『ミュータント・タートルズ』:1990、アメリカ&香港
ニューヨークでは窃盗や家宅侵入など、様々な犯罪が急激に増加していた。それらの事件を起こしているのは、全てフット団という集団だった。シュレッダーという男が率いるフット団は、不良少年たちによって組織されていた。テレビ局『チャンネル6』のエイプリル・オニールは、多発する事件について番組で報道する。その夜、彼女は帰宅途中でフット団の犯行現場を目撃し、逃げようとして捕まった。しかし何者かが街灯を割り、暗闇の中で一味を縛り上げた。警官が現場に到着すると、エイプリルを救った集団は姿を消していた。
謎の集団は現場にサイを忘れてしまい、それを見つけたエイプリル鞄に入れて持ち去った。フット団を退治したのは、亀のミュータントであるタートルズの面々だった。タートルズのラファエロ、ミケランジェロ、ドナテロ、レオナルドは隠れ家のある下水道へ戻り、師匠のスプリンターに報告を入れる。4匹はスプリンターの下で、忍術の鍛錬を積んでいた。ネズミのミュータントであるスプリンターは、彼らに「いかなる場合でも決して見られてはならん。影に徹して生きるのが我々の宿命だ」と説いた。
サイを忘れたラファエロは取りに戻ろうとするが、スプリンターから「諦めるんだ」と諭された。人間を装って町に出たラファエロは、ひったくりの少年2人組にケイシー・ジョーンズという男が襲い掛かろうとする現場を目撃する。ラファエロは過剰な暴力を批判し、彼と戦う。しかしケイシーに殴り倒され、逃げられてしまった。ラファエロが隠れ家に戻ると、スプリンターは師匠であるヨシハマ・タケシからの教えを語る。スプリンターは怒りを抑制するよう説き、「どんな危機に遭っても家族や兄弟を忘れるな」と告げた。
次の日、エイプリルは上司のチャールズ・ペニントンから、昨夜の出来事を報告しなかったことについて咎められる。チャールズの息子であるダニーは、父の財布から勝手に金を盗む。エイプリルは警察署へ取材に赴き、フット団の犯罪を野放しにしているスターンズ署長を糾弾する。その様子をテレビで見たシュレッダーは、エイプリルを捕まえるよう手下たちに命じた。その夜、地下鉄構内で1人きりになったエイプリルは、覆面姿のフット団に襲われた。エイプリルが殴られて気絶した直後、彼女を尾行していたラファエロが飛び出してフット団を退治した。
ラファエロがエイプリルを隠れ家へ運び込むと、スプリンターは彼の行為を許した。介抱を受けたエイプリルは目を覚まし、スプリンターとタートルズを見て驚愕する。スプリンターは15年前から下水道で暮らしていること、以前はヨシハマ・タケシのペットだったことを彼女に語る。師匠の動きを見て忍術を学んだスプリンターはニューヨークへ移住し、ある事情で宿無しになった。そして下水道で彼は、4匹の子亀を見つけた。近くには奇妙な筒があり、そこから漏れたスライムの中を4匹は這い回っていた。翌朝になると、スプリンターと子亀は大きさも知性も2倍に成長していた。子亀が人間の言葉を喋り始めたので、スプリンターは忍術を教えたのだと語る。
タートルズはエイプリルを自宅まで送り届け、ピザを御馳走になる。楽しい時を過ごしたタートルズが隠れ家へ戻ると何者かに荒らされており、スプリンターが姿を消していた。タートルズはエイプリルの家へ行き、スプリンターが消えたことを話して泊めてもらう。一方、ダニーは泥棒を働いて警察に逮捕されており、それを知ったスターンズはチャールズに電話を入れた。翌朝、チャールズの訪問を受けたエイプリルは焦るが、タートルズは身を隠した。
チャールズはダニーを伴っており、エイプリルに休みを取るよう要求する。ダニーは何者かが隠れているのに気付くが、タートルズを発見できなかった。エイプリルは要求を拒否し、チャールズは仕方なく立ち去った。ダニーはフット団のアジトへ行き、不良仲間と会った。シュレッダーの副官であるタツは、フット団候補の少年たちに武術を教えている。ダニーはシュレッダーに、タートルズの居場所を教えた。エイプリルがテレビ番組でスターンズを批判したので、チャールズは彼から怒りの電話を受けた。
