『ミステリー、アラスカ』:1999、カナダ&アメリカ

アラスカ州の小さな町ミステリーには、町長らで組織される委員会が選手を選び、チームを運営するアイスホッケーのチームがある。ある時、ミステリー出身のチャーリー・ダナーが執筆したチームに関する記事が、スポーツ雑誌に掲載された。記事には、ミステリーのチームがNHLでも通用すると書かれていた。
保安官ジョン・ビービや小学校教師スカンク・マーデン、判事の息子バーディー・バーンズ、ベンとガリンのウィネトカ兄弟、大柄のツリー・レイン、キーパーのケヴィン・ホルツ、食料品店で働くチーム得点王コナー・バンクスらが、選手としてプレーしている。スカンクは女好きで、遊び相手サラとのセックスをロッカーで仲間に言いふらす。
ジョンは13年目のベテランでパスの能力に長けているが、足が遅い。成長目覚しい若手のスティーヴィー・ウィークスが、メンバー入りに意欲を見せている。バーディは大学時代は選手として活躍した父のウォルターからプレーに関して文句ばかり言われ、反感を抱いている。バーディの妹マーラはスティーヴィーと交際しているが、父に反対されている。
町長のスコット・ピッチャーを始めとする委員会は、ジョンをメンバーから外して新たにスティーヴィーを入れると決定した。ショックを隠せないジョンに、コナーが事件を起こしたという連絡が入った。調査に来ていた大型スーパーの社員ウォルシュを脅そうとしたコナーはドッグフードを狙撃したのだが、弾丸が跳ね返って相手に当たり、怪我をさせてしまったのだ。ジョンは保安官補ボビー・マイケンに命じ、コナーを逮捕させた。
チャーリーが町に現れ、NHLのニューヨーク・レンジャーズがミステリーで特別試合を行う企画があることをスコットらに語った。町民集会が開かれ、いつもプレーしている池を使えば勝てる見込みがあるという意見でまとまり、試合を受けることにした。ジョンはスコットから監督への就任を要請された。最初はウォルターに依頼したが、断られていたのだ。
スティーヴィーはマーラからメンバー入り記念という名目でセックスに誘われるが、挿入前に果ててしまう。スカンクはセックスのことを言いふらしたことをサラに知られ、殴られる。チャーリーは、元恋人であるジョンの妻ドナに接近する。コナーは裁判に掛けられ、弁護士ベイリー・プルイットの弁護と陪審員の偏った採決によって無罪放免となる。
試合中継の共同プロデューサーを務めることになったチャーリーが、番組レポーターのジャニスを町に連れて来た。ジャニスは物語を作るためにチーム名をミステリー・エスキモーズにしたいと言い出すなどして、スコットを怒らせる。ジョンは改めてウォルターに監督就任を要請するが、やはり断られる。
スコットは自宅でスカンクのペンダントを発見し、妻メアリーが浮気していることに気付く。ショックを受けた彼に追い討ちを掛けるように、チャーリーが特別試合が出来なくなったというニュースを知らせてくる。シーズンオフの試合を嫌がったレンジャーズの選手達が、組合に対して訴えを出したのだ…。

監督はジェイ・ローチ、脚本はデヴィッド・E・ケリー&ショーン・オバーン、製作はデヴィッド・E・ケリー&ハワード・ボールドウィン、共同製作はカレン・エリス・ボールドウィン&リチャード・コーエン&ジャック・ギラーディーJr.、製作協力はショウナ・ロバートソン、製作総指揮はダン・コルスラッド、撮影はピーター・デミング、編集はジョン・ポル、美術はラスティー・スミス、衣装はディーナ・アッペル、音楽はカーター・バーウェル。
出演はラッセル・クロウ、ハンク・アザリア、バート・レイノルズ、メアリー・マコーマック、ロリータ・ダヴィドヴィッチ、ロン・エルダード、コルム・ミーニー、モーリー・チェイキン、マイケル・マッキーン、ジュディス・アイヴィー、スコット・グライムズ、アダム・ビーチ、ライアン・ノースコット、ケヴィン・デュランド、ブレント・ステイト、メギン・プライス、レイチェル・ウィルソン、ベス・リトルフォード他。


『オースティン・パワーズ』シリーズのジェイ・ローチが監督した作品。『ミステリー、アラスカ/さあ来いレンジャーズ!』という別タイトルもある。
製作は『シカゴホープ』『アリー・myラブ』『ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル』など人気TVシリーズを多く手掛けているデヴィッド・E・ケリーと、NHLピッツバーグ・ペンギンズの元オーナーであるハロルド・ボールドウィン。
ジョンをラッセル・クロウ、チャーリーをハンク・アザリア、ウォルターをバート・レイノルズ、ドナをメアリー・マコーマック、メアリーをロリータ・ダヴィドヴィッチ、スカンクをロン・エルダード、スコットをコルム・ミーニー、プルイットをモーリー・チェイキン、ウォルシュをマイケル・マッキーンが演じている。

