『マペットの宝島』:1996、アメリカ

フリントの海賊船で副船長をしていた大男のビリー・ボーンズは、呪われた島に自分たちが財宝を埋めたことをベンボウ提督亭の客たちに語る。その日は、15人が上陸し、フリントだけが船に戻った。フリントは島に戻る前に死亡し、宝の地図を持っているのが誰なのかは未だに分かっていない。店で働くジム・ホーキンズ少年と仲間のゴンゾ&リゾも、その話を聞いている。ボーンズはジムたちに、「松葉杖の男には気を付けろ。あいつは恐ろしい奴だ。ここに来たら俺に知らせろ」と告げた。
女将のブルヴェリッジ夫人は酔っ払っており、ジムたちを「こんなに散らかってるじゃないか」と叱責する。ジムは理不尽に扱き使われている生活に嫌気が差しており、ゴンゾ&リゾに「父さんみたいに海の男になりたいよ。僕の年にはボーイとして中国へ行って、副船長にまでなったんだ」と吐露する。彼は冒険に憧れており、ゴンゾ&リゾと海へ出る妄想を語った。不安で眠れないボーンズは部屋から酒場へ戻り、ラム酒を出してくれとジムに要求した。
そこへボーンズの水夫仲間だった盲目のピュー老人が現れ、「逃げられると思っていたのか。仲間に分け前を渡さないつもりだったな」と告げる。彼はボーンズに死の宣告書を渡し、高笑いを浮かべて店を後にした。海賊が殺しに来ると知ったボーンズは、怯えて逃亡の準備を急ぐ。「俺が宝を取りに行く。松葉杖の男には渡さない」と言うが、苦しくなって倒れ込んでしまう。彼は隠し持っていた宝の地図をジムに託し、「松葉杖の男に用心しろ。尖った物は持ち歩くな」と言い残して絶命した。
ジムたちが慌てて部屋を出ると、海賊が乗り込んで来た。ボーンズの死を知った海賊は、ジムが地図を持っていると確信して捕まえようとする。ブルヴェリッジ夫人は裏口からジムを逃がし、海賊と戦う。海賊に見つかったゴンゾ&リゾは、誤って火薬を爆発させてしまった。酒場が炎上する中、ゴンゾ&リゾは脱出する。ジムはゴンゾ&リゾを連れて、宝探しへ出掛けることにした。彼らは町へ行き、造船会社のトレローニを訪ねた。するとトレローニは出掛けており、愚かな息子しか残っていなかった。
ジムたちが地図を見せると息子のトレローニは「間違いなく宝の地図だ」と言う。彼はジムたちに、父と研究開発をしているリヴジー博士と助手のビーカーを紹介した。ジムが事情を話すと、トレローニは船と資金の提供を買って出た。彼は乗組員も手配し、ジムたちを港へ案内した。ボーイとして船に乗り込んだジム&ゴンゾ&リゾは、コックのジョン・シルバーと会う。シルバーはジムたちを歓迎し、相棒であるロブスターのポリーを紹介した。シルバーに右脚が無く松葉杖を使っていることを知り、ジムたちは狼狽した。
副船長のアローは船員を集め、スモレット船長を迎えた。スモレットはジムに、「君の父さんを知ってた。いい男だった」と言う。ジムはゴンゾからシルバーについて「松葉杖だぞ」と警告するよう促すと、「いい人みたいだよ。それにコックだし、危なくないよ」と軽く言うた。船が出港すると、アローが点呼で船員を確認する。スモレットはジムやトレローニたちをキャビンへ呼び、「悪党とゴロツキばかりだ。誰が雇った?」と声を荒らげた。するとトレローニは、シルバーの助言で雇ったのだと説明した。
ジムはシルバーと話し、副船長の父が死んだという同じ過去を持つことを知って驚いた。シルバーが「水夫たちの間では、誰かが宝の地図を持っているという噂だ」と言うと、ジムは何も知らないフリをした。水夫に化けた海賊3人組はゴンゾとリゾを捕まえ、地図を渡すよう要求した。そこへアローが現れ、3人組を捕縛してスモレットの元へ連行する。スモレットはアローに、3人を閉じ込めるよう命じた。彼はジムをキャビンへ呼び、安全のために地図を預けるよう命じた。ジムが仕方なく地図を差し出すと、スモレットはアローに地図を保管するよう指示した。アローは戸棚の引き出しを開け、地図を入れて施錠した。
イギリスを出てから1ヶ月半が経過し、シルバーは閉じ込められていた3人組の様子を見に行く。シルバーは「ここから出してくれよ」と頼まれるが、ジムが食事を運んで来たので無関係を装った。ジムはシルバーとの会話で、地図をスモレットに渡したこと、戸棚に隠してあることを喋ってしまった。深い霧に覆われた夜、シルバーはアローを騙して救命ボートの安全を確認するよう仕向けた。アローが救命ボートに乗り込むと、彼は鍵と帽子を預かった。
アローがボートで去るとシルバーは帽子を海に浮かべ、船から落ちて死んだように偽装した。スモレットが船員を集めてアローの葬儀を執り行っている間に、シルバーは3人組を牢から出して地図を入手させた。ジム、ゴンゾ、リゾはシルバーと3人組の話を盗み聞きして、船員を皆殺しにしようと企んでいることを知った。ジムは急いでスモレットの元へ行き、地図を盗み出したシルバーが反乱を起こす気だと知らせる。スモレットはシルバーに、水夫を率いて島に上陸するよう指示した。
シルバーは手下たちを引き連れてボートに乗り込むが、ジムを騙して連れ去った。上陸したシルバーが「俺たちの仲間に加えてやる」と誘うと、ジムが迷わず拒絶した。スモレットはゴンビ&リゾと共に、ジムの救出に向かった。すると船に残っていたシルバーの手下たちは、トレローニ&リヴジー&ビーカーを拘束した。シルバーはジムを脅し、父の形見であるコンパスを差し出させた。スモレットたちは島の部族に捕まり、司祭長は「お前たちは聖なる土地を汚した」と告げた。
そこへ部族の女王が来るが、それが元恋人のベンジャミンだったのでスモレットは驚いた。彼女は船で置き去りにされ、部族に迎えられて女王になっていたのだ。ベンジャミンは自分を捨てたスモレットを殴って昏倒させ、縛り付けるよう部族に命じた。一方、シルバーたちはジムに地図を開かせ、そこに記された洞窟に辿り着いた。しかし洞窟にあった宝箱を開けると、中身は空っぽだった。怒った海賊が「ジムを殺そう」と言い出すと、シルバーはジムに逃げるよう指示した。「どうして助けてくれるの?」とジムが訊くと、彼は「おまえが好きだからさ。それだけは信じてほしい」と告げた。シルバーは海賊に発砲し、ジムを洞窟から脱出させる…。

