『ミスタア・ロバーツ』:1955、アメリカ

第二次世界大戦末期、太平洋上で就労する貨物船のリラクタント号は通称「バケツ」と呼ばれていた。艦長はヤシの木の植木鉢に新たな煙草の吸殻が見つかったことから、夜の映画を中止した。専任士官のロバーツは軍医長に、「昨晩、艦橋から機動部隊を見た。まるで自分も乗っているような気がした」と語る。彼は艦長が大事に育てているヤシの木について、「最も安全な場所にトイレットペーパーと歯磨きを運んだ記念品だ」と皮肉っぽく語った。
リラクタント号に来て2年4ヶ月になるロバーツは、海軍省人事課に宛てて何度も転属願を書いていた。戦闘任務に就きたいというのが彼の希望だが、いつも艦長が怒って不許可にしていた。ダウディー兵曹長はロバーツに、乗組員が1年以上も上陸していないので不和は増す一方だと告げた。荷役の日になると、多くの乗組員が軍医長の元へやって来た。軍医長は上陸を狙った仮病だと見抜いており、どんな説明をする相手にもアスピリンを処方するだけで終わらせた。
若い乗組員のインシグニアは双眼鏡で陸地を観察し、病院に大勢の看護婦がいてシャワー室が覗けることを知った。仲間のマニオンやステファスキー、ワイリーたちも双眼鏡を使い、シャワー室を覗こうとする。些細なことからマニオンとインシグニアが喧嘩になったため、ロバーツとダウディーが仲裁に入った。艦長はロバーツに、処罰するよう命じた。ロバーツは友人の港湾監督官に会って船を保養地に送ってもらおうと考え、艦長に内緒で上陸することにした。
パルヴァーはロバーツに同行を申し入れ、一緒に上陸した。彼はアスピリンを入手する名目で病院へ行き、看護婦のアン・ジラードに話し掛けて遊びに来ないかと誘った。「舟を出して」とアンが了承すると、パルヴァーは「他の看護婦には内緒で」と告げた。艦長はロバーツの手紙に「艦内の不和」とあったことを咎め、激しい怒りを向けた。ロバーツが事実だと言うと、彼は「書き直せ。手紙も最後だ」と要求する。ロバーツが「海軍では誰でも転属を上申できます」と語ると、艦長は「だったら手紙は受け付けてやるが、いつも通り不許可だ」と声を荒らげた。乗組員はロバーツを慕っており、艦長に真っ向から反論する行動を称賛した。
アンがリラクタント号に来たのでパルヴァーは喜ぶが、他の看護婦たちも一緒だった。洗濯係のパルヴァーが専任士官だと嘘をついていることを知ったロバーツは、アンに「洗濯係です」と自己紹介した。アンは双眼鏡で病院を覗いてシャワー室が丸見えだと知り、「帰ってからカーテンを付けなきゃ」と口にした。マニオンたちが「目の保養だったのに」と落胆していると、ロバーツは「命令書が来た。午後4時までに出航し、イリジウム島で港湾監督官に出頭。滞在中はレクリエーション施設を最大限に利用することと書いてある」と説明し、マニオンたちは大喜びした。
乗組員がイリジウム島に上陸する準備をしていると、艦長が「この港での上陸許可は無い」と通達した。ロバーツが抗議に行くと、艦長は「この島にくること自体が誰かの差し金だ」と言い、港湾監督官から酒の令状が届いたことを教えた。ロバーツが「部下に当たるな。彼らに励みが必要だ」と語ると、彼は司令官になる野心を明かして「君も手伝うんだ」と言う。彼は提督から「君の艦の貨物士官は優秀だから手放すな」と言われ、ロバーツを絶対に転属させないと決めたのだ。
艦長は「司令官になるまで邪魔させない」と語り、「上陸許可が欲しければ手紙を二度と書かないと約束しろ」と迫った。ロバーツは憤慨し、艦長を激しく罵倒して拒否する。艦長が「残念なことに私は君を手放さない。いつまでも、この艦で働け」と言い放つと、ロバーツは「二度と手紙を書かない」「皆の前で逆らわない」「この取引を口外しない」という条件を飲んだ。その代わりに全員に上陸許可を出すよう彼は要求し、艦長は承諾した。
乗組員はイリジウム島に上陸し、思い思いに楽しんだ。ミドルトン陸軍大佐の部下がロバーツの元へ来て、ダンスパーティーへの参加を断られた乗組員たちが暴れたことを伝えた。そのせいで陸軍の36人が病院送りになり、50人の婦人の内の2人が押し倒され、1人が殴られ、6人が服を破かれて行方不明になったことを彼は説明した。乗組員の処罰について問われたロバーツは、「艦長がしかるべく処罰する」とだけ告げて部下を帰らせた。
SPがロバーツの元へ来て、提督が激怒していることを伝えた。フランス総督の家に複数の乗組員が押し入り、窓から手当たり次第に物を投げた。案内した陸軍一等兵は、投げられて気絶したと彼は説明した。SPは「停泊中の艦の行動を制限する。艦長は午前7時までに本島司令官に出頭を命じる」と通告し、その場を去った。翌朝、提督の元から艦長は島を追い出されたことに激怒し、ロバーツに「この償いはしてもらう」と告げた。彼は乗組員に「これまで以上に大量の荷物を運ぶ」と言い、ロバーツに作業の監督を命じた。ロバーツが艦長に従順な態度を取るようになったため、乗組員は出世目当てで屈したのだと誤解する…。

