『リピーテッド』:2014、イギリス&アメリカ&フランス&スウェーデン
ある朝、ベッドで目を覚ましたクリスティーンは、隣に見知らぬ男が寝ていることに気付いて動揺する。全裸のまま浴室へ駆け込んだ彼女が壁を見ると、その男の写真に「ベン」というメモが貼ってあった。他にも自分とベンを撮影した多くの写真が貼ってあり、「結婚式」「君の夫」というメモが添えてあった。
クリスティーンが寝室へ戻るとベンが目を覚ましており、「君の夫のベンだ。14年前の1999年に結婚した。君は40歳だ」と告げた。困惑するクリスティーンに、彼は「君は事故で頭に怪我を負い、記憶障害がある。記憶を一日しか維持できない。朝には全て忘れ、20代前半の状態になる」と説明する。まるで飲み込めないクリスティーンに、ベンは優しい口調で「大丈夫、僕を信用して」と告げる。彼は2人の出会いや関係を詳しく語り、「生活に必要なことは全てメモしてある」と述べた。
教師であるベンが出勤した直後、電話が鳴った。クリスティーンが受話器を取ると、相手は「ドクター・ナッシュ、君の担当医だ。原因が何なのか、治療法があるのか探っている。君の夫は知らない」と話す。ナッシュの指示を受けたクリスティーンは、寝室のクローゼットにある靴の箱を開けた。そこにはデジタルカメラが入っており、ナッシュは再生するよう指示した。クリスティーンが再生すると、自分が話し掛ける映像が記録されていた。彼女は記憶障害について語り、「彼が来る」と慌てて電源を切っていた。
2週間前、クリスティーンはナッシュの車で移動した。ナッシュは「6ヶ月前、公園で君を見掛けた。同僚から君の症例を聞き、資料写真で顔を知っていた。神経心理学者で論文の準備中だと話し、無料の治療を申し出た。君は同意し、電話番号を教えてくれた。数日後に電話すると君は私を忘れていたが、会ってくれた。君はベンに治療の可能性を話したが、彼は否定的だった。私はカメラを渡し、映像日誌を付けるよう指示した」と語った。
クリスティーンはナッシュの言葉で、自分が何者かに襲われたことを知る。10年前、彼女は近くの工業団地で発見された。怪我の原因は頭部への強打だった。ナッシュは彼女に、診断書のコピーや新聞記事を見せた。事件の詳細は不明だが、クリスティーンは瀕死の状態で発見されていた。ナッシュは彼女に、カメラのことはベンに伏せるよう告げた。翌朝になるとクリスティーンは全て忘れていたが、電話でナッシュと話して映像日誌を確認した。
クリスティーンはナッシュと会い、「なぜベンは彼のことを隠すの?」と疑問を口にした。ナッシュは「その方が楽だから」と言い、彼女を連れて事件のあった工業団地へ向かう。2人は第一発見者である倉庫管理人のナンカロウと会い、現場へ案内してもらう。発見された時、クリスティーンは全裸にベッドシーツを巻いた状態だった。クリスティーンは混乱しており、何も覚えていなかったとナンカロウは語る。ナッシュはクリスティーンに、近くのホテルにいたのではないかと告げた。
ナッシュが「診断書では性交の痕跡が。精液は発見されず、相手は特定できなかった。しかし警察の報告書では、レイプではなかったと結論付けられている」と説明すると、クリスティーンは「私はベンを裏切るような女じゃない」と言う。次の日、ナッシュは彼女を診療所へ連れて行き、何枚もの写真を見せて反応をチェックする。その中に彼は資料写真を混在させていたのだが、「クレア」と裏に書かれた女性の写真にクリスティーンは反応した。しかしクリスティーンは、クレアという女性について何も覚えていなかった。
帰宅したクリスティーンは、ベンにクレアという友人がいたかどうかを尋ねる。「心当たりが無い」とベンが言うので、クリスティーンは「記憶にあるような気がして」と告げる。するとベンは、大学時代にクレアと親しかったが疎遠になったと打ち明けた。彼はクレアの写真を見せ、「君が傷付くと思った。彼女は記憶喪失の君に耐えられなかった」と釈明する。クリスティーンは映像日誌に、「私を守る口実でクレアを遠ざけようとしてる。ベンを信じないで」と記録した。