監督はブライアン・ヘンソン、原作はロバート・ルイス・スティーヴンソン、脚本はジェームズ・V・ハー&ジェリー・ジュール&カーク・R・サッチャー、製作はマーティン・G・ベイカー&ブライアン・ヘンソン、製作総指揮はフランク・オズ、製作協力はマイケル・ジャブロー、撮影はジョン・フェナー、美術はヴァル・ストラツォヴェック、編集はマイケル・ジャブロー、衣装はポリー・スミス、視覚効果プロデューサーはトーマス・G・スミス、歌曲作曲はバリー・マン&シンシア・ウェイル、音楽はハンス・ジマー。
出演はティム・カリー、ケヴィン・ビショップ、ジェニファー・サウンダーズ、ビリー・コノリー、ダニー・ブラックナー、ピーター・ジーヴス、ハリー・ジョーンズ、デヴィッド・ニコルズ、フレデリック・ウォーダー他。
マペット・パフォーマーはフランク・オズ、デイヴ・ゴールズ、スティーヴ・ホイットマイア、ジェリー・ネルソン、ケヴィン・クラッシュ、ビル・バレッタ他。


ジム・ヘンソンが創作した人形のマペットを使い、スティーヴンソンの小説『宝島』を映像化した作品。
監督はジム・ヘンソンの息子で『クリスマス・キャロル』を手掛けたブライアン・ヘンソン。
アンクレジットだが、『サンダーバード』『サンダーバード6号』のデヴィッド・レインが演出している部分もあるらしい。
脚本は『フック』『ドラキュラ』のジェームズ・V・ハートと『マペットの夢みるハリウッド』『クリスマス・キャロル』のジェリー・ジュール、TVシリーズ『恐竜家族』のカーク・R・サッチャー。

オープニング・クレジットでは、マペットのキャラクターが人間の俳優と同じ扱いで表記される。マペットが『宝島』のキャラを演じているという形だからだ。
なので、シルバーを演じるティム・カリーの後には、カーミット(スモレット役)とミス・ピギー(ベン役)の名が表記される。
マペットのゴンゾとリゾは本人役で登場し、ジムをケヴィン・ビショップ、ブルヴェリッジ夫人をジェニファー・サウンダーズ、ボーンズをビリー・コノリーが演じている。
酒場や船では、人間の俳優とマペットが共存している。
ピュー、トレローニと執事、リヴジーやビーカー、アローや海賊3人組といった面々は、全てマペットだ。

