『溶解人間』:1977、アメリカ

土星の環の調査に向かっていた宇宙船スコーピオンVは、謎の光と激しい衝撃を受けた。他の搭乗員2名は死亡するが、船長のスティーヴ・ウェスト大佐だけは生き残った。研究施設に極秘で収容された彼は顔に包帯を巻かれ、何も機能しない状態に陥っていた。ローリング医師は友人のテッド・ネルソン医師に頼ろうと考え、看護婦に生存反応の確認や血液の入れ替えを指示した。医師と看護婦が病室を出た後、スティーヴは意識を取り戻した。
ベッドから起き上がったスティーヴは、両手が重度の火傷でケロイドに覆われていることを知った。鏡に向かって包帯を外すと、顔も同じような状態だった。彼が激しく暴れていると、看護婦が戻って来た。悲鳴を上げた看護婦が逃げ出すと、スティーヴは施設の外まで後を追った。看護婦の遺体が発見され、病院に運び込まれた。遺体は微弱な放射能を浴びており、その正体は謎だった。遺体を調べたネルソンとローリングはマイケル・ペリー将軍に電話を掛け、スティーヴが逃走したことを知らせる。スティーヴが看護婦1名を殺害したと聞いたペリーは、なぜ彼だけが生き残ったのかを突き止めるよう指示した。
川で釣りをしていた男は何者かの気配を感じ、「誰だ。出て来い」と叫んだ。そこへスティーヴが現れ、釣り人を襲って殺害した。ペリーはネルソンに電話し、「そちらに向かう。それまでに彼を見つけろ」と告げた。ネルソンは帰宅しており、妻のジュディーにスティーヴが逃げたことを話す。2人の少年が隠れて煙草を吸っていると、少女のキャロルが来た。3人は泉へ行き、かくれんぼを始めた。キャロルが鬼になり、周辺を捜索する。そこへスティーヴが現れたので、彼女は悲鳴を上げて逃げ出した。自宅に戻った彼女は「森で怪物を見た」と母に訴えるが、全く信じてもらえなかった。
ネルソンはガイガーカウンターを使ってスティーヴを捜索し、彼の耳を発見した。女性モデルは屋外で写真を撮影するが、カメラマンにビスチェを要求されて嫌がる。カメラマンが強引にビスチェを剥ぎ取ったので、モデルは腹を立てた。彼女は足元に転がっていた釣り人の死体を発見し、悲鳴を上げた。空港でペリーを出迎えたネルソンは、「スティーヴを見つけたが、逃がしてしまった」と話す。首無し死体が発見された現場では、ニール・ブレイク保安官たちが現場検証を行っている。ネルソンはペリーを車に乗せて現場へ赴き、ブレイクに許可を貰って死体を確認した。
夜、ネルソンはジュディーに電話を掛け、まだスティーヴは見つかっていないことを話す。ジュディーが夕食に誘うと、ペリーは行くことにした。今夜は母と母の友人も来ることをジュディーが語ると、ネルソンは「今日は困る。断ってくれ」と頼んだ。しかしジュディーは、「無理よ。そろそろ到着するわ」と告げた。ジュディーの母であるヘレンは、恋人のハロルドが運転する車でネルソン家へ向かっていた。途中でレモンの木を見つけたヘレンは、レモンを土産にしようと考えた。しかし犬が現れたので、2人は怖がって逃げ出した。ハロルドとヘレンは車に乗り込むが、スティーヴが襲い掛かって殺害した。
ハロルドたちが来ないのでジュディーが心配していると、ネルソンは「きっと車が故障したんだ」と告げる。ジュディーは激しく苛立ち、スティーヴの捜索に行くようネルソンとペリーに要求した。ネルソンとペリーは車で捜索に出るが、近くの墓地にいたスティーヴには全く気付かなかった。帰宅したネルソンに、ジュディーは母親の死を確信したと告げる。ブレイクは放置されたハロルドの車と食い千切られた肉体の一部を発見し、ネルソンに連絡を入れた。ネルソンは「事故に遭ったらしい」とジュディーに嘘をつき、鎮静剤を注射してから現場へ向かった。ネルソン家を観察していたスティーヴは、窓から中を覗き込んだ。
死体の発見現場に着いたネルソンはブレイクから説明を要求されるが、「何も言えない」と告げる。ブレイクが憤慨して「言わなければ逮捕するぞ」と詰め寄ると、ネルソンは口外しないという約束で事実を明かす。ペリーは玄関のドアを開け、待ち受けていたスティーヴに襲われた。ブレイクと共に自宅へ戻ったネルソンは、スティーヴの遺体を発見した。急いで家に駆け込んだネルソンは、ジュディーの無事を知って安堵した。スティーヴは近所のウィンタース家に侵入し、帰宅した住人のマットを殺害した。マットの遺体を目にした妻のネルは悲鳴を上げ、キッチンへ逃げて包丁を握った。スティーヴはネルにも襲い掛かるが、包丁で左腕を切断されて逃げ出した…。

