『ミス・エージェント』:2012、アメリカ

モリーは車で待機する父のサムと通信しながら、上院議員を尾行してホテルに入った。窓からペントハウスに潜入したモリーは、上院議員の浮気写真を撮った。議員に発見されたモリーは屋上で追い詰められ、写真を渡すよう要求される。モリーはカメラを渡すと見せ掛けて騙し、彼を殴り付けてホテルから逃走した。上院議員はパパラッチだと思っていたが、モリーとサムの仕事は探偵稼業だった。
レストハウスで浮気男を張り込んでいたモリーは、FBIのバッジを見せるアーモンという男に声を掛けられた。彼はモリーに、15年前にジョージアからアメリカへ来たマフィアのことを語る。彼はボスのカシャロフの起訴状が出ること、会計士のジェイソン・パトローンに証言台へ立つよう説得していることを説明した後、ニューオーリンズにいるパトローンの娘を警護してほしいと要請した。FBIには大学の社交クラブに適応できる人間がいないのだという。
アーモンはモリーが母を亡くして遅々とダラス警察に育てられたことや、柔術の黒帯であることなどを調べ上げていた。モリーが冷たい態度で店を出ると、アーモンはマフィアが娘に刺客を送り込んで親友として振る舞わせ、パトローンを脅して証言を止めさせようと企んでいることを述べた。彼はパトローンの娘であるアレックスがカシャロフに不利な証拠を握っていると告げ、1万5千ドルの報酬を約束した。モリーは「町を出られない」と断るが、アーモンは「本当の仕事が出来るんだ。浮気調査なんて退屈な仕事だ」と告げる。モリーがバイクに乗ると、アーモンは「気持ちが変わったら連絡してくれ」と名刺を渡した。
サムはギャンブルで警察を追い出され、酒浸りの生活を送っている。今もサムは競馬狂いの生活を続けており、1万7千ドルも負けて帰宅した。モリーはアーモンと会い、報酬の5千ドルアップを要求した。アーモンはハワイ大学からの留学生として潜入するよう説明し、NYオフィスから来たというビジーを紹介した。ビジーはモリーにオシャレな衣装やアクセサリー、バッグやグロスなどを与え、ヘアメイクのジンガティーを呼び寄せた。
アーモンはモリーに、アレックスが所属する社交クラブ「KKZ」の序列を説明する。頂点に君臨する支配者は冷酷で欲の強いサーシャで、その下にはコットン、テイラー、ハンターという3人の副官がいる。アーモンはモリーに携帯電話とワーゲンを渡し、ニューオーリンズへ向かわせた。モリーはブルック・ストーンブリッジという偽名を使い、KKZの寮に足を向けた。するとコットンはハリソン上院議員の息子であるキャメロンに非難されていた。コットンが新入生歓迎会に出るため、両親に会う予定をキャンセルしたことでキャメロンが腹を立てたのだ。
寮長のサーシャはモリーに声を掛け、クロアチアでモデルをしていたことを自慢げに語った。アレックスを見掛けたモリーは、同じサマー・キャンプに参加していたように装った。ルームメイトのベッキーと挨拶を交わした後、モリーはキャンパスへ出た。トライアンフに興味を示した彼女は、その持ち主であるニコラスと言葉を交わした。クラブの化粧室では女子たちがオシャレに没頭していたが、アレックスは馴染めない様子だった。
モリーは寮にカメラを設置し、新学期の祝祭に参加した。挨拶したサーシャは、ソロリティー対抗戦での勝利に燃えていた。窓の外に人影を見たモリーは持っていたロウソクを棚に置き、アレックスを捕まえて伏せさせた。しかし、その人影は覗き見に来た男子クラブの連中だった。モリーの置いたロウソクの火がカーテンに燃え移り、天井のスプリンクラーが作動した。クラブの面々は外へ避難し、モリーはサーシャから責められた。
翌朝、モリーはアレックスがニコラスと親しげに話している様子を目撃した。トロウェイ教授の講義に出席したモリーは彼の説明に口を挟み、ついマニアックな知識を語ってしまった。講義を終えたアレックスはルームメイトだったサマーに声を掛けるが、冷たく無視された。モリーは彼女に、「人目を避けてるの。一緒にいた相手は医学教授。これからモーテルへ行ってセックスするのよ」と話す。ニコラスとアレックスから根拠を問われた彼女は、鋭敏な推理を語った。
その夜、モリーはアレックスが出掛けるのを確認し、部屋に侵入した。室内を調べていると、アレックスのルームメイトであるテイラーが入って来た。モリーはアレックスにTバックを借りたのだと嘘をつき、部屋を出た。モリーはアーモンからの連絡で呼び出され、ビジーがモーテルで殺されたことを報じる新聞記事を見せられる。「サシャロフの仕業だ」と言うアーモンに、モリーは「なぜアレックスを殺さず泳がせるの?」と尋ねる。アーモンは「殺したらパトローンは証言台に向かう。様子を見ているんだ」と告げ、友人を装う人間を見つけ出して証拠品の正体も突き止めるよう命じた。
寮に戻って眠っていたモリーは、深夜の侵入者に叩き起こされて拳銃を構える。だが、それは深夜のパジャマ・パーティーを知らせに来たコットンだった。モリーは拳銃が偽物だと誤魔化し、パジャマ・パーティーに参加した。ニコラスと遭遇したモリーは「古いジャズを聴かせる店に行かないか」と誘われるが、あっさりと断った。
トロウェイの講義の後、モリーはアレックスが彼と話している様子を目撃した。モリーはアーモンと会い、「トロウェイは1年半教えてるけど、その前の記録が無い。サーシャも過去を偽ってる」と述べた。「アレックスに恋人は?」と問われたモリーは、「ニコラスと親しいけど恋人じゃないみたい」と答える。デートを断ったことを彼女が話すと、アーモンは「アレックスに関わる人間は全て調べるべきだ。俺は教授を調べる。君はサーシャを調査し、ニコラスとデートしろ」と告げた。
モリーは偶然を装ってニコラスと接触し、「息抜きしたい気分」と告げて一緒にジャズクラブへ行く。モリーは「貴方に興味がある」と言い、色々と質問する。ニコラスはフロリダ出身であること、父親から仕事を探せと何度も言われたけど学校と野球で忙しかったこと、父が女を作って家出したことなどを語った。ニコラスがキスすると、モリーはそれを受け入れた。部屋に戻ったモリーは、ついニヤニヤしてしまう自分に気付き、「油断するな」と戒めた。
KKZは対抗戦で勝利するため、ヌイグルミ販売に乗り出した。サーシャはメンバーを集め、たくさん売る方法についてアイデアを募った。コットンは「手作りの催涙スプレーを景品に付けよう」と提案するが、即座に却下された。モリーが話し掛けるとコットンは「試作品はバッグに穴を開けたけど改良したの」と話し、持っていたスプレーをプレゼントした。KKZの面々はヌイグルミ販売を始めるが、全く売れてくれない。ニコラスはモリーに気付き、ライバルであるアルファ・ラムダ・アルファの洗車コーナーが盛り上がっていることを教えた。アルファの女子たちはセクシーな格好で車を洗い、男子学生を集めていたのだ。
アルファの中にサマーの姿を見つけたモリーは、サーシャに「絶対に勝てるわ。任せて」と告げた。モリーはミルトン博士がサマーとキスしている現場写真を撮影し、ネガと引き換えに全てのヌイグルミを購入してもらった。妬みを感じたサーシャは、モリーにブレスレットをプレゼントした。翌朝、コットンはモリーの腕に目をやり、「それは私のブレスレットよ」と言う。モリーは「サーシャから貰ったの」と言うが、サーシャは「私は知らないわ」と嘘をついた。他にも大量の物品がモリーの駕籠から見つかった。それも全てサーシャの罠だったが、クラブの面々はモリーを泥棒扱いした。そんな中でもニコラスだけは信じてくれるので、モリーはますます彼に惹かれた…。

