『ミッドナイト・ガイズ』:2012、アメリカ

セントルイス。ギャングのヴァルが28年間の刑期を終えて出所すると、仲間のドクが出迎えに来ていた。ドクはヴァルを車に乗せ、自宅アパートへ連れ帰った。オンボロのアパートを見たヴァルが「酷いアパートだな」と言うと、ドクは「狭くても我が家だ。ケーブルテレビもある」と言う。部屋にはヴァルとドク、もう1人の仲間であるハーシュの3人で撮った写真が飾られていた。「子供みたいだ」とヴァルが口にすると、ドクは「いい時代だった」と述べた。
ヴァルは洗面台で顔を洗い、「ちょっと出掛けないか。ジーチの店でコーヒーが飲みたい」と言う。「君の好きにしよう」と告げたドクは、背中の後ろで拳銃を握っていた。ヴァルはカフェでコーヒーを飲んだ後、「パーティーに行かないか」とドクを誘う。「そんな気分じゃない。生活は毎日同じだし、刺激は要らない」とドクは言う。「娘のジェシカは元気か?」というヴァルの質問に、彼は「私を避けてる。居場所がミネアポリスなのは突き止めた」と答えた。
ヴァルが「ムショで昔の仲間と連絡を取ってた。また俺たちに仕事を回してくれる」と話すと、ドクは「もう引退した」と告げる。ヴァルが改めて「俺にはパーティーが必要だ」と言うので、ドクはミスDの娼館へ連れて行く。ミスDはフロリダへ移り住み、娘のウェンディーが後を継いでいた。ヴァルは娼婦のオクサナと2階へ行くが、勃起しなかった。そこでドクはヴァルを連れて、営業時間の終わった薬局へ行く。ドクは鍵を開けて薬局へ侵入し、バイアグラだけでなく自分用に胃潰瘍や緑内障など複数の病気の薬を持ち出した。
バイアグラを飲んだヴァルは、効果が出るまでドクとプールバーで時間を潰した。勃起した彼は娼館へ戻り、再びオクサナと部屋へ行く。ヴァルが楽しんでいる間に、ドクはボスであるクラップハンズに電話を掛けた。「やっぱり出来ない」と彼が言うと、クラップハンズは「殺せなければお前も死ぬ。奴は俺の一人息子を殺した。お前を生かしておいたのは、この日のためだ」と述べ、明日の朝10時までにヴァルを始末するよう命じた。
オクサナと楽しんだヴァルは「パーティーだ」と言い、ドクを連れてクラブへ繰り出した。若い女たちを見つけたヴァルは下ネタでナンパするが、酒を浴びせられた。ヴァルはドクから借りた金をDJに渡し、昔のスローな曲を掛けてくれと頼んだ。彼は女たちに先程の態度を謝罪し、リーダー的存在のリサに「ただ踊りたいだけだ。曲が終わったら二度と会わない」と告げた。リサは承諾し、ヴァルと踊った。曲が終わるとヴァルは彼女の頬にキスし、「ありがとう」と告げて別れた。
ヴァルはドクから白内障や高血圧の薬を貰い、それを粉状に潰して鼻から吸引した。クラップハンズの手下2人が店に現れ、ドクに「時間が心配でね」と告げた。店を出たヴァルは具合が悪くなり、ドクが病院へ運んだ。女性看護師にヴァルが目をやると、ドクはハーシュの娘であるニーナだと教えた。ハーシュのことを訊かれたニーナは、「肺気腫が悪化して、母が死んでからはライトハウス・ケアホームに」と答えた。医者はヴァルを診察し、薬を飲み過ぎて持続勃起症になっているのだと説明した。医者は注射器を使い、ヴァルの男性器から古い血を抜き取った。
病院を出たヴァルは、ドクと長い付き合いになるアレックスがウェイトレスをしているダイナーへ移動した。ヴァルは「それで、誰が俺を殺す?お前だろ。責めたりしない。仕事は仕事だ」と言い、ドクに白状させた。ヴァルは「奴が現場へ息子を連れて来たのが元凶だ。息子はパニックになって銃を乱射した。一斉放火の中、そいつに俺の弾が当たった。事故だった。俺に非は無い。俺はみんなの罪を背負った、お人好しだ」と語った。
