『マーベラス』:2021、アメリカ

1991年、ベトナムのダナン。寂れたビルを訪れたムーディーが銃を構えて部屋に乗り込むと、3人の男が殺されていた。机の上の大金を鞄に入れたムーディーは、物音に気付いた。彼がクローゼットを開けると、少女のアンナが銃を握り締めて隠れていた。ムーディーは彼女に手を差し伸べ、一緒にビルを出た。30年後、ルーマニアのブカレスト。男はホテルの部屋へ行き、寛いでいる手下2人を叱責した。寝室で女をはべらせて寝ていた手下のアントンを起こした男は、ヴァリの居場所を尋ねた。
ヴァリは車に乗せられており、犯人が男に電話を掛けた。ヴァリは誘拐されたことを男に説明し、2時間以内に300万ユーロを用意しないと殺されると訴えた。男が手下たちを引き連れて指定の場所に赴くと、アンナが車で現れた。一味はアンナを捕獲し、ブカレストの殺人王と呼ばれるドン・プレダの屋敷へ連行した。プレダは息子のヴァリを誘拐したアンナに激怒し、居場所を教えるよう要求した。アンナは自分が下請けだと言い、隠れている人間を探し出すのが仕事だと述べた。しかし彼女は本当の目的が金ではないことを明かし、ブレダと一味を殺した。屋敷を出た彼女はムーディーと合流し、ヴァリを解放した。
普段のアンナは、希少本を専門に扱う古書店の店主として働いている。彼女はムーディーの屋敷を訪れ、家政婦のクラウディアと共に70歳の誕生日をお祝いした。アンナはムーディーに、1958年製のギブソンのフライングVをプレゼントした。ムーディーは彼女を秘密の地下室へ案内し、「ビルを買った。書店は建物ごとお前の物だ」と書類を渡した。彼はルーカス・ヘイズという男性の捜索を依頼し、「1998年にパリにいたが、その後は行方不明だ」と説明した。
アンナはクリーニング店を営む情報屋のベニーを尋ね、ルーカスの捜索を依頼した。アンナの書店にレンブラントという男が来て、上司の妻がコレクターで希少本を探していると告げた。レンブラントはアンナに好意を示し、口説くような言葉を並べた。アンナが軽く受け流すと、彼は名刺を渡して去った。アンナはベニーから、ルーカスが1998年にパリに着いたこと、翌年にダナンへ戻ったことを聞いた。ベニーは「詳細はこれを見てくれ」と言い、USBメモリを渡した。
アンナはムーディーの屋敷へ行き、彼とクラウディアの遺体を発見した。彼女がクリーニング店へ行くと、ベニーが殺されていた。アンナが書店に戻ると、2人の男が銃撃してきた。アンナは彼らを始末し、車で逃亡した。彼女はUSBメモリの中身を確認し、ルーカスが1990年生まれで1999年に入院していること、父のエドワードが1991年に暗殺されていることを知った。エドワードは戦犯容疑のビジネスマンで、化学兵器の販売容疑で審理中に爆死していた。爆死の現場写真には、ムーディーが映り込んでいた。
アンナはエドワードの共同経営者で会社を続けているヴォールと会うため、ダナンへ赴いた。彼女はバイカー集団を率いる旧友のビリーと会い、「ムーディーが死んだ。ヴォールが犯人を知っているはず。サシで話したい」と協力を求めた。アンナはバイカー集団の協力で、車で移動中のヴォールに接触した。彼女はヴォールに連絡するよう要求し、電話番号を教えて立ち去った。アンナがホテルで待機していると、ヴォールから連絡が入った。アンナは会社のビルへ行き、身体検査を受けて中に入った。
アンナが社長室に入ると、ヴォールはドゥケ弁護士と共に待っていた。アンナが「ルーカス・ヘイズの指示で3人が殺された」と言うと、ヴォールは「何の接点も無い」と関与を否定した。ドゥケはヴォールを射殺し、武装した2人の手下が部屋に飛び込んだ。全て話せと要求されたアンナは発砲し、逃亡を図る。しかしアンナは一味に捕まり、拷問を受けた。アンナが何も吐かないので、ドゥケはレンブラントを呼び寄せた。レンブラントはアンナに、「君が助かる可能性は低い。彼と俺は同じ人間に雇われてる。手荒な真似は俺の趣味じゃない。ムーディーの死や書店の銃撃と俺は無関係だ。俺の担当は事後処理だ」と述べた。
レンブラントは明朝に改めてアンナと会うことを決め、部屋を出た。彼は独断でヴォールを殺したドゥケと手下たちを批判し、建物を去る。ムーディーはレンブラントを失脚させようと目論み、手下3人にアンナを殺害するよう命じた。アンナは3人を始末し、建物から逃亡してビリーの元へ赴いた。ビリーはベトナムを出るよう忠告するが、アンナはルーカスが入院していたキラリア病院へ行き、保険省の役人を詐称した。するとルーカスは6歳から目と口と耳が不自由になり、現在も入院していた。
レンブラントはアンナに電話し、「君の質問に答えよう」とディナーに誘った。彼はボスであるエドワードから、日曜日の慈善パーティーまでに問題を片付けるよう命じられた。アンナはレンブラントが待つレストランへ出向いて、ルーカスの後援者に会わせるよう要求した。レンブラントが承諾せずホテルの部屋に誘うと、アンナは店を去った。レンブラントはドゥケが差し向けた手下たちに襲われるが、全員を返り討ちに遭わせた。
アンナはドゥケの部屋へ乗り込み、手下を始末した。彼女はドゥケを拷問し、情報を聞き出してから始末した。レンブラントが部屋に来て、アンナは彼と格闘になった。レンブラントが口説くと、アンナは彼と肉体関係を持った。建物を出たアンナはドゥケの手下に襲われるが、ムーディーに救われた。ムーディーは屋敷に来た刺客を始末し、自分の遺体に偽装したのだ。アンナたちはビリーと会い、エドワードの屋敷に関する情報を聞いた。アンナはビリーに協力してもらい、厳重に警備されているパーティー会場に潜入した…。

