『魔法使いの弟子』:2010、アメリカ

740年。正義の大魔導師マーリンは、邪悪な魔法使いモルガナ・ラフェイと戦っていた。彼は信頼する弟子のバルサザール、ヴェロニカ、 ホルヴァートに自らの秘密を教えていた。しかしホルヴァートはマーリンを裏切り、モルガナの配下となった。彼はマーリンを背後から 突き刺し、危険な呪文を手に入れた。それはモルガナに死の軍隊を与え、人間を奴隷にする力を持つライジングの呪文だ。バルサザールが モルガナの攻撃で危機に陥った時、ヴェロニカは自らを犠牲にして彼を救った。モルガナの魂を自分の体に取り込んだのだ。
モルガナが内側からヴェロニカを抹殺しようとしたため、バルサザールは彼女をグリムホールドと呼ばれる入れ子人形に封印した。それ 以来、バルサザールはモルガナを解放しようとする配下のモルガニアンズと長きに渡って戦い続け、ホルヴァートも捕まえた。マーリンは 死ぬ間際、バルサザールにドラゴンリングを渡して「そのリングがプライム・マーリニアンとなる子供へ導くだろう。その後継者だけが、 モルガナを倒す力を持つ」と言い残していた。何世紀にも渡り、バルサザールはプライム・マーリニアンを捜し求めた。
2000年のニューヨーク。10歳のデイヴは社会見学の最中、大好きなベッキーにメモを渡し、自分のガールフレンドになりたいかどうかを 尋ねた。ベッキーは答えを書き、そのメモを置いて離れた。デイヴは答えを見ようとするが、メモが一陣の風に飛ばされる。追い掛けた デイヴは、裏通りの不気味な骨董品店“アルカナ・カバナ”に足を踏み入れる。そこにバルサザールが現れたので、デイヴは「メモを 探してるんだ」と慌てて釈明した。
バルサザールはドラゴンリングを差し出し、「これが君を選んだらプレゼントしよう」と言う。デイヴがドラゴンリングを手に取ると、 それは変形して指に装着された。バルサザールはデイヴがプライム・マーリニアンだと確信し、「いつの日か、君は大魔法使いになる。 早速、魔法のレッスンを始めよう」と告げる。彼は「動くな、何も触るな」と指示してから、必要な物を取りに地下へ向かった。だが、 その間にデイヴがグリムホールドに触れてしまい、封印が解けてホルヴァートが復活した。
戻って来たバルサザールは、ホルヴァートと戦う。彼は人形を抱えているデイヴに、「外へ出ろ」と叫んだ。デイヴが店の外に飛び出すと 、担任教師アルガーとクラスメイトの面々が来ていた。デイヴは「中が火事だ、魔法使いがいる」と説明するが、アルガーが店に入ると 中には誰もおらず、静かな状態だった。そのため、デイヴは誰にも信じてもらえず、神経が衰弱していると思われてしまう。バルサザール とホルヴァートは、壺の中に入って封印されたのだ。
10年後。20歳の誕生日を迎えたデイヴは、友人のベネットから「今夜は遊びに出掛けよう」と誘われる。しかしデイヴは「卒業するには テスラコイルを完成させないと」と遠慮した。デイヴはハイダーマン教授から、物理学クラスの手伝いを頼まれていた。教室で準備をして いたデイヴは、ベッキーと再会する。彼女は大学に通いながら、小さなラジオ局でDJをしていた。落雷でアンテナが壊れた際、彼女に 付いて行ったデイヴは修理してあげた。
あるロシア人夫婦の家に飾られていた壺から、ホルヴァートが復活した。ホルヴァートは壺を窓から投げ落とすが、地面に激突する直前に バルサザールも飛び出した。ホルヴァートはデイヴの家に現れ、グリムホールドの場所を尋ねる。「通りに捨てたよ。ずっと昔のことで、 どこにあるかは知らない」とデイヴが言っても、ホルヴァートは納得しない。デイヴが逃げ出すと、彼は狼を放って追跡させた。
デイヴがホルヴァートに追い詰められていると、バルサザールが現れて彼を救い出した。バルサザールはデイヴに、「ホルヴァートは人形 を手に入れてモルガナの手下たちを蘇らせ、世界を滅ぼそうとしている。それを阻止しなければならない。君は特別な能力を持っている」 と語る。デイヴが「僕は普通の人生を送りたい。魔法なんて忘れたい」と反発すると、彼は「だったら、なぜ君はドラゴンリングを持って いるんだ。ホルヴァートによって豚に変えられたくなかったら、人形探しに協力しろ」と告げる。
「人形探しに協力すれば、それで終わりにする」とバルサザールが持ち掛けると、デイヴは承諾した。バルサザールは人形がダウンタウン にあると突き止め、車にデイヴを乗せた。バルサザールはダウンタウンへ向かう途中、魔法について解説した。一方、ホルヴァートは アルカナ・カバナの前に行き、魔法を使う。彼は捨てられた人形の行方を追い、チャイナ・タウンにあることを突き止めた。
チャイナ・タウンに到着したバルサザールは、デイヴに「ホルヴァートを見張ってろ」と言って一軒の骨董品店に入る。老婆が話し掛けて 来たので、彼は広東語を口にする。老婆が「マンダリン語を話すのね」と言うので、バルサザールはホルヴァートが化けていると見抜いて 攻撃した。しかしホルヴァートは既に人形を手に入れ、モルガニアンズのサン・ロックを解放していた。攻撃してきたサン・ロックを、 バルサザールは店の外に弾き飛ばした。
