『ミュータント・クロニクルズ』:2008、イギリス&アメリカ

氷河期が終わりを迎える頃、死のマシーンが飛来した。それは地球人をミュータントに変える目的を持ち、宇宙からやって来た。マシーンによる大殺戮の後、勇者のナクダインが現れた。ナクダインは古代地球人の部族と共に戦い、マシーンはロスト・シティーに封印された。東ヨーロッパの山岳地帯に住むナクダインの子孫のみがマシーンの真実を語り継ぎ、神聖なる書物「クロニクル」に記した。西暦2707年、世界は4つの企業によって支配されていた。極東のミシマ、ヨーロッパのバウハウス、アフリカのインペリアル、そして西のキャピトルである。この4社は残り少ない地球の資源を巡り、互いに終わりなき戦いを続けていた。
ヨーロッパでバウハウスがキャピトルに対する再攻撃の準備を整えている頃、戦場の地下ではマシーンが息を潜めて待っていた。大雨が降る中、キャピトルのミッチや戦友のネイサンたちはバウハウスの部隊と戦闘になる。すると激しい砲撃によってマシーンの封印が解かれ、ミュータントに変貌した兵士たちが殺戮を開始した。バウハウスのスタイナーはキャピトルの仕業だと誤解し、ミッチに襲い掛かった。ミッチが反撃して部下のヘスースたちがスタイナーに銃を向けていると、周囲でミュータントが暴れる。ネイサンはミッチと仲間たちを逃がすため、現場に留まってミュータントの群れと戦った。
寺院で仲間の僧侶たちと暮らすブラザー・サミュエルは報告を受けて、クロニクルを開いた。クロニクルでは「ナクダインの志を継ぐ者が現れて世界を救う」と予言されており、サミュエルは4社に協力を依頼した。企業体のトップであるコンスタンティンは残された時間が少ないと知り、重要人物を地球外の植民地へ脱出させることを決断した。人類再生のために地球を捨てるという彼の判断に、サミュエルは「宇宙船が足りません。全人類の脱出は不可能です。それに敵は宇宙のどこに逃げようと、必ず追って来ます」と訴えた。
サミュエルは「望みはある。20の兵と船が必要だ。少人数で地下へ潜ってマシーンを破壊する」と語るが、コンスタンティンは賛同しない。サミュエルが仲間たちの元へ戻ろうとすると、コンスタンティンは「船をやるが、20人は乗れない。数を減らすしかない」と言う。彼は脱出用チケットを渡し、「これで人を雇える」と告げた。コンスタンティンは地球に留まると決め、代わりにサミュエルを船に行かせた。サミュエルが去った後、コンスタンティンはミュータントの群れに包囲された。
ミッチはネイサンの家を訪れ、彼の妻であるアビーと10歳になった娘のグレースに会う。彼はアビーに、ネイサンが敵と遭遇して行方不明になったことを伝えた。ミッチが酒場にいるとヘスースから話を聞いたサミュエルが現れ、人類を救うための協力を要請した。ミッチが拒否すると、彼は「ヘスースは貴方がチケットを欲しがっていると言っていた」とチケットを差し出した。ミッチは心中するつもりだったアビーとグレースに脱出用チケットを渡し、任務を受けることにした。
サミュエルはミッチの他にヘスース、インペリアルのジョン・マグワイア、ミシマのヴァレリー・デュヴァルとキム・ウー、スタイナーらを選んだ。彼は寺院にメンバーを集め、クロニクルの予言について語る。仲間の僧侶はミッチたちに、「廃墟の町に古い教会がある。地下からトンネルを通ってロスト・シティーに行き、仕掛けを使ってマシーンを破壊する」という計画を説明した。使う仕掛けは祖先が封印する前のマシーンから取り外した物だが、詳細は分からないと彼は説明した。さらに僧侶は、「その仕掛けはマシーンの中央に設置される物で、信管は機械式で仕掛けにセットしてキーを回す。マシーンのどこかにキーがあるので見つけてほしい」と述べた。
スタイナーはミッチたちにバウハウスが捕獲して監禁しておいたミュータントを見せ、細胞に壊滅的ダメージを与えないと殺せないと説明する。ミュータントが鎖を引き千切って暴れようとすると、サミュエルの仲間である修行僧のセヴェリアンが剣で始末した。最後のミサが開かれ、サミュエルは神に祈った。翌朝、ミッチたちは剣を渡され、機長のマイケルズが操縦する飛行機に乗り込んだ。火星へ向かう脱出船団を見送った後、中間地点を過ぎた輸送機はミュータントの操る民間機と遭遇した。敵機の攻撃を受けた輸送機は炎上し、ミッチたちは脱出ポッドで降下する。パラシュートを開いても速度が落ちないのでッチたちは焦るが、予備を使って何とか着地した。
深手を負っていたマグワイアはポッドに残ることを決め、ミッチに頼んで手榴弾を貸してもらった。外に出たミッチが煙草を吸っていると、ポッドが爆発した。現在地が目標から12キロも離れていたため、ミッチたちは市街地を進むことにした。ミッチは荷物を持って先を急ぐ難民を目撃し、後を追った。すると数名の兵士たちが、脱出用チケットを入札させて価格を吊り上げていた。卑劣な金儲けをする連中に激怒したミッチは、全員を乗せるよう要求した。彼は要求を無視した1人の兵士を射殺し、残った相棒に命令を飲ませた。
ミッチたちは廃墟となった教会に足を踏み入れ、ロスト・シティーへ通じる地下墓地を進む。地下へ続く60階分のエレベーターシャフトを見つけた一行は、キムを見張り役に残して順番に降下することにした。するとミッチとサミュエルが途中まで降りた時点でロープが終わり、60階より深いことが判明した。クロニクルを確認したサミュエルは誤って墜落しそうになるが、足場に着地した。サミュエルは潜んでいたミュータントに襲われるが、ミッチが助けた。他の面々も次々に降下するが、ミュータントに襲われたので必死で迎撃する。一方、キムもミュータントの群れに包囲され、エレベーターに乗り込んで銃撃する。しかしロープが切れてエレベーターが高速で落下し、ミッチたちの眼前で爆発した…。

