『40歳の童貞男』:2005、アメリカ
40歳のアンディーは、家電量販店「スマートテック」で商品管理を担当している。いつものように彼は自転車で出勤し、店長のポーラに挨拶する。店員のデヴィッドは同僚のジェイとキャルに、ポーカーをやるためにアンディーも誘おうと提案する。キャルは反対するが、デヴィッドは「ポーカーをやりたいんだ」とアンディーに声を掛けた。アンディーは承諾し、夜になってメンバーが集合する。ベテラン店員のムージも加わり、5人でポーカーを始めた。
負け続けたムージが腹を立てて去った後、デヴィッドたちは女の話を始める。デヴィッドが元カノであるエイミーとのセックスについて語った後、ジェイはアンディーに経験談を話すよう促す。アンディーは淫乱女と付き合った時のことを話すが、具体的なことを質問されると答えに詰まる。不審を抱いたジェイとキャルに童貞だと見抜かれ、アンディーは失言を後悔した。翌日、アンディーが出勤すると、彼が童貞だという情報は他の店員たちにも伝わっていた。店員のハジズやジェイから馬鹿にされ、ムージからは余計な助言をされる。
ポーラから「童貞君」と呼ばれ、傷付いたアンディーは店を辞めようと考える。彼はデヴィッドに、「女性を素敵だと思うからこそ避けているんだ。充実した人生を送ってる」と話す。彼が「年を取れば取るほどナーバスになった」と言うと、デヴィッドは女性と付き合う努力をするよう勧める。帰宅したアンディーは、過去の女性たちとの経験を夢に見る。彼は歯を矯正中の女にフェラチオされて悲鳴を上げたり、ブラジャーを脱がすのに時間が掛かり過ぎて射精してしまったり、足先を舐めた女の顔を蹴ってしまったりした経験があった。
翌日、アンディーはデヴィッドに誘われ、ジェイ&キャルも一緒にクラブへ出掛けた。ジェイから酔っ払った女性を口説くよう促されたアンディーは、難色を示す。しかし結局は承諾し、ニッキーという女性に声を掛ける。いい雰囲気になったアンディーは、ニッキーが運転する車に乗り込んだ。すると酔っ払い運転のニッキーは接触事故を起こして車を停め、アンディーの顔にゲロを吐いた。翌日、アンディーは昨夜の出来事をデヴィッドたちに話し、ジェイから「女を崇めすぎているんじゃないか」と馬鹿にされた。
トリシュという客が来ると、デヴィッドたちはアンディーに対応を任せて立ち去った。アンディーはトリシュと話し、彼女が向かいにあるネットオークション代理店の経営者だと知る。アンディーが店の形態に興味を示すと、彼女は電話番号を渡して「良かったら見に来て」と言う。デヴィッドたちはアンディーが電話番号をゲットしたと知って、祝杯を挙げた。翌朝、アンディーは貰った番号に掛けてみるが、トリシュが出た瞬間に切ってしまった。
出勤したアンディーは、ジェイに「女性は僕に魅力を感じるかな?いい男かな?」と尋ねる。ジェイは胸毛を無くすよう助言して、脱毛クリニックへ連れて行く。しかしアンディーは痛みに耐えられず、途中でギブアップした。キャルはアンディーに「確率を高めなきゃ誰とも上手く行かない。種を撒かなきゃ」と言い、書店員のベスに話し掛けるよう促した。アンディーは「僕はトリシュが好きだよ」と断るが、キャルに説得されてベスに声を掛けた。キャルから「質問してクールに決めろ」と助言されていたアンディーだが、なぜか無意識でエロいことを言ってしまう。しかしベスに気に入られ、アンディーは自信を持った。
改めてトリシュに電話を掛けたアンディーだが、ジェームズという別の名前を言ってしまう。おまけに洗濯機のセールストークを始めたせいで、トリシュに罵倒されて電話を切った。デヴィッドは自分が集めた大量のアダルトビデオをアンディーの家へ運び、見て楽しむよう勧めて立ち去った。次の日、アンディーはデヴィッドたちからランチに誘われて了解するが、出向いた先ではデート大会が開かれていた。半ば強引に参加させられたアンディーは複数の女性と話すが、最後まで困惑したままで終わった。一方、デヴィッドはデート大会に来ていたエイミーと再会し、言い争いになった。
