『マークスマン』:2021、アメリカ

メキシコ人のローサと11歳になる息子のミゲルは、小さな町で暮らしていた。ある日、ローサは弟のカルロスから電話を受け、「ミゲルを連れて逃げろ」と告げられる。カルロスに「カルテルに追われてる。見せしめにされる。姉貴も危ない」と言われたローサは荷物をまとめ、ミゲルを連れて家を出た。カルロスはカルテルのマウリシオと弟のリゴ、手下のエルナンドやイシドロたちに捕まり、惨殺された。一味は携帯の履歴でローサの存在を知り、マウリシオは「裏切りの代償は家族に払わせる」と口にした。
アリゾナ州ナコ。元海兵隊員で牧場主のジム・ハンソンは密入国者を見つけ、国境警備隊に通報した。ピア郡投資銀行のニーハムがジムの元を訪れ、90日後に牧場が競売に出されることを通知した。ジムが「先月、ネッドに猶予を頼んだ」と話すと、ニーハムはネッドが辞めたことを伝える。ニーハムは滞納6ヶ月を過ぎると競売の対象になることを説明し、牧場を去った。ジムは1年前に病死した妻り医療費がかさんだため、牧場の大半を売却していた。彼は肉体労働で稼ごうと考えて現場監督に会うが、来月の工事まで仕事は無いと告げられる。ジムは残った牛を売却して金を工面しようとするが、痩せているので安値しか付かなかった。
ジムの亡き妻の連れ子であるサラ・ペニントンは、国境警備隊で勤務していた。彼女はバーテンダーのクララに呼ばれて、バーへ赴いた。久しぶりにジムが来店して酒を飲み始めたので、クララがサラに連絡したのだ。サラが「どうしてまた、ここで飲んでるの?」と尋ねると、ジムは「自分でも分からない。必死に働き、国に仕えて税金も払って来たのに、何も残らない。生きる希望だった妻も、もういない」と漏らした。サラはジムを家まで送り届け、母と再婚してくたことへの礼を述べた。
月曜日。ローサとミゲルは密入国業者の案内で、アメリカとメキシコの国境へ向かっていた。業者はカルテルの監視に気付き、身を隠した。彼が「引き返そう。見つかったら命は無い」と告げる、ローサは「お願いだから、行かせて」と頼む。業者は「茂みの先に抜けられる穴がある。勝手に行け」と言い、その場を去った。カルテルの車に見つかったローサとミゲルは、急いで国境を越えた。ジムに見つかったローサは、通報しないでほしいと懇願する。しかしジムはいつものように、警備隊に連絡を入れた。
マウリシオたちはジムに対し、ローサとミゲルの引き渡しを要求した。ジムは拒否し、銃を構えたリゴを射殺した。ジムは撃ち合いになり、ローサとミゲルを車に乗せて逃亡した。ローサは腹を撃たれており、ジムに「全部あげるから、この子を助けて。シカゴに親戚がいる」と住所のメモを託して絶命した。ジムは到着したサラに、「少年はどうなる?」と訊く。サラは彼に、「未成年だから、ノガレスに移す。恐らく児童養護施設へ送られる」と説明した。警備隊のディアスはミゲルと話し、「見逃してくれたら母は生きてた」と言っていたことをジムに教えた。
火曜日。ジムは車で移動中、フェンス越しにカルテルの姿を確認した。ローサの鞄を調べた彼は大金が入っていることを知り、彼女の遺言の意味を理解して「畜生」と吐き捨てた。アメリカ税関・国境取締局へ赴いた彼は、ミゲルを無断で連れ出した。カルテルは国境検問所で買収した警官に別人のパスポートを見せ、アメリカに入国した。ジムは自宅に戻って荷物をまとめ、愛犬のジャクソンを連れてシカゴへ向かおうとする。彼が車に戻ると、ミゲルは逃げ出していた。周囲を捜索したジムはミゲルを見つけ、「ここにいたら強制送還されて奴らに殺されるぞ」と告げた。
カルテルはジムの家を調べて海兵隊時代の勲章を持ち出し、火を放った。ニューメキシコ州プエブロ・ロックス。ジムはガソリンスタンドで給油し、地図帳を購入した。アリゾナ州シエラビスタ。カルテルは銃を用意し、マウリシオはパソコンを使ってジムの居場所を調べるよう手下のエミリオに命じた。ジムはサラに電話を入れ、「あの少年は命を狙われてる。母親を殺した連中が国境にいた」と話す。サラはミゲルを連れて戻るよう求めるが、ジムは拒んだ。
