『マイラ』:1970、アメリカ

マイロン・ブレッキンリッジは性転換手術を受け、マイラという女性に変身した。マイラは車を走らせ、伯父のバック・ローナーが校長を務めるウエストウッドの演劇学校へ赴いた。マイラは「貴方の死んだ甥、マイロンの未亡人です」と自己紹介し、泣く芝居で「マイロンのお母様が死ぬ間際に言いました。バックから財産を取り返すの。ウエストウッドの資産の半分は私が相続したのよ。遺書のコピーは取ってあるし、マイロンは正当な相続人。あそこの資産価値は今や100万ドルよと」と語る。
マイラは、マイロンが遺言状で全ての資産を自分に譲渡すると約束したのだと話し、演劇学校の半分は自分が権利を所有していると主張した。「しかし学校は経営難だ」とバックが困った様子で言うと、マイラは「共同経営者として力を貸すわ」と微笑んだ。バックが笑い飛ばして断ると、マイラは「だったら代理人を寄越すわ」と立ち去ろうとする。バックが引き留めると、マイラは「だったら、ここの講師になるわ。月給千ドルでどう?」と持ち掛ける。
バックが承諾したところへ、ホモの生徒アーヴィングがやって来た。彼は「変な学校だけど、誰も出て行かないの。私なんか14年もいるの。でも講師はすぐに辞めてしまう」と語る。アーヴィングはマイラに学校を案内しながら、「ここでは何も教えてくれないわ」と言う。バックは友人の弁護士チャーリーに連絡を入れ、資産をマイラに奪われないようにするための行動を依頼する。食堂で生徒たちと会ったマイラは、ラスティーという男子に興味を抱いた。そのラスティーは、女子生徒のメアリー・アンと交際していた。
女社長のレティシア・ヴァン・アレンが、経営する芸能エージェント事務所に現れた。待ち受けていた男優たちが、立ち上がって彼女に挨拶する。社長室に入ったレティシアは、その内の1人を呼び込んだ。「経歴よりも精力の方が重要よ」とレティシアが言うと、彼は「それも得意です」と口にした。レティシアは部屋に奥に置いてあるベッドで彼と関係を持ち、満足そうな表情を浮かべた。
マイラはメアリー・アンを自宅に招いた。マイラはメアリー・アンに過去のスターたちのことを語り、「貴方も頑張ればラヴァーン・アンドリュースのように歌えるかもしれないわ」と告げる。しかしメアリー・アンはアンドリュース・シスターズのことを知らず、「私はラスティーと結婚できれば、それで幸せなんです」と述べた。マイラは苛立ちを抑え、「もうこんな時間よ」と彼女を帰らせた。
翌日、マイラが授業を行っていると、その内容に不満を抱いたバックが教室に現れて注意する。マイラが反発すると、バックは「いつでも叩き出してやるぞ」と脅し文句を口にする。即座にマイラは「そしたら学校を奪い取ってやるわ」と言い返した。マリオ・パストリアーニというイタリア人の男がレティシアの事務所を訪れ、彼女への面会を求めた。そこへレティシアが来ると、マリオは「フェデリコ・フェリーニ監督が会いに行けと言いました」と告げ、紹介状を差し出した。マリオは「映画やレコードで貴方に触れ、恋に落ちました」とレティシアを口説いた。
バックはマイラを呼び出し、「調べたが、マイロンは結婚していなかった。結婚した記録は、全米のどこにも無い」と勝ち誇ったように言う。するとマイラは落ち着いた態度で、「無くて当然よ。私たちはメキシコで結婚したんだから」と結婚証明書を見せた。バックはチャーリーと会い、「あの女を追い出してくれ」と要請する。マイラは学校の講師室にラスティーを呼び出し、「貴方には才能があるから時間を費やすのよ」と歩き方を矯正しようとする。ラスティーが反抗的な態度を取ると、マイラは「ダンスをすれば直るかもしれないわ」と告げる。かつて肋骨を4本折っていると彼が言うので、「ちょっと背中を見せて」と服を脱ぐよう促す。マイラはシャツを脱いだラスティーに後ろを向かせ、ズボンを勢いよくズリ下ろした。
後日、演劇学校に支援者であるレティシアが来たので、バックは出迎える。マイラは悩んでいる様子のメアリー・アンに食堂で声を掛け、仮釈放中だったラスティーが捕まったことを聞かされる。マイラは「私に任せて。たかが法律よ」と告げる。そこへバックがレティシアを案内してやって来た。メアリー・アンはマイラに、「所属する男優全員と寝るらしいわ」と教える。マイラはレティシアに話し掛け、映画スターの出現について熱く語る。「貴方、絶倫男に心当たりは?」と訊かれたマイラは、ラスティーの名を出して写真を見せる。興味を示したレティシアに、マイラはラスティーを解放してもらうための力添えを依頼する。協力を了承したレティシアは帰りの車の中から、キャノン判事に電話を入れた。
マイラは釈放されたラスティーを迎えに行き、メアリー・アンの元へ送り届けた。3人はレティシアのショーを見に出掛ける。マイラは医務室でラスティーの身体測定を行い、両腕を診察台に拘束する。マイラは四つん這いにさせたラスティーのズボンを脱がし、彼の男の尊厳を征服するためにアナルを犯した。ラスティーと別れて落ち込むメアリー・アンを、マイラは何食わぬ顔で慰めた。バックはマイラを呼び出し、同席したチャーリーの息子は結婚証明書が偽造であることを指摘した。するとマイラは「今週中に証人を呼ぶわ。歯科医で精神分析医のランドルフ・モンタグ医師よ。彼は結婚式の立会人よ」と鋭く言い放った…。