アンディーはジェイからパーティーに誘われるが、指定された場所にいたのは女装した男だった。アンディーはジェイを責め、デヴィッドとキャルにも「ほっといてくれ」と言い放つ。「自分から行く根性なんて無いだろ」とキャルに告げられたアンディーは、「見てろよ」と向かいの店へ行く。彼はトリシュをデートに誘い、週末に会う約束を取り付けた。帰宅したアンディーは、遊びに来たデヴィッドとキャルがビデオゲームをしている間に電話を掛けた。トリシュと話したアンディーは、その夜にデートすることを決めた。
トリシュが家まで迎えに来ると知ったキャルは、「最悪だぞ」と口にする。アンディーが「なぜ?」と訊くと、キャルは部屋がフィギュアやビデオゲームなどオモチャだらけなのが駄目なのだと指摘した。部屋を片付けるよう指示されたアンディーは、家具も運び出して空っぽにした。アンディーは日本の鉄板焼店でトリシュと夕食を取り、楽しい時間を過ごした。トリシュの家に招かれたアンディーはベッドで抱き合い、セックスに及ぼうとする。しかしアンディーがコンドームを装着していると、トリシュの娘であるマーラがボーイフレンドを連れて帰宅してしまう。マーラが「自分はセックスして私はダメなんてズルい」と母を非難し、アンディーは立ち去った。
翌日、アンディーはポーラから「貴方の悩みは私が解決できるかも」とセックスに誘われ、「良く考えといて」と告げられる。アンディーは昨夜の出来事をジェイとキャルに話し、「もうトリシュに童貞だと告白しろ。それしか無い」と告げられる。トリシュと夕食に出掛けたアンディーは、童貞だと打ち明けようとするが、なかなか切り出せない。するとトリシュの方から、3人の子供と1人の孫がいることを打ち明けられる。アンディーはトリシュから「しばらく体の関係は無しに出来ない?」と提案され、「いいアイデアだ」と賛成した。2人は話し合い、20回目のデートまでセックスしないことに決めた…。監督はジャド・アパトー、脚本はジャド・アパトー&スティーヴ・カレル、製作はジャド・アパトー&クレイトン・タウンゼント&ショーナ・ロバートソン、共同製作はセス・ローゲン、製作総指揮はスティーヴ・カレル&ジョン・ポール、製作協力はアンドリュー・ジェイ・コーエン、撮影はジャック・グリーン、美術はジャクソン・デ・ゴヴィア、編集はブレント・ホワイト、衣装はデブラ・マクガイア、音楽はライル・ワークマン。
出演はスティーヴ・カレル、キャサリン・キーナー、ポール・ラッド、ロマニー・マルコ、セス・ローゲン、エリザベス・バンクス、レスリー・マン、ジェーン・リンチ、カット・デニングス、ジェリー・ベッドノブ、シェリー・マリル、ジョーダン・マスターソン、チェルシー・スミス、ジョナ・ヒル、エリカ・ヴィッティナ・フィリップス、マリカ・ドミンスク、ミンディー・カリング、モー・コリンズ、ジリアン・ヴィグマン、キンバリー・ペイジ、シエナ・ゴインズ、チャーリー・ハートソック、ナンシー・ウォールズ他。
『ケーブルガイ』や『俺たちニュースキャスター』のプロデューサーであり、『ディック&ジェーン 復讐は最高!』の脚本を手掛けたジャド・アパトーの劇場監督デビュー作(脚本と製作も兼任)。
主演のスティーヴ・カレルが、初めて映画脚本を担当している。
トリシュをキャサリン・キーナー、デヴィッドをポール・ラッド、ジェイをロマニー・マルコ、キャルをセス・ローゲン、ベスをエリザベス・バンクス、ニッキーをレスリー・マン、ポーラをジェーン・リンチが演じている。
他に、トリシュの店でブーツを買いたがる役でジョナ・ヒル、エイミー役でミンディー・カリング(映画デビュー作)が出演している。タイトルが表している通り、アンディーは40歳の童貞男である。しかし彼が抱える問題は、「40歳で童貞」ってことだけだ。
アンディーは真面目で仕事が出来るだけでなく、普通に魅力的で女性からも好かれるタイプの男だ。つまり本人がその気になれば、いつでも童貞を捨てられるような人間ってことだ。
彼が抱える問題の本質は「40歳で童貞」ってことじゃなくて、「トラウマ克服」なのだ。そのトラウマさえ克服すれば、簡単に童貞なんて捨てられるのだ。
