『ミケランジェロ・プロジェクト』:2014、アメリカ&ドイツ
ベルギーのヘント。神父のクロードたちはナチスによる略奪を阻止するため、貴重な祭壇画を教会から密かに運び出した。彼らは変装してトラックに乗り、裏道を使ってブリュッセルへ向かった。1943年3月、フランスのパリ。ナチスのゲーリングはジュ・ド・ポーム美術館を訪れ、親衛隊士官のヴィクトール・シュタールの案内で中に入った。並べてある数々の美術品に満足し、シャンパンで乾杯しようと告げる。シュタールは秘書のクレール・シモーヌに、グラスの用意を命じた。ナチスを嫌悪しているクレールは、ゲーリングが別荘に運ぶ美術品を選ぶ様子を密かに観察した。
1943年8月、イタリアのミラン。英国軍の爆撃により三方の壁と屋根が崩れ、ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』も損傷した。他にも歴史的な財産が幾つも消滅の危機に晒されており、ハーバード大学付属美術館の館長を務めるフランク・ストークスは危機感を募らせていた。彼は文化遺産を守る必要性をルーズベルト大統領に訴え、美術を専攻する若い学者を集めて戦地へ送るよう求めた。しかしルーズベルトは「既に若者は最前線で戦っている」と言い、ストークスに自ら赴くよう指示した。
1944年3月、ニューヨークへ赴いたストークスはメトロポリタン美術館のキュレーターのジェームズ・グレンジャーを訪ね、美術品を救うためグループの「モニュメンツ・メン」への参加を要請した。「6名が参加しており、英国の基地で新兵の訓練を受けながら命令を待つ」とストークスは説明する。現場を引っ張る人物が歴史家のドナルド・ジェフリーズだと聞いたグレンジャーが「刑務所じゃないのか?」と尋ねると、ストークスは父親が金を出して免れたことを教えた。
ストークスとグレンジャーは基地でジェフリーズと合流し、運転手のサム・エプスタインが運転するジープで移動した。他のメンバーは建築家のリチャード・キャンベル、フランスで美術学校の主任だったジャン=クロード・クレルモン、収集家のプレストン・サヴィッツ、彫刻家のウォルター・ガーフィールドという顔触れだ。ヒトラーは故郷であるオーストリアのリンツに世界最大級の美術館を建設する予定を立てており、膨大な美術品をヨーロッパ各地から略奪していた。完成するまで美術品は隠されており、ストークスたちは見つけ出すためフランスに渡る。国立美術館の館長と親しいグレンジャーは先にドーヴィルへ行き、他の面々はノルマンディーに上陸した。ストークスたちは司令部を訪れて命令書を見せ、協力を要請した。しかし司令官は憤慨して拒絶し、取り付く島も無かった。
クレールがアパルトマンに戻ると、シュタールが無断で上がり込んでいた。彼はクレールの弟のピエールがレジスタンスであることを指摘し、なぜ隠していたのかと詰問した。シュタールはピエールが美術品を積んだトラックを奪おうとして射殺されたことを話し、クレールに情報を漏らした疑いをぶつける。クレールは否定するが、シュタールは「レジスタンスだと分かれば親衛隊に身柄を引き渡す」と通告して去った。ドーヴィルに着いたストークスは、連絡員のエミールと合流した。
ストークスは広報部に配属されたエプスタインを発見し、上官がフィールディング少佐だと聞く。ストークスは旧知のフィールディングと会い、部隊が回収した美術品を見せてもらった。ストークスはドイツ語の分かるエプスタインから、捕まったドイツ兵の指揮官が「目的地はジーゲン」と話していたことを知らされた。夜中にトラックの隊列を見たクレールが急いで美術館へ行くと、美術品が持ち去られていた。駅へ走った彼女は汽車で去るシュタールに気付き、「逃がさないからね」と叫んだ。
ストークスはエプスタインを通訳としてチームに加え、仲間の元へ戻った。ストークスはサヴィッツとキャンベルを祭壇画のあったヘント、ガーフィールドはジャン=クロードを前線のアーヘンに派遣することを決める。ジェフリーズはストークスにエプスタインと組むよう指示し、自分は聖母子像があるブルージュの教会へ向かうことにした。ストークスは無線機を修理し、仲間と交信できるようにした。彼は仲間に「この作戦は成功を期待されていない。だが我々は人類の文化と歴史を残すために戦っている」と語り掛け、ヒトラーの目論みを阻止する必要性を説いた。
