『夢のチョコレート工場』:1971、イギリス&アメリカ
お菓子屋のビルは集まった子供たちに、ウォンカ社の発売した新しいチョコレートを紹介する。少年のチャーリー・バケットは店を覗いただけで、新聞配達の仕事に精を出す。新聞屋のジョペックから給料を貰った彼は家に向かう途中、ウォンカ社のチョコレート工場を門から覗いた。すると修理工が声を掛け、「誰もここには入らず、出て来た者もいない」と告げた。チャーリーは父を亡くし、寝たきりの祖父母4人と母の6人で暮らしていた。母は洗濯屋で働いているが、チャーリーも新聞配達で家計を助けていた。
チャーリーは家族のために、稼いだ金でパンを買った。彼は残った金を父方の祖父であるジョーに渡し、好きな煙草を買うよう勧めた。彼はジョーに、工場前での出来事を話した。するとジョーはチョコを盗もうとする他の会社のスパイが大勢いたこと、特にスラグワースが酷かったことを語った。そこで社長のウィリー・ウォンカは工場を辞め、門を閉じた。その3年後に工場は再開して美味しいお菓子を作るようになったが、門は閉じたままだった。工場で働く人は大勢いるはずだが、それも謎のままだった。
ある日、ウォンカ社が「チョコに金色の券が5枚入っている。見つけたら工場見学と一生分のチョコをプレゼントする」と発表した。人々は躍起になってチョコを買い求め、あちこちで売り切れが続出した。1枚目はドイツの住む小太りで大食漢のオーガスタス・グループが発見した。チャーリーは誕生日に祖父母からチョコをプレゼントされるが、券は入っていなかった。2枚目を手に入れたのは、ピーナッツ工場の娘であるヴェルーカ・ソルトだった。
3枚目を手に入れたのは、市会議員の娘であるヴァイオレットだった。彼女はガム好きで、テレビの取材を受けてライバルへの対抗心を剥き出しにした。4枚目を発見したのは、アリゾナに住むテレビ好きのマイク・ティーヴィーだった。南米一の大富豪であるアルベルト・ミノリータが5枚目を発見したというニュースが報じられ、チャーリーは落胆した。彼は側溝に落ちていた硬貨を拾い、自分の分とジョーの分のチョコを購入した。彼は自分のチョコを貪りながら、お菓子屋を出た。
5枚目は偽物だったというニュースを知ったチャーリーは、急いでジョーの分のチョコを開けた。券が入っていたので、彼は大喜びで家に向かう。するとスラグワースが立ちはだかり、「ウォンカは溶けないキャンディーを発明してる。1つ盗んで来てくれたら1万ドル渡す」と持ち掛けた。チャーリーは家に着き、当選したことを家族に伝えた。券には「10月1日の朝10時、家族1人を同伴して工場の門に」と書いてあり、チャーリーはジョーに同伴をお願いした。
10月1日の朝10時、多くの人々が門の前に集まる中、ウィリー・ウォンカが工場から現れた。彼は当選者と同伴の保護者を工場に招き入れ、まずは契約書にサインするよう促した。契約書は「当方は事故に関する責任を負わない」と書かれており、ボーレガード氏は「契約など嘘つきのすることだ」と娘の署名を止めた。しかし署名しなければ見学できないと聞いたヴェルーカは、すぐさまサインする。それを見たヴァイオレットも負けじと署名し、他の子供たちも後に続いた。
見学ツアーが始まり、ウォンカは一行を工場の中枢であるチョコの部屋へ案内した。そこにはチョコの滝があり、チョコの川が流れていた。工場ではオレンジ色の顔をした小柄な種族のウンパルンパが働いており、ウォンカは「獣の餌になるので平和な工場へ移動させた」と一行に説明した。オーガスタスが川のチョコを手で掬って飲み始め、ウォンカは「手で触るとチョコが汚れる」と慌てて止めようとする。オーガスタスは誤って川に転落し、キャンディー室へ向かうパイプに吸い込まれた。
ウォンカはウンパルンパの1人を呼び、グループ夫人をキャンディー室へ連れて行くよう指示した。彼は一行を小舟に乗せて川を移動し、発明室へ連れて行った。彼は「スラグワースが狙っているので、触れたり舐めたり人に言ったりしてはいけない」と前置きしてから、部屋に招き入れた。ウォンカは数々の発明品を紹介した後、溶けないキャンディーを見せた。子供たちが欲しがると、彼は「死ぬまで人には見せない」と約束させてから1個ずつプレゼントした…。監督はメル・スチュアート、原作はロアルド・ダール、脚本はロアルド・ダール、製作はスタン・マーガリーズ&デヴィッド・P・ウォルパー、撮影はアーサー・イベットソン、美術はハーパー・ゴフ、編集はデヴィッド・サクソン、衣装はヘレン・コルヴィグ、編集協力はメル・シャピロ、特殊効果はローガン・R・フレイジー、ダンス・アレンジはティー・ウォルバーグ、作詞&作曲はレスリー・ブリッカス&アンソニー・ニューリー、ミュージカル・ナンバー演出はハワード・ジェフリー、編曲&指揮はウォルター・シャーフ。
