『ミュータント・ニンジャ・タートルズ3』:1993、アメリカ&香港

1603年、日本。馬を走らせていたケンシンは男たちに囲まれ、刀で戦うが捕まってしまった。一方、現代のニューヨーク。タートルズのレオナルド、ラファエロ、ドナテロ、ミケランジェロは師匠であるスプリンターの下、武術の稽古に励んでいた。しかしラファエロは誰にも認めてもらえないことから、不満を抱いていた。そこへTVレポーターのエイプリル・オニールが現れ、フリーマーケットで購入した様々な物品を差し出す。その中には日本の笏もあったが、それが何なのかエイプリルには分からなかった。
ケンシンは父であるノリナガの城へ連行され、勝手に出て行ったことを叱責される。ケンシンは「理不尽な戦で家名を汚している」と、逆に父を批判した。激怒したノリナガが刀を抜くと、海賊のウォーカーが現れて威嚇発砲した。ノリナガが「生きておったか」と驚くと、彼は「船は沈んだが、私は無事に戻った」と言う。ウォーカーは手下のナイルスたちに門番を捕まえさせ、城へ侵入していた。彼は火薬と鉄砲を積んだ3隻の船を停泊させてあるとノリナガに話し、「これで戦に勝てるのではないかな」と笑った。
城内に入ったケンシンが荒れ狂って仏像を倒すと、後ろに置いてあった笏も倒れて鈍い光を放った。一陣の風が吹き込んで巻物が広がると、そこにはタートルズの絵が描かれていた。しかし、もちろんケンシンはタートルズのことなど知らず、「河童?」と呟いた。ケンシンが笏に気付いて拾い上げ、そこに書かれている文字を読んだ。するとエイプリルの持っていた笏から雷が放たれ、彼女は姿を消してしまった。それと同時に、その場にケンシンが出現した。
エイプリルは城に現れ、ノリナガの家来たちは魔女だと思い込んで捕まえた。スプリンターはタートルズに対し、魔法の力を持つ笏が2人をワープさせたのだろうと説明した。ドナテロはコンピューターを使って分析し、「誰かが過去に行くと、入れ替わりに同じ体重の人間が過去からやって来る」という法則を見つけた。ミケランジェロは旧友であるケイシーを連れて、下水道へ戻って来た。エイプリルの救出へ向かうと決めたタートルズは、ケイシーにスプリンターの警護役を頼む。2日半で戻らないと時空の扉は閉じられるため、そんなに時間的な余裕があるわけではない。
エイプリルは地下牢に監禁され、そこへ新たな囚人としてホイットという男が連行されてきた。ホイットがケイシーに瓜二つだったので、エイプリルは驚いた。スプリンターはタートルズに、「もう1つの笏は寺にある。お前たちは僧侶と入れ替わる」と説明した。ケンシンは「ミツの命が危ない。私の父と戦う村人たちを率いている。」と話し、急ぐよう頼む。タートルズが笏を使ってタイムスリップすると、入れ替わりに出現したのは僧侶ではなくノリナガの衛兵たちだった。
タイムスリップしたタートルズは、甲冑を装着して馬に乗った状態で戦の場に出現した。タートルズは馬から振り落とされ、戦の場から離脱した。笏を持っているミケランジェロだけは馬を操れずに森へ突入してしまい、待ち伏せていたミツに殴られて気絶する。兜を外したミツはミケランジェロの姿を見て驚くが、村人たちに連行するよう指示した。戦に勝利した部隊が城に帰還すると、ノリナガはウォーカーに「貴様の鉄砲など使わなくても勝てる」と得意げに告げた。
ノリナガは側近に、秘密の武器を持たせた衛兵を呼び寄せるよう指示した。衛兵の格好をしているレオナルドたちは、慌てて荷車に隠れた。ウォーカーはノリナガの言う「秘密の武器」が黄金の笏だと知っていたが、それで戦に勝てるとは思っていなかった。しかしノリナガは、「あの笏が無ければ我が一族は滅びる」と述べた。地下牢へ乗り込んだレオナルドたちは、エイプリルを救出した。そこへ侍たちが駆け付けたので、タートルズは戦う。エイプリルはホイットに助けを求められ、彼を檻から出した。
エイプリルたちは城から脱出するが、ミツの率いる反乱軍に襲われる。タートルズはミツに、仲間を捜しに来ただけだと告げる。ミツは仲間がいることをタートルズに告げ、一行を村へ案内した。すると村はウォーカーの率いる海賊に襲撃を受け、焼き打ちに遭っていた。ミケランジェロを見たウォーカーは驚くが、拳銃を構えて始末しようとする。そこにレオナルドたちが駆け付け、ミケランジェロと合流した。タートルズと村人たちに追い詰められたウォーカーは、馬を走らせて逃亡した。
ヨシという少年が火事になった家に取り残されるが、ミケランジェロが救出した。ヨシの呼吸は停止していたが、レオナルドが人工呼吸で復活させた。ノリナガはウォーカーから「魔物が現れた」と聞き、巻物に描かれている魔物と同じではないかと考える。「かつて魔物がノリナガの先祖を倒した」という言い伝えがあるため、今度は自分が滅ぼされるのではないかとノリナガは不安になった。ノリナガはウォーカーの要求に応じ、鉄砲と黄金の取り引きを承諾した。
タートルズは笏が見つからないので新しく作ろうとするが、なかなか上手く行かなかった。ようやく完成した笏は、簡単に壊れてしまった。ミツは使者の連絡により、明朝にノリナガ軍が攻めて来ることを知った。ミケランジェロはヨシから、笏を渡される。長老がタートルズに村を守ってもらうため、笏を隠していたのだ。ホイットはミツを人質に取り、笏を奪い取った。彼は「今夜中にケンシンを渡せばミツは返す」と告げ、ミツをウォーカーの元へ連行した…。