グレンジャーはエミールが用意した飛行機に乗り、パリに着いた。親友のルネ・アルマン館長と会った彼は、国の所蔵品は無事だが個人所有は全て没収されたことを聞く。グレンジャーはルネの進言を受け、刑務所に収監されているクレールの元へ赴く。クレールはアメリカが美術品を盗むと感じており、グレンジャーに協力しようとしなかった。サヴィッツはヘントの教会を訪れ、祭壇画を積んだトラックがドイツ軍に見つかって神父が殺されたことを知った。
サヴィッツはドイツ兵にライフルを向けられるが、そこへキャンベルがやって来た。彼はドイツ兵に煙草を投げて一緒に吸い、サヴィッツを連れて別れた。ガーフィールドとジャン=クロードが教会で神父から話を聞いていると、ドイツ兵が銃撃してきた。ガーフィールドは囮を引き受け、ジャン=クロードが敵を仕留めるため向かいの建物に突入した。しかし発砲していたのは少年で、彼が降伏したのでジャン=クロードは呆れて外へ連れ出した。
ジェフリーズは連隊長のラングトン大佐に会い、ブルージュの教会を砲撃しないでほしいと要請した。ラングトンは「街には進攻しない。ドイツ軍の撤退を見過ごす」と言うが、ジェフリーズはドイツ軍が撤退する時に街を破壊するはずだと説明する。ラングトンは「ここでは有り得ない」と告げ、護衛の要請を却下した。ジェフリーズは聖母子像を守るため、教会へ赴いた。ドイツの小隊が聖母子像を持ち去ろうとしたのでジェフリーズは発砲するが、反撃を受けて命を落とした。グレンジャーはクレールを釈放し、仮の事務所を用意した。
1944年12月、バルジの戦い。ストークスはグレンジャーと交信し、クレールがソ連兵のような横取り行為を危惧していることを聞かされた。ストークスはクレールから情報を聞き出すよう頼み、「ソ連に先を越されたくない」と告げた。ヒトラーが「自分が死んだり、ドイツが負けたりしたら全てを破壊しろ」という命令書を出したことを知り、グレンジャーはクレールに協力を要請するが拒否された。ドイツのレマーゲンに移動したストークスも命令書の存在を知り、ガーフィールドとジャン=クロードにメルカースへ行くよう指示した。
キャンベルはサヴィッツに付き添ってもらい、歯科医に歯を治療してもらう。2人がミュンヘンに行くと聞いた歯科医は、「パリで美術を学んだ甥がいる。彼が力になれるかも」と話す。甥の家へ案内してもらったサヴィッツとキャンベルは、室内に略奪品が飾られているのを見つけた。ガーフィールドとジャン=クロードはメルカースへ向かう途中、草原にいた馬を見つけて休息を取った。ガーフィールドは茂みに隠れているドイツ軍の小隊に気付き、それとなくジャン=クロードに知らせる。彼は車を走らせ、ジャン=クロードを乗せようとする。銃撃を腹に受けたジャン=クロードは何とか車に飛び乗るが、ガーフィールドに看取られて息を引き取った。
ストークスたちは集合し、作戦を練る。サヴィッツは歯科医の甥が持っていた地図を入手しており、それをストークスに見せた。ジーゲンやメルカースなど幾つかの場所に丸が付けてあり、エプスタインは全ての町の近くに天然資源があることに気付いた。ストークスたちはジーゲンの銅山を調べ、大量の美術品が隠されているのを発見する。そこに聖母子像と祭壇画は無かったが、ストークスたちはメルカースの岩塩鉱を捜索することにした。ストークスから手紙を受け取ったグレンジャーは、メルカースで仲間と落ち合うことをクレールに話す。するとクレールは送別会の名目で彼を自宅に招き、ドイツ軍の情報を詳しく教える。彼女は積荷目録や略奪場所などを記録した台帳を渡し、ジュ・ド・ポームにあった美術品がバイエルンのノイシュヴァンシュタイン城に保管されていることを教えた…。監督はジョージ・クルーニー、原作はロバート・M・エドゼル&ブレット・ウィッター、脚本はジョージ・クルーニー&グラント・ヘスロフ、製作はグラント・ヘスロフ&ジョージ・クルーニー、製作総指揮はバーバラ・A・ホール、共同製作はヘニング・モルフェンター&チャーリー・ウォーバッケン&クリストフ・フィッサー、撮影はフェドン・パパマイケル、美術はジム・ビッセル、編集はスティーヴン・ミリオン、衣装はルイーズ・フロッグリー、視覚効果監修はアンガス・ビッカートン、音楽はアレクサンドル・デスプラ。