監督はトム・ヴォーン、脚本はアラン・ローブ&スティーヴン・パール、製作はスティーヴン・パール&アラン・ローブ&テッシュ・サイラス&ナイジェル・シンクレア&トビン・アームブラスト、共同製作はブライアン・フランキッシュ&ジリアン・ロングネッカー&キャシー・ネルソン&ジョナサン・ルーベンスタイン、製作総指揮はアリ・ピンショー&マシュー・サロウェイ&ランディー・マニス&ガイ・イースト&アンディー・メイソン&クリス・ミラー&ジョディー・ザッカーマン・ワイナー&ロブ・コーワン、撮影はドニ・ルノワール、編集はマイケル・バーレンバウム&ウェンディー・グリーン・ブリックモント、美術はダニエル・B・クランシー、衣装はウェンディー・チャック、音楽はスティーヴン・トラスク。
主演はマイリー・サイラス、共演はジェレミー・ピヴェン、マイク・オマリー、マシュー・セトル、ジョシュ・ボウマン、ケリー・オズボーン、エロイーズ・マンフォード、ミーガン・パーク、ローレン・マクナイト、オータム・リーサー、アレクシス・ナップ、モーガン・カルホーン、ブライアン・ピーターソン、リック・レイツ、レティシア・ヒメネス、アシュレイ・トレッダウェイ、ジミー・リーJr.、ダーセル・モレノ、キャメロン・ディーン・スチュワート、フィル・オースティン他。