出演はジーン・ワイルダー、ジャック・アルバートソン、ピーター・オストラム、ロイ・キニア、ジュリー・ドーン・コール、レナード・ストーン、デニス・ニッカーソン、ノラ・デニー、パリ・テメン、ウルスラ・レイト、マイケル・ボルナー、ダイアナ・ソウル、オーブリー・ウッズ、デヴィッド・バトルリー、ギュンター・マイスナー、ピーター・カペル、ヴェルナー・ヘイキング、ピーター・スチュアート他。
ロアルド・ダールの児童小説『チョコレート工場の秘密』を基にした作品。
監督は『火曜日ならベルギーよ』のメル・スチュアート。
脚本は原作者のロアルド・ダールが手掛けており、アンクレジットだがロバート・カウフマンやデヴィッド・セルツァーも脚色に参加している。
ウォンカをジーン・ワイルダー、ジョーをジャック・アルバートソン、チャーリーをピーター・オストラム、ソルト氏をロイ・キニア、ヴェルーカをジュリー・ドーン・コール、ボーレガード氏をレナード・ストーン、ヴァイオレットをデニス・ニッカーソン、ティーヴィー夫人をノラ・デニー、マイクをパリ・テメン、グループ夫人をウルスラ・レイト、オーガスタスをマイケル・ボルナー、バケット夫人をダイアナ・ソウル、ビルをオーブリー・ウッズが演じている。開始3分ぐらいで、ビルが子供たちと話す手順からミュージカル・パートに突入する。
最初のミュージカル・シーンだし、早いタイミングで用意していることを考えても、観客の気持ちを掴むために重要なポイントのはずだ。
ところが残念なことに、小ぢんまりしていて地味。
「これからミュージカル映画が開幕しますよ」とアピールする意味も込めて、もっと派手に盛り上げてもいいのに。何なら、ミュージカル・シーンと共にオープニング・クレジットでもいいぐらいなのに。そこでビルが歌唱するのは、後にサミー・デイヴィスJr.も歌ってヒットさせる『The Candy Man』だ。
ビルは子供たちに「ウォンカはキャンディーマン。君たちはウォンカのファン」と話してから、その歌に入る。そして歌いながら、棒付きキャンディーを見せたりもする。
だけどタイトルにあるように、ウォンカはチョコレート工場の社長だ。そして最初にビルが紹介するのも、新製品のチョコだ。
ウォンカはチョコ以外の製品も作っている設定だけど、いきなり「キャンディーマン」として紹介する歌は違うでしょうに。「金の券で工場見学と一生分のチョコがプレゼント」と発表されると、大勢の人々が券を手に入れようとする「チョコレート狂騒曲」の様子が、いかにもロアルド・ダールらしい皮肉たっぷりに描かれる。
精神科医のセラピーを受けている患者は、「夢が嘘とは思えない」と言う。
医師は「夢を信じるとはおかしくなり始めてる」と指摘するが、患者が「天使が現れて、金の券がある場所を教える」などと話すと、早く場所を教えるよう要求する。
ソルト氏は高慢なヴェルーカの要求で工場の作業を一時的に停止し、大量に購入したチョコの包装紙を剥がすよう従業員に命じて券を見つける。世界中の店でウォンカ社のチョコは売り切れ、路上には大量の空き箱や剥がした包装紙がゴミとして捨てられる。
技師はコンピューターで券のありかを突き止めようとするが、「そんなの知るか」という冷たい答えが出て来る。賞金は山分けだと教えると、「コンピューターはチョコを食わない」と返される。
英国で最後のウォンカ社のチョコはオークションに出品され、女王が競り落とす。
ある女性は夫を誘拐され、犯人は身代金ではなくウォンカ社のチョコを要求する。捜査官から「ウォンカ社のチョコと旦那さんの命、どちらが大事ですか」と問われた妻は、「考えさせて」と答える。
そんな様子が、当選者の取材風景の間に挿入されている。そういう皮肉たっぷりの描写自体は面白いのだが、そこにミュージカル・パートが全く入らないのは勿体ない。
