『Mr.&Mrs. スミス』:2005、アメリカ

ジョンとジェーンのスミス夫妻は倦怠期に突入し、結婚カウンセラーの元に通っていた。出会った時期についてさえ、ジョンは5年前、 ジェーンは6年前と記憶が食い違っている。2人はコロンビアの首都ボゴタのホテルで出会った。警官が一人旅の外国人客を調べ始めた ため、2人はカップルを装った。そのまま2人は親しくなり、すぐに結婚を決意した。ジョンは友人エディーから「早すぎる」と反対 されるが、気持ちは変わらなかった。ジェーンは部下ジャスミンに、お互いに出張が多くて好都合だと語った。
こうしてジョンとジェーンは結婚し、夫婦生活を始めた。ジョンは建築設計事務所の経営者、ジェーンはコンピュータのエンジニアとして 、互いに多忙な日々を送っていた。だが、それは表向きで、実は2人とも別の本業を持っていた。ジョンもジェーンも、異なる組織の 殺し屋だったのだ。そして2人は仕事だと称して外出し、殺しの任務を遂行していたのだ。そして、互いに秘密を抱えた生活が続く中で、 すれ違いの多さから夫婦仲は悪化していったのだ。
ジョンは組織から、FBIに護送される青年ベンジャミンを始末する任務を指示された。一方、ジェーンもベンジャミン抹殺の指令を 受けていた。砂漠の小屋で護送ヘリを待ち受けていたジェーンは、仕掛けた装置を通りすがりの男が壊すのを目撃した。それはジョン だったが、顔が見えないためジェーンは気付かない。ジェーンは男の行動を見て、民間人ではなく殺し屋だと気付き、狙撃する。銃撃を 受けたジョンは、相手がジェーンとは気付かずバズーカ砲で反撃した。
結局、2人の争いで爆弾が作動してしまい、どちらもベンジャミン抹殺の任務に失敗した。ジョンは現場に残された装置を技術屋グウェン に解析してもらい、その持ち主がジェーンだと知った。一方、ジェーンは部下の監視映像を解析し、男がジョンだと知った。帰宅した2人 は、何食わぬ顔で相手の様子を窺う。だが、うかつな行動でジョンに見抜かれたと察知したジェーンは、隙を見て車で逃走を図る。後を 追ったジョンは、誤って彼女を撃ってしまう。
ジョンはエディーの家へ行き、ジェーンはジャスミンたちと合流する。どちらの組織も、正体を知った相手は48時間以内に始末しなければ ならないというルールがある。ジェーンは部下を連れて自宅に戻り、ジョンが隠していた武器を全て廃棄した。ジョンはジェーンのアジト に侵入し、様子を窺った。ジェーンは部下と共に逃亡し、ジョンはチャンスがありながら撃つことが出来なかった。
ジョンはジェーンが移動したビルを突き止め、エレベーターに乗り込んだ。それを待ち受けていたジェーンはエレベーターを停止させ、 爆弾を仕掛けたことを告げて退散するよう脅した。ジョンが「やってみろ」と言うので、ジェーンは部下に爆破を指示した。だが、実際に 部下がエレベーターを爆破すると、ジェーンは慌てて「なぜボタンを押したの?」と口にした。
その夜、ジェーンがレストランで涙をこぼしていると、無事に生き延びたジョンが現れた。2人は周囲に気付かれないよう銃を構えるが、 その場で殺し合いに発展することは無かった。ジェーンは隙を見て店から逃亡し、ジョンは車で後を追った。2人は自宅に戻り、激しい 戦いを繰り広げる。だが、互いに銃を向け合った2人は、愛を再確認する。抱き締め合った2人は、そのまま朝を迎えた。しかし、ジョン とジェーンの組織が2人を抹殺するため、刺客を送り込んできた…。

監督はダグ・リーマン、脚本はサイモン・キンバーグ、製作はルーカス・フォスター&アキヴァ・ゴールズマン&エリック・マクラウド& アーノン・ミルチャン&パトリック・ワックスバーガー、共同製作はキム・ウィンザー、製作協力はヴァリーナ・ブレイル、製作総指揮は エリック・フェイグ&ゲイヤー・コシンスキー、撮影はボジャン・バゼリ、編集はマイケル・トロニック、美術はジェフ・マン、衣装はマイケル・ カプラン、音楽はジョン・パウエル。
出演はブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー、ヴィンス・ヴォーン、アダム・ブロディー、ケリー・ワシントン、キース・ デヴィッド、クリス・ウェイツ、レイチェル・ハントリー、ミシェル・モナハン、ステファニー・マーチ、ジェニファー・モリソン、 テレサ・バレラ、パーレイ・リーヴス、メラニー・トルバート他。


サイモン・キンバーグがコロンビア・フィルム・スクールの卒論を基にして脚本を執筆した作品。
キンバーグは『女と男の名誉』や『ローズ家の戦争』などから着想を得たらしい。
監督は『ボーン・アイデンティティー』のダグ・リーマン。
ジョンをブラッド・ピット、ジェーンをアンジェリーナ・ジョリー、エディーをヴィンス・ヴォーン、ベンジャミンをアダム・ブロディー 、ジャスミンをケリー・ワシントンが演じている。