監督はジョン・フォード&マーヴィン・ルロイ、原案舞台はトーマス・ヘッゲン&ジョシュア・ローガン、舞台劇プロデュースはリーランド・ヘイワード、原作小説はトーマス・ヘッゲン、脚本はフランク・ニュージェント&ジョシュア・ローガン、製作はリーランド・ヘイワード、撮影はウィントン・ホック、美術はアート・ロール、編集はジャック・マレイ、音楽はフランツ・ワックスマン。
出演はヘンリー・フォンダ、ジェームズ・キャグニー、ウィリアム・パウエル、ジャック・レモン、ベッツィー・パーマー、ワード・ボンド、フィル・キャリー、ニック・アダムス、ペリー・ロペス、ケン・カーティス、ロバート・ローク、ハリー・ケリーJr.、パット・ウェイン、フランク・アレッター、タイガー・アンドリュース、フリッツ・フォード、ジム・モロニー、バック・カータリアン、デニー・ナイルズ、ウィリアム・ヘンリー、フランシス・コナー、ウィリアム・ハドソン、シャグ・フィッシャー、スタビー・クルーガー、ダニー・ボーゼイギ他。


トーマス・ヘッゲンの小説と、1948年の舞台劇を基にした作品。
『モガンボ』『長い灰色の線』のジョン・フォードが監督を務めていたが、胆嚢炎で入院したため途中降板を余儀なくされた。そのため、最後の1週間だけは『若草物語』『クォ・ヴァディス』のマーヴィン・ルロイが代役を務めている。
脚本は『谷間の争い』『彼等は馬で西へ行く』のフランク・ニュージェントが担当。
舞台版の演出と脚本を手掛けたジョシュア・ローガンも一部の監督を務めたが、共同監督ではなく共同脚本としてクレジットされている。
ロバーツをヘンリー・フォンダ、艦長をジェームズ・キャグニー、軍医長をウィリアム・パウエル、パルヴァーをジャック・レモン、アンをベッツィー・パーマー、ダウディーをワード・ボンド、マニオンをフィル・キャリーが演じている。

ビジネスの部分だけで考えれば、興行的には大ヒットしている。アカデミー賞では作品賞と録音賞にノミネートされ、ジャック・レモンが助演男優賞を獲得している。
だから配給したワーナー・ブラザースとしては、手放しで大成功だと言える映画だ。
その一方で、監督したジョン・フォードとマーヴィン・ルロイ、そしてジョシュア・ローガンは、本作品を否定している。
さらに主演のヘンリー・フォンダも、「この映画を軽蔑する」と全否定するようなコメントを残している。

ヘンリー・フォンダは舞台版でもロバーツを演じており、この作品やキャラクターに深い愛着を覚えていた。
ところがジョン・フォードが舞台版と大きく異なる内容に改変したため、フォンダは抗議して激しく対立した。
しかも本作品の撮影時、ジョン・フォードは酒に溺れて不安定な言動が多くなっていた。アル中でマトモに演出することも出来なくなり、ワード・ボンドが手伝わねばならないほどだった。
そのため、現場の雰囲気は悪かったらしい。

ヘンリー・フォンダとジョシュア・ローガンは舞台版が素晴らしいと考えており、それを映像化したいと望んでいた。だから大幅に改変するジョン・フォードの演出に不満を抱いたのは、当然と言えるだろう。
では、なぜジョン・フォードが大幅に改変したのか。それは彼が海軍の退役軍人だったことが大きく関係している。
冒頭で「アメリカ合衆国海軍の全面的な協力に感謝する。太平洋地域の将兵並びに船舶、施設に負うところ多大である」というテロップが出るが、フォードは海軍から撮影協力を取り付けた。
それと引き換えに、海軍という組織を酷い存在として描くことにブレーキが掛かり、批判色を薄めているのだ。