ヴァルは「尋問されても何も喋らなかった。なのに、これが結末か」と憤懣を吐露した後、「いつ命令された?」と尋ねる。「君が入所した日だ」とドクが答えると、「28年も苦しめたのか。酷い奴だ」とクラップハンズへの怒りを口にした。「いつ殺す?」というヴァルの問い掛けに、ドクは「明日の10時だ」と答えた。時刻は深夜1時17分となっており、「あと9時間ぐらいか」とヴァルは述べた。
ダイナーを出たヴァルは「少し歩かないか」と言い、ドクと散歩する。高級車が路上駐車してあるのを見つけたヴァルは、「デートに連れ出してやろう」と語る。ドクは「やめとけ。ジャーゴニュー・ブラザーズの車だ。金じゃなくて楽しみのために腎臓を奪うような奴らだ」と止めるが、ヴァルは耳を貸さなかった。彼はロックされていなかったドアを開け、ドクも車に乗り込んだ。車は鍵が付けっ放しになっており、ヴァルは「ダチを救いに行くぜ」と述べてライトハウス・ケアホームへ車を向かわせた。
ヴァルとドクはケアホームに侵入し、ハーシュを連れ出して運転を任せた。ハーシュは猛スピードで車を走らせ、ハイウェイに入った。2台のパトカーが追い掛けて来ると、彼は見事な運転技術で撒いた。ヴァルから「やりたかったけど実現していないことは?」と問われたハーシュは、「2人女とセックスすること」と答えた。ヴァルとドクはハーシュを連れて娼館へ戻るが、娼婦がオクサナしかいなかった。ウェンディーはハーシュの交渉を受け、3倍の値段で承諾した。
ハーシュはウェンディーとオクサナをメロメロにして、娼館を後にした。しかしヴァルから「最高の気分だろ」と訊かれた彼は、「そうでもない。初めて妻を裏切った」と述べた。再び車を走らせていると、大きな物音がした。ハーシュが「トランクに誰かいる」と言うので、3人は車を停めた。トランクを開けると、シルヴィアという全裸の女が縛られていた。ヴァルたちは彼女の拘束を解いてやり、服を買うために近くの食料品店へ赴いた。しかし服は置いておらず、態度の悪い店主のソングに腹を立てたヴァルは殴って気絶させた。
ヴァルはソングの服を奪い取り、車で待たせておいたシルヴィアに与えた。一行はダイナーへ移動し、シルヴィアは男たちに拉致されて倉庫で強姦されたこと、気を失って目が覚めたら車のトランクにいたことを語った。ヴァルたちはシルヴィアを強姦したジャーゴニュー・ブラザーズを制裁するため、銃を用意した。ハーシュの運転で倉庫の近くに到着すると、ヴァルとドクはシルヴィアを帰らせようとする。しかしシルヴィアが拒否したので、10分経ってから来るよう指示した。
ヴァルとドクは倉庫へ乗り込み、4人の男たちを確認した。ヴァルたは2人の脚を撃って脅し、全員を拘束した。ドクは警察に電話を掛け、「大量の武器とドラッグが置いてある」と告げて倉庫の住所を伝えた。シルヴィアがバットを持って現れたので、ヴァルたちは「警察が到着するまで8分ある」と教えて立ち去った。ヴァルとドクが車へ戻ると、ハーシュが息を引き取っていた。2人はニーナにハーシュの死を知らせ、家族の墓地に埋葬したいと告げた。埋葬を済ませた後、ヴァルとドクはダイナーへ戻った。ヴァルはドクに、「アレックスはお前の孫娘だろ」と問い掛けた。ドクは認めるが、「伝えろよ」とヴァルに促されると「いずれな」と告げた…。