バルサザールはデイヴに、逃げるよう指示した。それからホルヴァートを拘束し、人形を奪還した。サン・ロックはドラゴンの神輿を操り 、デイヴを襲った。デイヴは指輪を構え、車中で教わった炎の魔法を使おうとするが、何も発射されない。そこへバルサザールが駆け付け 、心を無にして念じるよう指示する。デイヴが改めて集中すると、構えた指輪から炎が発射された。続いてバルサザールも炎を発射し、 サン・ロックとドラゴンを退治した。
浮かれるデイヴに、バルサザールは淡々とした口調で「君は協力してくれた。これで終わりだ。指輪を外していいぞ」と告げる。しかし 魔法の力を体験したデイヴは、「もう少し着けていたい」と口にした。バルサザールが「ホルヴァートに探知されない場所が必要だ」と 言うと、デイヴは実験に使っている地下の研究室へ案内した。バルサザールは呪文帳を渡し、デイヴを一人前の魔法使いにするため、 エネルギーを集中させるマーリン・サークルを作り出した。
ホルヴァートは揚げ物店を営むモルガニアンズの男に会い、「戦士が欲しい」と告げる。すると男は「うってつけの奴がいる」と言う。 デイヴはバルサザールからプラズマボールの操り方を教わるが、なかなか上手く行かない。ホルヴァートはモルガニアンズのドレイクを 訪ね、「バルサザールはプライム・マーリニアンを見つけたのかもしれない」と述べた。デイヴは火に対する防御法を会得した。
デイヴがベッキーに会いたがるので、バルサザールは「ホルヴァートに見つかったら殺されるんだぞ。それほどの価値の女かどうか、良く 考えろ」と諭す。それでもデイヴは、ベッキーの元へ行く。地下鉄構内で強盗が現れ、ベッキーの祖母の形見の腕輪を奪って逃げた。 追い掛けたデイヴは魔法で強盗を退治し、指輪を取り戻した。地下鉄に乗るベッキーに、デイヴは「テストのことで手助けが欲しかったら 、明日にでも研究室に来なよ」と誘いを掛けた。
翌日、デイヴが研究室でバルサザールの訓練を受けていると、ベッキーがやって来た。バルサザールは訓練を続けるよう促すが、デイヴは 「ちょっと隠れていてよ」と言い、ベッキーを迎え入れる。バルサザールはベッキーに姿を見せ、デイヴの叔父だと自己紹介した。彼は 用事があると言い、ベッキーを帰らせようとする。しかしデイヴが「叔父さんの用事は後にしようよ。ベッキー、外に出よう」と言うので 、バルサザールは「2人はここにいればいい。出掛ける用事を思い出した」と告げて外出した。
バルサザールはアルカナ・カバナへ行き、隠しておいた巻物とネックレスを取り出した。ベッキーが研究室にあるテスラコイルに関心を 示したので、デイヴは「プラズマを作り出す時に使うんだ。僕はその技術を研究している」と告げる。彼はベッキーを連れてケージに入り 、音楽に合わせれプラズマを発生させる実験を見せる。デイヴはベッキーを大学の教室まで送り、デートの約束を取り付けた。
浮かれたデイヴがトイレに入っていると、ドレイクが現れた。ドレイクから「最強の呪文で攻撃してみろ」と挑発的に言われたデイヴは 指輪を構えるが、集中が足りないのか、魔法は発生しない。そこへホルヴァートが現れ、「人形のありかを教えろ。人形の中の彼女はどこ にいる?」と凄んだ。しかしバルサザールが駆け付けてドレイクを弾き飛ばし、ホルヴァートを鏡の向こう側へ追い払った。 デイヴはバルサザールに、人形の中にいる人物について教えるよう要求した。バルサザールは「モルガナだ。彼女はライジングの準備を していた。人間を奴隷にして、死んだモルガニアンズを復活させる魔法だ」と言う。プライム・マーリニアンについて教えるようデイヴが 求めると、彼は「マーリンのパワーとドラゴンリングを引き継ぐ人間がプライム・マーリニアンだ。モルガナを倒せるのはプライム・ マーリニアンだけだ」と説明した。
デイヴが「僕が世界を救うことになってるの?そんな力は無いよ」と尻込みすると、バルサザールは「もう後戻りは出来ないんだ。君には プライム・マーリニアンとしての義務がある。プライム・マーリニアンは強力な力を持っており、指輪が無くても魔法を使えるように なればモルガナを倒せる」と語る。しかしデイヴは「もうすぐベッキーが来る。部屋をきれいにして準備しないと」と、魔法の修業よりも ベッキーのことばかり気にしていた。
バルサザールはデイヴを批判するが、「僕はベッキーを10年も待ち続けたんだ。その気持ちが分かる?」と言われると、承知して外出する 。デイヴは魔法を使って箒を動かし、部屋を掃除しようとする。しかし止める呪文が分からずに箒が暴走したため、せっかく来たベッキー には帰ってもらう。戻って来たバルサザールが掃除用具の暴走を止め、「魔法は遊びじゃない」と叱責した。デイヴは「僕はヒーローに なれない。プライムじゃない」と言い、その場を去った。
デイヴがビルの屋上から指輪を投げ捨てようとしていると、ベッキーが現れた。彼女と話し、デイヴは気持ちが落ち着いた。ドレイクは デイヴに化けて研究室に現れ、バルサザールを磔にした。そこへホルヴァートが現れ、人形を見つけ出した。彼はバルサザールを睨み付け 、「ヴェロニカは俺よりお前を選んだ」と激しい憎しみを示す。拘束を解いたバルサザールがホルヴァートたちと戦っていると、デイヴが 戻って加勢した。バルサザールとデイヴは逃げるホルヴァートたちを追跡するが、見失ってしまう…。