脚本&監督はスチュアート・ギラード、製作はトーマス・K・グレイ&キム・ドーソン&デヴィッド・チャン、共同製作はテリー・モース、製作総指揮はレイモンド・チョウ、製作協力はロバータ・チョウ、撮影はデヴィッド・ガーフィンケル、美術はロイ・フォージ・スミス、衣装はハー・グエン、クリーチャー効果はエリック・アラード&リック・ストラットン、音楽はジョン・デュ・プレ。
出演はイライアス・コティーズ、ペイジ・ターコー、スチュアート・ウィルソン、ヴィヴィアン・ウー、サブ・シモノー、マーク・カーソ、マット・ヒル、ジム・ラポーサ、デヴィッド・フレイザー、ジェームズ・マーレイ、ヘンリー・ハヤシ、ジョン・アイルウォード、マック・タカノ、スティーヴン・ゲットソン・アカホシ、ケント・キム、ケン・ケンセイ、トラヴィス・A・ムーン、タッド・ホリノ、グレン・チン、コーイチ・サカモト(坂本浩一)他。
声の出演はコリー・フェルドマン、ロビー・リスト、ブライアン・トッチ、ティム・ケルハー、ジェームズ・マーレイ。


人気のアメリカン・コミックを基にしたシリーズ第3作にして最終作。
脚本&監督は『パラダイス』『帰ってきたむく犬』のスチュアート・ギラード。
ケイシー役のイライアス・コティーズは(ホイットと2役)、1作目からの復帰。エイプリル役のペイジ・ターコーとレオナルドのスーツアクターを務めるマーク・カーソは、2作目に続いての出演。ウォーカーをスチュアート・ウィルソン、ミツをヴィヴィアン・ウー、ノリナガをサブ・シモノーが演じている。
声優の面々では、ミケランジェロ役のロビー・リストとレオナルド役のブライアン・トッチが3作連続での出演。ドナテロ役のコリー・フェルドマンは、1作目からの復帰。

前2作では、ジム・ヘンソンズ・クリーチャー・ショップがタートルズのマペットを製作していた。
しかし1990年5月でジム・ヘンソンが死去したこともあってか(その後も彼の工房は活動しているのだが)、今回はエリック・アラードのオール・エフェクツ・カンパニーがクリーチャー効果を担当している。
しかしタートルズの表現方法は前2作と変わらず、操演によって顔のパーツを動かしている。パペットのデザインも、まるで変わっていないように見える。
まあ大幅に変わっていたら、それはそれで違和感があるだろうけど。

「タートルズはニンジャなんだから、日本の戦国時代を舞台にしたら合うんじゃないか」と、製作したゴールデン・ハーベスト社は安易に考えたのかもしれない。
だけど、タートルズは「亀とニンジャ」というミスマッチが面白いってことで生み出されたキャラなわけで。
そのコンセプトからしても、むしろニンジャが全く似つかわしくない現代アメリカの方が、舞台として適しているんじゃないか。
別の場所や時代を舞台にするとしても、「およそニンジャがマッチしない場所」にした方がいいんじゃないかと。