ラファエロが1人で屋上に出ていると、フット団が襲い掛かった。危機に陥るラファエロだが、気付いた仲間が加勢する。タツが増援を伴って現れると、ケイシーがタートルズの味方として駆け付けた。アパートが炎上する中、タートルズはエイプリル、ケイシーと共に車で脱出した。その際、ケイシーはチャールズからの電話を聞き、エイプリルが解雇されたのを知った。シュレッダーは拉致したスプリンターを拷問して「あの化け物たちは何者だ?」と尋問するが、何も聞き出せなかった。
エイプリルは何年も使っていない郊外の一軒家へ到着し、ドナテロとケイシーはオンボロ車を修理する。ラファエロは大怪我を負って意識を失っており、ミケランジェロが付きっ切りで様子を見る。ラファエロが目を覚ましたので、レオナルドは大喜びした。タートルズは武術の鍛錬を積み、エイプリルとケイシーは親密な関係になる。瞑想していたレオナルドは、スプリンターの声を耳にした。彼は仲間たちを呼び、焚き火の前で集中して念じるよう促した。全員が集中するとシュレッダーの幻影が現れ、心を打つメッセージを伝えた…。監督はスティーヴ・バロン、キャラクター創作はケヴィン・イーストマン&ピーター・レアード、原案はボビー・ハービック、脚本はボビー・ハービック&トッド・W・ランジェン、製作はキム・ドーソン&サイモン・フィールズ&デヴィッド・チャン、共同製作はグレアム・コットル、製作総指揮はレイモンド・チョウ、撮影はジョン・フェナー、美術はロイ・フォージ・スミス、編集はウィリアム・D・ゴーディーン&サリー・メンケ&ジェームズ・サイモンズ、衣装はジョン・ヘイ、音楽はジョン・デュ・プレ。
出演はジュディス・ホーグ、イライアス・コティーズ、レイモンド・セラ、マイケル・ターニー、ジェームズ・サイトウ、ジェイ・パターソン、トシシロ・オバタ(小幡利城)、ジョシュ・ペイス、ミシェラン・シスチ、リーフ・ティルデン、デイブ・フォーマン、サム・ロックウェル、キティー・フィッツギボン、ルイス・カンタリニ、ジョセフ・ドノフリオ、ジョン・D・ウォード、ジュー・ユー、カサンドラ・ウォード=フリーマン、マーク・ジェフリー・ミラー、ジョン・ロジャース他。
声の出演はコリー・フェルドマン、ジョシュ・ペイス、ロビー・リスト、ブライアン・トッチ、ケヴィン・クラッシュ、デヴィッド・マクハーレン、マイケル・マコノヒー。
ミラージュ・スタジオから出版されたアメリカン・コミックを基にした作品。
監督は『エレクトリック・ドリーム』のスティーヴ・バロン。
エイプリルをジュディス・ホーグ、ケイシーをイライアス・コティーズ、スターンズをレイモンド・セラ、ダニーをマイケル・ターニー、シュレッダーをジェームズ・サイトウ、チャールズをジェイ・パターソンが演じている。
タツ役の小幡利城(おばた・とししろ)は、合気道や抜刀術など様々な武術を習得してロサンゼルスへ渡り、1990年に真剣道を創始した武道家。
ラファエロのスーツアクターを担当したジョシュ・ペイスは、声優も兼任している。他は全て別の人間が担当しており、ドナテロの声優はコリー・フェルドマン。まず最初に触れておかなきゃいけないのは、「徹底的にティーンズ向けの映画ですよ」ってことだ。しかも、かなり年齢層は低めに設定されているものと思われる。
そもそもフット団の犯行はスリや窃盗で、麻薬や殺人のような凶悪犯罪には手を出していない。構成員は全て少年で、年齢的なことだけでなく見た目からして「かなりタチの悪い不良グループ」に過ぎない。映画に登場する「犯罪組織」としては、かなり未熟で幼い。
だからガキを使って悪さをしているシュレッダーも、かなり陳腐でチンケに奴に見える。
言ってみりゃ特撮ヒーロー物の怪人みたいなモンよ。それも、あまり質が高くない特撮ヒーロー物ね。冒頭シーンでエイプリルを助けるのはタートルズだが、その時点では姿を見せない。
でも、どうせ観客の大半(っていうか、たぶん全員)が、「それはタートルズだ」と分かっているはずだ。そして、タートルズがどういう見た目なのかも知っているはずだ。
だから、「暗闇の中でフット団を縛り上げ、姿を見せずに去る」という形を取っても、まるで意味が無い。むしろ、さっさと見せちゃった方がいい。
しかも、その直後、下水道に戻ったタートルズの姿を見せちゃうのよ。だったら、ノンビリ歩きながら喋っている姿じゃなくて、悪党を退治するアクションシーンを初登場にした方が絶対に得策だろ。そんなタートルズの初めてのアクションは、ラファエロがケイシーと戦うシーンで訪れる。
