『ミッシング・デイ』:2014、アメリカ&中国&マレーシア

大地震に見舞われたハイチでは、多くの人命が失われた。両親を無くして孤児となった7歳のニーナは、国際養子縁組支援団体のサイトに登録された。シカゴに住むスティーヴンとシャノンの夫妻はニーナを養女に迎えるため、プエルトリコを訪れた。仲介人のガブリエルと会った夫妻は、「パスポートの取得に1週間が掛かるけど、ハイチとプエルトリコの書類は全て揃ってるわ」と説明される。ガブリエルの事務所に入った夫妻は、ニーナと対面した。
スティーヴンとシャノンは用意された海辺のロッジへニーナを連れて行き、パスポートが取得できるまでの時間を一緒に過ごすことにした。ニーナはフランス語しか話せないが、夫妻は彼女に合わせた。3人がビーチへ向かうと、ベンジャミンという男が声を掛けて来た。彼は「体験型の企業研修で来てる」と言い、隣のロッジに泊まっていることを話す。夜、夫妻はニーナに自宅の写真を見せ、子供部屋も用意してあることを明かした。スティーヴンはベンジャミンが仲間のヴェロニカ&サロと騒いでいる音に疎ましさを感じた。
翌日、夫妻とニーナがビーチにいると、ベンジャミンがヴェロニカ&サロを連れて現れた。「昨夜はうるさかったかい?」と問われたスティーヴンは、「気にするな」と告げた。ベンジャミンはシャノンに、「あの子は養子だろ?どこから?」と尋ねる。シャノンがハイチだと答えると、ベンジャミンは「現地に行ったよ。悲惨な状況だった」と述べた。スティーヴンはシャノンとニーナを連れて、カリビアン・ホテルへ移った。彼はガブリエルに電話を掛けてホテルに移ったことを話し、「パスポートは?」と尋ねる。ガブリエルが「月曜か火曜か水曜になる。書留郵便で来るはずよ」と告げ、スティーヴンは了解した。
夜の散歩に出掛けたスティーヴンは、シャノンが妊娠した時のことを思い出す。スティーヴンはシャノンが運転する車に乗り、出産への期待を膨らませていた。信号が青に変わって発進しようとした時、横からトラックが突っ込んで来て事故に遭い、シャノンは流産してしまったのだ。スティーヴンがビールを飲むためバーに入ると、ベンジャミンたちがやって来た。早々に立ち去ろうとしたスティーヴンだが、ベンジャミンは難癖を付けてサロに殴らせた。
警察が介入する騒ぎになったため、シャノンはスティーヴンの身柄を引き取りに警察署へ出向いた。警察署長はスティーヴンに「厄介な連中とは関わらない方がいい」と忠告し、何かあった時のために名刺を渡した。翌朝、夫妻が目を覚ますとニーナが姿を消していた。ホテルに知らせて捜索してもらうが見当たらず、夫妻は警察を呼んだ。ガブリエルには電話が繋がらず、夫妻が6万ドルを支払った支援団体のサイトは無くなっていた。
スティーヴンがガブリエルの事務所へ行くと、もぬけの殻になっていた。シャノンは署長から、「領事館に問い合わせたが、申請書類は出ていない。ガブリエルもニーナも知らないと言われた」と告げられる。当惑するシャノンに、彼は「ガブリエルは手続きを口実に時間を稼ぎ、その間にニーナを連れ戻したんだ。リクイエムと呼ばれる詐欺で、頻発している。金を搾り取ったら子供を連れ戻し、次の餌食を探す」と語った。
スティーヴンはシャノンに、「僕が馬鹿だった。キャンセルの連絡があったのに、奥の手があると言われて3万ドルの追加料金を払った」と打ち明けた。苛立つシャノンに、彼は「今週も追加請求があった。待ってると思って、昨日も1万ドルを払った」と言う。シャノンは不快感を露骨に示し、「一人でニーナを捜して」と告げる。シャノンが一人でいると、ベンジャミンがヴェロニカと共に現れた。シャノンは彼らに、詐欺事件でニーナがいなくなったことを話した。
その夜、ヴェロニカは夫妻の元へ来て、「ベンが彼女と一緒よ。案内するわ」と告げる。夫妻が付いて行くとベンジャミンとサロが拳銃を突き付け、両手を縛って口を塞いだ。彼らは夫妻を別荘に連れて行き、交通事故の示談金を渡すよう要求する。夫妻は様々な理由で使ったこと、事故後は働いていないことを説明し、お金は無いと説明する。ベンジャミンは夫妻に、ガブリエルから話を持ち掛けられて仕事をしていたことを明かした。
ベンジャミンは夫妻にガブリエルの本名がアンジーだと話し、「彼女は信用できない。金を誤魔化してる。君らの資産を調べた。いつもは子供を連れ戻して終わりだが、今回は事情が変わった」と言う。彼は「女を殺す」とスティーヴンを脅し、銀行のパスワードを聞き出した。翌朝、ベンジャミンは別室で監禁した夫妻に、「送金に48時間掛かる。それまで待機するしか無い」と言う。ニーナを別荘に住まわせているベンジャミンの元へ、ガブリエルから電話が入る。新しい仕事を指示されたベンジャミンは、「近い内にニーナを連れて来て」と言われて承諾した。
次の朝、ベンジャミンは手錠を掛けたままスティーヴンを外へ出し、「サロが銀行へ連れて行く。そこで手錠を外す」と説明した。サロはスティーヴンに拳銃を突き付け、車に乗せた。銀行に到着したスティーヴンはサロの監視を受けながら、行員や支配人と話す。多額の送金だったため、支配人は書類一式をコピーした。スティーヴンは鞄に札束を詰めて銀行を出ると、サロの隙を見て逃亡する。一方、シャノンは両手の拘束を外し、窓を壊して監禁部屋から脱出する…。

