『遊星からの物体X ファーストコンタクト』:2011、アメリカ&カナダ

1982年、冬。コロンビア大学の古生物学者ケイト・ロイドは、知人の科学者アダム・フィンチの訪問を受けた。アダムは著名な科学者のサンダー・ハルヴォーソンを連れて来ており、ケイトに紹介した。ハルヴォーソンはケイトに、旧友が南極で地質調査を行っていること、2日前に興味深い物を発見したことを話す。同行を求められたケイトが「何を掘り出してほしいのか言ってもらわないと」と告げると、彼は「建造物だ」と短く告げた。即時の決断を求められたケイトは、「行きます」と答えた。
ハルヴァーソンが去った後、ケイトはアダムに「どういうこと?」と尋ねる。しかし3年前からハルヴァーソンの助手を務めている彼も、ほとんど何も教えてもらっていないという。ケイト、アダム、ハルヴァーソンは、ヘリコプターで南極のノルウェー基地へ向かった。操縦士のカーター、副操縦士のデレク、それに仲間のグリッグスも乗っている。カーターはケイトに、吹雪が迫っているので2日か3日以内で作業を終わらせないと危険だと教えた。
基地に到着したケイトたちは雪上車に乗り、隊長のエドヴァルド・ウォルナーが作業をしている場所へ赴いた。ハルヴァーソンの親友であるエドヴァルドは、観測隊員のジュリエットとカールを紹介した。雪の洞窟を案内したエドヴァルドは、巨大な飛行物体をケイトたちに見せた。彼は「おそらく10万年前から氷河の中に埋もれていた。我々は信号をキャッチした。遭難信号ようなものだ。たぶん発信装置が作動したんだろう。生存者が脱出する時に」と述べた。
地上に出たエドヴァルドはは、氷の下に埋もれている未知の生命体をケイトたちに見せ、掘り出すよう依頼した。基地に戻ったケイトは、観測隊員のペデルたちに協力を求めた。翌日、エイリアンの埋もれている氷塊が切り出され、基地に運び込まれた。ハルヴァーソンが「組織サンプルを採取しよう」と言い出すと、ケイトは「何が起きるか分かりません」と反対した。しかしハルヴァーソンは彼女の言葉を無視し、氷に穴を開けてエイリアンの組織サンプルを採取した。
その夜、氷塊が置いてある部屋に入ったデレクは、それをじっくりと眺めた。立ち去ろうとした直後、エイリアンは氷塊を破壊し、天井を突き破って逃亡した。彼は慌てて仲間たちの元へ戻り、「あいつは生きてた。氷から飛び出した」と知らせる。ケイトたちは数名ずつのグループに分かれ、エイリアンの捜索を開始する。エドヴァルドたちは、ラーシュの犬が殺されているのを発見した。オラフとヘンリクは、建物の下に隠れているエイリアンに気付いた。その直後、ヘンリクはエイリアンの触手で突き刺され、引きずり込まれた。
オラフが助けを呼び、ケイトやカーターたちが駆け付ける。拳銃を発砲しても効果が無かったため、隊員たちは火を放って焼き殺した。隊員たちが仲間の死を悼む中、ハルヴァーソンは「エイリアンの組織が崩れる前に調べる必要がある」と口にした。黒焦げのエイリアンを調べると、ヘンリクを飲み込んで体内に吸収していた。ヘンリクの組織サンプルを分析したケイトは、まだエイリアンの細胞が生きていること、ヘンリクの細胞をコピーしていることを知った。エイリアンは他の生物を取り込み、複製を生み出すのだ。
翌朝、カーター、デレク、グリッグスは友人の死にショックを受けているオラフを病院へ運ぶため、ヘリコプターに乗り込んだ。洗面所で顔を洗ったケイトは、血まみれとなった歯の詰め物が落ちているのを発見した。シャワーカーテンを開けると、シャワー室が血だらけになっていた。急いで外に出た彼女は、離陸したヘリコプターに手を振って帰還させようとする。カーターが基地へ戻ろうとした直後、グリッグスがエイリアンに変身してオラフを抹殺した。ヘリコプターは制御を失い、遠くの山に墜落した。
山へ行くには別のヘリコプターが必要だが、今は給油に出ていた。無線技師のコリンは外部と連絡を取ろうとするが、吹雪が強すぎて無線は通じなかった。ケイトがシャワー室に戻ると、血は消えていた。ハルヴァーソンは「重大な発見が台無しになる」と主張し、外部に助けを求めることに反対した。しかしエドヴァルドは「そんなことを言っている場合じゃない」と言い、コリンとラーシュに「雪上車で隣の基地へ行け」と指示を出した。
コリンたちが出発準備をしているところへケイトが戻り、「事の真相が分かるまで、誰も基地を出るべきじゃない」と意見を述べた。ハルヴァーソンからヘリコプターを止めた理由を訊かれた彼女は、「血液を調べたら、エイリアンの細胞がヘンリクの細胞を複製していた。あの生命体は、人を取り込んで、その人に成り済ます」と語る。ケイトは歯の詰め物を見せ、「肉体はコピーできても、無機物はコピーできない。誰かがシャワー室の血を拭き取った。この中にエイリアンがいる」と説明した。
エドヴァルドはケイトの言葉に耳を貸さず、コリンとラーシュに出発準備を命じて部屋を去った。一人だけ部屋に残ったジュリエットは、ケイトに「ヘリが落ちた後、コリンがシャワー室から出て来たのを見た」と打ち明けた。ケイトはコリンたちを止めるため、ジュリエットに車のキーがある場所を教えてもらう。ジュリエットの案内で、ケイトはキーがある部屋に赴いた。彼女が引き出しからキーを取り出していると、背後にいたジュリエットがエイリアンに変身した。
エイリアンに襲われたケイトは、慌てて部屋から飛び出した。エイリアンは廊下に出て来たカールを襲撃した。ラーシュが火炎放射器を装備して駆け付け、エイリアンを燃やした。隊員たちはエイリアンを外に運び出し、完全に焼き尽くす。ようやく他の隊員たちも、「敵は完璧な複製を作り、中に潜んでチャンスを待つ。この中に、まだいるかもしれない」というケイトの言葉を真正面から受け止めた。
隊員たちは基地から避難するのではなく、エイリアンを隔離する対策を取ることにした。ハルヴァーソンは「人の血液にエイリアンの細胞を混ぜると何らかの反応が起きるはずだ」と言い、アダムと共に全員の血液を採取することにした。ケイトはラーシュと共に、全ての車を動かないようにした。ラーシュはケイトに、手榴弾を隠してある場所を教えた。
ケイトたちが基地へ戻ろうとすると、カーターとデレクが疲労困憊の状態で歩いて来た。「あの墜落で生き残ったわけが無い」と考えた他の面々が殺そうとする中、ケイトは「血液検査をするまで隔離しておけばいいわ」と制止した。ケイトはカーターとデレクを納屋に監禁した。ハルヴァーソンとアダムが研究室を出ている間に、何者かによって火が放たれた。研究室が燃やされて検査は不可能になるが、ケイトは「まだ手はあるかも」と述べた。
ケイトは全員を集合させ、「歯に金属の詰め物があれば人間であることが証明される」と告げて口内を調べる。その結果、金属の詰め物が無いのはハルヴァーソン、エドヴァルド、アダム、コリンの4名だった。ケイトは4人を部屋の隅に移動させ、ペデルが火炎放射器で威嚇した。ケイトはカーターとデレクの歯を調べるため、2人を連れて来るようヨナスとラーシュに頼んだ。しかしヨナスたちが納屋へ行くと、カーターとデレクは床を破壊して逃げ出していた。
ラーシュは「奴らを見つけ出す」と言って外に出るが、エイリアンに襲撃される。ヨナスはケイトたちの元へ戻り、ラーシュが襲われたことを話す。ガラスが割れる音がしたので、ケイトたちは廊下へ出た。カーターとデレクが姿を見せたので、ペデルは火炎放射器を構える。しかしペデルが攻撃しようとした直後、デレクが拳銃を発砲して彼を射殺した。燃料タンクに引火して激しい爆発が起き、エドヴァルドは失神した。ヨナスとコリンが運ぼうとすると、エドヴァルドはエイリアンに変貌して隊員たちを襲撃する…。