監督はマイク・サーン、原作はゴア・ヴィダル、脚本はマイケル・サーン&デヴィッド・ガイラー、製作はロバート・フライアー、製作協力はジェームズ・クレッソン、撮影はリチャード・ムーア、編集はダンフォード・B・グリーン、美術はジャック・マーティン・スミス&フレッド・ハープマン、衣装はセオドア・ヴァン・ランクル、メエ・ウェスト衣装はイーディス・ヘッド、音楽監修&指揮はライオネル・ニューマン、振付はラルフ・ボーモント、主題歌はジョン・フィリップス。
出演はメエ・ウェスト、ジョン・ヒューストン、ラクエル・ウェルチ、レックス・リード、ファラ・フォーセット、ロジャー・C・カーメル、ロジャー・ハーレン、ジョージ・ファース、カルヴィン・ロックハート、ジム・バッカス、ジョン・キャラダイン、アンディー・ディヴァイン、グラディー・サットン、ロバート・リーブ、スキップ・ウォード、キャスリーン・フリーマン、B・S・プリー、バック・カータリアン、モンテ・ランディス、トム・セレック、ピーター・アイルランド、ネルソン・サルデリ。


劇作家、小説家、脚本家など多岐に渡って活躍したゴア・ヴィダル(自身も同性愛者だった)による同名の大ベストセラー小説を基にした作品。DVDでは『マイラ -むかし、マイラは男だった-』という邦題になっている。
レティシアをメエ・ウェスト、バックをジョン・ヒューストン、マイラをラクエル・ウェルチ、マイロンをレックス・リードが演じている。ジョン・ヒューストンは『マルタの鷹』や『黄金』などを手掛けた映画監督で、レックス・リードはゲイの映画評論家。ラクエル・ウェルチは『ミクロの決死圏』や『恐竜100万年』で注目を浴び、20世紀最高のグラマーと称されていたセクシー女優だ。
他に、メアリーをファラ・フォーセット、ランドルフをロジャー・C・カーメル、ラスティーをロジャー・ハーレン、チャーリーの息子をジョージ・ファース、アーヴィングをカルヴィン・ロックハート、性転換手術の医師をジョン・キャラダイン、チャーリーをロバート・リーブ、レティシアが面接して関係を持つ男優をトム・セレックが演じている。
アンクレジットだが、マイケル・サーン監督のデビュー作『ジョアンナ』で主演したジュヌヴィエーヴ・ウエイト(後にママス&パパスのジョン・フィリップスの3番目の奥さんになる)が、歯科医としてのランドルフの患者役で出演している。

