『モール★コップ』:2009、アメリカ

ニュージャージーの警察学校に通うポール・ブラートは学科試験に合格し、訓練施設で障害物通過訓練に挑んだ。しかし低血糖症のために途中で倒れてしまい、不合格となった。母親のマーガレットと娘のマヤは、ポールが早く恋人を作ることを望んでいる。ポールは消極的だったが、2人が頼むのでインターネットのお見合いサイトに登録することを承知した。マヤの母親は不法入国者で、結婚して市民権を取得すると逃げていた。マーガレットはポールの長所を書き込むだけでなく、ビデオも添えてアピールすることにした。
翌朝、ポールは愛用のセグウェイを使い、勤務先のショッピングモールへ向かう。警備員として10年のキャリアを持つ彼は、モールでの仕事中もセグウェイで移動している。巡回中の彼はカツラ店のエイミーという店員に目を奪われ、展示してあるミニバンに激突してしまう。監視室に戻ったポールは防犯カメラを操作し、エイミーの姿を確認した。ポールは客の動きがスムーズになるためのプランを考えていたが、そのレポートを見た同僚は「なぜタイムカードだけ押して、おとなしくしてない?」と批判する。
ポールは主任のブルックスから新人のヴェックを紹介され、指導係を命じられた。ポールはヴェックをセグウェイで案内し、州警察に挑戦して8回も落ちていることを話す。彼は危険人物に遭遇した時の対処法として、銃を持っているフリをするよう告げた。スクーターを使う老人を見たポールは、スピードが速すぎるという理由で切符を切ろうとする。しかし老人は完全に無視し、捕まえようとするポールを振り切って去った。
ポールはヴェックと別れてエイミーの店へ行き、エクステンションが欲しいと適当な理由を付けて話し掛ける。彼は格好を付けて振る舞い、エクステンションを購入してエイミーの名前を知った。そこへモール従業員のスチュアートが来てポールを馬鹿にした後、エイミーを飲み会に誘った。ヴィクトリアズ・シークレットでトラブルが起きているという知らせを受けたポールは、すぐに現場へ赴いた。するとスタイルのいい女性客が購入したブラジャーを巡って、小太りの女性客が自分に譲るよう詰め寄っていた。
ポールは小太りの女性に、「私も体重には問題があるので気持ちは分かる。同じ経験がある」などと語る。すると女性は腹を立て、ポールに殴り掛かった。ヴェックはポールから援護を求められても、じっと傍観しているだけだった。監視室へ戻ったポールは再び防犯カメラでエイミーを確認し、彼女の様子を覗きに行く。仕事を終えた彼女が店を出ると、ポールはセグウェイに乗って後を追った。彼は「乗っていかない?」と声を掛け、エイミーを駐車場まで送り届けた。
ポールが「また乗りたくなったら無線で連絡してよ」と言うと、エイミーは「それなら番号を入れるから携帯を貸して」と告げる。ポールは「携帯を忘れた」と告げ、エイミーに番号を言ってもらって記憶した。「今夜、飲み会で会えるわね」と彼女に言われたポールは、困惑しながらも「そうだね、みんな行くね。僕も行く」と述べた。バーへ赴いたポールは気付いたエイミーに招かれ、緊張しながら歩み寄る。そこへスチュワートが来て、エイミーにカウンターで飲んでいるよう促した。スチュワートはポールに、「俺がデートしてるんだ。それに、お前なんかにチャンスは無い」と威嚇するような態度で告げた。
モール従業員のレオンと激辛料理対決に挑んだポールは、レモネードと間違えてマルガリータをガブ飲みしてしまう。酩酊した彼は店内で大暴れし、倒れ込んで窓を破壊した。感謝祭の夜、自宅で落ち込んでいたポールは、家族での食事も早々に切り上げた。彼は見合いサイトの結果を見るが、適合相手は0人だと表示された。ポールはマヤから「女の人は1人じゃない。それに、もしダメでも私たちがいる」と励まされ、感激して涙を見せた。
ブラック・フライデーにモールへ出向いたポールは、エイミーに「アルコールは血液の中で糖に変化してメチャクチャになる」と釈明した。エイミーが銀行へ行くと言うので、ポールは「後でメールするから」と告げた。ポールは携帯電話を持っていなかったので、ヴィジェイの携帯ショップへ行く。高額に驚いたポールが助けを求めると、ヴィジェイは娘であるパリサの携帯を使うよう促した。ヴィジェイは娘が限度額を超えて使ったので没収しており、改心するまで返さないので使っていいと告げる。
その頃、モールを飾り付ける会社の人間に化けたブリッツェンとコメットの2人組が従業員入り口に現れ、「この時間は通れない」と言う警備員を威嚇して追い払っていた。彼らは爆破装置を取り付け、仲間のルドルフとキューピッドに連絡を入れた。別の場所で待機していたルドルフたちも、行動を開始した。レオンはポールが落ち込んでいると聞き、激辛調味料の瓶をプレゼントした。エイミーとスチュアートが銀行のATMに並んでいると、ヴェックも現れた。
ポールはゲームセンター店主のファーガソンから、銀行へ行きたいが子供たちが遊んでいるので代わりに店を閉めてほしいと頼まれた。犯人グループのドナーやヴィクセンたちもモールに入り込み、作戦実行の時を待っていた。ポールは店を閉めた後、ゲームに興じた。犯人グループは「モールは閉店です」と偽の館内放送を入れ、銃で脅して客をモールから追い出した。銀行にいたエイミー、スチュアート、レオンたちは、犯人グループから床に伏せるよう命じられた。一味のリーダーであるヴェックは、仲間から拳銃を受け取った。
ゲームで熱唱していたポールは、外の騒ぎに全く気付かなかった。通報を受けた警官隊がモールに駆け付けて、ハワード巡査部長は応援を要請した。ポールがゲームを終えて満足していると、パリサの携帯に元カレのパフードから連絡が入る。ポールは自分が携帯を持っている経緯を説明するが、パフードはパリサとセックス中だと決め付ける。パフードが失恋した辛さを吐露して泣き出すと、ポールは彼を励ます。パフードはGPSで携帯のある場所を突き止めており、親友のサミールがいる店へ行くよう勧めた。ヴェックは人質の荷物を没収するが、エイミーは密かに携帯を隠した。
ヴェックは仲間たちに、小売店のカードマシンからコードを取り出して腕に書き込むよう指示した。警官隊が侵入しようとすると、犯人グループは爆弾で追い払う。ヴェックはハワードが電話を掛けて来ると、全てのドアに検知センサーを取り付けたことを告げた。ヴェックはマニュアル通りの行動に呆れ果て、乱暴に電話を切った。ポールは犯人グループと遭遇し、慌てて逃げ出した。逃げ遅れた警備員がいると知らされたヴェックは苛立ち、作戦をやり遂げろと命じた。
ポールから電話を受けたハワードは、すぐに避難するよう命じた。すぐにポールは外へ出ようとするが、エイミーの車が駐車場にあるのを見つける。ブルックスが早く来るよう呼び掛けると、ポールは泣きながら「ほっとけない」と呟いてモールの中へ戻った。ポールがメールを送信すると、エイミーはすぐに気付く。ポールはドナーとヴィクセンに見つかり、慌てて逃げ出した。彼は通気口へ隠れるが、気付いたドナーが先の尖った棒で攻撃する。ポールの体重で通気口が落下してヴィクセンは下敷きになり、ドナーは逃走した。
ポールが通信を入れると、ハワードは人質の居場所を突き止めてほしいと要請した。ヴェックは仲間たちに、内側からモールをロックするよう命じた。ジェームズ・ケント指揮官がSWATを率いて到着し、ハワードに「チームを配置して安全が確保できたら出て行け」と告げた。ポールは銀行に人質がいることを確認し、ブルックスに連絡する。ジェームズはポールが中にいると知り、「高校で虐めてた奴だ」と言う。彼は「お前の出る幕じゃない」と告げるが、ポールは無視を決め込んだ。ポールは銀行に忍び込むが、ヴェックが犯人グループのリーダーだと知ると慌てて逃げ出した。プランサーに追われた彼は、サウナマシーンに閉じ込めた。ルドルフに追われたポールは、ラリアットと頭突きを食らわせて退治した。その頃、マヤが従業員入り口からモールに入り、ブリッツェンに捕まっていた…。