他に、ウォルターの妻をジュディス・アイヴィー、バーディーをスコット・グライムズ、ガリンをアダム・ビーチ、スティーヴィーをライアン・ノースコット、ツリーをケヴィン・デュランド、ホルトをブレント・ステイト、サラをメギン・プライス、マーラをレイチェル・ウィルソン、ジャニスをベス・リトルフォードが演じている。
ミステリーとレンジャーズの試合決定を伝えるテレビ番組のシーンでは、ESPNのスティーヴ・レヴィーと元NHL監督バリー・メルローズが登場。その試合中継ではホスト役を元NHL監督ジム・フォックスが務め、解説は元NHLプレーヤーのフィル・エスポジートで、国歌斉唱はリトル・リチャード。ゲストのドニー・シュルツフォファー役でマイク・マイヤーズが出演しているが、そのキャラクターはNHLの毒舌評論家ドン・チェリーの真似。

この映画、ラッセル・クロウ主演でハンク・アザリアやバート・レイノルズなど他の出演陣もそれなりに揃っているのだが、日本では劇場未公開だった。
その最大の原因は、日本人はアイスホッケーに馴染みが無いということだろう。前述したNHL関係者のゲスト出演やマイヤーズによるドン・チェリーの物真似も、分からない人が大半だろうし。
それにしても、なんでラッセル・クロウを主役に据えたんだろう。
だってオーストラリア人だよ。そりゃあアメリカは多人種の国だし、アイスホッケーをやってる人もアメリカ人とカナダ人だけじゃないけどさ、カナダ人やアメリカ人の俳優が大勢いる中で、わざわざオージーを起用するこたあ無いと思うんだが。
クリケットじゃないんだから。

さて、物語を見て行こう。
序盤は主要な登場人物を登場させ、彼らのキャラクター設定や相関関係などを説明する段階にあるが、あまりスムーズに行われていないと感じる。何となくキャラクターの印象付けがクッキリとしないままで、アタフタとしている内に序盤が経過していくという感じだった。
序盤、ジョンがメンバー落ちを宣告される場面で悲哀が見えなきゃマズいはずだが、あまり感じない。そこまでに、代わりに入るスティーヴィーとのプレーの質の比較が無いってのは問題だろう。
あと、これは字幕ゆえの問題なのかもしれないが、「ウィークス」と「スティーヴィー」が同一人物だと把握するまでに、少し時間が掛かってしまった。

町民集会のシーンで、「負けたら誇りも幻想も全て失ってしまうぞ」とウォルターが悲観的な意見を述べた後、チームの選手が次々に立ち上がり、「俺はやる」「俺もやる」と、試合に向けた熱い意気込みを訴える。
でもね、そこは熱く盛り上がるには、まだ早すぎる。
むしろ相手の強さを全く知らず、軽い調子でノリノリになっている感じの方がいいんじゃないか。そんで後半、相手の強さを実感して悲観的になった後、やる気を見せて全員で盛り上がるという展開を持って来た方がいいんじゃないか。

町に住む複数の人々の人間ドラマをスケッチしていくという構成になっており、それはそれで別にいいんだが、あまり上手く捌き切れていない。
扱っている人物が多くて処理しきれなかったということもあるし、各エピソード&各シーンの薄さもある。
さらにエピソードの繋ぎ方や並べ方もマズい。各キャラの物語の流れの作り方に難があるため、点と点を繋ぐ線が頼りない。

裁判を2つも放り込んでいる一方で、ホッケーチーム内の出来事や試合に向けた練習に関するエピソードの少なさは、どうしたことか。
アイスホッケーがメインに描く題材ではなくて、人間ドラマを描くための道具に過ぎないような扱いにさえ思える。ミステリーの人々はアイスホッケーに情熱を注ぎ、チームに誇りを持っているはずなのに、それがあまり伝わって来ないのだ。

町に閉塞感があれば、「他には何も無い。アイスホッケーだけが希望だ」ということを表現しやすかったかもしれないが、そんな『ブラス!』みたいな話じゃないのよね。
ただ、スカンクが「この町にはホッケーとセックスしか楽しみが無い。将来はオヤジみたいな酒飲みだ」と言っている辺りからすると、閉塞感はある設定なのかもしれない。で、それを表現できていないだけなのか。
シーンによっては、もっと悲壮感を出したり、逆に陽気にする所は徹底してコミカルにしたり、表現を強めてもいいんじゃないだろうか。

どうも起伏に乏しいという感じがする。もっと感情を喚起してもいいような場面が幾つもあるのだが、にも関わらず全く心に響くものが無いってことは、やはりノッペリしていて浅いからなんだろうな。

クライマックスとなるのは、もちろんレンジャースとの試合。
これが長い。第1ピリオドから第3ピリオドまで丹念に見せているだけでなく、いちいち休憩タイムの様子に時間を割くのもテンポが悪い。
試合展開は「第1ピリオドにミステリーが2点先取、第2ピリオドで汚い手も使い始めたレンジャーズに簡単に逆転され、休憩タイムにジョンがチームをアジって第3ピリオドへ」という流れなのだが、それがますます冗長な感じを強めているような気がする。
例えば「第1ピリオドからレンジャーズが圧倒し、第2ピリオドで彼らは余裕しゃくしゃくで点を取りに行かずにミステリーを弄び、何とかミステリーは1点を返す。そんで落ち込んだミステリーをジョンがアジって、みんな気合い満タンになって第3ピリオドへ」という展開なら、どうだろう。
これなら、第2ピリオドはダイジェストで処理できると思うし。


第22回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪のヘアスタイル(男性)】部門[バート・レイノルズ]

 

*ポンコツ映画愛護協会