監督はフィッシャー・スティーヴンス、脚本はノア・ヘイドル、製作はシドニー・キンメル&ジム・タウバー&トム・ローゼンバーグ&ゲイリー・ルチェッシ、製作総指揮はエリック・リード&テッド・ギドロウ&ブルース・トール&ビンガム・レイ&マット・ベレンソン、撮影はマイケル・グレイディー、美術はメイハー・アーマッド、編集はマーク・リヴォルシー、衣装はリンジー・アン・マッケイ、音楽はライル・ワークマン、主題歌はジョン・ボン・ジョヴィ。
出演はアル・パチーノ、クリストファー・ウォーケン、アラン・アーキン、ジュリアナ・マルグリーズ、マーク・マーゴリス、ルーシー・パンチ、アディソン・ティムリン、ヴァネッサ・フェルリト、キャサリン・ウィニック、ビル・バー、クレイグ・シェーファー、ヨーゴ・コンスタンティン、ヴェロニカ・ロサティー。キーオン・ヤング、コートニー・ガリアーノ、ロリアン・ジリエロン、アルジュン・グプタ、ブランドン・スコット、ローランド・フェリシアーノ、アンドリュー・ステース、ジェフリー・コール、エリック・エテバリ他。


『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』でアカデミー賞主演男優賞を獲得したアル・パチーノ、『ディア・ハンター』で助演男優賞のクリストファー・ウォーケン、『リトル・ミス・サンシャイン』で助演男優賞のアラン・アーキンというオスカー俳優3人の共演作。
俳優のフィッシャー・スティーヴンスが、2002年の『はじまりはキッスから』に続いて2作目となる長編映画の監督を務めている。
脚本のノア・ヘイドルは、長編映画は本作品が初めて。
ヴァルをアル・パチーノ、ドクをクリストファー・ウォーケン、ハーシュをアラン・アーキン、ニーナをジュリアナ・マルグリーズ、クラップハンズをマーク・マーゴリス、ウェンディーをルーシー・パンチ、アレックスをアディソン・ティムリン、シルヴィアをヴァネッサ・フェルリトが演じている。

序盤、洗面場で背中を向けたヴァルが「コーヒーが飲みたい」と言うと、「君の好きにしよう」と答えるドクが拳銃を隠し持っている様子が写し出される。
そもそも刑務所まで出迎えに行く時点で拳銃を用意している様子が最初に描かれているのだが、その程度なら彼の目的に気付かない人が大半だろうから別に構わない。
しかし洗面所のシーンは、もうドクがヴァルを殺そうとしていることがハッキリしてしまう。もっと言うと、そこで殺さないってことは、本意ではないこともバレバレだ。
そういうのを序盤でバレバレにすることが得策なのかと考えた時に、違うんじゃないかと思うのだ。

観客にはドクの目的を全く気付かせないまま、ヴァルが「俺を殺す気だろう」と指摘して、「長い付き合いだから見抜いていた」という形で見せた方が、この映画に合った味が出るんじゃないかと思うんだよね。
そもそも、ドクがヴァルを殺そうとしていることをバラすのが早すぎる。
さっさと明かすことで観客に緊張感を持たせ、物語に引き付けようという狙いがあったのかもしれない。
でも、それよりは普通に老いたギャングたちが旧交を温めるドラマの面白さに集中した方がいい。

ところが開始から15分ぐらい経過すると、ドクがクラップハンズと連絡を取るシーンが訪れ、ハッキリとした形で殺人指令の存在が提示されてしまう。
もちろん、そうやって明示するからには、「ドクがヴァルの殺人指令を受けている」というハラハラ感を観客に感じさせた上で、2人のやり取りを見せようという狙いがあるんだろう。
だが、それが映画を面白くしているとは思えない。
そもそも2人のやり取りが大して面白くないので、それを殺人指令のハラハラ感で何とか誤魔化そうとしているという風にさえ思ってしまうのだ。

そういう要素に頼らなくても、ヴァルとドクのやり取りや2人の行動だけを見ても楽しめるぐらい、そこを充実させてほしいと感じる。
2人の会話劇には、枯れたジジイならではの面白さがあるわけでもない。ジジイなのに言動がガキッぽいというギャップの妙があるわけでもない。
全体を通して、味が薄い。
ドクがクラップハンズと連絡を取ったり、手下たちがドクにプレッシャーを掛けるために訪れたりする描写は、ヴァルが殺人指令の存在を指摘した後でも充分に間に合うのよ。