監督はジョン・タートルトーブ、映画原案はローレンス・コナー&マーク・ローゼンタール&マット・ロペス、脚本はマット ・ロペス&ダグ・ミロ&カルロ・バーナード、製作はジェリー・ブラッカイマー、製作協力はパット・サンドストン、製作総指揮はトッド ・ガーナー&ニコラス・ケイジ&ノーマン・ゴライトリー&マイク・ステンソン&チャド・オマン&バリー・ウォルドマン、撮影は ボジャン・バゼリ、編集はウィリアム・ゴールデンバーグ、美術はナオミ・ショーハン、衣装はマイケル・カプラン、視覚効果監修は ジョン・ネルソン、音楽はトレヴァー・ラビン。
主演はニコラス・ケイジ、共演はジェイ・バルシェル、アルフレッド・モリーナ、テリーサ・パーマー、モニカ・ベルッチ、オマー・ ベンソン・ミラー、トビー・ケベル、アリス・クリーグ、ジェイク・チェリー、 ジェームズ・A・スティーヴンス、グレゴリー・ウー、ワイ・チン・ホー、ジェイソン・ムーア、ロバート・B・キャプロン、ペイトン・ ロイ・リスト、サンドール・テクシー、マリカ・ダシュク、ニコール・エーヒンガー、アドリアーネ・レノックス、イーサン・ペック、 マニッシュ・パテル、オスカー・A・コロン他。