後回しにしたが、トップ・ビリングのメエ・ウェイトは、1930年代のハリウッドでセックス・シンボルとして大活躍していた女優。
最初は舞台女優として自ら企画や脚本を手掛け、同性愛など当時はタブー視されていたような題材を扱った反体制的な作品を発表していた。
その後、37歳にして映画界入りした彼女は艶笑喜劇に主演して次々にヒットさせるが、保守的な組織から猛攻撃を食らったこともあり、1943年の『The Heat's On』で映画界から身を引き、舞台の世界に戻った。
この映画は彼女にとって、それ以来の映画復帰となる。
前述のように過激な作品を自ら手掛けていた人だし、セックス大好きを公言していたような人だから、レティシア役はピッタリと言えよう。

最初は『ナイスガイ・ニューヨーク』『クルーゾー警部』のバッド・ヨーキンが監督する予定だったが降板したため、20世紀フォックスは『ジョアンナ』で注目を浴びたマイケル・サーン(マイク・サーン)をイギリスから招聘した。
しかし、この映画が徹底的に酷評され、興行的にも大失敗したため、マイケル・サーンはハリウッドから完全に干されることになった。
1975年にブラジルで『Intimidade』という作品を撮った後は、1993年の『The Punk/ザ・パンク』まで、アメリカでもイギリスでも監督業はお休みの状態だった。

マイロンが手術でマイラになっても、マイロンが画面から完全に消えてしまうわけではない。物語が進行する中で、場面によってはマイラが消えてマイロンだけが登場し、他の人物と話すようなケースもある。
ただ、「こういう時はマイラ、こういう時はマイロン」という基準が何なのかは、良く分からない。
特に決まっていないようにも思える。
また、マイラが行動する傍らにマイロンがいたり、2人が会話を交わすようなシーンも存在する。それどころか、マイラがマイロンの服を脱がせて体に接吻し、フェラチオするシーンまである(もちろん行為を直接的に描写するのは無理なので、マイロンの下半身はカメラに写らないが)。

一応はハリウッドやアメリカ文化を風刺した作品であり、だから「映画の中で交わり放題だ。映画はどうなってしまうんだ。モラルを崩壊させる」とか、「共産主義の変態どもが汚れた映画を作ってる」とか、そういったセリフが色々と散りばめられている。
ただ、あまりにも話が散らばっちゃってるし、登場人物の行動はフラフラしている。
幾つもの手順を端折り過ぎてツギハギ状態になっているし(間違えて短縮版を見てしまったのかと思ったぐらいだ)、そのせいで風刺の部分に意識が向かわない。

冒頭、性転換手術を受けたマイロンが外へ出ると、シャーリー・テンプルの映像が挿入される。
そしてテンプルちゃんの歌に合わせ、マイロンとマイラが踊る様子がカメラに写し出される。
その後、物語が進む中で、マリリン・モンローやマレーネ・ディートリッヒ、リタ・ヘイワース、クラーク・ゲーブル、タイロン・パワー、ジュディー・ガーランド、リチャード・ウィドマーク、ジンジャー・ロジャース、マーナ・ロイ、ローレル&ハーディー、ヴィンセント・プライスなど、大勢のスターたちの映像が挿入されている。
それらは全て、20世紀フォックスでスターたちが出演した映画の一場面である(例えば冒頭のテンプルちゃんは1937年の『ハイデイ』)。

拝借した映像は、その時の登場人物の感情を表現していたり、次の展開を示していたり、観客のリアクションを代弁していたりする。
まあ基本的に、他の映画の映像が挿入されたら、「ここで笑って下さい」という合図だと思っておけばいいんじゃないかな。
で、笑うポイントとして使っているだけでなく、下ネタとして使われている箇所も多い。
例えば、メエ・ウェストがトム・セレックをセックスに誘うと、スタン・ローレルが建築資材を運び、オリヴァー・ハーディーが「必要以上に張り切るなよ」と告げる映像が挿入される。
また、マイラがラスティーのアナルを奪うシーンでは、壁に貼られているスターたちの写真が「観客」の如くに写し出される。

劇中で挿入されている他の映画の映像も、壁に貼られている写真も、マイケル・サーン監督はスター俳優たちに無許可で拝借している上に、かなり失礼な形で使っている。
そりゃあハリウッドから糾弾され、干されても仕方が無いわな(ゴア・ヴィダルからも酷評されている)。
まあ、そういう失礼極まりない形で使うんだから、たぶん使用許可を申請してもOKは貰えなかっただろうけど。
だから、無許可か否かってことじゃなくて、やっぱり使い方の問題だよな。

(観賞日:2013年6月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会