監督はサイモン・ハンター、脚本はフィリップ・アイズナー、製作はエドワード・R・プレスマン&ティム・デニソン&ピーター・ラ・テリエール&スティーヴン・ベラフォンテ&プラス・ミシェル、製作総指揮はスティーヴ・クリスチャン&アレッサンドロ・カモン&フレドリク・マルンベリ&リー・J・ソロモン&クリスチャン・ハルシー・ソロモン&チャールズ・フィンチ&ステファン・ビボー&ジョン・カッツ、共同製作はスラジュ・ゴヒル、製作協力はサラ・ラムジー、撮影はジェフ・ボイル、美術はキャロライン・グレヴィル=モリス、編集はショーン・バートン&アリソン・ルイス、衣装はイヴ・バール、視覚効果監修はサイモン・カー、音楽はリチャード・ウェルズ。
出演はトーマス・ジェーン、ロン・パールマン、ジョン・マルコヴィッチ、デヴォン青木、ショーン・パートウィー、ベンノ・フユルマン、アンナ・ウォルトン、トム・ウー、スティーヴ・トゥーサン、ルイ・エチェガライ、プラーズ・ミシェル、ショウナ・マクドナルド、ロジャー・アシュトン=グリフィス、クリストファー・アダムソン、ニコラス・ボール、ジョージナ・ベリマン、ジョージナ・ブライス、リチャード・バドル、ジャッキー・チャン、ティム・ダニエル・クラーク、ヴィエル・クルーム、デズ・ドラモンド、クリストファー・ダン、ジャック・フィニー、ニコラス・ゲックス、デヴィッド・ヒューイット、サイモン・ハンター、マーク・ホロウェイ他。


スウェーデンの同名テーブルトークRPGを基にした作品。
監督はCMディレクター出身のサイモン・ハンターで、長編映画は2作目。
脚本は『イベント・ホライゾン』のフィリップ・アイズナー。
ミッチをトーマス・ジェーン、サミュエルをロン・パールマン、コンスタンティンをジョン・マルコヴィッチ、ヴァレリーをデヴォン青木、ネイサンをショーン・パートウィー、マキシミリアンをベンノ・フユルマン、セヴェリアンをアンナ・ウォルトン、キムをトム・ウー、マグワイアをスティーヴ・トゥーサン、バレーラをルイ・エチェガライ、マイケルズをプラーズ・ミシェルが演じている。

