『モータルコンバット』:2021、アメリカ
1617年。白井流の忍者であるハサシ・ハンゾウは、山奥の家で妻と幼い息子、生後間もない娘の4人で暮らしていた。ハンゾウが水を汲みに行っている間に、氷を操る魔術師のビ・ハンが手下たちを率いて襲来した。妻は娘を隠して息子と逃げようとするが、ビ・ハンに捕まる。ハンゾウが家に戻ると、妻子は氷漬けで死んでいた。ハンゾウは一味を始末してビ・ハンと戦うが、力及ばずに倒れた。ビ・ハンが立ち去った後、ハンゾウは娘の泣き声を耳にして起き上がった。彼は娘の元へ向かおうとするが、全身が炎に包まれて消滅した。直後、人間界の守護神であるライデンが出現し、赤ん坊を発見した。彼は赤ん坊を抱き上げ、雷鳴と共に姿を消した。
人間界には危機が迫っていた。武術大会で9連敗を喫しており、次に敗れると魔界に支配される。だが言い伝えによればハンゾウの血統が蘇り、新たな王者の一派が結成されることになっていた。総合格闘技の選手であるコール・ヤングは、妻のアリソンと娘のエミリーの3人で暮らしていた。彼は試合に出場して相手のラミレスを追い込み、セコンドに就いたエミリーが声援を送った。しかしコールは攻め切れず、逆襲を浴びて敗北した。その様子を、ジャックスという男が見ていた。
魔界の皇帝であるシャン・ツンは、かつてビ・ハンだった部下のサブ・ゼロに「予言の日が迫っている」と話した。彼が「我々は10戦目に負ける」と言うと、サブ・ゼロは「そんな予言はデタラメだ。何世紀も前にハンゾウは殺した」と反論する。しかしシャン・ツンは予言を懸念しており、「モータル・コンバットの開催を阻止する。参加者がいなくなれば大会は行われない」と語る。彼はビ・ハンに、人間界の王者を全滅させるよう命じた。
試合の控室に戻ったコールは、エミリーから手作りのブレスレットをプレゼントされた。そこへジャックスが現れ、コールの胸に刻まれたドラゴンのタトゥーについて質問する。エミリーは彼に、タトゥーではなく生まれ付きの痣だと教えた。コールとエミリーは会場を去り、オープンテラスのバーガーショップでアリソンと合流した。ジャックスは車で張り込み、その様子を観察した。そこへサブ・ゼロが現れ、コールに攻撃を仕掛けた。ジャックスはコールに呼び掛け、家族で自分の車に乗り込むよう告げた。
ジャックは3人を乗せて車を発進させ、ソニア・ブレイドに連絡して「23時に基地で」と伝えた。彼はコールに、サブ・ゼロの狙いは自分たちだと話す。彼は自らの体にあるドラゴンのタトゥーをコールに見せて、「これは選ばれた印だ」と告げた。サブ・ゼロが立ちはだかると、ジャックスはコールに「この車で家族を逃げろ。ソニアに会いに行け」と指示して住所を教えた。彼はコールたちを逃がし、サブ・ゼロと戦う。しかし全く歯が立たず、両腕を失って倒れた。コールは妻子を非難させ、ソニアの元へ向かった。
シャン・ツンは部下のミレーナから、ジャックスは始末したがコールが逃げたことを知らされた。彼はレプティリアンを差し向け、コールを殺すよう命じた。コールはソニアと会い、特殊部隊の所属であること、作戦実行のための基地で暮らしていることを聞く。ソニアは彼に、「ドラゴンのマークは人間界の戦士の印。その印を持つ者が招待されるのが、モータル・コンバット」と説明した。コールは彼女から、「もうすぐ次の大会が開かれる。だから人間界の戦士を揃えるため、貴方を捜した。多くは既に死んだ」と聞かされた。
ソニアはカノウという男を捕まえており、「黒龍会の殺し屋。マークを持った戦士を殺した」とコールに説明する。そのため、ドラゴンのマークはカノウに移動していたが、ソニアは「アンタは選ばれし者じゃない」と睨んだ。ソニアはコールの質問を受け、自分にはマークが無いことを明かした。レプティリアンが基地を襲撃し、コールとソニアが応戦した。拘束の解けたカノウは逃げようとするが、成り行きで戦う羽目になり、レプティリアンを始末した。
ソニアが調べた資料は、戦いの中で燃えてしまった。彼女は戦士が訓練したライデンの寺院へ行くつもりだが、その場所を知らなかった。カノウは場所を知っており、報酬を約束させた上で案内を買って出た。コールたちは飛行機で荒野へ行き、パラシュートで降下した。3人が歩いていると、ライデンに仕えるリュウ・カンが来て寺院まで連れて行く。寺院にはジャックスが保護されており、僧侶たちは両腕を治療するために全力を尽くしていた。
