『ミスター・ベースボール』:1992、アメリカ&日本

ニューヨーク・ヤンキースの一塁手ジャック・エリオットは、4年前にはワールド・シリーズでMVPを獲得したスター選手だが、最近は 成績が低下していた。仲間と共に新人のマニュエルをからかって遊んでいたジャックは、コーチのトレイと監督のスキップに呼び出された。 スキップは、球団が優秀な新人デイヴィスを起用し、ジャックをトレードに出すと決定したことを告げた。
ヤンキースのトレードに応じた球団は、日本の中日ドラゴンズだけだった。ジャックは嫌々ながらも決定に従うしかなく、日本へ向かう。 空港に到着すると、通訳のニシムラが待っていた。ジャックは早速、入団会見の会場へ連れて行かれる。マスコミの前で嫌味を並べ立てた ジャックだが、ニシムラは好感を持たれるような日本語に変えて通訳した。
用意された家の狭さに辟易したジャックは翌日、球場へ赴いた。ロッカールームに入った彼は、5年前から日本でプレーするマックスや キャプテンのムカイらチームメイトと顔を合わせた。そこへ現われた監督のウチヤマは、「協調性を大事にしろ、体重を落とせ、ヒゲを 剃れ」と命じた。ジャックはニシムラから、ウチヤマが4度のMVPを獲得し、7試合連続本塁打の記録を持つ元選手だと聞かされる。 ウチヤマは選手から尊敬されており、日本で最も優秀な監督だという。
グラウンドに足を踏み入れたジャックは、客席で練習風景を見守っていたヒロコという女性からディナーに誘われた。練習に参加した ジャックだが、協調性を重んじた内容にバカバカしさを感じた。バッティング練習に入ったジャックは、ホームランを連発する。それを 見ていたウチヤマはスイングに欠陥があると指摘するが、ジャックは聞く耳を持たない。そこでウチヤマは、打撃投手をイトイに変更した。 イトイがシュートを投げると、ジャックは全く打てなかった。
練習後、ジャックはマックスに連れられて馴染みの店へ行き、別チームの外国人選手ライルやビルたちと会う。新聞を見せられたジャックは 、自分が「ミスター・ベースボール」と紹介され、ニシムラが捏造したコメントが掲載されていることを知った。夜、ヒロコとのディナー に出掛けたジャックは、ドラゴンズとの契約でCM出演が決まっていることを教えられた。
試合に出場したジャックは、先制点のチャンスを安全第一のベースランニングでフイにしたり、激しいスライディングを歓迎しない日本の 野球に呆れ、「これがベースボールかよ」と漏らす。CMの撮影現場に行ったジャックはディレクターの注文に不満を漏らし、同席して いたヒロコから「たまには人の言うことに耳を傾けるべき」と忠告される。
読売ジャイアンツとの試合で、ジャックはウチヤマのサインに目を疑った。ランナーを進塁させるためにバントを指示されたのだ。1球目 はバントの構えを見せたジャックだが、内角攻めにバットを引く。2球目はバットを思い切り振るが大ファールになり、3級目もバットを 振って三振に倒れた。試合後、ジャックはウチヤマから命令違反で罰金を払うよう命じられた。激怒したジャックがバットでヘルメットを 打ち飛ばすと、ウチヤマは「前足に体重が乗りすぎて手が返っていないからシュートが打てない」と告げた。
ジャックは代理人のドクに「助け出してくれ」と電話をするが、2割そこそこの打率では無理だと言われる。ある試合でジャックは、 内野ゴロをアウトにしたにも関わらず、審判に「足がベースから離れていた」と判定され、セーフにされてしまう。ジャックは抗議するが 、出てきたウチヤマから「口を慎め」と厳しく告げられる。打席に立ったジャックはデッドボールに怒ってピッチャーに殴り掛かり、乱闘 騒ぎに発展する。ウチヤマはジャックを非難し、ベンチに下がらせた。
休日、ジャックはヒロコに連れられ、彼女の実家へ赴いた。家に到着したジャックの前に現れたヒロコの父親は、ウチヤマだった。そこで ジャックは初めて、ウチヤマが英語を話せることを知った。ウチヤマはジャックを外に連れ出し、彼の打棒が復活しなれば自分もクビに なることを告げる。球団が他の選手を獲得しようとしていたのに、ウチヤマの希望でジャックを選んだため、責任を取らされるのだ。 既にウチヤマは球団社長から、「後任が見つかり次第、クビにする」と宣告されていた。
ジャックはウチヤマから「今までのやり方を捨てろ」と言われ、彼に従ってトレーニングを開始した。ジャックは次第に、チームメイト とも馴染んでいった。打棒が上向きになる中、ドクから連絡が入った。ドジャースがプレーオフに向けて大砲を欲しがっており、ジャック を見るためにGMのゴールドが日本へ行くというのだ。それを知ったヒロコは、「私より野球を選ぶのね」と怒って去って行く。そんな中 でジャックは、7試合連続本塁打記録が懸かった巨人との試合に挑む…。

