『YAMAKASI ヤマカシ』:2001、フランス
パフォーマンス集団“YAMAKASI”は、パリの高層ビルを自由に昇り降りする。メンバーはブル、ジクミュ、タンゴ、ロケット、スパイダー、イタチ、エースの7人。彼らのパフォーマンスは子供達を熱狂させるが、警察は逮捕しようと本腰を入れる。
ある日、心臓に疾患を持つ少年ジャメルは、YAMAKASIの真似をして木から転落した。病院の院長はジャメルの家族に、国外のドナーを予約するために40万フランが必要だと告げる。ジャメルの母は絶望して自殺未遂を起こし、姉はYAMAKASIを責める。YAMAKASIは院長に会うが、金が無ければ手術は無理だと言われる。
YAMAKASIは、病院の理事達の家に侵入し、40万フランを集めることにした。だが、ある屋敷に潜入した時、彼らは監視カメラに姿を撮影されてしまう。刑事のヴァンサンは友人であるYAMAKASIに会い、このままでは逮捕することになると警告する。だが、YAMAKASIは行動を中止せず、理事の1人である厚生参事官の屋敷へ向かう…。監督はアリエル・ゼトゥン、原案はシャルル・ペリエール&リュック・ベッソン、脚本はリュック・ベッソン&ジュリアン・セリ&フィリップ・リヨン、製作はディディエ・オアラウ、製作総指揮はヴィルジニー・シラ、撮影はフィリップ・ピフトー、編集はヨハン・コステドート&ヤン・ハーヴ、美術はフレデリック・デュリュ&キャロリーヌ・デュリュ&フレッド・ラピエール、衣装はオリヴィエ・ベロワ、音楽はジョーイ・スター&DJスパンク。
出演はチョウ・ベル・ディン、ウイリアムス・ベル、マリク・ディウフ、ヤン・ノウトゥラ、ギレイン・ヌグバ=ボイェケ、シャルル・ペリエール、ローラン・ピエモンテージ、マエル・カモウン、ブリュノ・フランデル、アメル・ディアメル、アフィダ・ターリ、アブドゥルカリーム・バーロール、ナッシム・ファイド、パスカル・レジェ、フレディク・ペレジェ、ジェラルド・モラレス、ジャック・ハンセン他。
『TAXi2』でニンジャ軍団を演じたストリート・パフォーマンス集団“YAMAKASI”をフィーチャーした作品。彼らは実際にパリで活動しているが、劇中のキャラクター設定には脚色が加えられている。
もちろん、ストーリーは完全なフィクションである。この映画、実は公開前にトラブルがあった。元々はジュリアン・スリとフィリップ・リヨンがシナリオを書き、スリが監督を務める予定だった。ところがリュック・ベッソンが2人を解雇して脚本を書き直し、監督も別の人間を連れて来たのだ。これに怒ったスリとリヨンは、著作権侵害で賠償金を請求する訴訟を起こしている。
元々のシナリオがダメだったのか、書き直したのが間違いだったのか、ストーリーはものすごく薄い(書き直したのに薄っぺらいというのは、どういうことなんだ)。
薄いだけでなく、メチャクチャだ。
荒唐無稽という意味ではない。デタラメすぎるのだ。ジャメル少年は、友達からヤマカシの真似をするよう迫られ、重傷を負う。だが、そのことと、ヤマカシが手術費用を集めることは、上手く繋がらない。彼の怪我はヤマカシの責任ではない。真似をして怪我を負ったら責められるというのは、御門違いも甚だしい。
ヤマカシが理事会の連中から金を盗むというのも、メチャクチャだ。理事会の連中は、何も悪いことはしていない。そもそも、少年が怪我をしたことさえ知らないのだ。金を取られて当然だと思えるのは、それを知っている厚生参事官ぐらいだ。ヤマカシの連中のキャラクター設定は、最初に警視が説明し、それぞれの特徴を示す映像が流れる。だが、それ以降は特徴が生かされることも無く、誰が誰なのか全く分からなくなる。ヤマカシの連中は、「ヤマカシ」というチーム1まとめでしか描かれない。
「24時間以内」というタイムリミットがあるのに、あまり切迫感が無い。ジャメルの家族は、金を集めようと奔走することも無く、ヤマカシを責める。もっと手を尽くして、どうしようもなく追い詰められてから、ヤマカシに御門違いの怒りをぶつけましょうよ。ヤマカシの連中は、家に侵入しても物を食べたり音楽を流したりと、ノンビリしている。緊張感の無い音楽が、ノンビリした空気を助長する。コメディタッチに泥棒シーンを描くなら、「少年の命を救う」というシリアスな目的は邪魔になるんじゃないか。
脚本が全くダメなのでアクションしか無いわけだが、そのアクションシーンも全くダメ。冒頭、ヤマカシは25階の団地の壁を、命綱も無しにスルスルと登って行く。ここからアクションてんこもりかと思ったら、大外れ。中盤以降、家への侵入と泥棒が続くので、派手なアクションはほとんど無い。屋根から向かいの家までの大ジャンプぐらいだ。ただでさえ見栄えのするアクションが少ないのに、その見せ方も悪すぎる。例えば冒頭、警察から逃げるために、高い所から飛び降りるシーン。飛び降りるシーンと着地するシーンは、別のカットになっている。つまり、カットを割っているのだ。
ビルから落ちると見せ掛けてぶら下がるシーンでも、カットを割る。その連続した動きをワンカットで見せないと、「彼らが実際にアクションをやっている」という意味が無い。アクションの途中でカットを割ることは、最も大事な部分を消すことになる。そもそも、素人がストリートで高層ビルを登っていれば、凄いのかもしれない。
だが、それは映画の世界では、そんなに凄いことだろうか。
この映画の中では、スタントマンなら何の苦労も無くこなせるだろうというアクションが大半だ。例えばジャッキー・チェンなどの映画を見ていた方が、遥かに驚異的なアクロバットシーンに出会えると思ってしまうのだ。