ライデンはコールたちと面会するが、鍛える価値が無いと判断する。コールは「家族が殺され掛けた。助けてくれ」と訴え、家族のためなら命を捨てる覚悟があると告げて訓練を志願した。シャン・ツンがサブ・ゼロとミレーナを率いて寺院に乗り込み、リュウ・カンが攻撃を受けた。そこへ従兄のクン・ラオが駆け付け、彼に加勢した。ライデンはシャン・ツンの元へ行き、「大会前に世界は奪えないぞ」と告げる。シャン・ツンは「だが戦いは禁じられていない」と言い、全員を始末するよう手下たちに命じた。しかしライデンが雷のバリアーを張ったため、シャン・ツンの一味は立ち去った。
リュウとクンはコールたちに、「龍のマークがもたらす奥義が内なる力を生み出す。その力を訓練で解き放つ」と言い、闘技場へ案内した。リュウとクンは奥義を見出すよう求めるが、マークを持たないソニアは訓練への参加を認められなかった。ジャックスはソニアが見守る中で意識を取り戻し、両腕の義手を見て動揺した。コールはクン、カノウはリュウと闘技場で戦うが、まるで歯が立たなかった。コールはリュウに、どうやって奥義を見出すのか尋ねた。リュウは「強い意志が生み出す」と答え、「君はどうやった?」と問われ、彼はコールに、「身寄りが無く放浪していた時、拳法の達人に救われて武術学院に運ばれた。そこで目的を見出し、人身売買の犯罪者を殺してマークを奪った。その時、奥義を得た」と語った。
ジャックスは義手を使ってパンチの練習をしてみるが、「昔の俺じゃない。役に立てない」とソニアに弱音を吐いた。ソニアは「軍での訓練初日、脱落しそうになったけど、貴方に認めてほしくて頑張った。あの時、貴方は言った。やり続けろると証明するか、死ぬまで後悔するか」と語り、やり続けるようジャックスに説いた。夕食の時、カノウはクンに酷評されて腹を立てた。リュウもクンに同調し、カノウを批判した。彼は「もっと怒れ」と言い、クンに挑発されたカノウは目からレーザービームを放つ奥義に目覚めた。
翌日、リュウはカノウに、コールの相手を任せた。コールは一方的に殴られ、まるで相手にならなかった。彼はライデンに、「なぜ俺だけマークを持って生まれた?」と尋ねた。ライデンはコールに、「お前の祖先は地上最強の忍者、ハサシ・ハンゾウだ。彼は妻と息子を殺害され、地獄の底で復讐の時を待っている。私はハサシの娘を救い、その子孫はマークを受け継いだ。その力がお前に伝わっていると思ったが、そうではないと分かった」と述べた。コールは寺院を去り、家族の元へ戻った。
シャン・ツンはサブ・ゼロとミレーナの他に、ニタラ、カバル、レイコ将軍、ゴロー王子を集結させた。彼は手下たちに、ライデンの封印を破壊して敵を全滅させろと命じた。カノウに恨みを抱くカバルは、「奴を利用する」と告げた。寺院へ赴いてカノウと接触したカバルは大金の報酬を約束し、寝返りを承諾させた。カノウはレーザービームで封印を破壊し、シャン・ツンの一味が乗り込んだ。コールの元にはゴローが現れ、戦いが勃発した。家族を守ろうとしたコールは奥義を見出し、ライデンの力で寺院へ舞い戻った…。監督はサイモン・マッコイド、ビデオゲーム創作はエド・ブーン&ジョン・トバイアス、原案はオーレン・ウジエル&グレッグ・ルッソ、脚本はグレッグ・ルッソ&デイヴ・キャラハム、製作はジェームズ・ワン&トッド・ガーナー&サイモン・マッコイド&E・ベネット・ウォルシュ、製作総指揮はリチャード・ブレナー&デイヴ・ノイシュテッター&ヴィクトリア・パルメリ&マイケル・クリア&ジェレミー・ステイン&ローレンス・カサノフ、撮影はジェルマン・マクミッキング、美術はナーマン・マーシャル、編集はダン・レベンタル&スコット・グレイ、衣装はキャピー・アイルランド、視覚効果監修はクリス・ゴッドフレイ、ファィト・コレオグラファーはチャン・グリフィン、音楽はベンジャミン・ウォルフィッシュ。
出演はルイス・タン、ジェシカ・マクナミー、真田広之、ジョー・タスリム、チン・ハン、ジョシュ・ローソン、浅野忠信、メカッド・ブルックス、ルディー・リン、マックス・ハン、シシ・ストリンガー、マチルダ・キャンバー、ローラ・ブレント、メル・ジャーンソン、ネイサン・ジョーンズ、ダニエル・ネルソン、イアン・ストリーツ、篠原ゆき子、宮川蓮、ミア・ホール、デヴィッド・フィールド、クリス・マッケイド、アリス・ナセリー他。
声の出演はデイモン・ヘリマン、アンガス・サンプソン。
日本未発売の対戦型格闘ゲームを基にした作品。
監督はCMディレクターのサイモン・マッコイドで、これが映画デビュー作。
脚本は本作品がデビューのデヴィッド・ルッソと、『ゾンビランド ダブルタップ』『ワンダーウーマン1984』のデイヴ・キャラハムによる共同。