監督はフレッド・スケピシ、原案はセオ・ペレティア&ジャン・ユンカーマン、脚本はゲイリー・ロス&ケヴィン・ウェイド&モンテ・ メリック、製作はフレッド・スケピシ&ダグ・クレイボーン&ロバート・ニューメイヤー、製作総指揮はジョン・カオ&ジェフ・ シルヴァー、日本側製作総指揮は近藤晋、撮影はイアン・ベイカー、編集はピーター・ホーネス、美術はテッド・ハワース、衣装は ブルース・フィンレイソン、音楽はジェリー・ゴールドスミス。
主演はトム・セレック、共演は高倉健、高梨亜矢、塩谷俊、デニス・ヘイスバート、アート・ラフルー、ニコラス・キャスコーン、ラリー ・ペンネル、藤原稔三、豊原功輔、マック高野、藤井直貴、森永健司、問田憲輔、後藤祝秀、西村譲、 保積隆信、レオン・リー、浜村純、万代峰子、大木正司、藤田朋子、桜金造、高野光、ティム・マッカーヴァー、ショーン・マクドノー、 久野誠、鷲塚美知代、青木伸輔、鈴木林蔵、水島新太郎、苅谷信行、神保悟志、楠見彰太郎、掛田誠ら。


『愛しのロクサーヌ』のフレッド・スケピシが監督したスポーツ・コメディー映画。
中日ドラゴンズが全面協力し、日本で撮影されている。
ジャックをトム・セレック、ウチヤマを高倉健、ヒロコを高梨亜矢、ニシムラを塩谷俊、マックスをデニス・ヘイスバート、スキップを アート・ラフルー、ドクをニコラス・キャスコーン、ゴールドをラリー・ペンネルが演じている。
日本が舞台なので、日本人俳優が多く出演している。ドラゴンズの選手役としては、藤原稔三、豊原功輔、マック高野、藤井直貴、 森永健司、問田憲輔、水島新太郎、苅谷信行、神保悟志、楠見彰太郎ら。他に、ドラゴンズ社長役で保積隆信、ヒロコの祖父母として 浜村純と万代峰子、コーチ役で大木正司、ヒロコの助手役で藤田朋子、審判役で桜金造や掛田誠が出演している。

中日と巨人の試合なのにジェット風船が飛んでいるとか、そんな細かい間違いはどうでもいいが、野球に関するシーンにおかしな点が 幾つもある。
「日本の野球が協調性や規律を重んじている」ということを描写するために、誇張しようという意図だろうか。
例えば、ロッカールームは土足厳禁で、スリッパに履き替える。
チームメイトがジャックをバカにして見下しているという描写もウソっぽい。
むしろバリバリのメジャーリーガーだったんだから、歓迎するんじゃないか。

両手にバットを持ち、しゃがんだまま全員が並んで歩いていくという練習がある。
「足が悪い」というジャックに、ウチヤマは「一緒に練習すれば治る」と言う。自分のペースでの練習を望むジャックに、ウチヤマは 「皆で練習するのが決まりだ」と言い、「イヤならお前のやり方に皆が合わせる」と告げ、本当にジャックの指示で彼に合わせたバカな ダンス練習を全員でやる。
バッティング練習でジャックがグラウンドに唾を吐くと、マックスから「神聖な場所だからやめておけ」と止められる。
先制点のチャンスなのに3塁を回らずにストップするのが日本では当然だとか、ゲッツー阻止の2塁へのスライティングも歓迎されない とか、そんな描写もある。
とにかく「日本の野球は行儀良くやる」ということを徹底してアピールしたがっているようだ。