ウォルト・ディズニーが製作した1940年の長編アニメ映画『ファンタジア』の一編「魔法使いの弟子」をモチーフにした作品。
監督のジョン・タートルトーブ、製作のジェリー・ブラッカイマー、主演のニコラス・ケイジは『ナショナル・トレジャー』に続いての トリオ。
バルサザールをニコラス・ケイジ、デイヴをジェイ・バルシェル、ホルヴァートをアルフレッド・モリーナ、ベッキーをテリーサ・ パーマー、ヴェロニカをモニカ・ベルッチ、ベネットをオマー・ベンソン・ミラーが演じている。

『ファンタジア』の一編がモチーフになっているものの、物語はオリジナルと言ってもいい。
『ファンタジア』の「魔法使いの弟子」はミッキーマウスを主役にしてゲーテの詩を映像化した内容であり、それは「雑用を命じられた 魔法使いの弟子が箒に魔法を掛けて仕事をやらせるが、止める呪文が分からずに部屋は洪水と化す。そこに魔法使いが戻って事態を解決し 、弟子を叱責する」というものだった。
この映画では、それが1つのエピソードとして盛り込まれており、そこでは箒が『ファンタジア』と同じ動きになっている。

序盤にナレーションベースで、マーリンと3人の弟子、モルガナの野望やヴェロニカが彼女を封印した出来事、プライム・マーリニアン などについて詳しく説明している。
だから、分かりやすいっちゃあ分かりやすい。
ただし、あまりにも謎を残さずに話が進むので、その分、浅くなってているかなあ。
それと、中盤、バルサザールがデイヴに質問されてモルガナやプライム・マーリニアンについて説明する手順があるんだけど、序盤に説明 しているから、二度手間になっちゃってるのよね。

バルサザールがデイヴに解説するシーンがあるのなら、序盤の説明シーンは無い方がいいでしょ。
「分かりやすくしたい、中盤まで謎を引っ張るのはは避けたい」ということなら、冒頭の説明シーンは削除して、バルサザールが少年の デイヴを見つけた時に、そこでモルガナやプライム・マーリニアンについて説明するというシーンを用意すればいいんじゃない。
それなら二度手間にならずに済むでしょ。

10年後に復活したホルヴァートはデイヴを襲うが、その手口がショボい。なんで狼なのよ。
テメエの魔法で攻撃するなり、逃亡を妨害するなりしろよ。
しかも、狼を出すなら群れを出してくれ。たった3匹って、それもショボい。
何か特殊な能力を持つ狼とか、巨大な狼とか、そういうことならともかく、ただの狼なのよ。
せいぜい「野犬が3匹」という程度にしかみえない。
あと、彼は線路の上にいる時、向こうから列車が走って来ると慌ててよけるんだけど、そこも魔法で何とかならんのかと。

バルサザールはデイヴに「グリムホールド探しに協力しろ」と言うので、見つけ出すにはデイヴが必要なのかと思ったら、テメエの能力 だけでダウンタウンにあることを突き止めている。
デイヴが人形のありかを知っているなら彼は必要だけど、知らないんだから、協力の必要性って皆無でしょ。
しかも「我々が追跡できるならホルヴァートも出来る」と言っているけど、そうなると、ホルヴァートにとってもデイヴの必要性って 無くなっちゃうよね。
必要が無いなら、巻き込むなと言いたくなってしまうよ。

っていうか、そこは「人形を見つけるためにはデイヴが必要」ってことにしておくべきじゃないのか。
あと、そもそもバルサザールの目的はデイヴをプライム・マーリニアンとして鍛えることにあったはずなのに、10年後になると、人形を 見つけ出すことが目的に変わっているんだけど、そこも構成として問題があると思うぞ。
グリムホールドの争奪戦が繰り広げられるなら、最初からそうしておけばいい。

ホルヴァートとドレイクが研究室でバルサザールを追い詰めた時、戻ったデイヴが戦いに加わる。
ここでホルヴァートは逃げ出すのだが、その行動は理解に苦しむ。
その場でデイヴを始末しておけばいいじゃないか。
まだデイヴはプライム・マーリニアンの力を手に入れていないんだから、今の間に始末しておけば、厄介なことにならずに済むはず でしょ。
ホルヴァートはデイヴがプライム・マーリニアンではないかと考えているのに、なぜ排除しようとしないのか良く分からない。

そりゃあ、既にデイヴがプライム・マーリニアンの力を手に入れていたら歯が立たないだろうけど、現時点でその力を持っていないことは 、トイレのシーンで知っているはずでしょ。
もしかしたらプライム・マーリニアンじゃないかもしれないけど、その疑いがあるのなら、早い内に芽を摘んでおく方がいいでしょ。
たぶん、そこは「カーチェイスのアクションをやらせたい」という構成上の事情を優先したんだろうけどさ。
っていうか、魔法使い同士の戦いなのにカーアクションって、それもどうなのよ。

