『モンタナの目撃者』:2021、アメリカ

スモークジャンパー(山林火災初動部隊)のハンナ・フェイバーは、山火事に巻き込まれた3人の民間人を救えなかった出来事を今も悪夢で見ている。フロリダ州フォートローダーテール。ジャック・ブラックウェルと弟のパトリックは消防署員とガス会社の点検員を装い、バーディド地方検事の家を訪問した。応対に出たのは夫人で、兄弟はガス漏れを検知したと嘘をついて家に上がり込んだ。彼らが外に出ると、直後に家が大爆発を起こした。
フロリダ州ジャクソンビル。オーウェン・キャサリーは妻を亡くし、息子のコナーと暮らしている。バーディドの家族が爆発事故で死亡したことをニュースで知った彼は、コナーを車に乗せて逃亡した。モンタナ州ソーダビュート。ハンナは山林火災の消防訓練校で卒業式の様子を眺めながら、仲間のライアンたちと酒を飲んだ。そこへ保安官のイーサン・ソーヤーが来て、ハンナが近所の監視塔に来ることを知った。ハンナが走行する車の荷台からジャンプすることを知り、ライアンたちは「懲りてないな」と呆れる。ハンナはパラシュートを開いて飛び立つが、着地に失敗して崖下に落ちた。イーサンはハンナを連行し、自暴自棄な行動を諫めた。
ジャックとパトリックはオーウェンの家に侵入し、銀行から1万ドルを引き出していることを知った。オーウェンとコナー、イーサンと妻のアリソンが並ぶサバイバルスクールの写真が部屋には飾られており、ジャックとパトリックは行き先がソーダビュートだと特定した。オーウェンはコナーに、「パパは訴訟会計士で、不正の調査をして汚職に気付いた。そのせいでパパを雇った人が殺された。奴らは事実を知るパパを追って来る」と話した。
コナーが「警察へ」と言うと、オーウェンは「信用できない。知事や議員もだ」と相手が大きな権力を持つことを明かし、知人しか信用できないのだと述べた。イーサンは妊娠中のアリソンが待つ家に戻り、ハンナのことを話した。ハンナはイーサンの昔の恋人だったが、アリソンは彼女を心配している。オーウェンはアリソンに電話を掛け、イーサンに代わってもらった。彼はイーサンに事情を話し、助けを求めた。オーウェンの亡くなった妻は、イーサンの姉だった。
翌朝、ハンナは監視塔に到着した。オーウェンは手紙を書き、コナーに渡して「読んではいけない。信用できる人に見せろ」と指示した。ジャックとパトリックは小型機で空港に降り立ち、出迎えの2人組が用意した車に乗り込んだ。イーサンはオーウェンの相談につて、上司の保安官に話した。オーウェンはイーサンに、FBIや警察ではなくテレビ局のニュース班を呼ぶよう依頼していた。すると保安官は「騒ぎは困る」と言い、オーウェンが来たら自分が話を聞くと告げた。
ハンナは監視塔で、山火事の件を思い出していた。森林局が風を見誤って情報を伝えたのだが、ハンナは全て自分の責任だと感じていた。監視塔は落雷を浴び、電気系統が故障した。オーウェンの車は山道でパトリックの狙撃を受け、崖下に転落した。オーウェンはコナーに手紙を託し、「テレビ局のニュース班に渡せ」と指示して車から脱出させた。オーウェンは追撃の銃弾を浴び、車ごと川に落ちた。現場に女性が車で通りかかると、ブラックウェル兄弟は始末して逃亡した。
イーサンは車で家に戻る途中、女性の遺体を発見した。ハンナは怪我を負ったコナーを発見し、保安官を呼ぼうとする。コナーが「ダメだ。ニュース班を」と言うと、ハンナは「分かった」と告げて監視塔へ案内した。ジャックは雇い主のアーサー・フィリップと会い、完璧に仕事を遂行するよう命じられた。ブラックウェル兄弟は人々の注意を逸らすため、山火事を起こした。監視塔に着いたハンナは、落雷で機器が壊れて電話が使えないことをコナーに教えた。
コナーはハンナを信用し、手紙を渡した。その内容を確認したハンナは、すぐにコナーを町へ連れて行くことにした。ブラックウェル兄弟はFBIを装ってソーヤー邸へ行き、アリソンに銃を向けた。イーサンに電話を掛けるよう命じられたアリソンは、合言葉で危機を伝えた。それに気付いたジャックが銃を構えると、アリソンはスプレー缶を使って炎を顔面に浴びせた。ジャックが苦悶している間に、アリソンはライフルを手に取って家から脱出した。
ハンナとコナーが歩いていると、激しく雷が鳴り始めた。ハンナはコナーに、「少し走って伏せる」という行動を交代で取りながら落雷を避けるよう指示した。ハンナは走っている最中に落雷を受けて倒れ込むが、直撃は免れた。イーサンは上司と共に自宅へ戻り、アリソンに呼び掛ける。上司は射殺され、イーサンはブラックウェル兄弟に捕まった。ハンナは森で火を起こし、山火事で風向きを読み違えて3人の少年を救えなかったことをコナーに語った。
ブラックウェル兄弟は車が転落した場所にイーサンを連行し、コナーの捜索を命じた。川辺でコナーの足跡を見つけたイーサンは、密かに消そうとする。しかしパトリックが足跡に気付き、ジャックはイーサンに追跡を要求する。イーサンは拒否するが、アリソンを殺すと脅迫されたので仕方なく了承した。山火事を見たハンナは、コナーを連れて塔に戻った。ブラックウェル兄弟がイーサンを連れて歩いて来る姿を目にした彼女は、コナーと共に身を潜めた。
ブラックウェル兄弟はイーサンに塔へ行くよう命じ、「ガキがいれば連れて来い。誰もいなければ火を付けろ」と告げた。イーサンは塔に入り、ハンナと話して現状を打破する方法を思案する。木の上から塔の様子を観察していたパトリックは、イーサンが誰かと話していることに気付いた。ブラックウェル兄弟は一斉に発砲し、銃弾を浴びて怪我を負ったイーサンはハンナとコナーを脱出させた。すぐに兄弟はハンナたちを追い掛けようとするが、近くで待ち伏せていたアリソンが銃撃する。ジャックはパトリックに、ハンナたちを追うよう命じた。残ったジャックは、アリソンとの銃撃戦の末に射殺された…。