翌朝、クリスティーンは映像日誌を確認し、壁に貼っておいたクレアの写真をベンが剥がしたことに気付く。室内を調べた彼女は、クレアの写真と鍵を発見した。写真を見ていたクリスティーンの脳内に、クレアに妊娠を打ち明けた時の映像がよぎった。探しても子供の写真は無かったが、クリスティーンは男児に話し掛けていたことを思い出す。彼女はベンに電話を掛け、「息子がいるはずよ。今どこに?」と質問した。急いで帰宅したベンは「アダムは8歳で死んだ」と告げ、男児の写真と出生証明書を見せた。
次の日、クリスティーンがナッシュに会うと、彼は既にアダムのことを知っていた。帰宅したクリスティーンはベンに、「隠していたことは責めない。この毎日が耐え難いのも分かるわ。でも夫婦の絆を大切に思うなら、二度と息子のことを隠さないで」と告げた。その夜、彼女はホテルの廊下でアダムと遭遇する夢を見た。アダムを追い掛けたクリスティーンは、彼が描いた男の絵を拾った。男の右頬には傷があり、横には「マイク」と書かれていた。
目を覚ましたクリスティーンは、自分を襲った犯人がマイクだと確信する。彼女はナッシュに会い、そのことを話した。しかしナッシュのファースト・ネームがマイクだと知ったクリスティーンは、慌てて逃げ出した。ナッシュは彼女を追い掛け、鎮静剤を注射した。意識を取り戻したクリスティーンは、ナッシュからの電話を受けた。ナッシュは彼女に、「君は混乱して作話という症状が起きている。記憶の穴を想像で埋めて、私を襲撃犯と思い込んだ」と説明した。
翌日、ナッシュはクリスティーンと会い、恋愛感情を抱いてしまったことを打ち明けた。彼は「プロ失格だ。担当医は続けられない」と言い、後任を紹介すると告げる。クリスティーンが「貴方に治療してほしい」と言うと、ナッシュは「今朝、君に電話したら、もう映像を見ていた。君は覚えていた。だが、次の日も覚えているとは限らない。ベンは2007年に君を精神科病院からケアセンターへ転院させた。施設の院長に電話したら、クレアが連絡があったと」と語ってクレアの電話番号を渡した。
ナッシュはクリスティーンに、施設の記録では4年前に離婚していることを教えた。帰宅したクリスティーンは、ベンに離婚の理由を質問した。するとベンは、「息子が病気で死んだからだ。だが、戻って来た。もう二度と離れない」と話した。クリスティーンはクレアと電話で話し、「ケアセンターに聞いた住所は宛先不明になっていた。ずっと連絡を待っていた」と聞かされる。「貴方に会う必要があるの」とクリスティーンが言うと、クレアは天文台で会おうと告げた。
天文台でクレアと会ったクリスティーンは、自分に愛人がいたこと、ベンが事件後に事実を知ったことを教えられた。さらにクレアは、一度だけベンと関係を持ってしまったこと、罪悪感を抱いてクリスティーンと距離を置いたことを話した。彼女はクリスティーンに、ベンから「時期を見て渡してくれ」と頼まれていた手紙を差し出した。その手紙には、アダムがクリスティーンを怖がるようになったため、苦渋の選択で別れを決めたことが綴られていた。帰宅したクリスティーンは、医者に診てもらっていたことをベンに告白する。彼女が「私は貴方を傷付けた。愛している」と言うと、ベンは激昂して平手打ちを浴びせ、家を出て行った…。脚本&監督はローワン・ジョフィー、原作はS・J・ワトソン、製作はリザ・マーシャル&マーク・ギル&マット・オトゥール、共同製作はピーター・ヒスロップ&ジャック・アーバスノット、製作総指揮はリドリー・スコット&アヴィ・ラーナー&トレヴァー・ショート&クリスティーナ・ドゥービン&ダニー・パーキンス&ジェニー・ボーガーズ&ボアズ・デヴィッドソン&ジョン・トンプソン&ガイヤー・コジンスキー&ラマティー&カルロ・デューシ、撮影はベン・デイヴィス、美術はケイヴ・クイン、編集はメラニー・アン・オリヴァー、衣装はミシェル・クラプトン、音楽はエドワード・シェアマー。
出演はニコール・キッドマン、コリン・ファース、マーク・ストロング、アンヌ=マリー・ダフ、ベン・コンプトン、アダム・レヴィー、ガブリエル・ストロング、フリン・マッカーサー、ディーン=チャールズ・チャップマン他。