コールをルイス・タン、ソニアをジェシカ・マクナミー、ハンゾウ(スコーピオン)を真田広之、ビ・ハン(サブ・ゼロ)をジョー・タスリム、シャン・ツンをチン・ハン、カノウをジョシュ・ローソン、ライデンを浅野忠信、ジャックスをメカッド・ブルックス、リュウをルディー・リンが演じている。オープニングがデューク・サナダのアクションシーンなので、最終的に負ける役ではあるけど、それだけでも喜べる人は少なくないんじゃないかな。
何をどう見てもB級丸出しのチープな映画だけど、世界的な大ヒット作である『アベンジャーズ/エンドゲーム』の無駄遣いにしか思えないチョイ役出演よりは遥かに嬉しい。
っていうか、なぜ『ジョン・ウィック:パラベラム』の出演を断って、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のカメオ出演を選ぶかねえ。デューク・サナダが消滅すると、今度は浅野忠信が登場する。彼が演じるライデンはゲームそのまんまの見た目になっており、1993年版の映画でクリストファー・ランバートが演じたキャラクターとは全く異なる。
その忠実な再現度は、ゲームの熱烈なファンも納得させられる出来栄えと言っていいんじゃないだろうか。
何しろ今回の映画の製作陣が目指したのは、「ゲームの忠実な再現」なのだ。
ゲームの特徴である「フェイタリティー(Fatality)」も含めて、「ゲームの再現度」に全ての力を注ぎ込んでいる。他の部分は完全に二の次なので、シナリオは当然の如くスカスカでグダグダでヘロヘロに仕上がっている。
そこに関しては、クソみたいな出来栄えだった1993年版と大して変わらない。
ただし、そもそも「格闘ゲームの映画化」という時点で、そうなってしまうのは仕方が無い部分があるのではないか。
格闘ゲームは大抵の場合、基本的な設定だけでストーリーらしいストーリーは無い。
ゲームの設定やキャラを使おうとしたら、それで質の高い脚本を用意するのは難しいでしょ。なので、おのずと「映画としての質」と「ゲームの再現度」、どちらかを選ぶ二択になってしまう。
どっちも両立させるのは、ほぼ不可能だろう。
だってさ、「人間界と魔界が武術大会で対決を繰り返している」「10連敗すると人間界が魔界によって支配される」「予言を阻止するために魔界の王が人間界の王者を始末しようと目論む」とか、色々とツッコミ所がありすぎる設定だらけでしょ。
細かいことを言い出したらキリが無いし、大きい部分だけでもツッコミ所が満載でしょ。観客に休んだり考えたりする暇を与えず、アクションに次ぐアクションで畳み掛けていく構成にするしか手は無いと思うんだよね。
でも、基地でレプティリアンと戦った後、しばらくは休憩に入る。
シャン・ツンの一味が前半の内から寺院に乗り込んで来るが、そのまま本格的な戦いに突入することは無い。リュウがサブ・ゼロに襲われ、クンが助けに駆け付けて、チョロッと手を合わせる程度だ。
どっちの強さや能力を見せる意味でも、中途半端になっている。シャン・ツンの一味が寺院を去ると、訓練のパートに入る。でも敵との戦いじゃないし、アクションシーンとしての魅力には欠ける。
「どうせドラマなんて何の足しにもならないんだから」と割り切って、アクションに特化した構成にする覚悟は見られない。申し訳程度には、人間ドラマを膨らませようとか、キャラの厚みを出そうとか、そういう意識が見え隠れする。
そして、そのことがテンポの悪さに繋がっている。
コールと家族の愛、ジャックスとソニアの師弟関係、リュウとクンの義兄弟の絆など、それなりに要素はあるのよ。
でも、屁の突っ張りにもなってないからね。カノウの裏切りによって寺院での戦いが始まるが、コールとゴローの対決も含めて、異なる場所で同時に複数の戦いが展開され、ちょっと見にくいし、あまり気持ちが高ぶらない。
その後には1対1での戦いがあるが、そういう展開に入っても、やはり気持ちの高まりは今一つ。
そんな中、オープニングだけで消えていたデューク・サナダがスコーピオンとして復活し、コールとサブ・ゼロの戦いに途中参加する。そして、スコーピオンとサブ・ゼロがタイマンで戦う展開になる。
ここでようやく、そして一気に、気持ちが高まる。なので途中でコールが再び加わると、「いや邪魔」と言いたくなる。
コールが主人公なので、途中で加わるのは当然なのよ。でもコールが加わった後も、実質的な主役は、どう見てもスコーピオンだし。
そんなスコーピオンがサブ・ゼロに止めを刺す方法が口からの火炎放射ってのは「ソードアクションじゃないんかい」とツッコミたくなるけど、まあスコーピオンだから仕方が無いか。
で、映画の最後はコールがハリウッドへジョニー・ケイジの捜索に向かうことが描かれ、続編をハッキリとした形で匂わせている。(観賞日:2023年4月3日)