監督はテイラー・シェリダン、原作はマイケル・コリータ、脚本はマイケル・コリータ&チャールズ・リーヴィット&テイラー・シェリダン製作はスティーヴン・ザイリアン&ギャレット・バッシュ&アーロン・L・ギルバート&ケヴィン・チューレン&テイラー・シェリダン、製作総指揮はスティーヴン・ティボー&アシュリー・レヴィンソン&アンドリア・スプリング&ジェイソン・クロス&リチャード・マッコネル&キャスリン・ディーン&マイケル・フリードマン&ダリア・セルセク&セリフ・コング、共同製作総指揮はブレンダ・ギルバート&アダム・デヴィッズ、共同製作はハリソン・クレイス、製作協力はグレース・モートン、撮影はベン・リチャードソン、美術はニール・スピザク、編集はチャド・ガルスター、衣装はカリ・パーキンス、音楽はブライアン・タイラー、音楽監修はアンドレア・フォン・フォレスター。
主演はアンジェリーナ・ジョリー、共演はフィン・リトル、ジョン・バーンサル、ニコラス・ホルト、エイダン・ギレン、ジェイク・ウェバー、メディナ・センゴア、タイラー・ペリー、ブーツ・サザーランド、トリー・キトルズ、ジェームズ・ジョーダン、ローラ・マルティネス=カニンガム、ハワード・ファーガソンJr.、ライアン・ジェイソン・クック、ローラ・ニエミ、ディラン・ケニン、フェイス・リンチ、アレクサンダー・ワゲンマン、メイソン・ハウエル、カルヴィン・オルソン、テッサ・ジョー・メンタス・ダーリントン他。


マイケル・コリータの小説を基にした作品。
監督は『ウインド・リバー』のテイラー・シェリダン。
脚本は原作者のマイケル・コリータ、『ウォークラフト』のチャールズ・リーヴィット、監督のテイラー・シェリダンによる共同。
ハンナをアンジェリーナ・ジョリー、コナーをフィン・リトル、イーサンをジョン・バーンサル、パトリックをニコラス・ホルト、ジャックをエイダン・ギレン、オーウェンをジェイク・ウェバー、アリソンをメディナ・センゴアが演じている。

バーディドの家を爆破したパトリックが「急ごう。15分でニュースになる」と言うと、ジャックは「奴は怖気付いて、逃げるまでに2日は掛かる」と余裕を見せる。
でも実際はニュースを見た直後にオーウェンは逃亡しているわけで、ジャックの感覚は甘すぎる。
そもそも、関係者を全て始末して汚職事件を隠蔽しようと目論んでいるはずなのに、兄弟だけで行動している時点でアホすぎるでしょ。
ほぼ同時にバーディドとオーウェンを狙っていれば、確実に始末できたはずで。

これに関しては、ジャックが「2班で対処する案件だ」と不満を漏らしており、「雇い主が金をケチった」という説明がある。
つまり、兄弟が自分たちだけで動いたのは本意ではなく、「雇い主が肝心なトコで金を出し惜しんだ」という言い訳が用意されているのだ。
だけど、それで納得できる余地なんて皆無だぞ。
前述したように、汚職事件を隠蔽するために、殺人まで平気で命じていような連中なんでしょ。
それぐらい「絶対に情報流出を阻止しなきゃいけない」ってことなのに、なぜ金をケチるのかと。意味不明でしょ。

結果的には正解なのだが、ブラックウェル兄弟がサバイバルスクールの写真を見ただけで「オーウェンはソーダビュートに向かった」と断定しているのは、あまりにも安直に感じる。
もちろんオーウェンからするとイーサンは親族なので、「信頼できる数少ない相手」ではある。
ただ、それ以外でも親しい仲間がいるかもしれないし、汚職事件に関して協力関係にある人物がいるかもしれない。
そういう可能性を全く無視してイーサンの一択に絞り込むのが、あまりにも簡単すぎやしないか。