出演はジョージ・クルーニー、マット・デイモン、ビル・マーレイ、ケイト・ブランシェット、ジョン・グッドマン、ジャン・デュジャルダン、ボブ・バラバン、ヒュー・ボネヴィル、ディミトリー・レオニダス、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、ホルガー・ハントケ、マイケル・ホフランド、ザッカリー・バハロフ、ミヒャエル・ブランドナー、サム・ヘイゼルダイン、マイルス・ジャップ、アレクサンドル・デスプラ、ディアメイド・マータフ、セルジュ・アザナヴィシウス、リュック・フェイト、エミール・フォン・ショーンフェルス、ウド・クロシュワルド他。
ロバート・M・エドゼルとブレット・ウィッターによるノンフィクション『ナチ略奪美術品を救え 特殊部隊「モニュメンツ・メン」の戦争』を基にした作品。
監督は『グッドナイト&グッドラック』『スーパー・チューズデー 正義を売った日』のジョージ・クルーニー。
脚本も同じく『グッドナイト&グッドラック』『スーパー・チューズデー 正義を売った日』のジョージ・クルーニー&グラント・ヘスロフ。
ストークスをジョージ・クルーニー、グレンジャーをマット・デイモン、キャンベルをビル・マーレイ、クレールをケイト・ブランシェット、ガーフィールドをジョン・グッドマン、クレルモンをジャン・デュジャルダン、サヴィッツをボブ・バラバン、ジェフリーズをヒュー・ボネヴィル、エプスタインをディミトリー・レオニダスが演じている。まず導入部の時点で、その熱の無さに困惑させられる。
ヘントの教会から美術品が運び出されるが、危機に陥る展開は無いまま次のシーンに移る。
かなり後になってから「実はブリュッセルに着く前に略奪されていた」ってことが判明するが、それを隠したまま進めるメリットが全く見えない。
序盤は「戦争や略奪によって文化遺産が次々に失われている」ってのを示す時間帯にしてあるんだから、そこで略奪の様子も描けばいいでしょ。それを描かないことによって得られる物なんて何も無いぞ。ストークスが戦地へ向かう展開にも、やはり何の熱も無い。彼は文化遺産を守る必要性を訴えているが、この時点で熱は低い。
そして若者を送るよう訴えたのに自ら出向くよう指示された時も、何の驚きもなく簡単に受け入れる。
だったら最初から、「自分が行きます」と志願する形にでもしておけばいい。
大統領や周辺の面々が「多くの若者が既に最前線で戦っているので、そっちに人は回せない」と難色を示し、ストークスが立候補するような展開にでもしておけばいい。ストークスが指令を受けると、グレンジャーを訪ねて参加を要請する。ここからメンバー集めの手順に入るのかと思いきや、なんと「既に6名が参加している」という設定。
「任務を遂行するためのチーム集め」ってのは物語を盛り上げるために使える手順なのに、そこを大胆に省略しているのだ。
だから、キャラクター紹介や技能のアピールという機会が失われている。
もちろん後からメンバーは登場するが、ストークスが1人ずつ訪ねる様子は描かれておらず、名前も職種も特技も良く分からない。基地のシーンになってから、順番に名前が紹介され、一部は職業も明かされる。
でも、あまりにも雑で淡白なので、全員の顔と名前と仕事が一致してくれない。
また、技能については相変わらず不鮮明なままだ。「建築家」とか「彫刻家」という紹介はあるけど、それが美術品を守る上で奴に立つ技能に直結するようには到底思えない。
砲撃や略奪から美術品を守ろうとしたら、「戦時下」という特殊な状況で発揮される技能が必要なはずで。そういうのが、いつまで経っても見えて来ないんだよね。単に「美術に造詣が深い」という専門的な知識だけでは、この任務に適しているとは到底思えないのよ。
知識があれば「いかに価値のある物なのか」ってのを判断することは出来るだろうけど、例えば敵か隠した美術品を見つけ出すとか、敵を騙して無事に運び出すとか、そういうのは全く異なる技能になるわけで。
それでも「知識を最大限に活用することで、敵を欺いて美術品を無事に運び出す」という作戦が展開されれば、何の問題も無いよ。
だけど、そんな展開は用意されていないわけで。シュタールはクレールがレジスタンスと繋がっていると確信しているのに、何もせずに放っておく。そして美術品と共に汽車で去り、それを見たクレールが「どこへ行く気?逃がさない」と怒りの形相で叫ぶ。
明らかに立場として強いのはシュタールなのに、何だか立場が逆転しているかのような描写になっている。
たぶん「戦況が不利だと感じてフランスを脱出した」ってことなんだろうと思うけど、そういうことが映画を見ているだけだとサッパリ分からないのよね。