「タイトルに偽り有り」とまでは言わないけど、そこから受けるイメージに比べると「コレジャナイ感」が強い。タイトルを見た時点では、主人公は40歳まで全くモテない男で、ずっと冴えない生活を送って来たのかと思っていた。
しかし、そうではないのだ。回想シーンで描かれるように、彼は若い頃から複数の女性と交際し、キスもフェラも経験している。
それだけでなく、セックス直前までは到達している。「その時のトラウマで女性を避けるようになった」という設定だ。
つまり、性格や趣味に問題があるわけではない。そのトラウマだけが問題なのだ。
本質的には、彼は「普通に女性と交際できる男」なのだ。なので、アンディーは慣れない様子ではあるものの(それは単にブランクがあるってだけで、モテない男だからではない)、クラブでは女性たちと仲良くやっているし、ニッキーに声を掛けて2人きりになっている。
それどころか、トリシュなどはアンディーが策を講じたわけでもないのに、自分から電話番号を渡している。
でも、そこはアンディーが努力して女性と付き合うチャンスを得る形にするべきじゃないのか。
そこを都合が良すぎる展開に頼ったら、用意したプロットの持つ面白味を自分で削ぎ落としているようなモンだろ。キャルはポーカーに誘おうとするデヴィッドに反対する際、アンディーのことを「連続殺人鬼みたいな奴だ」と言っているけど、そんな風には全く見えない。
たぶん「週末の行動が健全すぎる」ってことで、そういう批評になったんだろうとは思うよ。
でも、女と馬がセックスするショーを週末に見ていたキャルも、それはそれでヤバい奴という見方も出来るわけで。
「ベーコンエッグサラダが食べたくなったので、買い物をして3時間も費やして作った」というアンディーを殺人鬼扱いされても、ピンと来ないわけでね。そんな風にキャルがアンディーを評する台詞を序盤に喋らせるってことは、「アンディーはモテるタイプじゃない」ってことを示したいんじゃないかと思うのだ。
しかし、その一方でアンディーは、すぐにニッキーと仲良くなったり、トリシュから電話番号をゲットしたり、ベスと親しくなったりする。
なので、「どっちに舵を切りたいのか」と言いたくなる。
「モテないタイプの男が頑張って女性と親しくなろうとする」という形を取りたいのなら、そんなに簡単に複数の女性と仲良くなる手順を用意しちゃダメでしょ。むしろ、女性に声を掛けることさえ出来ないとか、やっと喋れてもヘマをやらかすとか、そういう失敗を繰り返すべきじゃないのかと。アンディーは童貞であることを隠しているが、それは「バレたら馬鹿にされる」と分かっているからだ。実際、それがバレた途端、周囲の面々が馬鹿にした態度を取る。
それはコンプレックスと言えなくもないが、微妙に違うような気がしないでもない。
なぜなら、アンディーは「充実した人生を送っている」と言っているからだ。そこに嘘や見栄があるようには思えない。実際、彼の生活は楽しそうだからだ。
人生が充実していて、周囲から馬鹿にされなきゃ童貞ってことを大きな問題だと捉えていないのなら、「そのままでもいいんじゃねえか」と思ってしまうのだ。アンディーは「周囲にバレたから童貞を捨てなきゃマズい」ってことになっているだけで、バレなきゃ本人は「童貞を捨てたい」なんて思わなかったんじゃないかと感じるのよね。
お節介なデヴィッドたちが「童貞を捨てさせよう」ってことで行動したからアンディーもその気になっただけであって。そうなると、童貞ってのはアンディーのコンプレックスと言えないんじゃないかと。
でも、40歳の童貞男というキャラクターを造形したのなら、やはり「それがコンプレックス」という形にすべきじゃないかと思うのだ。
そこの部分が、どうにも微妙なことになっているんだよね。アンディーはジェイに「女性は僕に魅力を感じるかな?いい男かな?」と尋ね、脱毛クリニックへ行っている。
しかし、その前に彼はニッキーと仲良くなっているし、本人さえその気ならセックスに持ち込めた可能性が高い。そしてトリシュからは、何もしていないのに電話番号も貰っている。