監督はマーティン・キャンベル、脚本はリチャード・ウェンク、製作はアーサー・サルキシアン&モシュ・ディアマント&ロブ・ヴァン・ノーデン&ヤリフ・ラーナー&クリス・ミルバーン、製作総指揮はクリスタ・キャンベル&ラティ・グロブマン&アヴィ・ラーナー&トレヴァー・ショート&ジェフリー・グリーンスタイン&ジョナサン・ヤンガー&ボアズ・デヴィッドソン&ブルーノ・ウー&ガレス・ウェスト&アンドレイ・ボンシア&ドラゴス・ブリガ&サイモン・ウィリアムズ&ダニエル・ネグレット&バラン・メラーコード&エウゼビオ・ムニョス・ジュニア&クレイトン・R・フェルナンデス&ウラジミール・D・フェルナンデス&ルーク・ダニエルズ&カイル・ストロード、共同製作総指揮はエカテリーナ・ベイカー&ロニー・ラマティー、共同製作はレジーナ・セイファート、製作協力はエドゥアルド・イリミア、撮影はデヴィッド・タッターサル、美術はウルフ・クルーガー、編集はアンジェラ・M・カタンザーロ、衣装はイリーナ・コチェワ、音楽はルパート・パークス、音楽監修はライアン・スヴェンドセン。
出演はマイケル・キートン、マギー・Q、サミュエル・L・ジャクソン、ロバート・パトリック、デヴィッド・リントゥール、パトリック・マラハイド、レイ・フェアロン、オリ・プフェッファー、キャロライン・ロンク、フロリン・ピアシクJr.、トゥドール・チリラ、ヴェリザル・ビネフ、ゲオルグ・ピシュテレアヌ、エヴァ・ニューエン・トールセン、アレックス・ボルジア、タニア・ケラー、サラ・マリア・グロセアヌ、アリーナ・ウォン、タジ・アトウェル、ガンバ・コール、フォン・チャン、リチェーナ・ケアリー、ディミター・ニコロフ、アイダ・エコノム、マダリナ・アネア他。


『グリーン・ランタン』『ザ・フォーリナー/復讐者』のマーティン・キャンベルが監督を務めた作品。
脚本は『マグニフィセント・セブン』『イコライザー2』のリチャード・ウェンク。
レンブラントをマイケル・キートン、アンナをマギー・Q、ムーディーをサミュエル・L・ジャクソン、ビリーをロバート・パトリック、エドワードをデヴィッド・リントゥール、ヴォールをパトリック・マラハイド、ドゥケをレイ・フェアロン、クラウディアをキャロライン・ロンクが演じている。

