『昔みたい』:1980、アメリカ

カリフォルニア。無名作家のニック・ガーデニアは、海岸沿いの静かな場所に1人で暮らしている。ある日、彼の家にデックスとB.G.という2人組が現れた。2人はニックを拳銃で脅してカーメルの銀行に連れて行き、強盗の手伝いをさせた。銀行員にメモを渡して金を受け取ったニックの顔は、防犯カメラにアップで撮影された。
地方検事アイラ・パークスは、法務長官を目指して選挙に立候補することになった。そんな彼の元に、同僚フレッドが強盗事件で撮影されたニックの写真を持って来る。それを見て、アイラは驚いた。アイラの妻グレンダの前夫がニックなのだ。ニックは以前、メキシコに取材旅行に行った際にも、麻薬密輸の容疑で2年間も服役していた。
弁護士のグレンダは、担当した少年に就職の世話をする優しい女性だ。彼女は運転手として、泥棒だった少年チェスターを雇っている。自宅で飼っている5匹の犬はアイラやメイドのオーロラに迷惑がられているが、グレンダは可愛がっている。
グレンダはアイラからニックが強盗事件の容疑者になったことを聞かされるが、写真を見せられても「あの人が強盗なんて出来るはずがない」と口にする。一方、銀行から去ったニックは、デックスとB.G.に走っている車から放り出されてしまった。
アイラは自宅に知人を招き、立候補祝いののパーティーを開いた。犬を探しにガレージへ出たグレンダは、身を隠しているニックを見つける。グレンダは、彼をガレージ上の空き部屋にかくまうことにした。翌朝、昨日の夜にニックがいたことを聞かされたアイラは激怒する。だが、その時点では、まだニックは空き部屋に身を隠していた。
アイラが去った後、ニックはグレンダに「犯人を探しに行く」と告げて姿を消す。しかしグレンダがチェスターと共に裁判所に出掛けようとすると、車の後部座席にニックが乗っていた。グレンダは警官に見つかり、警察署までの同行を指示される。だが、ニックがチェスターを拳銃で脅し、パトカーの隙を見て別の道へ外れさせた。
車から去ったニックだが、またガレージの空き部屋に戻ってくる。そして今度は、アイラの車を盗んで逃げてしまう。アイラはフレッド夫婦と知事夫婦を招き、食事会を開く。その最中、台所にニックが現れ、自首するつもりだとグレンダに告げるのだが…。

監督はジェイ・サンドリッチ、脚本はニール・サイモン、製作はレイ・スターク、製作協力&編集監修はマーガレット・ブース、製作総指揮はロジャー・M・ロススタイン、撮影はデヴィッド・M・ウォルシュ、編集はマイケル・A・スティーヴンソン、美術はジーン・キャラハン&ピーター・ランズダウン・スミス、衣装はベッツィー・コックス、音楽はマーヴィン・ハムリッシュ。
出演はゴールディー・ホーン、チェヴィー・チェイス、チャールズ・グローディン、ロバート・ギローム、ハロルド・グールド、ジョージ・グリザード、イヴォンヌ・ワイルダー、T・K・カーター、ジャド・オーメン、マーク・アラモ、ビル・ザッカート、ジェリー・ハウザー、デヴィッド・ハスケル、クリス・レモン、エド・グリフィス、ジョセフ・ランニングフォックス、レイ・トレイシー他。


人気戯曲家ニール・サイモンがオリジナル脚本を書いた作品。ジェイ・サンドリッチは『それ行けスマート』『ジュリア』『おかしなカップル』などテレビの演出を手掛けてきた人で、これが初の映画監督。
グレンダをゴールディー・ホーン、ニックをチェヴィー・チェイス、アイラをチャールズ・グローディン、フレッドをロバート・ギロームが演じている。

まず冒頭、人里離れた郊外にポツンと建っている一軒屋に、なぜ泥棒2人組が現れたのかが疑問。ニックと知り合いなら分かるが、そうじゃない。ニックが誰かも知らなかった連中だ。そんな遠い場所に、わざわざ行く理由も分からない。車も無いのよ。