脚本&監督はウィリアム・サックス、製作はサミュエル・W・ゲルフマン、製作協力はピーター・コーンバーグ&ロバート・L・フェントン、撮影はウィリー・カーティス、編集はジェームズ・ビシアーズ、美術はマイケル・レベスク、特殊効果はハリー・ウールマン、特殊効果&メイクアップはリック・ベイカー、音楽はアーロン・オーバー。
出演はアレックス・リーバー、バー・デベニング、マイロン・ヒーリー、マイケル・オールドリッジ、アン・スウィーニー、ライスル・ウィルソン、レインボー・スミス、ジュリー・ドレイゼン、スチュアート・エドモンド・ロジャース、クリス・ウィットニー、エドウィン・マックス、ドロシー・ラヴ、ジャナス・ブライス、ジョナサン・デミ、ウエストブルック・クラリッジ、デフォレスト・コーヴァン、サミュエル・W・ゲルフマン、ボニー・インチ、ミッキー・ロリッチ他。


B級映画のマニアには御馴染みのAmerican International Picturesが製作した怪奇映画。
脚本&監督のウィリアム・サックスは、後に『ギャラクシーナ』や『コンクリート・ウォー』などを手掛ける。特殊メイクアップのリック・ベイカーは、同年に『スター・ウォーズ』にも参加している。
アンクレジットだが、リック・ベイカーの助手としてロブ・ボッティンやグレッグ・キャノンも参加している。
スティーヴをアレックス・リーバー、ネルソンをバー・デベニング、ペリーをマイロン・ヒーリー、ブレイクをマイケル・オールドリッジ、ジュディーをアン・スウィーニー、ロリングをライスル・ウィルソンが演じている。

冒頭、土星の観測に向かっているスコーピオンVの様子が写し出される。
あまり船外のシーンを多くすると安っぽさが分かりやすいので、大半は船内のカットで構成している。それでも狭い船内や無重力を全く感じさせない映像表現だけで、充分に安っぽさは伝わってくる。
で、土星の環を観測したスティーヴだけは興奮するが、他の2名は無反応。たぶん、演技経験の無いエキストラでも使っているんだろう。
そして「大きな爆発が起きたっぽい」という映像の後、スティーヴが鼻血を出して目をパチパチさせる様子が写り、暗転になる。これだけでヒューストンが呼び掛けることも無いまま「宇宙船での事故」の描写は終わるのだが、まあ雑なこと。
そもそも、他の2人が死亡してスティーヴは無反応の状態になったのなら、どうやって宇宙船は地球へ帰還したのか。

スティーヴが暴れるのを見て看護婦が逃げ出すのは、「全身ケロイド状態だと知らなかったので怖くなった」と解釈できる。ただ、彼女が入り口のガラスを突き破り、顔から血を流してまで施設の外へ走り出すのは、さすがに異常だわ。
一方で、スティーヴが彼女を執拗に追跡するのも「なんでだよ」と言いたくなる。
もう最初からスティーヴは「異常な殺人鬼」として扱われているんだよね。
看護婦が長い廊下を走るシーンではスローモーション映像を使うという、まるで意味不明な演出も持ち込んでいる。で、そこまで描いているくせに、なぜかスティーヴが看護婦を殺すシーンは描かないという半端な処理。

粗筋では「川で釣りをしている男」と書いたが、彼が釣竿を落としている場所は、とても魚が生息している様子など無い川だ。
で、そんな男がスティーヴに襲われるシーンからカットが切り替わり、ネルソンとローリングが会話を交わす様子が写し出される。ネルソンが妻の3度目の妊娠にウンザリしている様子や、「スティーヴは生きるために人間の細胞を欲しがる」と言っている様子が写る。そこからカットが切り替わると、釣り人の切断された首が川に放り込まれて流れていく。
ここ、「ネルソンとローリングのシーンを挟まず、スティーヴが釣り人を襲って首を切断し、川に投げ込む」ってのを一連の流れで見せた方が絶対にいい。ネルソンとローリングの会話も、そんなに重要なことは言っていないんだし。
あと、看護婦を殺すシーンは描かなかったのに、なぜか生首が川を流れていく様子は、他のシーンを挟んでから時間を割いて丁寧に見せるのよね。
どういうセンスなのよ、それって。

ネルソンはペリーから電話を受けた時、家に戻って料理を作っている。でも、ペリーからスティーヴのことで命令を受けていたのに、なぜ呑気に家で料理なんて作っているのか。すぐに捜索へ向かったり、スティーヴの居場所を突き止めるための情報を集めたりという行動を取らない理由は何も無い。
少なくとも、家に戻ってノンビリしているような余裕は無いはずでしょ。何しろ、既にスティーヴは看護婦を殺害しており、さらに犠牲者が増えることは確実だとネルソンは分かっているはずなんだから。
それなのに彼は、妻にスティーヴの逃亡を明かした後、ノンビリと食事を始めるのだ。
っていうかスティーヴの逃亡や放射能を帯びていることって、機密事項じゃないのか。それをベラベラと奥さんに喋っちゃうのはマズいだろ。

