『メン・イン・キャット』:2016、フランス&中国&カナダ

ニューヨークで大企業「ファイヤー・ブランド」の社長を務めるトム・ブランドは、宣伝のために本物の戦闘機を使うことを考えていた。マーケティング部が予算が無いと言っていることを設計部に所属する息子のデヴィッドが伝えると、彼は「全員をクビにしろ」と命じた。妻のララから電話があったことをデヴィッドが知らせると、彼は「なぜ彼女から?」と口にした。北米で一番の高さを誇るファイヤー・ブランド・タワーのオープンを1ヶ月後に控え、彼はマスコミを集めた屋上にセスナ機からパラシュートで降下した。シカゴで建設中のパラゴン・タワーが18メートル高いことを記者から知らされたトムは、「それは有り得ない」と否定した。
相談役のイアン・コックスたちが待つ会議の場へ移動した彼は、イアンから株式公開の資料を渡される。トムは資料を投げ捨て、落成式の演出について質問する。しかし彼はイアンの説明した内容が気に入らず、「今のは無かったことにしよう」と言う。ララから電話が入ったことを秘書が報告すると、トムは「後回しだ」と冷たく告げる。イアンはララから電話を受けて、会議を抜け出した。重役たちはトムに、経費が前期より30%も上昇していることへの懸念を訴えた。トムが「なぜイアンは株式公開をと?」と質問すると、重役のベンソンたちは「イアンの提案は魅力的です。巨額の資金が手に入る」「長年の収益がタワーに消えた」と賛同の態度を見せた。
トムはベンソンたちに、「充分に儲けてるじゃないか。航空会社に小売チェーンに電話会社。だが所有者が変われば忘れられる。しかし、百年後にタワーを見た人は、ブランドの名を見て記憶に刻む」と語った。重役が否定的な言葉を口にすると、トムは自分の持ち株が51%であることに触れて黙らせた。デヴィッドはイアンを呼び、パラゴン・タワーが屋上の鋼材を使って当初の計画より高くしたこと、こちらを油断させておいて建築許可を取得したことを説明した。
帰宅したトムはララが誕生日プレゼントを用意しているのを見て、娘のレベッカが翌日に11歳を迎えることを知った。デヴィッドは前妻であるマディソンとの間に出来た息子で、トムは彼の親権を持っていない。デヴィッドは父に近付くため、ファイヤー・ブランドに就職していた。トムはララとレベッカに誘われ、自身が主催する子供基金のパーティーに出席した。翌日、トムはレベッカの誕生日プレゼントを買うため、彼女を連れて街に出た。レベッカは去年と同じく猫をリクエストするが、トムは「ペット不可だ」と却下する。彼は会議に出席し、誕生日プレゼントについて幹部たちに相談した。
同じ頃、マディソンは再婚相手との間に生まれた娘のニコールと愛犬2匹を連れて、ブランドのマンションを訪れた。ニコールは参加を渋っていたが、マディソンは「一応は家族だから」と従わせた。彼女はララに弁護士の連絡先を渡し、「私はトムと別れて幸せよ。貴方も幸せになって」と助言した。デヴィッドから願いを叶えてあげるよう促されたトムは、車を走らせて最寄りのペットショップへ向かった。しかしイアンからの着信に苛立って携帯を投げた時、カーナビの進路が修正された。
トムが「パーキンス・ペットショップ」という店に到着すると、ボンネットに1匹の猫が着地した。彼が店に入ると、その猫も後に続いた。店内は猫だらけで、店長のパーキンスは「人が猫を選ぶのではない。猫が人を選ぶ」とトムに告げる。彼はボンネットに着地した猫がトムに寄って来るのを見ると、「こいつは悩める者に惹かれる。8詰めの命だ」と言う。トムは苛立ちながらも購入を承諾し、ミスター・ファジーパンツと書かれたエサ皿を手に取った。
トムが金を支払って店を去ろうとすると、携帯が鳴った。するとパーキンスは「電話に出るな。プレゼントだろ。パーティーに遅れるぞ」と告げるが、トムは構わず電話に出てイアンと話した。するとパーキンスは店を出る彼を見送り、「始めよう」と口にした。駕籠に入れた猫を連れて会社に戻ったトムは、イアンが待つ屋上へ赴いた。するとイアンはアンテナで高くする案を示すが、トムは「これまでの苦労がお前のせいで水の泡だ。私に隠れて売却に没頭したせいだ。荷物をまとめろ」と怒鳴り付けた。
落雷がアンテナを直撃し、トムとイアンは弾き飛ばされた。イアンは屋上から転落しそうになり、イアンに助けを求める。しかしクビを通告されたばかりイアンは無視し、トムは猫の駕籠と共に屋上から墜落した。トムは途中の金属棒に激突し、ガラスを突き破ってオフィスに転がり落ちた。猫は無事だったが、トムは意識不明の重体に陥った。しかしトムの魂は、猫の体内に入った。病院に駆け付けたララは、トムが回復するかどうかは分からないとコール医師に告げられた。