『ベガスの恋に勝つルール』『小さな命が呼ぶとき』のトム・ヴォーンが監督を務めた作品。
脚本のアラン・ローブは、『ウォール・ストリート』や『ロック・オブ・エイジズ』を手掛けている。もう1人のスティーヴン・パールは主にプロデューサーとして活動している人で、長編映画の脚本は初めて。
モリーをマイリー・サイラス、アーモンをジェレミー・ピヴェン、サムをマイク・オマリー、タロウェイをマシュー・セトル、ニコラスをジョシュ・ボウマン、ベッキーをケリー・オズボーン、サーシャをエロイーズ・マンフォード、コットンをミーガン・パークが演じている。
なお、字幕ではサシャロフの出身地が「グルジア」となっているが、英語表記への変更を要請された日本政府が名称を変更したので、粗筋でも「ジョージア」と表記している。

マイリー・サイラスは2006年から2010年までディズニー・チャンネルで放送されたドラマ『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』でティーンの人気者となり、2008年には歌手としてアルバム『Breakout』が全世界200万枚を突破するヒットを記録した。
この映画の公開は2012年だから、もう『ハンナ・モンタナ』が終わって2年も経っている。
マイリー・サイラス本人も、いつまでもティーン・アイドルじゃいられないという意識はあっただろう。
しかし本作品に関しては、完全にアイドル映画である。

この映画の安っぽさや粗さは、序盤から既に表れている。
上院議員を探るアヴァン・タイトルから入り、オープニング・クレジットを入るという構成は悪くない。モリーの職業や活躍、父親との関係との関係を描写しているわけだから、ちゃんとキャラクター紹介を最初にやっていることになる。
ただし、オープニング・クレジットの後、すぐに「モリーがレストハウスでアーモンから声を掛けられる」という展開へ突入するのはいただけない。
そこは、ひとまず落ち着いて、モリーとサムの普段の様子や住まい、探偵稼業をしていない時の周辺状況を描くべきだ。そういうのを省いて、いきなり「モリーがアーモンから任務を要請される」という展開に入ると、慌ただしい印象になってしまう。

もう1つの問題として、「FBIがモリーに重要な仕事を依頼するのは不可解極まりない」ということがある。
完全ネタバレだが、アーモンはFBIを語る偽者なので、ある意味では「FBIにしては不自然な行動」ってのは正しいわけだ。でも、そんな正しさは、もちろん全く必要性が無いどころかマイナスでしかないわけで。
「FBIがモリーに重要任務を要請するのは不自然」という障害をクリアするためには、モリーが仕事を頼まれる手順を淡白に片付けず、もっと丁寧に描写する必要がある。いきなりレストハウスでアーモンが接触することも、彼が1人だけで接触することも、サムが同席する場所で要請しないことも、FBIの支局や本部に連れて行ったり連絡したりしないことも、とにかく不自然なトコが山盛りなのだ。
もちろん、本当はFBIじゃないアーモンがFBIらしさを偽装するには限界があって、支局や本部へ連れて行くことは不可能だけど、せめて仲間を同席させるとか、サムとモリーが一緒にいる時にちゃんとした挨拶を済ませてから用件を切り出すとか、本物っぽく見せるための作業は必要だろう。
「アーモンはFBI」という部分に説得力を持たせるための作業をやらないのは、映画としてもアーモンとしても手抜きだわ。