監督はスティーヴ・カー、脚本はケヴィン・ジェームズ&ニック・ベケイ、製作はアダム・サンドラー&ジャック・ジャラプト&トッド・ガーナー&ケヴィン・ジェームズ&バリー・ベルナルディー、製作総指揮はジェフ・サスマン、製作協力はジェイソン・タラガン&ジーノ・ファルセット、撮影はラス・T・オルソブルック、美術はペリー・アンデリン・ブレイク、編集はジェフ・フリーマン、衣装はエレン・ラッター、音楽はワディー・ワクテ、音楽監修はマイケル・ディルベック。
出演はケヴィン・ジェームズ、ジェイマ・メイズ、キーア・オドネル、ボビー・カナヴェイル、スティーヴン・ラナジージ、シャーリー・ナイト、アディール・カリアン、ピーター・ゲレッティー、アダム・フェラーラ、ゲイリー・ヴァレンタイン、レイニ・ロドリゲス、ジャマール・ミクソン、エリック・アヴァリ、アレン・コヴァート、マイク・ヴァレリー、マイク・エスカミラ、ジェイソン・エリス、ジェイソン・パッカム、リック・トーン、ヴィクター・ロペス、ナターシャ・ホプキンス、ジャッキー・サンドラー、ムーキー・バーカー他。