監督はアラン・ホワイト、脚本はカーマイン・ガエータ&ルーク・デイヴィス、製作はブライアン・エティング&ジョシュ・エティング&イアン・サザーランド&ロバート・ルケティック&ゲイリー・ハミルトン&マイク・ガブラウィー&フレドリク・マルンベリ&シルヴィオ・ムラグリア、製作総指揮はピーター・M・グレアム三世&スティーヴン・ヘイズ&ミカエル・ウィレン&アレクサンドラ・クリム=ウィレン&カール・モリンダー&アル・ムンテアヌ&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ&ジョン・チュー&ワン・ヤン&ルイロ・ルイス&イン・イエ、共同製作はアドリアン・テー&エリオット・トン、製作協力はヴィキ・マラス&ジェシカ・アンドレス&ライアン・ブラック&イングリッド・ピッターナ&ダヴィド・シャルフェンベルク、撮影はスコット・キーヴァン、美術はメイガン・ロジャース、編集はドゥービー・ホワイト&スコット・D・ハンソン、衣装はジュリア・ミシェル・サンティアゴ、音楽はイニョン・ズール。
出演はジョン・キューザック、ライアン・フィリップ、ラシェル・ルフェーブル、ジャッキー・ウィーヴァー、ルイス・グスマン、ブリアナ・ロイ、ヴェロニカ・フェイ・フー、ジャンドレス・ブルゴス、アレックス・シントロン、ミリー・ルパート、オスカー・ゲレロ、リーマ・サンパット、イザベラ・アドリアーニ、エマニュエル・ログロノ、ショーン・テイラー、ブラス・ディアス他。


『チェイス』『愛を問うひと』のアラン・ホワイトが監督を務めた作品。
脚本は、これがデビュー作となるカーマイン・ガエータと、『キャンディー』の原作小説&シナリオを手掛けた詩人のルーク・デイヴィスによる共同。
ベンジャミンをジョン・キューザック、スティーヴンをライアン・フィリップ、シャノンをラシェル・ルフェーブル、ガブリエルをジャッキー・ウィーヴァー、警察署長をルイス・グスマン、ニーナをブリアナ・ロイ、ヴェロニカをヴェロニカ・フェイ・フーが演じている。

冒頭、マグニチュード7の大地震がハイチを襲い、多くの人命が失われた出来事が「当時のニュース映像」っぽい形で示される。そこで孤児となったニーナを登場させ、タイトルを表示した後で国際養子縁組のサイトにアップされたニーナの自己紹介映像が写し出される。
そういう導入部になっているからには、何か政治的な意味合いが込められているのか、社会派なメッセージを発信しようとする映画なのかと思いきや、そういう志は全く無かった。導入部からすると、養子縁組ビジネスの闇を掘り下げるとか、孤児が食い物にされることを許している各国政府を糾弾するとか、そういうアプローチがありそうなモノだが、単に物語の仕掛けとして使っているだけだ。
それならハイチの大地震から入る意味は無くて、単に「養子縁組サイトを見た夫婦がプエルトリコを訪れて云々」ということだけで事足りるはずだ。わざわざハイチの大地震から話を始めて、「その地震で孤児になった」という設定をニーナに付けている意味は全く無い。
別に何でもかんでも意味が無きゃダメってわけではないが、そこに関しては、もっとデリケートに扱うべきでしょ。すんげえ雑に扱っているんだよな。

極端に言っちゃうと、もはや「ニーナが夫妻の養女」という設定からして、必要性が乏しい。仮に実の娘だとして、少し手を加えれば似たような筋書きに出来るんじゃないかと思えるのだ。
むしろ出会ったばかりで少ししか一緒にいなかった養女よりも、長く一緒に暮らしていた実子の方が絆は間違いなく深いわけで。だから、その子供が誘拐されたとしたら、「絶対に奪還する」という夫妻の気持ちの強さは、養女にしておくよりも伝わりやすいはずで。
そこのデメリットをあえて選択してまで「養女」という設定を持ち込んだ意味がどれぐらいあるのかと考えた時に、ほとんど無いでしょ。序盤の内に「事故に遭ってシャノンが流産していた」ってことが示されるけど、だから何なのかと言いたくなるし。
単純に「不妊治療したけどダメだった」とか、そういうことでも大差は無いのよ。わざわざ「本来なら出産できる体だったけど、事故でダメになった」というアクシデンタルな設定を持ち込んでいる意味なんて全く無いのよ。
そういう過去の体験による心の傷が、今回の出来事に上手く絡んでいるわけではないのでね。