つまり、これといった努力もしない状態で、簡単に女性と親密になるチャンスを得ているのだ。
だから、「モテるために男磨きをして自分を変える」という手順は無意味なのだ。そこが上手く機能しないのだ。
おまけに、それ以降にアンディーが男磨きをして自分を変えようとする手順は一度も出て来ないし。アンディーがオタク趣味ってのを話の中で上手く機能させようとするならば、そこで終わらせるんじゃなくて、「オタク趣味で人付き合いが下手だから女性にモテない人生を歩んできた。だから40歳まで一度も女性と付き合ったことが無いし、当然のことながら童貞である」というトコまで掘り下げなきゃダメだと思うのよ。
ところが本作品の場合、オタク趣味ってのが「とりあえず用意した」というペラペラの要素に過ぎない。
なので、フィギュアは置いてあるけど、そこに対するアンディーの情熱が全く見えない。
ホントにオタクなら、もっと異様なぐらいの熱を持っているはずでしょ。そういうのが全く無いから、オタク趣味という設定が活きない。アンディーはトリシュとの最初のデートで、家に招かれている。彼はベッドで抱き合い、コンドームを装着するよう促される。彼は複数の コンドームを膨らませて品質を確かめるが、つまりセックスに対して何の恐怖心も抱いていない様子なのだ。
ホントにセックスがトラウマで避けていたのなら、そもそもベッドで抱き合うことさえ躊躇するはずじゃないかと。最初にトリシュが「ホントにキスが好きねえ」と言った時は、セックスの怖いアンディーがキスばかりしているのかと思ったら、そうじゃないのよね。
それは設定とズレがあるでしょ。セックスに対しては、もっと恐怖心を示さなきゃダメでしょ。
トリシュとのセックスが未遂に終わるのも、「マーラが帰宅したせいで」ってことじゃなくて、アンディーのトラウマが原因という形にすべきでしょうに。
簡単に女性と仲良くなれて、何の迷いも無くセックスする準備が出来るような男なら、40歳まで童貞のワケが無いでしょ。
お前のトラウマはどうなったのかと言いたくなるわ。アンディーは童貞を捨てたくても捨てられない状態にあるわけではない。その気になれば、いつだって捨てられる男だ。しかも話が後半に入ると、ポーラやベスがセックスを求めて来る。
そこまで行くと、もはや「40歳で童貞」という設定は、ほぼ死んでいると言ってもいい。
とは言え、これが最初から「40歳で童貞の主人公に興味津々の女性たちが、初体験を奪おうと次々に誘惑して来る」というトコで喜劇を転がしていく構成なら、それはそれで有りだと思うのよ。
でも、そうじゃないんだから、「アンディーが何の努力もせず、自分を変えようとしなくても、セックスのチャンスが幾らでもある」という状況を用意するのは間違いだわ。アンディーはフィギュアを集めていたり、ビデオゲームが幾つもあったり、昔の人気ドラマのポスターを貼っていたりする。
どうやら彼はオタクという設定のようだが、そんなのは全く意味が無い。
何しろ彼は人当たりが良くて女性からモテるので、それならオタク趣味を受け入れてくれる相手も見つかるだろうと思うからだ。
それにオタク趣味であろうとも、童貞を捨てるための障害としては機能しないと思うし。
だって、自宅を見せなきゃ女性とセックスできないわけではないからね。しかも本作品では、いつの間にかトリシュはアンディーのフィギュア趣味を知っており、いつの間にか受け入れている。なので、やっぱり全く有効活用されていないのだ。アンディーはトリシュから促され、自分の店を持つために全てのフィギュアを簡単に売却しちゃうしね。
そんなの、オタクとは言えないだろ。
終盤には「僕が大切にしていたフィギュアなんだ」とトリシュに怒っているけど、それはセックスを避けようとするための言い訳に過ぎないわけで。
っていうかさ、そこに来てセックスを避けようとするのなら、最初のデートで全く尻込みする様子が無かったのは整合性が取れないでしょうに。
この映画、ようするに全てが雑なのよ。(観賞日:2016年10月19日)
第28回スティンカーズ最悪映画賞(2005年)
ノミネート:【最も過大評価の映画】部門