モリーはアーモンから仕事を依頼された時点で全くやる気が無く、冷たい態度で拒絶している。「浮気調査なんて退屈な仕事だ。本当の仕事が出来る」などと言われても、その気持ちは全く揺らいでいない。
しかしサムが競馬で1万7千ドルも負けたことを知り、その仕事を受けることにしている。
だが、そういう動機でモリーに仕事を始めさせるなら、「浮気調査なんて退屈な仕事だ。本当の仕事が出来る」という説得は無意味だ。
そういう言葉をアーモンに吐かせるぐらいだから、「浮気調査に退屈を感じている」とか、「もっと遣り甲斐のある仕事を求めている」ということがモリーにあるのかと思ったら、何も無いんだよな。

あと、モリーはアーモンから仕事を依頼されたことに対して、何の疑問も抱いていないのね。
まずバッジを持っているからFBIという身分は完全に信じたんだろうけど、それにしても「なぜ自分が指名されるのか」という部分に関しても、まるで不可解に思っていない。すんなりと受け入れている。
で、すんなりと受け入れるなら、やっぱり前述した「父がギャンブルで大敗して仕方なく引き受ける」という流れとは合わないんだよな。
「仕方なく引き受ける」ということなら、「引っ掛かる部分もあるけど」とか「アーモンの話を全面的に信用したわけじゃないけど」という形にした方が合う。
全面的に信用しているのなら、「浮気調査ばかりの仕事に退屈を感じており、FBIの仕事に魅力を感じる」という形にした方が合う。

モリーが仕事を受けることに決めると、アーモンは倉庫へ連れて行く。そこがアジトという設定だが、彼とビジーしかスタッフはいない。
ビジーの仕事はモリーにオシャレなアイテムを持たせることで、ヘアメイクも呼んでいる。
ただし、そもそも「モリーはオシャレに何の興味も無いイモ姉ちゃん」というアピールが足りていない。
もっと問題なのは、途中でアーモンの説明を入れたりしてゴチャゴチャさせることによって、「モリーがみちがえるようにオシャレになった」というベタな変身シーンが弱くなっていることだ。
その「変身したモリーが登場する」というシーン自体の演出も冴えないしね。

何しろ準備期間が短いので、モリーが完全に「イケイケでキラキラの女子大生」を演じ切ることは難しい。本当はキッチリと勉強してから潜入する形にすべきだろうけど、偽物の任務だから別にいいんだろう。
それはともかく、モリーが本当の自分とは全く違う「イマドキの女子大生」を完璧に演じる様子を描くのではなく、バイクに興味を示したり、大きな夢を問われて銃器の名前を語ったり、犯罪学の授業で犯罪に関する詳しい情報を語ったりと、すぐボロを出す様子を描くことで喜劇にしようとしている。
ただし、それが面白いのかと言われたら、まあ面白くはないんだよな。それは喜劇の方向性が間違っているということじゃなくて、もっと誇張しないと笑いに繋がらないってことだ。
そういう部分に限らないんだけど、この映画、全てにおいてヌルいんだよな。ティーンズ向けの映画だから、この程度のヌルさで充分だろうってことなのか。あるいは、ティーンズ向けの映画だから、この程度のヌルさにしないとボンクラ頭では理解してもらえないという判断なのか。

「任務のために社交クラブヘ潜入したヒロインが、普通の大学生として過ごす」という部分を描くのは構わないんだけど、そっちの配分が大きくなりすぎて、肝心の「潜入捜査」という部分が弱くなっている。
あと、「潜入捜査官なのに学生としての活動に励む」という部分の面白さって、実はそんなに生じていないんだよね。その原因は明白で、「マイリー・サイラスの年齢だと、普通に大学生をやっていてもおかしくない」ってことだ。
あと、学生に化ける前と化けてからのギャップも弱いんだよね。見た目の違いは付けているけど、職業としては探偵ってことで、それが「父親の探偵稼業を手伝っている」という風に見えるのだ。
そうなると、別に「大学生だけど父親の仕事を手伝っている」ってことでも成立しちゃうしね。

「友人を装ってアレックスに近付いている刺客が誰なのか」というミステリーに関しては、まずトロウェイに疑いを抱かせている。
だが、「アレックスが講義の後でトロウェイと話している様子をモリーが目撃する」というシーンは、取って付けた感しか無い。
サーシャに関しては、ちっとも友人じゃないからミスリードとして成立していない。
「刺客は親友を装って近付く」と説明しているんだから、彼女に疑いを抱かせるなら、親友としてアレックスに接するキャラにしておくべきでしょうに。