っていうか、そもそもタートルズって、そんなに丁寧にディティールが設定されているわけでもないんだよね。
それにニンジャという設定だけど、サイやヌンチャクを武器として使っているように、日本と香港が混同されているし。
ニンジャっぽい道具や技なんて、ほとんど使わないし。
どうせ薄っぺらい上に間違った設定で「ニンジャ」という要素を大雑把に使っているだけなので、そこを「日本の戦国時代」という舞台と組み合わせたところで、相乗効果なんて期待できるわけもなく。

それでも、その組み合わせを何とか機能させるアイデアは、幾つか思い付く。
例えばノリナガの家来として人間の忍者を登場させて、対決させるのもいいだろう。っていうか、せっかく日本の戦国時代を舞台にするのなら、忍者を登場させない手は無いはずだ。
ところが、この映画に人間の忍者は登場しないのである。せっかくの舞台を、まるで有効活用していないってことだ。
侍と戦うシーンはあるものの、それは違うでしょ。ぶっちゃけ、侍との戦なんてゼロでいいから、忍者と対決させるべきでしょ。

海賊を登場させているのも、ただ邪魔なだけ。なんで日本の戦国時代を舞台にしたのに、わざわざ西洋の海賊なんて絡ませるかね。
当時の日本で英語を喋る西洋人が大勢いたという部分で、「歴史考証が云々」と細かいことを言いたいわけではない。どうせタートルズの設定からしてデタラメなんだから、そんなトコでマジな歴史考証なんて求めちゃいない。
そうじゃなくて、「日本を舞台にしているんだから、登場するのは日本人だけにしておくべきじゃないのか」ってことだ。
西洋人のキャラは、エイプリルだけで充分でしょ。まだホイットだけを配置するならともかく、「敵の軍勢」としてアメリカ人の連中を用意するなんて、愚かしいとしか思えない。

笏が光るとエイプリルはタイムスリップは、ケンシンと入れ替わる。しかし、なぜか服だけはタイムスリップしない。
つまりエイプリルはケンシンの服装で城に出現し、ケンシンはエイプリルの服装で下水道に出現する。衣装はその場に残り、中身だけが入れ替わるのだ。
でも、そんな中途半端な形でタイムスリップさせる意味が全く分からない。「その時代に合った服を着せておこう」という狙いかもしれないが、それも含めて「なんで?」と思うのよ。
その服装によって別の時代から来たことを気付かれないのならともかく、そうじゃないわけで。
タイムスリップした時点で「その時代に合わない異分子」として扱われるのなら、服装もそのままでいいでしょ。

「なぜエイプリルとケンシンが入れ替わったのか」という謎について、ドナテロは「誰かが過去に行くと、入れ替わりに同じ体重の人間が過去からやって来る」という法則を説明する。
ってことは、エイプリルとケンシンは同じ体重なのかよ。
っていうか、そんな法則なんてわざわざ説明する必要も無いどころか、その設定自体が要らない。タートルズの活躍を描くべきなんだから、彼らがタイムスリップした後は、戦国時代を舞台にして話を進めればいいのだ。
ところが前述の設定があるせいで、ケンシンがいるマンハッタンの様子が挿入される。
でも、そんなのは全く要らないのよ。タートルズどころか、エイプリルもいないわけで。

下水道にはケイシーがいるけど、「だから何なのか」ってことだしね。
そもそも1作目で登場した時から、邪魔な奴にしか思えなかったし。わざわざ復活させても、まるで嬉しいと思わないキャラクターだわ。
しかも、復活させたのに、エイプリルと恋仲になった1作目の設定は完全に無視されているし。
なので「タートルズの協力者」という要素だけが使われるんだけど、戦闘要員としてのキャラなんて要らないでしょ。そんなのはスプリンターに任せておけばいいわけで。