冒頭シーンの状況が、ちょっと良く分からない。
室内の様子からすると、住居ではないだろう。ってことは、アンナは拉致されたのか。だとすると、拉致した連中の目的は何なのか。
あと、そこの3人はホントにアンナが殺したのか。殺したのであれば、なぜアンナは部屋から逃亡せず、クローゼットに隠れていたのか。そこにムーディーが乗り込んだ理由は何なのか。
そこは何も説明されないまま、現在の物語がどんどん進行していく。

続くシーンの状況も、やっぱり良く分からない。
男がホテルの部屋に乗り込むと、2人の手下が寛いでいる。寝室には裸の女が2人いて、ベッドではアントンが眠っている。
それは単純に、手下たちがヴァリの護衛をサボって遊んでいたってことなのか。
それとも、アンナとムーディーが何かしらの策略を用意した結果なのか。
策略が無いとすればホテルの様子を描く意味は皆無だが、見ている限りは何の策略も伝わって来ない。

そもそも、アンナがブレダに会うために、わざわざ「ヴァリを誘拐して身代金を要求し、犯人として一味の前に現れ、屋敷に連行される」という手順を踏む必要性が全く分からないのだ。プレダの屋敷って、たぶん簡単に見つけられそうだし。
さすがに何の策も無しに正面から乗り込んでいくのは避けるにしても、もう少し手間の掛からない方法はあったんじゃないかと。
あとブレダの前に連行された時、しばらく怯えた様子を見せて会話を交わす意味も無いのよ。「観客を欺くためだけに用意された芝居」になっているんだけど、わずかな時間で真の目的はバラすんだし、ダラダラと尺を稼いでいるとしか思えんよ。
そこの目的は「成長したアンナが殺し屋になっている」ってことを示すことにあるんだけど、もっとサクッと描いていいよ。

ムーディーはルーカスについて、アンナに「1989年にパリにいた」と説明する。だけどルーカスって1990年生まれなので、その前年にパリにいたという説明は嘘なんだよね。
そんな無意味な嘘をつく理由が、どこにあるのか。
で、アンナはムーディーからルーカスの捜索を依頼され、ベニーに仕事を頼む。だったら最初から、ムーディーが情報屋を使えば良くないか。アンナは殺し屋であって、人探しは得意分野じゃないはずだし。
殺し屋であるアンナにムーディーが人物の捜索だけを依頼するのは明らかにイレギュラーな仕事だから、そこには重要な意味があるんだろうと思った。でも、特に何も無いんだよね。

アンナがムーディーの屋敷へ赴き、クラウディアと彼と遺体を順番に目撃するシーンがある。
このシーン、アンナが屋敷に入ると、「武装した犯人が押し掛け、ドアを開けたクラウディアを射殺した」という彼女の妄想が挿入され、その後にクラウディアの遺体が映し出される。さらにアンナが奥へ進むと、今度はムーディーが襲われた時を妄想する映像が挿入され、浴槽の遺体が映る(ただしムーディーの顔は映らない)。
でも、そこでアンナの「たぶん、こんな感じで殺されたんだろうな」という妄想を挟む意味が全く無い。
そういうのを何度も入れるとか、アンナにプロファイラー的な能力があるってことなら別にいいけど、そうじゃないのでね。

アンナがダナンに戻ると、バリーが旧知の仲として登場する。
でも冒頭シーンで、幼い頃のアンナをムーディーが部屋から連れ出す様子が描かれているんだよね。なので、こっちは「幼少期にベトナムを出た」と思っているわけで。
それなのに、昔馴染みの男がダナンにいるというのは、どういうことなのかと困惑してしまう。
後から「建物を出た後の様子」が何度か挿入されるけど、やっぱりアンナは幼少期にベトナムを離れているみたいなのよね。
なので、ここは単純に設定ミスじゃないかと。

アンナはバイカー集団の協力で、ハイヤーで移動中のヴォールと接触する。この時、車の中でヴォールとサシで話せる状況が生じている。にも関わらず、なぜかアンナは彼にホテルの電話番号を渡し、連絡するよう指示して立ち去るのだ。
いやいや、なんでたよ。
事前にナイフを仕込んだ葉巻をオフィスへ送るのも、何のつもりなのかと言いたくなるし。
「会社に入る時に身体検査があるだろうから、万が一に備え武器を隠しておく」ってのが狙いなんだけど、車で話しておけば、そんな必要も無いんだし。
ヴォールに連絡するまでの時間を与えることで、準備をする余裕を与えているし、会社は向こうの本陣だし、何の得も無いだろうに。