トムは「俺はここにいるぞ」と訴えるが、もちろんララには通じなかった。猫になったトムが一人になると、病院のロビーで待っていたパーキンスが現れる。彼はトムに、「私だけが猫と話せる」と告げる。元に戻す方法を教えろとトムが要求すると、パーキンスは「なぜ猫になったのか、自問し続ければ答えは出る。君は長くない。もしも死んだら、ずっと猫のままだ」と語った。ララとレベッカは猫が誕生日プレゼントだと推理し、家へ連れ帰った。
書斎に入ったトムはペンで文字を書き、ララにメッセージを伝えようと考えた。しかし上手く文字が書けず、その方法は断念する。トムはiPadを使おうとするが、猫の肉球には反応しなかった。トムは自分のマネークリップと免許証をララの元へ運ぶが、全く意図を理解してもらえなかった。彼はスコッチを灰皿に注んで飲み、酔っ払って眠り込んだ。翌朝、餌皿を見たレベッカは、ミスター・ファジーパンツが猫の名前だと思い込んだ。
イアンは重役たちと話し、トムが重体の間に自分の意見を通そうと目論む。夜、トムはアルファベットのマグネットを使って「俺は俺じゃない。人間だ」とララに伝えようとするが、見てもらえなかった。デヴィッドはタワー競争に勝つため、書斎で資料を調べた。マディソンが訪ねて来ると、トムは彼女の愛犬たちに追い回された。トムは毛糸を使って「トム」の文字を作るが、マディソンがララに「貴方にはジョシュがいるわ」と言ったことが気になった。
トムはマディソンのバッグをトイレ代わりにして、彼女の怒りを買った。トムは逃げ回った時に毛糸を踏み、ララが片付けた。レベッカはトムの文字に気付いたが、ララには「何でもない」と告げた。マディソンはララたちに、「入院は何度目?航空会社を立ち上げた時、寝ずに仕事してた。ニックネームは吸血鬼。寝ずにジムへ行って、ランニングマシンで居眠り。1週間も入院した。仕事人間よ。浮気しない代わりに航空会社やタワーに夢中」とトムへの悪口を語った。
次の朝、トムは電話帳をズタズタに切り裂き、パーキンス・ペットショップの広告ページをララに見せた。デヴィッドは父の病室へ見舞いに出向き、「タワーの件で取締役会を説得するよ」と語り掛けた。イアンがコールと話す様子を目撃した彼は、「何を話してた?」と質問する。イアンは「状況確認だ。取締役会で会おう」と告げ、その場を去った。デヴィッドは取締役会でタワーを高くするアイデアを提案するが、重役たちは反対した。
ララが連絡を取ってパーキンスを呼んだので、トムは通訳してもらおうとする。しかしパーキンスはトムと2人にしてもらい、「遊んでる暇は無い。早く元に戻りたいなら行儀よくしろ。悲しみにある家族を幸せにしたければ、猫としての自覚を持て」と説教した。トムは仕方なく承諾し、キャットフードを食べたりレベッカの遊びに付き合ったりする。レベッカは猫の体を洗い、リボンを飾り付けた。ジョシュから電話を受けたララが外出しようとすると、トムは妨害する。ララが車に乗ると、トムは密かに忍び込んだ。
イアンが会社を売却するための説明会を準備して証券会社を呼んだので、デヴィッドは憤慨した。しかしイアンは冷淡に突き放し、「トムに義理は無い」と告げた。ジョシュは豪邸の前でララを待っており、中を案内しようとする。ララが「結論を出したいのね?」と告げると、彼は「中に入ろう」と促す。トムが怒って姿を見せると、ララは呆れた様子で抱き上げた。ララは不動産屋であるジョシュに、「前は家を買うつもりだった。家も仕事も変えて、夫と別れようと思ってた」と話す。心変わりした理由を問われた彼女は、「彼の娘に対する愛を思い出したの。私も彼を愛してると」と語った。
帰宅したトムは親子のホームビデオを見て泣いているレベッカを元気付けるため、彼女の遊び相手になった。酷い父親だったと反省したトムは、償いとして最高の猫になろうと決意した。彼は猫の自覚を持ち、ララとレベッカに寄り添うことにした。そんな中、デヴィッドがララを訪ねて相談したことから、トムはイアンがタワーの落成式で株式公開を発表するつもりだと知る。彼はデヴィッドが運ぶ資料の箱に入り、息子のオフィスへ赴いた。
デヴィッドが戦う気だと知ったトムは、株式を息子に残すと記した会社の定款を探しに行く。イアンとベンソンは密談を交わし、定款をシュレッダーで裁断した。トムは大きな物音を立て、裁断された定款の存在をデヴィッドに知らせた。デヴィッドはマディソンの元へ行き、彼女が保管していた会社設立から10年分の記録や定款を見せてもらう。イアンはララと会い、トムの延命措置を中止するよう持ち掛けた。ララは怒って拒否し、彼を追い払った。イアンが会社に戻ると、デヴィッドが役員たちに召集を掛けていた。しかしイアンは役員たちを落成式に向かわせ、デヴィッドをボディーガードに追い出させた…。