ホルヴァートがマーリンを裏切った理由が「ヴェロニカが自分ではなくバルサザールを選んだから」って、ちょっとショボいなあ。
彼自身は、世界征服とか、世界を滅ぼすとか、そういう大きな野望を抱いていないのよね。
野望を抱いているのはモルガナで、それに協力しているだけだ。
で、そうなると、もはや彼がモルガナを復活させようとしている理由は無くなっているんじゃないかと思うのよね。
モルガナを復活させても、ホルヴァート個人の目的が達成されるわけじゃないんだから。

モルガナはヴェロニカの中に入っているので、ホルヴァートに「惚れていたヴェロニカを復活させて一緒にいたい」という目的でもある なら話は違って来るけど、そういう気持ちがあるという描写は見られない。
そもそも、ホルヴァートはヴェロニカがモルガナを封印した現場にいないから、そのことを知っているのかどうかさえ、こっちには 分からないんだよね。
モルガナを復活させた時の冷静な対応からすると、どうやら知っていたみたいだけど。

この映画、序盤から展開が慌ただしいと感じる。
バルサザールが小学生のデイヴと出会い、彼がプライム・マーリニアンだと知るんだから、そこから魔法使いの修業が開始されるのかと 思いきや、すぐにホルヴァートが復活してバトルになり、また封印されてしまう。
だったらデイヴの子供時代なんて描く必要があるのか。
最初から、大学生のデイヴの元にバルサザールが現れるという形で良かったんじゃないかと思ってしまう。

って言うか、やっぱりデイヴが子供時代からレッスンを始めるという手順は欲しいよなあ。
「レッスンを開始しました」というトコで10年後に飛んでも、それはいいけどさ。
というのも、この映画、「デイヴが魔法の修業を積んで少しずつ上達していく」という描写が無いのよね。
修業シーンは何度か描かれているんだけど、何の特訓も積んでいないのに、デイヴはいきなり指輪から炎を発射することが出来ている。 プラズマボールもすぐに作り出せているし、火に対する防御魔法もすぐに会得している。
すげえ簡単なのね。

例えば1週間でも「すぐに」の範疇かもしれないけど、そんなレベルじゃない。火に対する防御魔法なんて、バルサザールから説明を 受けて実践したら、一発で成功しちゃうのだ。
魔法の扱いが、ものすごく軽薄なんだよね。
デイヴは「指輪を外したら魔法が使えない」という状態を見せて以降、何の鍛錬も積んでいないのに、クライマックスの戦いでは指輪を 外した状態で魔法を使っているし。
なんでだよ。
しかも、ただ魔法を使えるというだけに留まらず、モルガナを簡単に倒してしまうのだ。
魔法だけの力じゃなくて物理学も利用しているとは言え、パワーパランスがメチャクチャだよ。
その後、死んだバルサザールを復活させる力も発揮しているし。

「修業を積んで上達する」という手順が無くて、いきなり強くなってしまうような形だと、主人公に感情移入するのは難しいよ。
最初から強い力を持っているキャラとして登場するならともかく、ずっとヘタレで逃げ腰だった奴が、最後だけ急に強くなっているん だからさ。
別にさ、ヘタレなキャラでも、それはそれで構わないと思うのよ。正義感に厚くて熱血キャラという造形じゃなくても、それはいい。
ただ、ヘタレはヘタレなりに、努力して上達する姿は見せてほしい。
見せてほしいっていうか、これは願望じゃなくて、絶対に描かなきゃダメな必須条件でしょ。
そこを忘れるってのは、クリープを入れないコーヒーみたいなモンでしょ。

主人公に何の魅力も見い出せないし、まるで感情移入できないってのは致命的な欠点になっている。
修業で上達する経緯が無く、いきなり強くなっているというのもダメだが、恋愛劇もマイナス要因になっている。
ヒロインが登場するのも、恋愛劇が盛り込まれているのも、それは別にいいんだよ。
ただ、主人公が魔法修業より女のことばかり気にしているのが、「女にうつつを抜かしている」というマイナスにしか受け取れないん だよね。

(観賞日:2012年6月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会