さて、ニックは途中のガソリンスタンドで逃げ出したり助けを求めたりするチャンスがあるのだが、ほとんど抵抗する素振りを見せない。銀行でも、拳銃を突き付けられているけでもなく、しかも2人組とは距離が離れているのだから、銀行員に助けを求めることが出来そうなものだが、なぜか素直にメモを渡して強盗の手伝いをする。
いくらコメディーだからって、話にアラがありすぎる。そこは例えば、ニックが2人組と知り合いだったとか、あるいは脅迫されるネタがあったとか、少し設定を加えるだけで何とかなるだろうに。もしくは、「助けを求めようとするが失敗を繰り返す」というのを上手く見せていけば、そこはアラの多さじゃなくて笑いに繋がっただろうに。

クレジット順から考えると、頼まれるとイヤと言えないお人好しのグレンダ、ドジでお調子者のニック、そしてアイラが絡むという形だ。つまり、基本的にアイラは主役ではない。しかし、こっちとしては、どうしてもアイラに肩入れしたくなってしまうのだ。
グレンダとニックの間にロマンス的なドラマを用意しているので、そうなるとアイラが憎まれ役になるのが自然だ。もしくは、ガチガチのインテリという設定でもいいだろう。しかし、いい人なのよ、アイラは。ものすごく良く出来た夫だ。そして検事ではあるが、何しろ演じているのがチャールズ・グローディンだから、ガチガチのインテリ風でもない。

アイラはニックへの不快感を露にするが、これは当然のことだから、それで憎まれ役になることは無い。グレンダの犬を怒鳴り付けたりするが、この犬どもはキャンキャンと騒がしいし、客に迷惑を掛けるバカ犬なので、だから怒るのは当然だ。
むしろアイラよりも、他人の家にズカズカと上がり込んで来るニックの方が、ある意味じゃあ憎まれ役だろう。ニックの無作法で傲慢とも言えるグレンダへの態度は、ホントなら笑えなきゃマズいんだろうが、ハッキリ言ってウザったくて仕方が無いのだ。

がさつで無遠慮な振る舞いを繰り返すニックと、彼を隠そうとするグレンダのドタバタで引っ張って行くのだが、ニックが不快な存在に感じられるのよね。だから、そんなニックの手伝いをしているグレンダも、だんだん不快に見えてきてしまう。
ニックが同情すべき被害者に見えないのが辛い。にも関わらずグレンダは同情しているんだから、始末が悪い。そんな2人にコケにされているような状態のアイラを笑えればいいんだけど、何となく「かわいそう」という気持ちが先に立ってしまったのよねえ。

いい夫のアイラよりも、グレンダはニックの肩を持つ。アイラを怒らせてまで、ニックを弁護したりするのだ。そんな彼女の人の良さも、だんだんイヤになってくる。アイラに肩入れすると、もうグレンダとニックの絡みに笑うのは難しくなるのよね。
グレンダは夫であるアイラよりも、常にニックを優先している。だったら、観客もグレンダに共感できるように、アイラよりもニックが魅力的に見えていなければマズいはず。しかし残念ながら、そうは感じられないのである。っていうか、そこまでニックを信用するのなら、なぜグレンダは彼と離婚したのかって話なんだけどね。

みんなを「いい人」にしちゃって、それで上手く行けばいいけど、やはりグレンダとニックをメインにするなら、程度はどうあれ、アイラはイヤな感じを持った野郎の方がいいだろう。ただ、そうなったとしても、ニックの行動を笑えそうに無いんだが。

最初の内は、「ニックが何度も戻ってきて、それをグレンダが隠そうとする」という繰り返しでいい。でも、ずっと同じパターンの繰り返しってのは厳しい。例えばニックが犯人探しに出掛けるとか、そういう次なる展開ってのが、なかなか見えてこないのだ。
そんでもって、ひたすらに同じパターンを繰り返して時間は過ぎていき、ようやくニックが捕まるという展開が来る頃には、既に映画は終盤に入っている。で、最後になって唐突にローラが泥棒2人組を連れて来て、いきなり一件落着。なんだよ、そりゃ。


第1回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低助演男優賞[チャールズ・グローディン]

 

*ポンコツ映画愛護協会