死のマシーンが宇宙からやって来た目的について、冒頭のナレーションで「地球人をミュータントに変えること」と語られる。
でも、それは目的じゃなくて、手段でしょ。何か目的があるから、それを達成するために地球人をミュータントに変えるんでしょ。
で、その「地球人をミュータントに変える目的」が、まるで分からない。
それと「マシーンによる大殺戮の後」というナレーションも入るけど、地球人をミュータントに変えるのが目的じゃなかったのかよ。殺したらミュータントに変えられないだろうに。

少し後にはクロニクルを開いたサミュエルが内容を読むシーンがあり、そこでは「黎明期に天で戦いが起こった。追放された敵は地球に落とされて悪の星となり、嫉妬と憎悪をもたらした。そして誇りを打ち砕き、人を悪魔に変えることを使命としてマシーンを作り上げた。マシンは死者の魂を奪い、闇の力を植え付けた」と言う。
だけど、やっぱり何のことだかサッパリ分からない。
そこで改めて説明しなきゃいけないってことは二度手間だし、手間を掛けても全く効果は得られていないし。

最初のナレーションによる解説が終わると、西暦2707年の戦場のシーンが描かれる。
しかし遠い未来のはずなのに、戦場は第一次世界大戦や第二次世界大戦と言われても全く分からない様子だ。
兵士たちの装備も、武器も、戦闘方法も、集まっている塹壕も、どこを見回しても「未来」を感じさせる要素に乏しい。
一応、戦車っぽい乗り物だけは「過去の戦争には無かった道具」として存在するけど、裏を返せば「それぐらいしか無い」ってことだ。

これは「低予算だから」ってのが何の言い訳にもならないぐらい、完全なる手抜きと断言できる。
「前回の戦争で世界が崩壊し、世紀末的な状況になっている」ってことでもないからね。
だったら最初から、第一次世界大戦や第二次世界大戦の時代設定にしておけば良かったでしょうに。
「それだと4つの企業が支配している設定が使えない」と思うかもしれないけど、パラレル・ワールドにしちゃえば使えるよ。「僕らの知っている歴史とは異なる20世紀」にしちゃえばいいのよ。

ただ、もっと簡単な解決方法があって、それは「4つの企業が支配している設定を使わない」ってことだ。
4つの企業が支配するようになった経緯は全く説明されないけど、そこは別にいいとしよう。それより問題なのは、「その設定、ほぼ無意味」ってことなのよ。
どうせ早い段階で、4つの企業が対立している状況は終了するし。
「対立していた連中が仲間になる」という展開ではあるが、それは「4つの企業が支配している」という設定が無くても描くことが出来る。「その企業に属する兵士ならではの特徴」があるわけでもないし。

あと、実は「険悪だった連中が冒険を通じて団結する」というドラマも無いので、実は対立構造さえ無意味なのよね。
サミュエルは出発前に「我々は固い絆で結ばれるだろう」という予言の内容を語るけど、固い絆なんて全く感じない。そして各人の個性も、まるで発揮されていない。
「言葉を持たないクールな女剣士」というキャラ設定が用意されているセヴェリアンも、大半のシーンでは単なる旅の道連れでしかない。
それなりに存在感を見せるキャラにしても、戦士としての技能や個性はアピールできていない。

最初に「マシーンはロスト・シティーに封印された」と語っているが、なぜ二度と復活しないように破壊しないのか。破壊できないのなら、それも説明しておくべきでしょ。
ナクダインの子孫のみがマシーンの真実を語り継いでいるが、他の人間が誰も語り継がない理由も不明。
そんな子孫であるサミュエルはコンスタンティンに「地球を救うには20の兵が必要」と言うが、なぜ20人なのかも謎。もっと多くてもいいでしょ。
それもクロニクルに書いている人数なのか。しかも、すぐに数を減らすことになっちゃうし。
だったら最初から、20という具体的な数なんて出さなきゃ良かったのよ。