ベンジャミン&ヴェロニカ&サロは登場して早々に、「我々は悪党です」ってことを分かりやすい形でアピールしている。
ただし、それは「巨悪」としてのアピールではなく、せいぜいチンピラという程度のモノだ。
後で「養子縁組を利用した詐欺ビジネスで稼いでいる」と判明した時に、そういう振る舞いを「底無しのボンクラだな」と感じることになる。
彼らは詐欺をやっているんだから、表向きは「犯罪なんて全くの無縁です」と装うべきでしょ。っていうか、そもそもスティーヴンたちの前に姿を見せない方がいいでしょ。
わざわざ姿をさらした上に、「因縁を付けて騒ぎを起こす」という全く意味の無い行動を取るって、アホ満開じゃねえか。

ニーナが消えた後、スティーヴンは「奥の手があると言われて追加料金を支払った」と打ち明ける。
この時点で、「ベンジャミンたちもボンクラだけど、こいつは負けず劣らずだな」と感じる。そんなことを言われた時点で、怪しいってのはバレバレでしょ。おまけに彼は、今週になってからも追加料金の1万ドルを支払っていると明かす。どうしようもないボンクラだ。
その後、ベンジャミンとヴェロニカがシャノンに接触する展開があるが、この時点で「こいつらが詐欺ビジネス連中」ってのはバレバレだ。そりゃあシャノンは知らないのから騙されるのは仕方ないと言えなくも無いけど、やっぱりボンクラだという印象は否めない。
その夜にヴェロニカから「ベンがニーナと一緒にいるから案内する」と言われた時に何も疑わずホイホイと付いて行くと、もはや情状酌量の余地も無い。
つまり、この映画はボンクラとボンクラの戦いなのである。
コメディーじゃあるまいし、そんな図式で話が盛り上がるはずもない。

ベンジャミンたちは夫妻から金を巻き上げたんだから、そのまま姿を消せばいいはずだ。
ところが、わざわざ夫妻を拉致し、交通事故の示談金を奪おうと目論む。
ここで交通事故を絡めているけど、だからって「なるほど」なんてことは全く思わないからね。むしろ、それを絡めて「ベンジャミンたちが夫妻を拉致して示談金を奪おうと目論む」という展開にしたことで、ますますベンジャミンたちのボンクラ度数が上がっている。
そのせいで、姿をさらして夫妻を拉致するという、ちっとも狡猾じゃない犯罪に出ているわけで。

ベンジャミンの一味が夫妻を拉致した時点で、「養子縁組は詐欺だった」という要素は、ほぼ死んでしまう。
悪党が「夫妻を拉致して金を奪う」という目的を明確にした時点で、もはや養子縁組がどうとか、詐欺ビジネスがどうとか、そんなのは全く関係が無くなるわけで。
ニーナは別荘にいるし、詐欺ビジネスに利用されていることは確かだけど、もはやスティーヴンとシャノンは、それどころじゃない状況に陥っているわけで。
一応は「ニーナは監禁されてる」「殺されるわ」なんてことを言っているけど、「ニーナを救おうとする」という話を描きたいのなら、「夫妻が拉致されて銀行の金を狙われる」という展開は邪魔でしかないのよ。

終盤、「監禁部屋から脱出したシャノンがニーナを連れ出そうとして、スティーヴンは2人の救出に向かう」という展開がある。
だけど、そこは「逃走したスティーヴンがシャノンの救出に向かう」という要素だけでも成立するでしょ。
養女の(っていうか実際は養女になっていない)ニーナも救出しようとするってのは、まるで要らない要素なのよ。
そこを付け加えたことで話に厚みが出たり、面白味が出たりしていれば、もちろん歓迎できる。でも、まるで機能していないからね。

欲張ってみたものの、「夫妻が拉致されて云々」という話と「少女が詐欺ビジネスに利用されて云々」という話は何の相乗効果も生んでいない。
ラスト直前にベンジャミンとガブリエルが内輪揉めをする程度の意味しか無いからね。
そして、そんなのは邪魔なだけだからね。
全てが終わった後、画面に「人身売買される子供の数は毎年120万人に及ぶ。不遇な子供たちは人知れず世界中に潜んでいる」という文字が出るけど、最後だけ帳尻合わせで社会派なメッセージを訴えるフリをしても、ひたすら空虚なだけだよ。

(観賞日:2016年8月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会