『ドクター・ドリトル2』『チャーリーと14人のキッズ』のスティーヴ・カーが監督を務めた作品。
脚本は主演のケヴィン・ジェームズと、TVドラマ『サブリナ』でセーレムの声を担当していたニック・ベケイによる共同。
ポールをケヴィン・ジェームズ、エイミーをジェイマ・メイズ、ヴェックをキーア・オドネル、ジェームズをボビー・カナヴェイル、スチュアートをスティーヴン・ラナジージ、マーガレットをシャーリー・ナイト、マヤをレイニ・ロドリゲスが演じている。
カラオケで歌う男の役でケヴィン・ジェームズの兄のゲイリー・ヴァレンタイン、訓練教官役でバス・ルッテンが出演している。

冒頭シーンからして、コメディーとしての物足りなさを感じる。
明らかに小太りの体型なので、「学科は受かっても身体能力を見るテストで動きが鈍くて失敗する」という見せ方をするのかと思ったら、ものすごく機敏に動くのだ。そして彼が不合格になる理由を、「低血糖症で倒れてしまったから」ということにしてあるのだ。
つまり、「自分の努力ではどうにも出来ない理由で警官になれずにいる」という形にしてあり、ちっともコメディーとして弾ける要素を盛り込んでいない。
そこで同情票を集めてマジに描いて、何がしたいのかと。

これがマジな映画なら別にいいけど、コメディーなんでしょ。っていうかマーガレットが言うように、普段から砂糖を持ち歩いていれば、テストの途中で倒れることも無かっただろ。
それを考えると、不合格は本人の落ち度でしかないのよね。なので、そこで同情心を抱くことは無いぞ。
ただ、その後に示される「ポールの妻が市民権を取ったら逃げた」という設定も、低血糖症と同じで同情させるための要素にしか思えないのよね。笑いの要素として示そうという意識は、全く感じられない。
あと細かいこともしれないけど、「8回も落ちている」ってのは、不合格になった直後に提示した方が絶対にいい情報でしょ。

ポールはマーガレットとマヤから早く恋人を作るよう勧められても、消極的な態度を示している。だったら恋人を作る気なんて無いのかと思ったら、翌朝のシーンでエイミーに惚れている。
もちろん「今までは全く恋人を作る気なんて無かったけど、エイミーに一目惚れした」という風に解釈すれば、何もおかしなことは無い。だけど話の進め方としては、あまり上手くない。
それよりは、以前からエイミーに好意を抱いていて、だから見合いサイトの登録には消極的ってことにでもした方がいいんじゃないか。
どうせ見合いサイトに登録する設定は、そんなに有効活用されるわけでもないんだし。

ポールの反応を見る限り、彼がエイミーと遭遇したのは、その日が初めてってことになる。
ずっとモールで勤務しているので、店員の顔は分かっているはずだ。ってことは、エイミーはその日が最初の勤務ってことになるわけだ。
でも、それにしては新入りという感じが無い。
それより何より、その日に初めて会った2人という関係にしてあると、ここで恋愛劇を作る時にもデメリットが大きい。
以前から親しい関係にしておいた方が、そこから恋人までの距離はゼロから始めるよりも絶対に近いからね。

ポールは警備員だが、まるで警官のように振る舞おうとしている。老人がスクーターで移動していると、スピード違反だと言って切符を切ろうとする。
そんな権限は、警備員には無いはずだ。
ブラジャーを巡るトラブルの際にはIDの提示を要求し、反発されると「市民には逮捕の権限がある」と主張する。
だったら「警備員なのに警官のように振る舞う勘違い男」としての動かし方を徹底すればいいものを、中途半端に「自分は警備員であって警官ではない」という認識も持っている。それがキャラとして弾けることを邪魔している。

事件発生までは、「ポールの警備員としての行動と、そこでのトラブルや失敗」を描くシーンもあるが、それよりは「エイミーへの恋」という部分を見せようとする意識が強い。バーの出来事なんて、もはや警備員の仕事とは何の関係も無い。
それだけでも賛同しかねる構成なのだが、さらに「妙に湿っぽいというか、笑いを取りに行く意識が乏しい」という問題もある。
悪酔いして失敗する出来事なんて、どう考えても弾けるべきでしょ。
ところが、そこのノリがイマイチなだけでく、その後の落ち込むシーンもマジなのだ。