そもそも凄腕の殺し屋が一緒に暮らしている相手の素性に気付かない(銃の隠し場所も知らない)ってのは苦しい設定だが、その辺りの 御都合主義は別に構わない。荒唐無稽な話として、余裕で受け入れられる範囲だから。
ただ、肝心の「荒唐無稽なお話」の部分が著しく足りていない。使えそうなネタは色々と盛り込んでいるのに、これっぽっちも有効活用 していない。
まずスミス夫妻の馴れ初めを描く滑り出しからして、ダラダラしているなあという印象を受ける。そこにコメディーとしての面白味が あればいいんだが、ごく普通の恋愛劇だしね。
それでも、結婚後に移ってからの喜劇へ反動を付けるためと解釈すれば、納得することは出来る。
でも実際には、結婚後に場面が移ってもコミカルへの転換は無いのよね。

いっそのこと、最初からスミス夫妻が殺し屋カップルだということを観客に明かしてしまっても良かったんじゃないだろうか。どうせ観客 は見る前から、2人が殺し屋だということを宣伝などで知っているだろうし。
それが無いにしても、せめて結婚後に場面が移ったら、すぐに殺し屋としての姿を見せるべきでしょ。そこはサクサク行くべきなのに、 またダラダラしている。
で、相変わらずコミカルな味付けに対して消極的なのよね。ベンジャミン抹殺作戦の場面でも、どこかシリアスで重厚なテイストが強く なってる。
もっとおバカで弾けたノリにすべきでしょ、この映画。なんで行儀良く生真面目に収めるのか。

スミス夫妻の殺し屋としての行動にしても、どこかシリアスなスパイ・アクションのように描写しているが、もっと荒唐無稽にしちゃった 方がいいんじゃないのか。どうせ「夫婦生活のコミカルと殺し屋生活のシリアス」というコントラストも付ける気ゼロなんだし。
例えば殺し屋の正体が相手にバレないようアタフタするといった部分で、コメディーとしての味付けをすることにも貪欲な姿勢を全く 見せない。あくまでも、オシャレで小粋でクールに見せたいようだ。
でもね、この映画に、そんな「ええカッコしい」の考えは邪魔なのよ。
まあブランジェリーナ(ブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリー)のキャスティングが決まった時点で、客は呼べるかもしれんが、荒唐無稽なアクション・コメディー映画としての 失敗は決まっていたのかもしれないけどね。

ざっくり言うと、「倦怠期の夫婦がケンカして関係修復に至る」という話だ。
で、「夫婦ゲンカは犬でも食わぬ」という教えを律儀に守りたかったのか、そこに周囲のキャラクターを絡めようとする意識は薄弱だ。
母親と同居するエディー、女ばかりのジェーンの組織、ジョンの事務所の老婆の職員、オタクっぽい技術屋の女など、使えそうな脇役は 何人もいるが、総じて存在感が薄い。見事なぐらい、「ブランジェリーナだけが目立てば後はどうでもいい」という、勘違いしたスター 映画になっている。
主役を光らせるために、味のある脇役や存在感のある悪役を配置しようという意識は皆無だ。

組織のルールで48時間以内に相手を殺さなければいけない状況に陥るスミス夫妻だが、「愛した相手を殺さねば」という葛藤のドラマが ほとんど見られないまま戦いが繰り広げられる。
で、どうやって収まりを付けるのか、『ローズ家の戦争』みたいにするわけにも行かないだろうと思っていたら、それまで憎しみ満々で 戦っていた2人が急に抱き合って和解するという、唖然とさせられる展開。
その後、「両方の組織が襲ってくる」→「実は以前から両組織はスミス夫妻の抹殺を企てており、ベンジャミンはそのための囮だったと 判明」→「スミス夫妻が両組織に反撃」という展開へ移っていくが、あれじゃ何の解決にもなってないと思うぞ。
2人が結婚したまま無事に生き続けるには、「組織を壊滅させる」「2人が組織のトップになる」「両組織が仲良くなる」という3つの 選択肢しか無いと思うのよ。
でも、この映画の終わり方だと、組織の刺客を倒しただけでしょ。

余計なお世話だろうが、この映画を改善できるんじゃないかというアイデアを2つ記しておく。
1つは、スミス夫妻が互いの素性を知った時に、互いの組織も戦いに加わる展開にするというもの。
で、だけどスミス夫妻は愛し合っているので相手を殺せず、バレないようにしながら自分の組織の攻撃を妨害するという話にする。
もう1つは、互いの素性を知っても早期にスミス夫妻が手を組み、組織と戦うという話にするという方法だ。

まあ、ともかく本作品は、コメディーになるべき素材なのに、ちっともコメディーらしさが無いってのが致命的。
それともダグ・リーマン監督は、これで「笑いに満ち溢れたコメディーに仕上がったな」とでも思っているのかね。
カツ丼の材料があって「美味いカツ丼を作れ」と言われているのに、ハーブやフォンド・ボーなどを使って味付けし、西洋皿に盛り付けて 「フレンチ風の創作料理」として仕上げているようなモノだぞ、これは。
そんなワケの分からんことをしなくていいから、普通にカツ丼を作れ、カツ丼を。

あと、「コメディーがダメでもアクションはどうなのよ」と思う人がいるかもしれない。
ただね、ダグ・リーマン監督って、なぜか『ボーン・アイデンティティー』で高く評価されているけど、アクション演出は決して上手くないよ。
この映画でも、ジェーンがワイヤーでホテルから地上にハイスピードで降りてくるシーンぐらいじゃないの、魅力あるアクションシーン って。

(観賞日:2008年4月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会