サミュエルは最初にミッチに声を掛けるが、なぜ彼を選んだのかも良く分からない。
で、ここから「サミュエルがメンバーを集める」という手順に入るのかと思ったら、ミッチ以外は「こんなメンバーを選びました」ってのをサミュエルの語りで処理するだけ。
「ジョンはチケットの受け取りを拒否した」「ヴァレリーはシングルマザー」「スタイナーは貴族の称号を持つ」という程度の情報が提示されるだけ。
それぞれの性格や特技を紹介するためのシーンは、何も用意されていない。

なぜ彼らが「人類を救うための任務」というボンヤリした依頼を引き受けたのか、その事情も全く描かれない。
マシーンの存在や人間がミュータントに変身させられることを、彼らは知っていたのか。そういうことも良く分からない。
しかも、語りで紹介されるのはヘスースからスタイナーまでの5名だけ。他にも何人かメンバーはいるのだが、まるで紹介されないまま話が進められる。
っていうか、寺院に招集された時は他にも何人かいたはずなのに、出発したらミッチ&サミュエル&ヴァレリー&スタイナー&セヴェリアン&キム&マグワイア&ヘスースだけになってんのよね。ってことは、他の連中は戦いに参加しないサポート役ってことだったのか。

サミュエルが集めたメンバーが出発する時には、蒸気で動く飛行機が使われる。
ここは第一次世界大戦や第二次世界大戦じゃ無理だけど、「架空の第二次世界大戦」なら出来ないことも無い。
あと、ガジェットに力を入れまくっているなら「そこに面白さを特化した方針」でもいいんだけど、そこまで徹底しているわけでもないんだよね。
しかも、その飛行機は全く活躍しない内に役目を終えちゃうのよ。数少ないガジェットも、ものすごく勿体無い形で片付けているのよ。

深手を負っていたマグワイアはポッドに残ることを決め、ミッチに頼んで手榴弾を貸してもらう。
それって「ミュータントを巻き添えにして自爆する」という行動を取るためのネタ振りに見えるけど、ミュータントが近くにいる状況ではないのよね。
なので何のために手榴弾を借りたのかと思ったら、外に出たミッチが煙草を吸っている背後でポッドが爆発する。
いやいや、ただ自殺するために使うのかよ。大切な武器なのに、勿体無いことをするなよ。そして無意味なことをするなよ。

ミッチが卑劣な金儲けをしている兵士たちに憤慨し、全ての難民を船に乗せる要求を飲ませるシーンがある。
ここでミッチの優しさを描写したかったのかもしれないが、ただの余計な道草になっている。
ミッチには可及的速やかに遂行せねばならない任務があるんだし、そっちに集中して物語を進めるべきだよ。時間に余裕があるならともかく、そんなわけでもないんだし。
ミッチの慈愛の精神をアピールしたいのなら、それは「仲間と共に任務を遂行する」という流れの中で消化すればいい。それが出来ない理由も無いでしょ。

終盤、ミッチはミュータントに引きずられているネイサンを発見し、仲間と別れて助けに向かう。
しかしネイサンは瀕死の状態に陥っており、ミッチは仕方なく射殺する。
だけどネイサンを助けることも出来ず、ミュータントに変貌するわけでもなく、敵を倒すための情報を与えることも無いのなら、「ミッチが彼を救う」という手順は何の意味があるのかと。
いや、たぶん「ミッチに別行動を取らせている間に他のメンバーを減らす」ってのが目的なんだろうけど、消化したい手順があるからって主人公に無意味な行動を取らせるなよ。

ミッチが仲間の元へ戻るとミュータントとの戦いで次々に殺されており、残っているのはセヴェリアンだけ。つまり形としては、「肝心な時にミッチが勝手な行動を取って、その間に仲間が殺された」ということになるわけだ。
そういう意味でも、前述したミッチの行動を用意したシナリオは大間違いだ。
後で引きずられていたヴァレリーととスタイナーは救助するけど、「だからOK」ってわけでもない。ミッチがいない間にサミュエルが死んでいるだけでも、シナリオの欠陥としては大きいぞ。
あと、どうせスタイナーとヴァレリーも直後の展開で次々に死ぬので、「なんだかなあ」と言いたくなるし。

(観賞日:2021年10月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会