S・J・ワトソンのミステリー小説『わたしが眠りにつく前に』を基にした作品。
脚本&監督は『ブライトン・ロック』のローワン・ジョフィー。ちなみに彼の父親は、『キリング・フィールド』や『ミッション』を手掛けたローランド・ジョフィー。
クリスティーンをニコール・キッドマン、ベンをコリン・ファース、ナッシュをマーク・ストロング、クレアをアンヌ=マリー・ダフが演じている。
製作にリドリー・スコットのScott Free Productionsが参加している。「一日で記憶が消えてしまう」というのは、かなり都合のいい設定ではある。
しかし、これまでに『メメント』や『50回目のファースト・キス』といった映画で使われてきた設定なので、新鮮味は無いけど、今さら「それは反則だろ」という気も無い。
ただ、そういう設定を使うのなら、ちゃんと扱うべきだろう。この映画は、そこの扱いが雑なのだ。
なので、この映画にとって何よりも重要であるはずの仕掛けが、充分に活用されていないのである。まず引っ掛かるのは、「クリスティーンが記憶を失うことに対して何も気にしている様子が無い」ってことだ。
「翌朝になると記憶が全て消去されてしまう」と聞かされたら、夜になっても眠ることに対する不安や恐怖を感じるんじゃないかと思うのだ。だけど彼女は、そのことを漫然と受け入れている。
翌日に備えて写真を貼ったりメモを取ったりという作業はするけど、そういう事務的な行為を淡々と消化するって、どんだけ冷静沈着なのかと。
でも実際は感情的になるシーンも少なくないわけで(それが当然の反応だろう)、どうして「記憶が消えるのが怖い」という部分に対してだけは無頓着なのかと。クリスティーンは早い段階から、ベンを全く信じようとしない。
ナッシュと会ったことで「事故で記憶障害になった」というベンの説明が虚偽だったことが判明し、それによって「彼は事実を隠している」と認識するのは理解できる。
しかしクリスティーンは、「君を守りたい、傷付けたくないのだ」というベンの説明さえも信じようとしないのだ。
それは不可解だが、とは言え「記憶が全く無いので周囲に対して懐疑的になってしまう」ってことなら分からんでもない。
ところが彼女は、ナッシュのことは全面的に信用するのだ。確かにナッシュは、診断書や資料写真、当時の新聞記事などを持っていた。そういう「確固たる証拠」を提示したことで、クリスティーンの信頼を得たという部分は大きいだろう。
しかしベンにしたって、結婚式を含む2人の写真を持っている。
だけどクリスティーンは「ベンは自分の夫」という部分だけは全面的に受け入れるものの、まるで心を開こうとはしない。
でもベンのことを全く信じていないくせに、なぜか全裸で同じベッドに寝ているんだよな。クリスティーンはベンを全く信用しない一方で、ナッシュに対しては何の迷いも無く心を解放し、全てを正直に話している。
そこは整合性が取れない。
ナッシュは「6ヶ月前、公園で君を見掛けた。同僚から君の症例を聞き、資料写真で顔を知っていて云々」と説明しているけど、かなり胡散臭い話に思えるぞ。
あと、ベンに対する不信感が日を追うごとに高まって行くのは、翌朝になると全てがリセットされるはずなのに、まるで記憶の蓄積があるかのように思える。
幾ら映像日誌で情報が増えるとは言え、そこは違和感を禁じ得ない。クリスティーンはベンとのセックスを拒む一方で、ナッシュの手を握って「こうしていたい」「ベンに私たちのことを話すべき?」と言う。すっかり彼に惹かれ、誘惑しているようにしか思えない行動だ。
ベンを怪しむことに関しては、「直感的なモノ」と強引に解釈するとしても、ナッシュに対する行き過ぎた行為は説明が付かない。
もはやクリスティーンが根っからのビッチでもなきゃ筋が通らない。
後で「クリスティーンに愛人がいた」という事実が明かされるから、その相手がナッシュだったってことなら分からんでもない。だけど、そうじゃないのよね。そこまで露骨に「ベンは怪しい、ナッシュは信頼できる」と色分けをするので、「実はナッシュが悪人でベンは善人というドンデン返しでも用意しているのか」と考えた。