監督はマシーズ・ヴァン・ヘイニンゲン、原作はジョン・W・キャンベルJr.、脚本はエリック・ハイセラー、製作はマーク・エイブラハム&エリック・ニューマン、製作総指揮はJ・マイルズ・デイル&デヴィッド・フォスター&ローレンス・ターマン&ガブリエル・ニーマンド、撮影はミシェル・アブラモヴィッチ、編集はジュリアン・クラーク&ピーター・ボイル、美術はショーン・ハワース、衣装はルイス・セケイラ、視覚効果監修はイェスパー・コールスラット、特殊メイクアップ効果はアレック・ギリス&トム・ウッドラフJr.、音楽はマルコ・ベルトラミ。
出演はメアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジョエル・エドガートン、ウルリク・トムセン、アドウェール・アキノエ=アグバエ、エリック・クリスチャン・オルセン、トロンド・エスペン・セイム、クリストファー・ヒヴュ、スティグ・ヘンリク・ホフ、ヨルゲン・ラングヘラ、ポール・ブラウンスタイン、キム・バブズ、ジョナサン・ロイド・ウォーカー、ジョー・アドリアン・ハーヴィンド、ヤン・グンナール・ロイズ、カーステン・ビィヤーンルン、トム・ウッドラフJr.他。


