいけないはずなのに、のっけから目立っているわけだ。
アニメ版では「セーラー服姿の女子高生が日本刀を振り回して化け物を斬る」というキャッチーな絵作りで思考が停止し、「セーラー服姿である必然性、納得のいく理由」が何も用意されていなかったが、それを説明する必要さえ無い程度の上映時間だった。
今回は、それを説明すべき展開が序盤にあるわけだが、何の理由付けも用意されていない。
ついでに書いておくと、1970年という時代設定にしている意味も無い。

チョン・ジヒョンは可愛い顔立ちの女優だが、さすがに16歳(に見える女)の役は無理があるでしょ(撮影当時は27歳)。
アジア人は北米の人からすると童顔に見えるらしいけど、少なくとも同じアジア人であるワシの目からは、セーラー服ってのはコスプレにしか見えない。
「セーラー服を着ているヒロイン」ということを何よりも重視するのであれば、もう少し若い女優を起用すべきだろう。

見た目の問題だけでなく、キャラの中身にも問題があって、まあ見事に薄っぺらい。
サヤが幼少時代にボーイフレンドを殺していたという過去が後半になって明かされるが、それがキャラの厚みや物語の深みを与えることもない。
そもそも、そこまでに彼女がボーイフレンドを殺してしまったことへの罪悪感を引きずっているという描写は皆無だったし。
人間とオニのハーフであることに対する苦悩や葛藤も、まるで見えて来ない。
ホントに「アクションシーンだけ」の映画なのね。

そのアクションシーンだが、アニメに比べると、映像表現の自由度はどうしても落ちる。
また、チョン・ジヒョンはアクション女優ってわけじゃないから、動きのキレやスピード、アクロバットで見せるというのも難しい。
スローモーションや細かいカット割りで誤魔化しているから、モタモタしているとか、動きが冴えないとか、そういう印象は受けないけどね(ただし、チャンバラにおける腰の入れ方が不足しているのは隠し切れていないが)。

それなりに「スタイリッシュ」な映像を作ろうとしているようだが、アクションシーンに新鮮味や面白さがあるかといわれると、それは全く無い。
本作品の唯一と言ってもいい売りであるアクションシーンに、見せ場になるようなモノが何も無いのだから、そりゃ厳しい。
もっとスカートを短くして、パンチラ・アクションにでもしちゃわないとキツいかな。
まあパンチラ・アクション映画という企画だったら、チョン・ジヒョンはオファーを断っていただろうけどね。

そのチョン・ジヒョンはスカートの下に黒いスパッツを履いているんだけど、それは最悪だわ。
いや、「パンチラを見たい」というエロい気持ちで言っているわけじゃないのよ。
まあ見えた方が嬉しいことは嬉しいけど、パンチラが必須というわけじゃない。スパッツさえ見えなかったら、それを履いていることも分からないんだから、特に気にならなかったはずなのよ。
つまり、スパッツが見えたカットを、そのまま使っていることがダメなのよ。
「たまたま見えてしまった、見落とした」というレベルじゃなくて、ハッキリと見えるんだよね。
それは雑だわ。

(観賞日:2013年4月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会