一貫してジジイの渋さが出まくっているわけでもなく、情けないほど愛すべきダメ人間っぷりを出しまくっているわけでもない。
もちろん2つを持ち込んで両立できれば申し分ないのだが、どっちの味も出そうとして、両方が打ち消し合って中途半端になっている印象を受ける。
「普段はカッコ悪いけど、ここぞという時は渋くキメる」ってのが、2つを両立させるのに最も分かりやすい方法じゃないかと思うのだ。
だが、序盤から中途半端に渋さを見せちゃってるもんだから、後半でキメに入ってもギャップの効果が弱くなる。

ヴァルがクラブでリサをダンスに誘うシーンでは、ホントに曲が終わると別れる。もう2度とリサは登場しない。
「ただ踊りたいだけで、曲が終われば二度と合わない」と約束していたわけだから、キレイっちゃあキレイな振る舞いだ。でも、話としては物足りなさが残る。
病院へ運ばれたヴァルが診察を受け、医者が注射器でチンコの古い血を貫こうとすると、ドクは「見てられん。待合室へ行く」と部屋を出ていく。そしてカットが切り替わり、ダイナーのシーンになっている。
つまり、血を抜かれるヴァルの狼狽も、ドクの反応も描かないままシーンを終わらせるってことだ。せっかく喜劇として使えるネタなのに、とても勿体無い。
そんな風に、あらゆることが淡白に処理されている。
それを「大人の粋」と呼ぶべきなのかもしれんけど、もうちょっと粘りやクドさが欲しい。

ヴァルはドクに殺人指令を白状させた後、「奴が現場へ息子を連れて来たのが元凶だ。息子はパニックになって銃を乱射した。一斉放火の中、そいつに俺の弾が当たった」と説明するが、それは映画の手法としてカッコ悪い。
ヴァルが言い訳で「事故だった。俺に非は無い」と言うのは、主人公としてカッコ悪い。そのカッコ悪さは愛すべきカッコ悪さじゃなくて、ホントにカッコ悪いやつだ。
クラップハンズと息子に問題があったことは確かだが、なんせ台詞で軽く触れられるだけなので、詳細が分からないし。
それもあって、「でも息子を殺したことは事実だし、少しぐらい責任を感じてもいいのでは」と思ったりするんだよね。

明日の朝10時が殺人のタイムリミットってことをヴァルが知っても、そこから「残り少ない人生を謳歌しよう」ってことで、悲哀が透けて見えるバカ騒ぎの面白さが弱い。
何しろ、それ以前のヴァル&ドクと、まるでテンションが変わらないしね。
殺される期限が無くても、それほど大きく行動が変わらないんじゃないかと思ってしまう。
いっそのこと、出所してすぐにヴァルが殺人指令のことを指摘し、ドクが彼を殺すまでの期限を明示して、その上で娼館へ出向いたり、クラブで女をナンパしたりする様子を描いた方が、「刹那の宴」としての味わいが出たんじゃないか。

後半に入るとシルヴィアという女が登場し、ヴァルたちが彼女のために倉庫へ乗り込む展開がある。
そりゃあ関わったからには、積極的に首を突っ込んで悪党退治をしてやろうとするのは分かる。
ただし話としては、そんなことよりも、仲間3人で過ごせる残り少ない時間を満喫する内容にしてほしい。
シルヴィアのために悪党を懲らしめる行動も、それなりに充実感はあるだろうけど、エピソードごとに別のキャラを大きく扱わなきゃ話が膨らまないってのも、あまり格好のいいモノじゃないと思うし。

シルヴィアという新キャラを登場させて、彼女のために悪党退治をする展開に持って行くのなら、ヴァルが殺されるタイムリミットは無い方がいい。28年ぶりに出所したヴァルが仲間2人と再会し、「ジジイだけど、まだ元気一杯」というのをアピールし、義侠心や弾けたトコロを見せる内容にした方がいい。
「一瞬一瞬が愛おしい」と感じるのはいいんだが、それは老いによって「死が迫っている」と感じる哀切であるべきだ。
殺されることが確定し、「翌朝の10時」というハッキリとした期限が決まっているのは、むしろ邪魔に思える。
どうせ老いやハーシュの病気によって、すぐ近くに「死への不安」を感じさせることは出来るんだし、それだけで良かったんじゃないか。

(観賞日:2015年8月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会