詳しい状況を分かっていないから仕方が無い部分はあるのだが、イーサンがオーウェンの「テレビ局にニュース班を呼んでくれ」という依頼に応えていれば、ブラックウェル兄弟がソーダビュートに来てからの出来事は大幅に変わっていた可能性がある。
しかも「詳しい状況を分かっていない」と書いたが、保安官との会話からすると、「FBIを呼ぶ必要があるような重大事件」ってことは理解しているみたいなんだよね。
なのでブラックウェル兄弟には負けるが、イーサンの対応も甘すぎると感じる。

ブラックウェル兄弟が「人々の注意を逸らすため」ってことで山火事を起こすのは、理屈として大きく外れているわけじゃないが、かなり強引な筋書きだと感じる。
それぐらい無理をしないと、ハンナの「スモークジャンパー」という職業設定を上手く物語に取り込むことが出来ないのだ。
彼女の職業やトラウマと「悪党が情報隠蔽のために動いている」という設定を絡ませるために、変にしか思えない過剰な行動を取らせているのだ。

ハンナは雷が鳴り始めるとコナーに指示を出し、交代で走ったり伏せたりしながら草原を突っ切ろうとする。ハンナが落雷で倒れ込むと、コナーが歩み寄って「目の前で殺された」と父について語る。するとハンナは彼を後ろから抱き締め、「我慢せず吐き出して」と口にして休憩に入る。
でも、そんなに悠長にしていてもいいのかよ。出来るだけ早く草原を渡り切るために、必死で走っていたんじゃないのかよ。
ただ、そう思っていたら、さっきまで草原に連続で落ちていた雷が遠くに移動しているんだよね。
なんて都合がいいんだよ。

イーサンはコナーの足跡を見つけて消すが、痕跡が残っているのをパトリックが発見する。イーサンは協力を拒否するが、アリソンのことで脅されると承諾する。
ドラマを盛り上げたいのは分かるけど、その辺りの手順は「要らないな、面倒だな」としか感じない。
ただ、それよりも問題なのは、ハンナ&コナーのパートと、ソーヤー夫妻が登場するパートが並行して進むことだ。
ブラックウェル兄弟はコナーを発見するまでハンナとも遭遇しないので、そこが交わらないのは当然っちゃあ当然だ。ただ、そんな兄弟がソーヤー夫妻と絡むことにより、そっちのパートではイーサンやアリソンが主人公のような役回りを担当しているのだ。

本来ならばコナーを守ろうとするハンナだけが主人公であるべき話なのは、言うまでもないだろう。だからイーサンやアリソンが主役のような扱いになるのは困るのだ。
しかもアリソンに至っては、ジャックに反撃して顔を焼いたり、銃撃戦を繰り広げて射殺したりする仕事まで担当するからね。
そうやって「悪党と戦う女性」として普通に活躍するので、ますます主人公っぽくなっている。
なので、「こっちが主人公の方が良くないか」と言いたくなる。その場合、コナーの存在を排除して、ソーヤー夫妻がオーウェンから情報を受け取っている設定にすればいい。

ハンナは「山火事で少年たちを救えなかった」という過去を引きずっているのに、深手を負って動けなくなったパトリックを山火事の中に平気で放置する。
そりゃあ相手は完全無欠の悪党だけど、スモークジャンパーなのに、しかも「山火事の中に人を置き去りにした」という経験を引きずっているのに、それでホントにいいのか。
決して「ハンナはパトリックを救おうとするべき」と言いたいわけじゃなくて、「山火事の中でパトリックがハンナと格闘して深手を負う」という展開を用意したシナリオに問題があるのだ。

ハンナは山火事の中でコナーと共に川へ潜り、炎をやり過ごす。そうやってコナーは救っているけど、山火事が広がるのを防ぐことは全く出来ていない。
もっと問題なのは、ハンナは単なる消防士じゃなくてスモークジャンバーなのに、その仕事の特性が活かされるシーンは何も用意されていないのだ。
イーサンとアリソンが塔で山火事に巻き込まれているけど、ハンナは何も気にしちゃいないし。
ソーヤー夫妻は、自分たちで何とか山火事をやり過ごしているんだよね。なので、ハンナの職業設定には全く意味が感じられない。

ハンナ&コナーのパートと、ソーヤー夫妻が登場するパートが、相乗効果を発揮することは全く無い。上手く絡み合うことも無ければ、ドラマの厚みに貢献することも無い。
途中でイーサンが少しだけハンナ&コナーと接触するが、アリソンに至っては最後まで関わらない。
あと、オーウェンが握った秘密が判明しないままで終わるのは、絶対にダメだよ。
そこは「マクガフィンだから謎のままでも構わない」ということじゃなくて、ただの手抜き作業になってるぞ。

(観賞日:2023年7月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会