後半、モリーの依頼を受けたサムがサーシャを調査して「データベースに記録が無い」と言うシーンはあるが、相変わらずアレックスの親友になろうという素振りが皆無なので、やはりミスリードとしての機能を果たしていない。
その後、サーシャが単に「野暮ったい女性だったから名前を変えて人生をやり直そうとした」というだけだったことが判明し(まあバレバレだったけど)、それが片付いてからアレックスがトロウェイと密会している様子を描く。
でも、そこまでにホントはトロウェイも登場させておくべきだわ。
その密会シーンまでトロウェイが完全に消えているのは、キャラの出し入れとして上手くない。

「ニコラスが悪人じゃない」ってのは、前半の内にバレている。それがハッキリするのは、「アーモンがモリーにニコラスとのデートを命じる」という展開。
そういう少々の無理をやらかしてでもデートさせるってことは、最終的に「モリーとニコラスがカップルになる」という展開へ持って行きたいことを予感させる。
そして、そういう着地に繋げたいのであれば、ニコラスがサシャロフの刺客では困るわけで。
で、そうなってくると、「そもそもアーモンの話に虚偽があるんじゃね?」ってことに繋がるわな。

もちろん、「好きになった相手が悪人だった」という展開を用意する映画なんて、世の中には幾らでもある。
しかし、この作品の場合、そういう展開が万に一つも無いだろうってことは簡単に想像できる。
なぜなら、ティーンズ向けの軽妙なアイドル映画だからだ。
ってことは、最終的にヒロインはハッピーな気持ちになり、そして観客もハッピーな気持ちになることが求められる。

だから、「ヒロインの好きになった相手が悪人で、終盤に入って裏切られる」なんて展開は、絶対に有り得ないのだ。
ただし、ニコラスは悪人じゃないどころかホントに普通の学生でしかないってのは、悪い意味で予想を裏切られたけど。
終盤になってアーモンが「ニコラスはパトリックという名前で、ビジーを殺した犯人だ。刑務所でサシャロフと知り合い、組織で働いている」と説明してモリーに資料を渡しても、「ニコラスは悪人じゃない」という確信は、これっぽっちも揺るがない。
そこは「モリーが強いショックを受けるけど、実はニコラスは悪人じゃありませんでした」というオチへ繋げるための起伏であることがバレバレだ。

アーモンが「ニコラスは組織の一員だから見張れ」と命じるのは、トロウェイとアレックスの密会をモリーが知った直後だ。そうなると、トロウェイへのミスリードが無駄になるぞ。
あと、アーモンの命令を受けたモリーがニコラスを調べたり見張ったりするのかと思ったら、「アレックスが車で出掛け、それをトロウェイの車が追うので、モリーはニコラスを手錠で拘束して殴り倒し、後を追う」という展開になるんだよな。
それだと、トロウェイへのミスリードは活かされているけど、ニコラスを疑わせた意味は無くなる。
どっちにしても、両方のミスリードが互いに打ち消し合っている。

そんでトロウェイの別荘へ忍び込んだモリーは彼がFBI捜査官だったことを知り、その彼が殺されてアーモンがFBIじゃなくて悪人であることも悟る。そして本物のFBI捜査官たちと会い、アーモンに偽の台帳を渡して逮捕する協力をする流れになる。
だけど、そういう展開に移行する中で、ニコラスの存在が完全に忘れ去られちゃうんだよね。で、すっかり忘れ去られていたサムが、モリーの協力者としてクライマックスに関与する。
その辺りも、キャラの出し入れがグダグダだ。
最終的に「父娘の絆」ってのを使いたいのなら、もっと充実した描写を入れておくべきでしょ。
それまで放置しておいて終盤だけ申し訳程度に使っても、ギクシャク感しか無いぞ。

全てにおいてベタな展開や設定ばかりで、何一つとして捻りが無いってのは、蹴って全面的に否定されるようなことじゃない(ニコラスが普通の学生でトロウェイがFBI捜査官ってのは、ちょっと捻っていると言えなくもないが)。
ベタにはベタの良さがあるし、ベタってことは皆が見慣れているわけだから安心感がある。
それに、ベタを突き詰めたら、そんじょそこらの「少し捻りを加えた映画」なんて、まるで太刀打ち出来ないような面白さが生まれる。
だから、この映画の問題は「ベタである」ってことではなくて、「すんげえ雑にベタをやっている」ってことにあるのだ。

(観賞日:2015年6月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会