で、武器を持つケイシーを余裕の態度で諭したラファエロが「やめておけ、怪我させたくない」と言うんだし、何しろ相手は普通の人間なので、軽く懲らしめて圧倒的な力の差を見せ付けるんだろうと思っていた。
ところが、逆にケイシーの攻撃を受けて倒れ込み、あっさり逃げられてしまうのだ。つまり、ラファエロが情けなく負けているのである。
いやいや、バカなのかと。
そこでタートルズの強さを見せず、ただ情けなく敗北する様子を見せて何の意味があるのか。何をどう計算しても、それは0点のシーンだぞ。エイプリルがフット団に襲われた翌日、チャールズは「今日からオンボロのバンまでエスコートを付ける」と言っている。
ところが彼女が地下鉄に乗る時は、誰も警備を付けていない。
取材中よりも、その後の方がよっぽど危険が大きいんじゃないのか。
っていうか、地下鉄の構内でエイプリルが一人きりになるってのは、随分と都合がいいわな。
あと、テレビを見ていてエイプリルに気付いたラファエロが彼女を尾行していたのは、なぜなのかサッパリ分からんぞ。地下鉄の駅でラファエロがフット団を退治するシーンで、初めて「タートルズが悪党をやっつける」というアクションシーンが到来する。
だけど10秒にも満たないので、最初の格闘シーンとしては全く物足りない。
っていうかさ、なんで最初のアクションをラファエロだけに担当させるのよ。
やっぱり初めての格闘シーンは、タートルズ全員のアクションにしておくべきじゃないのか。そうすれば、仮に1匹辺り10秒だったとしても、合計で40秒は稼げる計算になるんだし。スプリンターはタートルズに対し、「決して姿を見られてはならん」と厳しく説いている。
ところがラファエロがエイプリルを隠れ家へ連れ帰ると、注意することも無く、運び出すよう指示することも無く、普通に面倒を見ている。
せめて「姿を見られないように目を隠して介抱する」という処置ぐらい取ればいいものを、ノホホンと姿をさらしている。で、「こういう事情がありまして」とベラベラ喋っている。
いやいや、序盤でタートルズに話していた教えを忘れちゃったのかよ。エイプリルはスプリンターの説明を聞くと、何の疑いも抱かず、あっさりと受け入れる。
すんげえ呑み込みが早い奴だな。まるで北尾光司のプロレスデビュー戦で相手を務めたクラッシャー・バンバン・ビガロのように物分かりがいいわ(その例えは分かりにくいぞ)。
そして話を信じただけでなく、タートルズを自宅へ招いて楽しくお喋りするぐらい、あっという間に打ち解けている。
それを「テンポがいい」と好意的に受け入れることが出来る人は、たぶん少数派だろう。すんげえ忙しい展開としか思えんわ。タートルズがエイプリルの家から隠れ家へ戻ると荒らされており、スプリンターが消えている。その段階で、まだ映画開始から30分も経過していない。
慌ただしいだけでなく、色んなことを盛り込もうとして無駄にゴチャゴチャしている。
その一方で、中身はスッカスカなのだ。
矛盾しているように思えるかもしれないけど、そういう感想になっちゃうのよ。
つまり、盛り込もうとしている要素は色々とあるけど、全てがペラペラってことよ。何よりも大事なのは「タートルズは何者か」という部分にあるはずだが、そこからしてボンヤリしている。
スプリンターが「こういう経緯でタートルズが誕生した」ってことは軽く説明するけど、そういうことではないのよ。「タートルズは正義のヒーローで、ニューヨークの平和を守るために戦っている」という肝心な部分が明確に示されていないってことなのよ。
彼らが正義のため、あるいは市民を守るために戦っているのか、それてもフット団を退治するために戦っているのか、そこがフワフワしている。そこをイコールのように見せているけど、それは違うわけでね。
っていうか、なぜタートルズがフット団と戦うのか、なぜ犯罪を防ぐために奔走するのか、その理由もサッパリ分からないし。「タートルズがフット団と戦う」という要素があり、「フット団が邪魔なエイプリルを排除しようとする」という要素がある。ぶっちゃけ、その2つだけを軸にシナリオを構成してもいいんじゃないかと思うぐらいだが、そこに「ダニーがグレていて犯罪に手を染める」という要素が入って来る。