ジムはミゲルに、「俺を巻き込みやがって」と悪態をついた。それまで無言だったミゲルが英語で「こんな国、いたくもない」と言うので、ジムは驚いた。エミリオにはジムがガソリンスタンドでカードを使った情報を入手し、マウリシオに知らせた。ミゲルはジムに、「僕を助けたいなら国境まで戻ってよ」と語る。ジムは「シカゴまで連れて行く。その後は勝手にしろ」と、冷たく告げた。ガソリンスタンドに着いたマウリシオは店員を脅し、防犯カメラの映像を入手した。
ジムの車はラジエーターから水が漏れており、修理工場で見てもらう。社長のオットーは部品の交換に2日が必要だと言い、急場凌ぎに穴を塞げば多少は走ると語る。ジムが「それでいい」と返すと、オットーは「もう閉店だ」と翌日に再訪するよう告げた。ジムはニーハムに電話を掛け、「返済の目途が付いた。数日待ってくれれば支払いに行ける」と述べた。ミゲルはジムから「なぜ連中に追われてる?」と質問され、「叔父さんがカルテルを怒らせたみたい」と答えた。
水曜日。ジムは車の穴を塞いでもらい、ミゲルを乗せて出発する。エミリオはマウリシオに、修理工場でカードが使われたことを知らせた。ジムが車を走らせていると、パトカーに制止を求められた。警官は「少年に話を聞きたい」と言い、ジムをパトカーに移動させる。彼は誰か電話で話し、ミゲルと話さずにパトカーへ戻って来た。「照会の間、自分の車に」と指示されたジムは、警官が買収されて足止めしているのだと見抜いた。追及を受けた警官が拳銃を構えると、ジムは反撃して昏倒させた。
ジムはミゲルを車に乗せ、その場から離脱した。彼が近くに隠れて様子を見ていると、マウリシオたちがやって来た。彼らは警官がジムとミゲルを取り逃がしたと知ると、容赦なく射殺した。マウリシオはジムが現場に落とした地図帳を拾い、その場を後にした。ジムは銃砲店へ行き、銃を購入しようとする。店主が「機器の調子が悪くて、経歴の照会が明日になる」と言われた彼は、「ある男に追われて、警察も頼れない。悪者の手に渡ると悲劇が起きる」と話す。店主は盗難届を出す条件で、ジムに銃を渡した。
サラはジムから電話を受け、追っている男がカルテルのマウリシオであること、牧場の撃ち合いで死んだのが弟であることを教えた。彼女が「深入りしない方がいい。当局に任せて」と説得すると、ジムは「分かった。連れて戻る」と答えた。居場所を問われた彼はテキサス州ウェイバーンだと言い、サラが迎えに来るまでモーテルで待つことにした。
夜、ジャクソンが外に出たがるので、ジムは部屋の扉を開けた。向かいに目をやった彼は、カルテルの連中がいるのに気付いた。ジムは慌ててジャクソンを呼び戻そうとするが、応答は無かった。仕方なく彼は、ミゲルを連れて窓から逃亡した。一味は部屋を捜索し、逃げた後だと知る。一味はジャクソンを見つけて射殺し、車で去った。木曜日、オクラホマ州ブリッジポート。ジャクソンを埋葬したジムは、ミゲルに苛立ちをぶつけた。彼が「国境へ戻る」と言うと、ミゲルは「バッグのお金を取ったのに」と責めた。
ミゲルが森へ逃走したので、ジムは後を追った。彼はミゲルに、「これ以上は力になってやれない」と告げる。彼はミゲルの「いつかママの葬儀もしたい」という言葉を聞き、教会に立ち寄った。司祭と会話を交わしたジムは考え直し、サラに電話を入れて「託されたことを、やり遂げる」と述べた。サラは反対するが、ジムは亡き妻に導かれているような気がするのだと語って「俺たちはシカゴへ向かう」と言う。一方、マウリシオは地図帳に書かれた赤丸の印に気付き、ジムの行き先がシカゴだと確信した…。