ジョン・カーペンター監督が撮った1982年の映画『遊星からの物体X』の前日譚を描いた作品。
監督のマシーズ・ヴァン・ヘイニンゲンは映画プロデューサーの息子で、これが初めての長編作品。
脚本はリメイク版『エルム街の悪夢』や『ファイナル・デッドブリッジ』のエリック・ハイセラー。
ケイトをメアリー・エリザベス・ウィンステッド、カーターをジョエル・エドガートン、ハルヴォーソンをウルリク・トムセン、デレクをアドウェール・アキノエ=アグバエ、アダムをエリック・クリスチャン・オルセン、エドヴァルドをトロンド・エスペン・セイムが演じている。

『遊星からの物体X』の前日譚という企画の時点で、既に本作品はハンデを背負っていると言ってもいい。
物語のラストが『遊星からの物体X』のオープニングに繋がるようにしなきゃいけないし、宇宙生物が人間や犬に憑依するという部分は外せない。
また、観客の方も、ラストが『遊星からの物体X』に繋がること(つまりノルウェー隊が全滅すること)、宇宙生物が人間や犬に憑依することを分かった上で鑑賞することになるから、先読みが容易に出来てしまう。
ちょっとだけ具体的な例を挙げれば、ラーシュが世話をしている犬が登場した時点で、「こいつにエイリアンが寄生して、それを隊員が追い掛けるってのがラストの展開だな」ってのが分かる。

ただ、そういうハンデがあることを考慮しても、この映画の出来栄えはよろしくない。
前述した理由で物語の構築には相当の制限があるってのは仕方が無いが、だからと言って『遊星からの物体X』と同じような中身にしてどうすんのかと。
実質的には、前日譚じゃなくてリメイクなんだよね。
でも「前日譚」として作っているわけだから、その中身がリメイクってのは詐欺まがいの行為か、もしくは手抜き行為と言わざるを得ない。

『遊星からの物体X』との比較を抜きにしても、やっぱり本作品の出来栄えは芳しくない。
まず序盤で巨大な宇宙船を登場させたのは失敗だろう。
そんな物を作るほど高度な科学力を持っている種族と、グロテスクな姿で基地を走り回るエイリアンが、同一の存在だとは到底思えない。
「宇宙船を操縦していた奴に憑依していた生命体」とか、「宇宙船に積み込まれていた生命体」とか、そういうことであれば、もうちょっと受け入れやすかっただろうけど。

序盤の展開はかなりスピーディーだが、キャラクター描写の時間が用意されていないため、全員が薄っぺらい。
大半の連中は見た目で区別するしかないのだが、正直に言って、誰が誰だか良く分からないような奴らもいる。
しばらく話が進むと「エイリアンが氷塊の中から勢いよく飛び出して暴れ出す」という展開が訪れるが、それはいかがなものかと。もっと「ジワジワと忍び寄る恐怖」という見せ方にしておいた方が良かったんじゃないかと思うんだが。
限定された場所で繰り広げられる出来事だが、閉塞感や、それに伴う緊迫感も不足している。
グロテスク描写も物足りない。

さらに話が進んで「誰がエイリアンか分からない」という展開になるのだが、みんなが疑心暗鬼になるというところでのサスペンスは弱い。
基本的には、正体を現す前に「こいつがエイリアンだな」というヒントを教えてくれる形になっているしね。
例えば、ケイトが部屋でジュリエットと2人きりになると、ジュリエットが変身する。
エドヴァルドが失神して部屋に担ぎ込まれると、彼が変身する。
「そいつかよ」とか、「そこから来るのかよ」とか、観客が無防備状態のところへ恐怖が襲い掛かってくるケースは、ほぼ見当たらない。

最終的にケイトとラーシュが、別々で生き残る。
ラーシュは最後にヘリコプターで犬を追い掛ける様子が描かれるが、ケイトは雪上車で去るシーンがあって、その後はどうなったのか分からないままだ。
彼女の存在は『遊星からの物体X』に繋がらないので、実はエイリアンに憑依されていたとか、どこかで凍死したとか、そういう可能性も無くはないが、それよりも「ケイトを使って続編を作ろう」という製作サイドの考えが透けて見える。
ただ、続編を作るとなったら、それは『遊星からの物体X』になるはずだし、それとは全く別でケイトを使った話を作るのは難しそうに思えるけど。

『遊星からの物体X』の内容をなぞるのなら、最初からリメイクとして作れば良かったんじゃないかと思うが、「リメイクを見るぐらいなら1982年版を見ておけば充分」という風にも思ってしまうんだよな。
それでも、あえて本作品を観賞するための理由を見つけるとすれば、「VFXの進歩」というところに着目するしかないだろう(他には何も見当たらない」)。
ただ、じゃあ1982年から遥かに進化したVFXの技術が本作品の見所としての力を持っているのかと問われたら、「いや全然」と答えるしかないんだよな。

(観賞日:2013年8月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会