「1944年なのは示しているんだから分かるでしょ」ってことなのかもしれないけど、もうちょっと丁寧な状況説明があった方が親切だと思うぞ。ストークスは無線機が使えるようにした後、仲間に「この作戦は成功を期待されていない。大勢が死んでいく中で、誰が美術品を気にしているのか。だが我々は、人類の文化と歴史を残すために戦っている。それを破壊すれば、人々の存在は無になってしまう。それがヒトラーの望みだ。それだけは断固として阻止しなければ」などと語る。
ここは本来なら、仲間だけでなく観客の心も打つ演説でなきゃダメなはず。
でも実際の所、心の中は無風か、せいぜい凪である。
ここもまた、熱を全く感じない。そこまでに「美術品の略奪が人々に与える影響の大きさ」ってのを、まるで観客に伝えられていないからね。サヴィッツがドイツ兵に銃を向けられ、キャンベルが来て銃を向けるシーンがある。
ここはキャンベルが特技を活かして危機を脱するのかと思ったが、そんなことは無い。言葉が通じないのでキャンベルは煙草を投げ、一緒に吸い始める。
なんか古い映画みたいだな、ジョン・ウェインが主演する西部劇っぽいノリだなと思っていたら、ドイツ兵が「ジョン・ウェイン」と口にしたので思わず笑ってしまった。
ってことは、たぶん意図的に古臭いノリを持ち込んでいるんだろう。
でも、それで映画が面白くなっているのかというと、答えはノーだ。ただ古臭いというだけに留まっている。あと、こういうユルいテイスト自体が、あまり成功しているとは言えないのよね。もっとシリアスに緊迫感を高める方向で演出した方が良かったんじゃないかなあ。
と言うのも、「美術品を守るための戦い」ってのに観客を引き込む力が、著しく不足しているのよね。
前述した「大勢が死んでいく中で、誰が美術品を気にしているのか」という問い掛けへの反論が上手く出来ていないのよ。
だからこそ、もっとシリアス度合いを高めて、観客を引き込むことを狙った方が賢明だったんじゃないかと。ジェフリーズは聖母子像を守ろうとして、命を落とす。でも、そこまでの流れを上手く作れていないから悲劇のカタルシスは無いし、その死に様に心を揺さぶるモノも無い。
どうやらジェフリーズは酒で何か失敗していたらしいが、詳細は分からないままなので、それも彼の死と全く連携していない。
また、死の直前には父への手紙がモノローグで語られるが、親子関係に関する描写は皆無だったので全く効果を発揮していない。しかも聖母子像は奪われちゃうから、酷い言い方だけど「無駄死に」みたいに見えちゃうし。
ジャン=クロードの死に様も似たようなモンで、気持ちの高まりは何も無い。ストークスはジェフリーズの死を知り、必ず聖母子像を奪還しようと心に誓う。では、ジェフリーズの死がきっかけとなって熱く燃える展開に突入するのかというと、そんなことは無い。むしろ、なぜか休憩モードに入ってしまう。
そもそも、ここまでも略奪された美術品は1つも奪還できていないし、隠された美術品を見つけ出すことも出来ていない。ただストークスたちが各地に散らばり、状況を見て情報を集めているだけだ。しかも、集まった情報も大したことは無いし。
なので、見せ場と言えるような盛り上がりが無い。
終盤に入ると美術品の発見が重なるが、そこでも高揚感は皆無。「策を練り、情報を集め、苦労の末にようやく見つけた」という過程が無く、淡々と進んで、あっさりと見つかっている印象なのよね。「グレンジャーが地雷に乗ってしまい、ストークスたちが助ける」というシーンも緊迫感が欠けており、なぜかノンビリした雰囲気が漂っている。だからって全体的に軽妙な喜劇テイストで進めているってわけでもなくて、ただ不必要なユルさに満ちているだけなのよね。
っていうかさ、そこは「ハイルブロンの岩塩抗を調べたら、ドイツ軍はが略奪した美術品を燃やして去った後だった」というシーンだけど、その手順自体がモタ付いていると感じるのよね。
だって、グレンジャーは合流直前にクレールから「ジュ・ド・ポームにあった美術品がバイエルンのノイシュヴァンシュタイン城に保管されている」と教えてもらっているのよ。なので、さっさとノイシュヴァンシュタイン城へ行けばいいのに、と思っちゃうんだよね。
もちろん、そこに全ての美術品があるわけではなくて他の場所にも保管されているってことではあるんだけど、構成としては失敗してるでしょ。(観賞日:2021年6月18日)