監督はバリー・ソネンフェルド、脚本はグウィン・ルーリー&マット・R・アレン&ケイレブ・ウィルソン&ダニエル・アントニアッツィー&ベン・シフリン、製作はリサ・エルジー、製作総指揮はクロード・レジェ&ジョナサン・ヴァンガー&マーク・ガオ&グレゴリー・ウェノン、撮影はカール・ウォルター・リンデンローブ、美術はマイケル・ワイリー、編集はドン・ジマーマン&デヴィッド・ジマーマン、衣装はマリリン・フィトゥーシ、シニア視覚効果監修はクレイグ・ヘイズ、音楽はエフゲニー・ガルペリン&サーシャ・ガルペリン。
出演はケヴィン・スペイシー、ジェニファー・ガーナー、クリストファー・ウォーケン、ロビー・アメル、シェリル・ハインズ、マーク・コンスエロス、マリーナ・ワイズマン、テディー・シアーズ、ジェイ・パターソン、タリサ・ベイトマン、ジュエル・ブラックマン、セルジュ・ホーデ、マーク・カマチョ、クリス・ワイルディング、カイル・ゲイトハウス、エレン・デヴィッド、カミーユ・ロス、ジャック・ホーレット、トリスタン・D・ララ、ブラッド・アルドース、ジュリアン・ジェイン、ジェイソン・カヴァリエ、ジェイソン・ブリッカー、クワシ・ソングイ、ロバート・ハリソン、ロリー・グレアム、スーク・ヘクサマー、エミリー・ヴェルス、メリッサ・ダンカン=セオン他。


『RV』『メン・イン・ブラック3』のバリー・ソネンフェルドが監督を務めた作品。
トムをケヴィン・スペイシー、ララをジェニファー・ガーナー、パーキンスをクリストファー・ウォーケン、デヴィッドをロビー・アメル、マディソンをシェリル・ハインズ、イアンをマーク・コンスエロス、レベッカをマリーナ・ワイズマン、ジョシュをテディー・シアーズ、ベンソンをジェイ・パターソン、ニコールをタリサ・ベイトマン、コールをジュエル・ブラックマンが演じている。

冒頭、トムはデヴィッドから仕事について説明される時、事務的に接している。まるで息子だと思っていないかのように見えるし、「君は何歳だ?」と訊くってことは年齢も分かっていなかったってことだろう。
では「トムは息子を部下としてしか見ていない」という設定かと思いきや、すぐ後には「一人前の男になった時のために」というメッセージを添えてプレゼントを渡す。
デヴィッドはトムに会いたくて同じ会社に就職しているし、レベッカもトムに懐いている。そしてトムの方も、会社の重役たちに娘への誕生日プレゼントを相談している。そして嫌がっていた猫を、結局は買ってやろうとしている。
そんな男なので、子供たちとの関係は良好だ。

トムはララからの電話に「なぜ彼女から?」とクールに言ったり、会議中の電話を無視したりしている。しかし帰宅すると、ララに「この広い世界で最も美しい女性」と言っている。
ララの方も、トムに少し嫌味っぽいことは言ったりするものの、本気で腹を立てたりする様子は見せていない。なので、夫婦関係も決して悪いわけではない。
トムは「家庭を全く顧みないワーカホリック」という設定かと思いきや、そうでもない。
そんな様子を序盤から見せられるので、「そんなに大きな問題なんて無いでしょ」と思っちゃうのよね。

導入部において、「トムが仕事最優先で家族は二の次にしている」ってのを描いているのは分かるのよ。
そして、そこから「トムが家族の大切さに気付く」という結末に向かって物語が進行するのも、きっと大半の人は簡単に予想できるだろう。そして実際、その通りになる。
それはベタ中のベタなプロットだけど、それが問題なのではない。
ものすごくベタなプロットなのに、基本設定をキッチリと作り込まず、ユルすぎる状態にしてあるってのが重大な問題なのだ。