監督はロバート・ロレンツ、脚本はクリス・チャールズ&ダニー・クラビッツ&ロバート・ロレンツ、製作はタイ・ダンカン&マーク・ウィリアムズ&ウォーレン・ゴズ&エリック・ゴールド&ロバート・ロレンツ、製作総指揮はマーク・D・カッチャー&ジェームズ・マシェッロ&マシュー・シダリ&ニコラス・シャルティエ&ジョナサン・デクター、製作協力はトレヴァー・オズモンド&セバスチャン・K・ケリー&ミッチェル・チャン&フィリップ・ダウ、撮影はマーク・パッテン、美術はシャリース・カーデナス、編集はルイス・カルバリャール、音楽はショーン・キャラリー、音楽監修はローラ・カッツ。
主演はリーアム・ニーソン、共演はキャサリン・ウィニック、フアン・パブロ・ラバ、テレサ・ルイス、ジェイコブ・ペレス、アルフレード・クイロス、ショーン・ロザレス、ホセ・ヴァスケス、アン・バレット・リチャーズ、アレックス・ナイト、チャールズ・デヴィッド・リチャーズ、ロジャー・ジェローム、ヴィク・ブロウダー、アンバー・ミッドサンダー、トミー・ラフィッテ、ディラン・ケニン、ルース・レインズ、アントニオ・レイバ、ホセ・ミハンゴス、イライアス・ガレゴス、イェディエル・O・クイレス他。


『人生の特等席』のロバート・ロレンツが監督を務めた作品。
ロバート・ロレンツと共同で脚本を担当したクリス・チャールズとダニー・クラビッツは、これがデビュー作。
ジムをリーアム・ニーソン、サラをキャサリン・ウィニック、マウリシオをフアン・パブロ・ラバ、ローサをテレサ・ルイス、ミゲルをジェイコブ・ペレスが演じている。
他に、カルロスをアルフレード・クイロス、エルナンドをショーン・ロザレス、イシドロをホセ・ヴァスケス、クララをアン・バレット・リチャーズ、ニーハムをアレックス・ナイト、銃砲店の店主をチャールズ・デヴィッド・リチャーズ、オットーをロジャー・ジェロームが演じている。

カルロスがカルテルの金を盗んだせいで、ローサとミゲルは追われる羽目になっている。もちろんカルテルは悪党なのは確かだが、その件が無ければローサが殺されることもミゲルが追われることも無かったのだ。
カルロスが何も悪くないのに殺されるならともかく、そうじゃないので、「なんだかなあ」と言いたくなる。
そりゃあローサとミゲルにしてみれば、カルロスが何をしようと無関係ではあるのよ。
ただ、カルロスも一片の曇りも無い「哀れな犠牲者」にしておいた方が、都合が良かったんじゃないかと。

カルテルが「裏切りの代償は家族に払わせる」という理由でローサとミゲルを追い掛けるのは、ちょっと良く分からないんのよね。
しかも国境を越えてアメリカへ乗り込み、ミゲルを執拗に追い掛けるんだから、理解不能な行動にしか見えないのよ。
そこは普通に、「ローサとミゲルがカルテルの金を持っているのか、もしくは隠し場所を知っているから追い掛ける」ってことで良かったんじゃないか。
もしくは、実際には金も持っていなけりゃ隠し場所も知らないけど、カルテルが誤解したまま追い掛けるってことでもいいけど。