ポールはバーでの騒動について、エイミーに「アルコールは血液の中で糖に変化してメチャクチャになる。大抵の人にはダメ扱いされるから、君がそうでも理解できる。君は違うって期待しちゃって」と語る。
だけど、それは身勝手な発言でしかないぞ。
まず、ポールの病気のことを、エイミーは知らないはず。また、「低血糖症の人間がアルコールを飲んだらヤバくなる」と分かっているなら、飲んじゃダメなわけで。
今回は誤って飲んだだけだが、だからってエイミーに「ダメ扱いしないことを期待する」ってのは虫が良すぎる。そういうことを、自分の口で堂々と言わせちゃダメでしょ。
それは不細工な正当化に過ぎないし、「言い訳の前に謝罪しろよ」と言いたくなる。

犯人グループが行動を開始すると、ヴェックがリーダーだと明らかにされる。
しかし、そこに「警備員だと思っていたのに犯人グループのリーダーだった」というサプライズの効果など、微塵も感じない。ハッキリ言って、こいつを最初から「犯人グループのリーダー」として登場させても、ほとんど大差は無い。
そこまでにヴェックを「ポールたちの仲間」としてアピールすることが充分に出来ているのか、正体が判明した時の効果に向けた充分な前フリになっているかというと、答えはノーだ。
こいつを警備員として登場させるなら、リーダーである正体を明かす手順は、もっと後半まで引っ張らないと意味が無い。

っていうかさ、根本的な問題として、進行が遅いと感じるのよね。
犯人グループが行動を開始し、ヴェックが正体を明かして完全にモールを制圧するのが、始まってから40分ほど経過した辺り。
上映時間が2時間ぐらいある映画なら、そこまで遅いとは言えないだろう。しかし本作品の場合、上映時間は91分で、本編だけだと86分しかないのだ。その中で、約半分ほどを「事件発生までの出来事」に使うってのは、どう考えてもバランスが悪い。
これが「ポールとエイミーの恋愛劇」を軸に構成する映画なら、そこまでの内容も別に構わないだろう。
しかし「主人公が犯人グループと戦って事件を解決する」という話が軸であるなら、そこまでの時間はダラダラしていて無駄な部分が多いと言わざるを得ない。

事件が起きてからの展開は、たぶん多くの人が気付くだろうが、『ダイ・ハード』だ。
いわゆる「オマージュ」ってことになるんだろうが、そこもコメディーとして中途半端だなと感じる。コメディーの中で扱うのなら、もっとパロディー色を強めた方が良かったんじゃないかと感じるのだ。オマージュとしてやりたいにしても、もっと笑いの要素は入れた方がいいし。
この映画だと、「あの映画を好きな連中が、それを真似した作品を撮りました」ってだけになっているのよね。コメディーとしての意識が、あまりにも低すぎる。
「動きが鈍くてヘマをやらかすが、結果的に犯人を退治できる」という見せ方をするのかと思ったら、普通に敵を倒すシーンもあるし。

ポールは事件発生を知って逃げようとするが、エイミーが残っていると知ってモールに舞い戻る。
エイミーに惚れていることを描いていたわけだから、それは動かし方として大きく間違っちゃいるとは言えない。ただ、他にも人質がいるのに、そいつらのことは全く気にしちゃいないんだよね。
駐車場を見た段階ではエイミーの車しか見ていないけど、その後で他の人質もいることを確認している。だけど、彼の脳内はエイミーのことばかりなのよね。そこは大いに引っ掛かる。
ポールが素人なら別にいいけど、それまでは警備員として「みんなを守る」みたいなことを偉そうに言っていたはずで。

それはともかく、ポールがエイミーを助けるためにモールへ戻ったのなら、それを彼の動力源にして話を進めればいい。
ところが、その後で「マヤが人質になる」という展開を用意してしまう。
そもそも「カードキーを持っているとは言え、なぜ犯人グループは外部から簡単に入って来られるような状態にしてあるのか」ってのは引っ掛かるが、そこは置いておくとしよう。ともかくマヤが人質になることで、ポールが助けようとする対象が2人になってしまうのだ。
これは明らかに失敗だ。
それまで弱腰だったポールが、マヤが捕まったと知った途端に勇敢な戦いを開始するので、「じゃあエイミーの存在って何なのよ」と言いたくなるし。

そもそも前半から、マヤの存在ってのは、そんなに大きく扱われていなかった。家族のシーンもあったが、それよりもポールにとって大切な存在として示されていたのは明らかにエイミーの方だった。
それなら、マヤは最初から存在を排除するか、少なくとも人質として関与させることは避けた方がいい。
ひょっとすると『ダイ・ハード』で妻と娘が人質になっていたので、そこを意識したのかもしれない。
ただ、妻と娘なら「家族」として一括りに出来るけど、「片想い中の女」と「娘」じゃ違うでしょ。

(観賞日:2018年10月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会