話の流れ的にも、コミカルで軽快な曲を使えそうなのに。大勢のダンサーを派手に踊らせたり、非現実的なセットに場面転換して映像的に遊んだりという趣向も盛りそうなのに。
で、そこを過ぎて、2つ目のミュージカル・パートはバケット夫人が帰宅するチャーリーを見送るシーン。寂しげな息子を思うバラードだ。
開始から23分辺りの2曲目でバラード、しかもソロ歌唱ってのは、構成としてどうなのかねえ。3つ目のミュージカル・パートは、チャーリーから同伴をお願いされたジョーが喜ぶシーン。
ソロでの歌唱でバラードなので、「おいおい、2曲目に続いて、またそんな感じですか」と思ってしまう。
ただし、ここは途中で軽快なテンポになるし、ジョーとチャーリーが一緒に踊ったりもするので、少しは持ち直す。
とは言え、見せ場としての力は弱い。
この話ってファンタジーのはずなんだけど、そういう世界観を積極的に活用する映像演出も見られないんだよね。チョコの部屋に入る前に、ウォンカは一行を小さな部屋に案内し、全員がギュウギュウ詰めで閉じ込められる。ウォンカが入って来た扉を開けると、工場の奥へ続く廊下が出現している。
廊下の左右と突き当たりのドアは、全て人間より遥かに小さなサイズ。しかし突き当たりのドアを開けると、自然を模した巨大なチョコの部屋が広がっている。
そういうギミックはアトラクション的に悪くないはずだが、これが全く面白くないんだな。
見せ方が下手なので、ワクワク感を刺激されないんだよね。ウォンカはチョコの部に入ると歌い始めるが、ここもソロのバラードで踊らない。せっかく大掛かりでカラフルなセットがあるのに、変に落ち着いた雰囲気が漂ってしまう。
あと、ウンパルンパが登場したら直後にミュージカルシーンへ突入してもいいのに、「オーガスタスがパイプに吸い込まれ、母親がキャンディー室へ案内される」という出来事を挟んでしまう。
しかもウンパルンパの歌は軽快さに欠けるし、時間も短いし踊りもしない。
結局、「ここが一番の見せ場、ここが映画のハイライト」と自信を持って断言できるミュージカルシーンには出会えないまま、映画は終わってしまう。粗筋ではオーガスタスがパイプが吸い込まれる出来事を描いたが、その後もチャーリーを除く子供たちは次々にハプニングに見舞われて、見学ツアーから退場していく。
そこには全て、ウォンカの発明品が絡んでいる。
ヴァイオレットはフルコースを味わえるガムを噛み、全身がブルーベリー色に変化してパンパンに膨張し、ウンパルンパに転がされて部屋から搬出される。
ヴェルーカは金の卵を産むガチョウを欲しがって喚き散らし、ダメな卵を捨てる装置に吸い込まれる。
マイクは物を映すとテレビの中で小さくなるウォンカビジョンに入り込み、超ミニサイズになってしまう。ただ、オーガスタスが落ちるチョコの川とヴァイオレットが膨らむガムはともかく、他のケースはお菓子と直接的に関係の無い物ばかりだ。
ヴェルーカが欲しがるのはガチョウだから、言わずもがなだろうがお菓子ではない。「お菓子を作る材料として、金の卵を使っている」という解釈は出来るけど、かなり苦しい言い訳だ。しかも、ウォンカは「いい卵は磨いて売りに出す」と言っちゃうし。
ウォンカビジョンに至っては、ホントに全くお菓子と無関係だ。
その前には炭酸飲料を燃料にして動くウォンカモービルが登場するけど、これもお菓子の発明と何の関係も無い。
「子供たちを喜ばせる発明品を色々と見せよう」という趣向であっても、さすがに散らかり過ぎだ。見学中の子供たちが次々にトラブルに遭って退場するのは、「生意気だから」ってのが理由だ。この設定により、「良い子にしないと酷い目に遭う」という教訓めいたメッセージが浮かび上がってしまう。
そのくせ、チャーリーだけは何の罰も受けずにご褒美が貰えるので、整合性が取れていない。チャーリーだって、ふわふわドリンクを盗んで壁を汚しているのに。
ツアーが終わって溶けないキャンディーを返しただけで「私のテストに合格した」とウォンカは喜び、前述の行動は許されてしまうのだ。
あと、工場の外での出来事だけど、落ちていた金を使ってチョコを買う行為も、この映画における「良い子」のルールからするとホントはダメだろ。(観賞日:2026年1月5日)