ジャックがアウトだと思ったのにセーフと判定された時に、ウチヤマは「口を慎め、チームの恥だ、黙って守備をしていろ」と言う。
デッドボールに怒ったジャックが乱闘を始めた時もベンチから出て乱闘の輪には加わらず、ジャックを非難してベンチに引っ込める。
これは有り得ない。
監督は選手の味方となって審判に抗議するし、乱闘の時はベンチから出て行くものだ。
特に、ウチヤマのモデルとなった(と思われる)星野仙一氏なら、判定に選手が不服を漏らしたのに審判の元へ行かないなんて、 有り得ない。

「生意気ヤンキーのジャックがカルチャー・ギャップに触れてイライラする」というのが、本作品のコメディーとしての肝だ。
で、その笑いのために、意図的に「間違いだらけの日本」を描いているのかとも思ったが、どうも違うようだ。
「これは真っ赤なウソですよ」というレヴェルではなく、たぶんアメリカ人からすれば「これが本当の日本なのか」と勘違いする程度に 留まっている。
単純に製作サイドが日本を分かっていなかった、適当な知識だけで描いたということだろう。

その「間違った日本の描写」の大半は野球に関することだが、それ以外でも幾つかある。
例えば、ジャックを取り上げた新聞記事には「Mr.BESUBORU」とローマ字で表記されている(だったら「ミスター」もローマ字 にしろよ)。
ジャックがヒロコと訪れる店はフランス料理店らしく、丸テーブルに椅子で白いワインにフランス料理が出てくるのだが、ウェイトレスは 着物姿でウェイターはタキシードという珍妙な組み合わせになっている。

ヒロコは忠告に耳を貸そうとしないジャックに「アイム・ノット・ライク・ホステス」と告げ、ドジャース移籍の話を受けたジャックが 「一緒にアメリカへ行こう」と誘うと「追っかけの尻軽女じゃないのよ」と怒る。
いやいや、アンタさ、自分からデートに誘い、ジャックの家に行くことを希望し、風呂を沸かして彼を先に入れ、後からバスタオル一枚で 現われてベタベタしておいて、「追っかけの尻軽女じゃないのよ」と言われてもなあ。
「あなたには野球が全てなのよ。私より野球が大切なんだわ」とか責めるし、まあ中身がヒロインとしての魅力に乏しいこと。ただの エロい尻軽女でしかない。

この映画には大きな問題があって、「ジコチュー男ジャックが協調性を持ち、ウチヤマやチームのやり方に従うようになっていく」のを 良いこととして描きながら、一方で厳しい規律を強いるウチヤマのやり方を全面的に良しとはしていないのだ。
ってことは、「ウチヤマの軍隊的な指導は良くないが、それにジャックが従うのは良いことだ」という妙なことになってしまう。
そこの問題を解決するために、ジャックに「ベースボールはゲームだ。もっと楽しめ、選手をリラックスさせろ」とウチヤマの前で 言わせているのだが、ウチヤマが自分の考える野球から「ベースボール」に歩み寄るという部分の描写が薄く、上手く行っていない。
何しろケン・タカクラなので、せいぜい「ぶっ飛ばしてやれ」と言わせる程度にしか、「ゲームを楽しむ」という表現が出来ていないのだ。
選手の遊びに付き合うとか、ユーモラスな部分を出すとか、そこまで砕けさせることが出来ていないのだ。

クライマックスは、それまで敬遠されていたジャックが勝負しか無い打席に立つシーン。
ネタバレだが、ここで周囲がバントだと思っていたのに、ウチヤマは「打て」のサインを送り、にも関わらずジャックはバントを選び、 3塁ランナーに続いて2塁ランナーも返ってサヨナラ逆転勝利を収める。
ここ、『メジャーリーグ』と同じネタを使っているのがキビしいなあ。
それよりもキビしいと思うのは、そのシーン、球団社長は「ここはバントだろう」と言い、マックスも「監督は頑固だからな」と語り、 まるでバントが当然のような描写になっていることだ。
だけどね、その直前の実況では、「2アウト満塁」って言っているのよ。そこでバントさせるのは、普通なら有り得ないぞ。まあ、満塁 だからこそ向こうも敬遠せず勝負してくるんだけどね。
ただ、満塁でバントは進塁の意味が無いから可能性が低いが、まあスクイズだと考えてOKにしよう。
だけど、2アウトだからね。バントで自分が死んだら3アウトだからね。
なぜ「ここはバントが当然」みたいな描写になってんのさ。
もしかすると、製作サイドは日本の野球がベースボールはそこまでルールが違うとでも(4アウトで攻守交替とか)思っていたのか。

(観賞日:2007年3月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会