生首が川を流れ、小さな滝から落下して止まるシーンがある。その後、子供たちがかくれんぼをするため泉へ向かう展開がある。なので、子供たちが生首を発見するのかと思いきや、そこは全く繋がらない。
そしてキャロルがスティーヴと遭遇するのだが、ここの見せ方が下手。
キャロルは隠れている少年を見つけたと思って近付き、振り向いて悲鳴を上げ、慌てて逃げ出す。カットが切り替わると、スティーヴが立っているという構成になっているのだが、これが間違い。
まず、少年を見つけたと思って近付いたのなら、「そこにスティーヴがいる」という形にすべきであって、「振り向けばスティーヴ」はおかしい。
また、キャロルが振り向いて顔をひきつらせた後、スティーヴの姿を挟んでから、「キャロルが悲鳴を上げて逃げ出す」という流れにした方がいい。

生首の方は誰にも発見されず、首の無い死体が発見される。
だったら、わざわざ生首が川を流れるシーンを丁寧に描く意味なんか無いだろ。
あと、首無し死体が発見されるまでに「カメラマンが女性モデルを撮影する」という描写があるのはいいけど、ビスチェを剥ぎ取って乳をポロリさせる意味は全く無いだろ。
ひょっとするとウィリアム・サックス監督の中には、エログロで観客を呼び込もうという狙いでもあったのか。
いや、大蔵貢かよ。

スティーヴが次々に殺人を犯しているのだから一刻も早く発見しなきゃいけないはずなのに、捜索するのはネルソンとペリーとローリングの3人だけ。
っていうかローリングは何もしていないので、その日はネルソンがガイガーカウンターで少し捜索しただけ。
ペリーは彼と合流するけど、すぐ捜索に入ることはしない。それどころか、「どうせ今日は見つからない」と言い、夕食に誘われノコノコと出掛ける。
こいつら、まるで深刻さが見えないのである。
こんなユルさで、怪奇映画として面白くなろうはずもない。

ジュディーはスティーヴが見つかったかどうか気にしているぐらいだから、「一刻も早く見つけないといけない」という問題の重大性は理解しているはず。ところがペリーを夕食に誘う時、母と友人も来ることを口にする。
ペリーはスティーヴの捜索という重大な任務で来ているのに、そいつを家に招く夕食の場に母と友人も呼んでいるって、どういう感覚なのか。先に母と友人が来ることは決まっているのなら、そこにペリーも招くってのはイカれてるだろ。
しかも夕食に誘うぐらいだからノンビリしているのかというと、「今もスティーヴは誰かを殺してる」と苛立ち、すぐに捜索するようネルソンとペリーに要求するし。支離滅裂かよ。
で、なぜか簡単に母親の死を確信して落胆しているし。

ペリーは「スティーヴを一刻も早く見つけないと」と焦っているはずなのに、ネルソンがハロルドの死体発見現場へ行く時は留守番を快諾している。そして呑気な態度で、チキンを食べ始める。
そんな彼は、なぜか玄関のドアを開けて、スティーヴに襲われる。
スティーヴが家を覗き込んでいたんだから、「どこからか侵入したスティーヴがペリーを襲う」という形にすればいいものを、ペリーに不自然な行動を取らせて屋外で襲わせるのだ。
「帰宅したネルソンが庭で死体を発見する」という状況を作りたかったのは分かるけど、そういう状況の必要性はサッパリ分からない。

ウィンタース家のシーンでは、奥の部屋を覗いたネルが悲鳴を上げる。
もちろんマットの死体を発見したんだろうけど、なぜか観客には「悲鳴を上げるネルの顔」だけで表現している。
それまでスティーヴが人を襲う様子も死体も平気で見せていたのに、そこだけ死体の描写を避ける理由は不明だ。
っていうか、もうネルも殺しちゃって良くないか。どうせ彼女が生き残ったところで、それが以降の展開に繋がることなんて何も無いんだし。

スティーヴは任務のために行動していたのに不慮の事故で怪物に変貌してしまっただけであり、本来なら「哀れな怪物」として同情心を誘う部分があってもいいはずだ。
しかし映画を見ていても、そんな印象は皆無。
たまにネルソンが同情的な台詞を口にすることはあるが、それも申し訳程度だ。それに、スティーヴが「人間の良心」と「怪物の欲望」の狭間で苦悩している様子も見えない。
「人肉を食べないと生きられない」とか「凶暴性を制御できない」ってわけでもなくて、ただ殺したくて殺しているようにしか見えないし。

終盤になり、落下しそうなネルソンを助けるシーンで初めてスティーヴは人間らしさを見せるけど、唐突な上に物足りなさが残る。
あと、ネルソンが警備員に射殺されるシーンは要らないだろ。
それよりも、「ネルソンを助けて人間性を取り戻したかのように見えたスティーヴが、その直後に警備員に殺される」みたいな形の方が、味わい深さが出たはずだ。
まあ、それまでのマイナスの大きさを考えると、そこで少しぐらい盛り返しても焼け石に水だけどさ。

(観賞日:2020年10月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会