っていうか繰り返しになるけど、タートルズがタイムスリップしたら、後は戦国時代だけで話を進めるべきであって。
だからケンシンはタイムスリップさせず、戦国時代でタートルズと対面させればいい。
っていうかさ、マンハッタンのシーンで何が描かれるかというと、「ケイシーが衛兵たちに服を与えて着替えさせる」「苛立ったケンシンが元の時代へ戻ろうと考えると、ケイシーがテレビを付ける」「テレビのアイスホッケー中継に衛兵たちが夢中になる」「ケイシーが衛兵たちにアイスホッケーを教えようとする」いった様子だけだ。
そんなの、わざわざ挿入するほどの意味があるかね。

タイムスリップの要素を持ち込んだ作品では、カルチャー・ギャップを活用するケースが多い。
「タイムスリップしたキャラが、初めて見る風景や道具に驚く」とか、逆に「その時代にいる人々が、初めて見るキャラに驚く」とか、そういうシーンを用意するのは、ベタではあるかもしれないが、作品を面白くできる可能性が高い。
本作品の場合、タートルズというキャラがいるわけだから、さらにギャップが追加される。
戦国時代の人々からすると、「初めて見る現代のアメリカ人」だけでなく「亀のニンジャ」に対する驚きもあるわけで。
だが、そういう要素を使う意識は、ものすごく低い。

もちろんタートルズを見た面々が驚く様子はあるが、それが後には続かない。
「最初は恐ろしい怪物だと思い込んで退治しようとしていたが、次第に気持ちが変化していく」とか、「最初は困惑していたが、だんだん仲良くなっていく」とか、そんなドラマは全く膨らまない。
一方のタートルズも、初めての場所や道具にアタフタする様子は皆無で、あっさりと順応してしまう。
どういう方向から見ても、この映画は「戦国時代の日本にタートルズがタイムスリップする」というアイデアを有効活用する意識が感じられない。

タイムスリップするキャラをタートルズだけに限定し、ケンシンがマンハッタンへ来る設定も排除してしまえば、もっと「タートルズが戦国時代の人々と交流する」といったドラマに時間を使うことが出来たはずだ。
そうすれば、「最初は驚きの連続だったタートルズが戦国時代に馴染んでいく様子」とか「村人たちのタートルズに対する態度の変化」を充実させられただろう。
ぶっちゃけ、この設定で物語を構築するのなら、ケイシーどころかエイプリルも登場させない方がいいんじゃないかと。彼女を使っても、それで物語が面白くなっている箇所なんて全く無いし。
ただ、それだとアメリカ人俳優が1人も顔出しで登場しなくなるので、興行的に厳しいかもしれんけど。

終盤に入り、ホイットがウォーカーのスパイだったことが明らかになる。
だけど、彼がスパイとして仕事をするためには、「エイプリルがタートルズに救助される」「エイプリルがホイットの求めに応じて檻から出してくれる」「タートルズがミツや村人たちと会って受け入れられる」といった幾つもの条件をクリアしなきゃいけないわけで。
それは設定に無理がありまくりでしょ。
途中で「ホイットがスパイだった」という要素を急に盛り込んだんじゃないかと疑念を抱くぐらい、その展開はギクシャクしているぞ。

エイプリルに惚れたホイットは終盤に入り、彼女を撃とうとしたウォーカーに抗議して捕まる。
だけど、そんなトコで急に善玉へ鞍替えされても、タイミングとして遅すぎるのよ。
最終的に善玉として使いたいのなら、ミツを連行する辺りでは、もう罪悪感を抱いたり迷いを感じたりしている状態にしておかないと間に合わない。最後にロープを切ってウォーカーを転落死させる仕事を担当しても、その展開に乗れない。
むしろ、そんな中途半端な扱いにするぐらいなら、ホイットは最後まで悪党にするか、裏切る手順を排除して善玉で貫くか、どっちかにしておいた方がいい。

あと、ホイットがケイシーと瓜二つだという設定は結局、何の意味も無いままで終わっている。それはイライアス・コティーズの出番を増やすための設定だったのかもしれないけど、だったらケイシーをタイムスリップさせるか、あるいはタイムスリップ要素を無くしてマンハッタンで話を進めればいいのよ。
それと、ホイットがウォーカーを転落死させるのも、そのせいでタートルズがボスを退治できずに終わるので、すんげえ消化不良だし。
「タートルズに殺人はさせられない」という配慮かもしれんが、そもそもタートルズが強敵と戦うシーンが皆無なのよね。
なんせ相手は人間オンリーだし、そういう意味でも初期設定の欠陥が大きいわ。

(観賞日:2017年1月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会