この手のアクション映画では、「主人公が敵に捕まって窮地に陥る」ってのは良くあるパターンだ。だけど、この映画だと要らないなあ。
アンナは「常に敵の上を行く凄腕の殺し屋」にしておけば良かったんじゃないかと。それで復讐劇のマイナスになることが何かあるのかと考えた時、特に何も思い付かないし。
アンナが捕まって拷問を受ける手順を設けると、そこに「自分がやられたことに対する復讐」という要素が加わるので、むしろマイナスじゃないかと。
ピンチを用意するにしても、「ピンチだけど捕まらずに何とか逃亡する」という程度で良かったんじゃないかと。

アンナがドゥケの手下3人を始末して監禁されている部屋のドアをノックすると、カットが切り替わる。すると既にアンナは逃亡した後で、レンブラントが戻って来る様子が描かれる。
なので、どうやってアンナが建物から脱走したのかは分からない。
もちろん「部屋の外にいた見張りを倒した」ってことぐらいは分かるけど、建物には他にもドゥケを含む数名がいたはず。
しかも、幾つも監視カメラが設置してあるわけで、見張り1人を倒しただけで逃亡できているのは不可解だ。

っていうかさ、そこは「アンナが見張りを倒し、建物にいるドゥケたちも全滅させて脱走する」という形でも良かったんじゃないのか。
ドゥケと複数の手下を残しておいても、そんなに意味は無いだろ。
ここでドゥケと手下を残す理由としては、大きく2つある。
1つは、「アンナが病院を調べる」という手順を描くためだ。アジトで一味を倒し、ドゥケを拷問して情報を聞き出したら、そこで片付くからね。
だけど、そこは「アンナが脱走する時、ドゥケは建物にいなかった」ということにでもすればいい。

もう1つの理由としては、「刺客に襲われたレンブラントが返り討ちにして、ドゥケの部屋へ乗り込んでアンナと格闘になる」という手順を描くためだ。
でも、まずレンブラントがドゥケの手下に襲われる展開なんて要らんよ。
ドゥケがレンブラントの失脚を狙ってアンナを始末しようと目論むことすら「そんな内輪揉めは無くてもいいなあ」と思うけど、そこはギリOKとしよう。だけど、刺客を差し向けてレンブラントを殺そうとするのは、さすがに無いわ。
それによって、まるでレンブラントが主人公のようなアクションシーンが挟まれるが、シナリオの計算能力が低すぎるとしか思えんよ。

あと、ドゥケの部屋でのアンナとレンブラントの格闘にしても、そこからセックスに及ぶので呆れ果てるだけだ。正気の沙汰とは思えない展開だ。
レンブラントがアンナに執着して何度も口説くのは、まだ別にいいとしよう(そのキャラ造形が成功しているかと問われたら答えはノーだけど)。だけど、何がどうなったら、アンナは彼を受け入れてセックスする気になれたのか。
決して高い知性を求められるようなアクション映画ではないけど、それにしてもオツムが悪すぎる。
しかも、そこでセックスするからレンブラントがアンナの味方に寝返るかというと、そういうわけではないし。

主終盤、ムーディーが身を隠したエドワードの前に現れ、「かつてエドワードは自分の殺害をムーディーに依頼し、別人を始末させた」という事実が明らかにされる。
だけど、なぜエドワードが自分の始末を装って別人を殺させなきゃいけなかったのか、それが良く分からない。
一応は本人が説明しているけど、そこに納得できる理由は何も無い。代わりに殺された相手か、どんな人物だったのかも分からない。
なので、ムーディーが自爆してエドワードを道連れにする理由もサッパリだ。そんなことをしなくても、普通にエドワードを殺すことは出来る。
そこで自爆するのは「罪を償う」という目的なのだが、今まで大勢を殺してきて、そのタイミングで死を選ぶ気になった事情は何も見えて来ない。

ムーディーがエドワードを道連れにして死亡した後、冒頭シーンの状況説明が回想シーンとして描かれる。
男たちはアンナの目の前で彼女の母親を惨殺し、周囲にいた面々も始末した。しかしアンナだけを建物に連行し、そこでアンナが反撃して皆殺しにしたのだ。
でも、なぜ一味がアンナの母親を惨殺したのか、その理由はサッパリ分からない。他の連中は殺しておいて、アンナだけ連行する理由も同様。そこにムーディーが乗り込んだ理由も、やっぱり分からないままだ。
なので、何の種明かしにもなっていないんだよね。
わざわざラスト直前まで、そのシーンを残しておいた意味もサッパリだわ。

(観賞日:2023年11月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会