ミスリードだとしても露骨すぎて上手いとは言えないが、そうとでも解釈しない限り不自然なぐらい、クリスティーンの2人に対する反応が違うからだ。
しかし完全ネタバレになるが、「ベンは悪人でナッシュは善人」という、そのまんまな設定だったのだ。
だったら尚更、クリスティーンが最初からベンを怪しむのは避けた方がいいんじゃないのか。クリスティーンがナッシュを「犯人のマイクだ」と思い込むのは、段取りとしては理解できる。
ただ、ナッシュはスキンヘッドだし、右頬に傷も無いので、夢で見た似顔絵の男とは似ても似つかないのだ。
おまけに、鎮静剤から目を覚ました彼女はナッシュに「作話によって私が襲撃犯だと思い込んだ」という説明を受けると、あっさりと受け入れている。それどころか、次の日は「貴方に治療してほしい。貴方は私の希望よ」と言っている。
記憶障害という設定だけでは言い訳として全く追い付かないぐらい、デタラメな奴にしか思えんぞ。クリスティーンは「ホテルの廊下でアダムを目撃し、マイクの似顔絵を拾う」という夢を見て、夜中に目を覚ます。で、その夢の内容は覚えている。だから「自分にはアダムという息子がいる」とか、「ホテルで男に襲われた」とか、そういう記憶は朝になってもリセットされない。
では、それ以外の記憶については、どうなっているのか。アダムのことを夢に見ているってことは、「ベンと結婚した」という記憶も消えていないのか。
その辺りが不鮮明になっているのは、作りとして雑だと感じる。
っていうか「アダムのことを夢で見て、目を覚ましても覚えている」という時点で、既に「一日で記憶が消える」というルールが破綻してねえか。ナッシュに鎮静剤を駐車されたクリスティーンは、意識を取り戻しても記憶がリセットされていない。
「一日しか記憶が維持できない」というルールから外れているわけではないけど、なんか引っ掛かるぞ。
鎮静剤を注射された後のシーンでは、「朝になっても前日のことを忘れておらず、ナッシュが電話を掛ける前に映像を見ている」という展開まで訪れる。
「治療によって症状が改善した」と受け取るべきなのかもしれないけど、都合良く設定を変えたようにしか思えない。ホントに少しずつ症状が改善しているのなら、もっと繊細に描写していくべきだし。クリスティーンは前半でベンを全く信用していない様子だったのに、後半に入ると「戻って来た。二度と離れない」と言う彼を抱き締めるなど、すっかり態度が変化する。
途中からベンを信頼するようになるのだが、不可解極まりない。
終盤の展開からの逆算で、その辺りでクリスティーンがベンを信頼する形にしておく必要があるだろうと考えたのだろう。だけど計算能力が低すぎるわ。
それなら最初から、ベンを「クリスティーンにとって信頼できる夫」として動かしておいた方がいいでしょ。終盤に入ると、クリスティーンはクレアと電話で話し、一緒に住んでいるのが本物のベンではないこと、自分を襲った犯人で浮気相手のマイクであることに気付く。
しかしマイクに襲われて翌朝になると、そのことを完全に忘れてしまう。映像日誌を見て、自分が偽物のベンを愛しているのだと思い込んでしまう。
だけどね、前述したように、ちょっと前には「昨夜のことを覚えている」という状況になっていたはずでしょ。
つまり症状の改善が見られたのに、また都合良く悪化しているのだ。そういう御都合主義でクリスティーンを真相から遠ざけ、どうやって話を収束させるのかと思ったら、「マイクがクリスティーンを襲ったホテルへ彼女を連れて行き、聞かれてもいないのに詳細を自分からベラベラと喋る」という、安っぽい2時間サスペンスドラマみたいな展開を用意している。
そしてクリスティーンが逃亡してマイクが逮捕され、事件は解決に至る。
入院したクリスティーンの元へナッシュが本物のベンと息子のアダムを連れて来ると、あっさりと記憶障害は治る。
そりゃあハッピーエンドにしたいのは分かるし、そのためにはクリスティーンの病気が完治する形を取るのは理解できるけど、すんげえ陳腐になっていることは事実だぞ。(観賞日:2017年5月2日)