そのため、艦長は徹底してシリアスに鬼上官として描かれるのではなく、マヌケな部分のあるユーモラスなキャラクターに変更されている。
全体的に軽妙さが重視されており、そのせいで「リラクタント号は乗組員が激しい怒りや反発を覚えるようなブラックな現場とは言い難いんじゃないか」という問題が生じている。
艦長は場面によって強い憎しみを抱かせる悪役になるものの、基本的には「乗組員が馬鹿にする相手」という印象が強くなっている。

吸い殻の件で艦長が夜の映画を中止にするのは、仕方が無いだろう。喧嘩したマニオンたちに処罰を下すのも理解できるし、「裸で甲板に出るな」という命令も理不尽とまでは感じない。
マニオンたちの喧嘩は「上陸できないせいで苛立ちが募っている」という設定だが、それよりも精神的に未熟なだけじゃないかと感じる。
艦長がロバーツの転属に不許可を出し続けているのは、理不尽な嫌がらせじゃなくて必要な人材だと思っているからだ。
映画開始から40分ぐらい経過し、補給中で離れられないロバーツに対して「呼ばれたらすぐに走って来い」と怒鳴ったりその後のやり取りでも高圧的な態度を取ったりする辺りで、ようやく艦長は腐れ上官っぷりをアピールしてくれる。

艦長は決して良い上官とは言えないが、前半は悪役としてのアピールが弱い。
まだ彼のアピールが特に何も無い内に、乗組員が仮病での上陸を狙ったり、マニオンたちがシャワー室を覗いて興奮したりする描写が続く。
そういう喜劇としての描写が連続するため、「そんなに艦内の雰囲気は悪くないぞ」と感じる。
パルヴァーも軽薄なチャラ男ぶりを存分に見せ付けるし、みんな余裕がある。
「ブラックな現場での就労が続いて辛い」という深刻な雰囲気は皆無だ。

ロバーツが転属願を何度も出しているのは、「バケツに不満があるから」と言うよりも「前線に行きたいから」ってのが大きな理由だ。
戦時中なのに安全な場所にいるのが我慢できず、「見学するだけじゃ嫌だ。前線で戦いたい」ってことなのだ。
だから就労環境が悪いとか、艦長の人間性に問題があるとか、そういうことはあまり関係が無い。
どれだけ艦長が好人物で働きやすい現場だったとしても、そこにいることをロバーツは望まないのだ。

イリジウム島に上陸してからの乗組員の行動は台詞で説明されるだけだが、明らかに羽目を外し過ぎている。
「ストレスが溜まっていた」「1年ぶりの上陸だった」という言い訳があろうとも完全にアウトだし、笑って許しちゃいけないレベルだ。
しかしロバーツは全く咎めず、「乗組員らしい姿を初めて見た。今まではバラバラだったが、一晩でガッチリとまとまった」と嬉しそうに話している。
翌朝には島を追い出されるので、乗組員は愚かしい行動のツケを払われされる形になっているけど、「だからOK」って問題でもないぞ。

終盤のネタバレを書く。
ロバーツは乗組員の協力により、駆逐艦への転属が決まる。乗組員が艦長のサインを偽造し、勝手に転属願を提出したのだ。
そしてラストシーン、転属したロバーツから乗組員に手紙が届く。戦地で充実した日々を過ごしていることを感じさせる文面だが、パルヴァーは友人から届いた手紙でロバーツの戦死を知る。
パルヴァーはヤシの木を海に投げ捨て、艦長室へ乗り込んで「なぜ映画を中止するのか」と抗議する。
これで映画は終幕となる。

そのエンディングは、「パルヴァーがリラクタント号におけるロバーツの仕事を引き継いだ」という形だ。
だけど、ちっとも上手く物語を着地させているとは感じない。それどころか、「本当にロバーツを戦死させる必要があったのか」と言いたくなる。
「ロバーツの願いが叶って良かったね」じゃダメだったのかと。日本と違って、反戦的な方向で終わらなきゃいけないってわけでもないし。
「ロバーツは安全な場所を捨てて自ら戦闘を望んだから、そんなことになったのだ」という形にも感じるが、そんなトコで「それ見たことか。ロバーツの考えは間違いだった」と描きたいわけでもないだろうし。
この話がハッピーエンドじゃマズい理由なんて、何も無いはずで。

(観賞日:2025年9月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会