ローサとミゲルがフェンスを越えてアメリカに入ったのは違法行為だから、ジムが国境警備隊に連絡するのは、もちろん悪いことではない。
それにローサたちがカルテルに追われている事情も知らないし、そもそも言葉が分からないので、「見逃して」という頼みを無視しても仕方が無い部分はあるだろう。
ただ、必死の懇願を無視して警備隊に連絡し、時間が掛かったせいで、ローサが殺されたのは紛れも無い事実だ。
だからミゲルが「見逃してくれれば母は生きてた」と言うのは、その通りだと感じる。

なので、ジムが自身の行動を後悔し、贖罪の意味でミゲルを助けるために動き出すのかと思ったら、そうじゃないのよね。金を見つけると「畜生」と吐き捨て、「俺を巻き込みやがって」とミゲルに悪態をつく。
ようするに彼は、ローサが大金を残して死んだから、仕方なくミゲルをシカゴへ連れて行くわけだ。
しかも彼は、その金を借金返済に使おうとしている。つまり、完全に金目当てで行動しているわけだ。
だったら、「最初は金目当てだったが、途中から使命感や同情心が芽生え、命懸けでミゲルを救おうとする」という変化のドラマでも描けば良かっただろうに。

ミゲルは「学校で勉強した」ってことで、英語がベラベラの設定だ。この都合が良すぎる設定は、ものすごく邪魔になっている。
彼が英語を話せないとジムとの会話が成り立たないので、話を進め上で何かと面倒だと思ったんだろう。
だけど逆に、「言葉が通じない中で絆が芽生える」という形にした方が、深みのあるドラマを作れた可能性もあるんじゃないかと。
ジムとミゲルの交流はベタすぎる内容しか用意されていないけど、それでも「言葉が通じない」という要素が加わるだけで、かなり印象は違っていたんじゃないかと。

マウリシオはミゲルを狙ってアメリカに乗り込んで来たはずなのに、モーテルのシーンでは部屋を調べた後に「良くも弟を殺したな」と怒りの言葉を吐いている。つまり、彼は仇討ちに燃えてジムを捜しているわけだ。
そうなると、ジムが引き付けている間に、ミゲルを安全な場所に避難させることも可能なんじゃないかと思ってしまう。
だけど実際には、そういうことでもないんでしょ。
マウリシオの目的を「ミゲルの拘束」と「弟の仇討ち」の2つにしたことが、話の軸をボヤけさせている。

ジムはミゲルを助けるために、命懸けでカルテルから逃亡していたはずだ。ところがマウリシオが弟の仇討ちに燃えているってことになると、ジム本人が狙われている形になる。
そうなると、ジムは自分の身を守るために必死で逃げ回っていることになる。
そういう意味でも、マウリシオの目的に「ミゲルの拘束」だけでなく「弟の仇討ち」を付け加えたのは邪魔になっている。
物語を厚くするために用意した要素なんだろうけど、上手く組み込めていない。

ジムがミゲルに金を返そうとすると、ミゲルは「要らない、汚い金だ」と断る。するとジムは「だったら使い道は無いな」と言い、紙幣を全て燃やす。
だけど、あまりにも衝動的で安直な行動に見えちゃうのよね。もしもカルテルが金を取り戻すために追って来ているのなら、紙幣を上手く利用できそうに感じるし。
あとミゲルが「汚い金だ」と言うからには、それってカルロスがカルテルから盗んだ金なのね。それをローサが持っていたのね。
そうなると、ローサも「何の罪も無い被害者」とは呼べなくなるなあ。

マウリシオはヘドが出るような卑劣で残忍や悪党として動かしていたはずなのに、最後の最後に来て「ジムに追い詰められて観念し、持ち出した勲章を返す」という行動を見せる。
そんなトコで変に良心や人間味を表現されても、何の意味も無いよ。付け足しみたいに中途半端なヌルさを見せられても、ドラマが盛り上がることなんて無いよ。
あと、それを受けてジムが撃ち殺さず、「道は自分で選べ」と去るのも「何だ、そりゃ」と言いたくなるだけだよ。
それまでにジムは、一味を容赦なく射殺していたんだから。

(観賞日:2023年7月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会