この段階で、もう「邪魔だなあ」と感じさせる。
だけどティーンズ向けの映画だから、「悪ガキが更生する」というエピソードも入れたかったんだろう。
でも、それならダニーはタートルズとの交流で更生すべきだろうに、なんでスプリンターとの交流で感化されるんだよ。だったらタートルズは要らないじゃねえか。序盤でシュレッダーがエイプリルを排除しようとしたんだし、スターンズがチャールズを使って圧力を掛けようとする手順もあるんだから、「エイプリルがフット団の標的になり、彼女を守ってタートルズが戦う」という展開にしておけばいい。
でも前述したように、「隠れ家が荒らされてスプリンターが消える」という手順を用意してしまう。
そのスプリンターはフット団に拉致されているんだが、なんで簡単に隠れ家を発見されているんだよ。
っていうか、タートルズの師匠だから強いはずなのに、なんで簡単に拉致されているんだよ。スプリンターが姿を消したんだから、タートルズは一刻も早く見つけ出すよう行動すべきだろうに、エイプリルの家でノンビリと過ごしているだけ。
ドナテロは「何が出来る?エイプリルの情報を待つだけだ」と言っているけど、だからって「何もしないで時間を浪費する」ってのはダメだろ。
それは即ち、映画としても「話が先に進まない」ってことになるわけで。
そのままじゃマズいから「フット団が襲って来る」という展開を用意しているけど、スプリンターを拉致された後もタートルズが受け身オンリーで積極的に動かないってのは、どう考えても下手な脚本だわ。エイプリルのアパートにフット団が襲来した時も、またラファエロが単独で戦う形になっている。そこからラファエロがエイプリルの部屋に落下し、ようやくタートルズとしての格闘アクションになる。
で、そこにタツが参加し、さらにタートルズの戦いが続くのかと思いきや、ケイシーが加勢に駆け付けるのだ。
そりゃあ、ラファエロが屋上へ出た時、彼が双眼鏡で覗いていたので、たぶん加勢するんだろうとは思っていたよ。だけど、なんで「誰かの危機にタートルズが加勢」じゃなくて「タートルズの危機にケイシーが加勢」という形を取るのよ。
それだとタートルズよりもケイシーが強いみたいじゃねえか。
っていうかさ、ケイシーって完全に「要らない子」なのよ。原作のキャラだから登場させたんだろうけど、邪魔なだけなのよ。最初は邪魔なエイプリルを拉致しようとしたシュレッダーだが、すぐにスプリンターを拉致する。そしてエイプリルを拉致する目的は、すっかり忘れ去ってしまう。で、その後はタートルズを捕まえようとしている。
目的がコロコロと変わっていくのね。
そもそもタートルズを見つけ出したいのなら、スプリンターを人質にしておびき寄せればいいだけでしょ。スプリンターを尋問するより、遥かに利口な方法だろ。
っていうか、そうじゃないのなら、なぜスプリンターを拉致し、ずっと生かしておくのか分からんわ。原作コミックを映画化するにあたって重要なポイントの1つが、「どういう方法でタートルズを表現するか」ってことだ。
今ならVFXの技術が進化しているので、そんなに色々と考える必要も無いだろう。ぶっちゃけ、「CGで描く」という選択肢しか無いだろう。
しかし1990年という時代なので、まだCGの技術が今と比べれば遥かにに劣っていた。
そこで製作サイドが採用したのは、まずは「キグルミ」である。
スーツアクターがタートルズのコスチュームを着て芝居をするってことだ。これがスパイダーマンのようなヒーローなら、そのコスチュームは軽いので、ほとんど動きの制限は気にする必要が無いだろう。しかしタートルズのコスチュームは重量があるし、おまけに動きにくい。それなのに「忍術の使い手」という設定だから、身軽な格闘アクションを見せなきゃいけない。
で、これが見事にやってのけているんだから、スーツアクターの皆さんは素晴らしい仕事ぶりだ。
そんなタートルズのスーツだが、ジム・ヘンソンの工房がマペットを製作し、顔の動きは操演で表現されている。
ってなわけで、スーツアクターとジム・ヘンソンズ・クリーチャー・ショップの仕事だけは称賛に値する映画である。(観賞日:2016年12月12日)