マディソンはトムへの悪口を並べ立て、ララに「私は離婚して幸せになった。貴方も幸せになって」と告げる。トムが意識不明の重体に陥っても全く心配しておらず、相変わらず悪口を並べる。
それぐらいトムを嫌っているんだから、よっぽど結婚生活は辛かったのだろう。
しかしララは彼女が悪口を言っても、全く賛同しない。ずっとトムの味方をしている。
そうなると、「トムじゃなくてマディソンに問題があったんじゃないか」と感じてしまう。マディソンだけじゃなく、ニコールもトムが重体なのに冷淡なことを口にするしね。
だけど、この映画は「仕事人間のトムが考えを改める」ってのを描こうとしているんだから、それじゃダメでしょ。マディソンを悪妻のように描いたら、完全に話の軸がブレちゃうでしょ。そこは「前回の結婚もトムに非があった」という形にしないとさ。

使い古されたプロットを何の捻りも無く使っているんだから、基本のディティールは絶対に細かいトコまでキッチリと作り込まなきゃダメでしょ。それは必須条件でしょ。
そこを手抜きしているわけじゃなくて、たぶん分かってないんだろうね、この映画の製作陣は。
だから、こんな状態なのに平気でゴーサインが出ちゃってるのかもね。
EuropaCorpの製作でアメリカ資本が入っていないからなのか、ラジー賞からは完全に無視されたけど、酷評の嵐で興行的に完全にコケたのも納得の出来栄えだ。

イアンが悪玉扱いされているが、「なぜトムはタワーの高さに固執するのか」ってトコが引っ掛かるんだよね。
重役たちが財政的なことを考慮してタワーを高くする考えに反対するのは、そんなに間違ったことだとは思えない。むしろ、トムが「ブランドの名前を残す」という目的だけで会社の金をタワーに注ぎ込むのは、ただの公私混同じゃないのか。
もちろんファイヤー・ブランドは彼か立ち上げた会社だし、社長である彼が権限を握っている。ただ、経費が前期より30%も上昇しているのに、そんな状況でタワーの高さに固執するってのがホントに経営者として正しい判断なのか。
この映画では全面的に肯定されているが、それを「是」とする根拠は何も用意されていないのだ。
これが「自分のためではない」ってことならともかく、完全に自分のためでしかないからね。

とは言っても、イアンが会社の売却を目論むのはともかく、他の重役たちが揃いも揃って彼に賛同するのは全く解せない。
そりゃあ会社を売却すれば大金は手に入るけど、彼らはファイヤー・ブランドに何の思い入れも無いのか。どこか外部から送り込まれた連中なのか。
トムへの個人的な憎しみを持っているイアンが勝手に動くのは分かるけど、他の連中もトムを嫌っているとしか思えないような対応に出るのは不可解だよ。
タワーの件でトムが傲慢だったのは確かだけど、これだと重役たちも悪玉にしか見えなくなっちゃうぞ。
だけど実際には、イアンだけが悪玉という状態にしておかないとマズいはずでしょ。

ジョシュが登場した時、ララがトムと別れて家を買うつもりだったことが明らかになる。
だけどトムが重体に陥る前のシーンでも、そんな気配は微塵も見えなかったぞ。
普通にトムと仲良くやっていたじゃないか。スピーチで軽い嫌味は飛ばしたけど、ちゃんと愛のある言葉だったじゃないか。
それなのに「離婚を考えていた」と言われても、「いや唐突だわ」とツッコミたくなるぞ。
そんな設定があるのなら、事実を明かした時に「なるほど」と納得させるための前フリが必要でしょ。それは全く足りていないぞ。

序盤、トムは娘のプレゼントとして猫を買うことを嫌がっている。
どうやら猫が好きじゃないようだが、そこを突っ込んで描くことは無い。なぜ彼が猫を嫌いなのか、きっかけとなる出来事があるのか、その辺りは全く分からない。
ここをキッチリと描いておけば、「猫が嫌いだったトムだが、猫になってしまうことで気持ちが変化する」というドラマを膨らませることも出来ただろう。
しかし、そこには全く関心が無かったようで、まるで目を向けていない。

「トムが猫を嫌っている」という要素を持ち込んでおきながら適当に放り出しているため、トムの変身対象が猫である意味は皆無に等しい。
犬でもハムスターでもウサギでも、馬でも牛でもロバでも、極端なことを言っちゃえば動物じゃなくてもいいのだ。
もしかすると、「猫は可愛い」という部分で観客を引き付けようという戦略だったのかもしれない。そこだけに頼りまくっている映画ってのは、日本でも何本もあるしね。
でも、それだけじゃどうにもならないぐらい、シナリオがドイヒーなのだった。

(観賞日:2021年2月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会