序盤、ボーンズが死ぬという出来事が起きる。海賊に襲われたわけではなく、どうやら心臓発作なので、殺人ということではない。だが、その前に死の通告書が届いているので、海賊に殺されたようなモノだ。
どっちにしろ、マペット映画と「死」ってのは、あまり相性が良くないように思うんだよね。
ビリー・コノリーは「マペット映画で死んだ唯一の男」とネタにしていたらしいけど、それぐらいマペット映画で誰かが死ぬってのは珍しい。そして、そんな珍しさは、この映画には不要だ。
ジムが宝の地図を受け取って船に乗り込めば、それで物語としては成立する。だから、絶対にボーンズを殺さなきゃいけないわけではないのよね。

そのエピソードでは、酒場が爆発するという出来事も起きる。アクシデントではあるが、犯人はゴンゾとリゾだ。
ブルヴェリッジ夫人の店を崩壊させただけでなく、下手すりゃ彼女は死んでいたかもしれない。
なのにゴンゾとリゾが全く罪悪感を抱いていないので、そこは大いに引っ掛かるんだよなあ。ブルヴェリッジ夫人が嫌な奴ならともかく、ピンチになったらジムを逃がしてくれるような「実は優しい人」という描き方になっているんだし。
「大爆発」という派手なイベントを用意したくなるのも分かるけど、実は爆発させる必要性も無いしね。ジムたちが店から上手く逃走すれば、それで事足りるわけで。

この映画の最も大きな問題点は、「シルバーとジムの関係を軸にした物語である」ってことだ。
何しろ『宝島』なので、それは当たり前のことだ。
「何を今さら」と思うかもしれないが、前述したようにシルバーとジムを演じているのは人間の役者だ。しかし同時に、これはマペット映画でもある。だからマペットの人気キャラであるカーミットやピギーが、主要キャラとして登場する。
そしてマペット映画である以上、マペットが主役になるのも当たり前だ。
つまり、2つの当たり前が矛盾する形になっているのだ。

ジムとシルバーを主役として扱うパートがある一方で、カーミットが主役になっているパートもある。
それを組み合わせることで構成しているのだが、そこの融合が上手く行っているとは言えない。ジム&シルバーとカーミットの関係性は、そんなに強いわけでもないしね。
ジムやシルバーからすると、カーミットは「ただの船長」に過ぎないわけで。
ジムとカーミットが強い絆で結ばれているとか、シルバーとカーミットが友人同士だったとか、そんな設定は無いわけで。

『宝島』という物語において、カーミットが担当する船長のポジションって、単なる脇役に過ぎないんだよね。それはゴンゾとリゾも同じで、っていうか彼らに至っては原作に無いポジションだ。
なので『宝島』の物語を進める中でカーミットたちを絡ませようとすると、どうしても無理が生じてしまう。
人間とマペットの関係が軸ならいいけど、人間同士の関係が軸なので、マペットの扱いが難しくなるのは当然のことだ。
ただ、この問題を解決するのは簡単で、ジムのポジションをマペットにしておけばいいのだ。それだけで全て解決できる。
ジムとシルバーの両方を俳優に演じさせるから、「じゃあマペットって要らないよね」ってことになっちゃうのよ。

マペットをちゃんと扱わなきゃいけないので、カーミットが部族に捕まるとか、ベンジャミンと再会するとか、ベンジャミンがシルバーと旧知で財宝を隠しているといった要素が持ち込まれている。
ただ、そういう展開が描かれると、「だったら素直にカーミットを主役として話を作ればいいのに」と思っちゃうんだよね。
「でも『宝島』の主役はジムでしょ」と問われたら、「そもそも『宝島』を使わなきゃいいだけじゃないのかな」と言いたくなるし。
ジムはカーミットの救出に来るし、もちろん存在意義場充分すぎるほど見せているのよ。だけど彼とカーミットの両方を勃てなきゃいけなくて、そこのバランスが難しくなっちゃってんのよね。

マペット映画のお約束として、ミュージカル・シーンが何度も盛り込まれている。そこではマペットたちの歌う様子が描かれているので、もちろん彼らが主役になる。
そういうシーンによって、マペットの存在意義が生じていると言えなくもない。
シルバーやジムが歌うシーンもあるので、脇に追いやられるわけじゃないしね。
ミュージカル・シーンがが映画の質や面白さを高めているかというと、そこは微妙なトコではあるんだけど、それはひとまず置いておくとしよう。

(観賞日:2020年2月23日)


第19回スティンカーズ最悪映画賞(1996年)

ノミネート:【誰も要求していなかった続編】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会