『M:i:III』:2006、アメリカ&ドイツ

イーサン・ハントは、オーウェン・デイヴィアンに拘束されていた。デイヴィアンは、「おまえの脳に爆弾を仕掛けた。ラビットフットの 隠し場所を教えろ」とイーサンに要求した。イーサンは「渡したはずだ」と言うが、デイヴィアンは納得しない。彼はイーサンの目の前に、 椅子に縛り付けられたジュリアを連れて来た。デイヴィアンは彼女に銃を向け、ラビットフットのありかを尋ねた。イーサンは「必ず 見つけ出す、協力する」と必死に言うが、デイヴィアンはジュリアの脳天を撃ち抜いた。
時間を遡る。イーサンはIMF諜報員を引退し、今は教官として新人スパイの指導に当たっていた。彼は恋人のジュリアと婚約しており、 パーティーを開いた。ジュリアには、自分の職業を偽って教えてある。イーサンがジュリアの母や弟のリックたちと楽しく過ごしていると、 そこに電話が掛かってきた。それはIMFからの呼び出しを告げるメッセージだった。
イーサンはパーティー会場を抜け出し、直接の上司だったマスグレイヴと会った。マスグレイヴは、イーサンの教え子だったリンジーが 初めて現場に出たが、闇商人のデイヴィアンに捕まったことを告げた。通常なら捕まったスパイには関知しないのだが、デイヴィアン逮捕 にはリンジーが重要な存在であるため、救出部隊を送り込むという。その作戦に参加して欲しいというのが、マスグレイヴの用件だった。 イーサンはジュリアに急な出張だと嘘をつき、任務に参加することを決めた。
イーサンはルーサー、デクラン、ツェンと合流し、ディヴィアンの隠れ家があるイツのベルリンへ向かった。ルーサーが銃撃して敵を混乱 させ、その間に潜入したイーサンがリンジーを救い出した。リンジーはイーサンに、「貴方だけに話がある。お願いだから無線を切って」 と言ってきた。しかし敵が銃撃してきたため、2人は会話を中断せざるを得なかった。
イーサンとリンジーは隠れ家を脱出し、デクランの操縦するヘリに乗り込んだ。だが、リンジーが頭を押さえて苦しみ始めた。イーサンが 調べると、彼女は頭に超小型爆弾を仕掛けられていた。敵のヘリに追跡されながら、イーサンは電気ショックでリンジーの心臓を停止させ、 仮死状態になったところで蘇生させようと試みる。しかし装置の充電が間に合わず、リンジーは死んだ。
失意を抱えて帰宅したイーサンは、ジュリアと衝動的に結婚式を挙げた。IMFの会合に参加したイーサンは、部長のブラッセルが リンジーをスパイ失格だと切り捨てたことに反発を覚えた。イーサンはリンジーが自分宛の手紙にマイクロドットを忍ばせていたことを 知り、その解析をルーサーに頼んだ。イーサンは本部の分析係であるベンジーから、デイヴィアンがバチカンのパーティーに出席する情報を得た。 彼はラビットフットという物を狙っており、それに関連してバチカンを訪れるのだという。
イーサンはデイヴィアンの身柄を確保する作戦を立て、仲間と共にバチカンへ飛んだ。イーサンはデイヴィアンを捕獲し、車を爆破して彼 が死んだように見せ掛けた。イーサンは情報を聞き出そうとするが、デイヴィアンは余裕の態度で「お前の家族や恋人を突き止めて殺して やる」と挑発する。イーサンが冷静さを失ってデイヴィアンを追い込んだため、ルーサーは必死に制止した。ルーサーが名前を呼んだため、 デイヴィアンはイーサンの名前を知った。
帰国したイーサンは、デイヴィアンを乗せた護送車に同行する。ルーサーはマイクロドットの解析を終え、それをイーサンに見せた。そこ には、ブラッセルが組織を裏切ってデイヴィアンと通じているというリンジーのメッセージが残されていた。刹那、武装ヘリがイーサンたち を襲撃した。デイヴィアンの仲間が彼の奪還に来たのだ。デイヴィアンはヘリに乗り移り、まんまと逃亡した。
イーサンは不安を覚え、ジュリアの家に電話を掛けた。電話を取ったリックは、イーサンの友達を名乗る男からの連絡に、ジュリアの ことを教えたと話した。イーサンは急いでジュリアの勤務する病院へ向かうが、一足遅く、彼女はデイヴィアンの部下に拉致されていた。 デイヴィアンはイーサンに電話を掛け、ラビットフットを48時間以内に盗み出すよう要求した。
電話を切った直後、イーサンはIMFのピートたちに包囲された。逃げ出そうとしたイーサンだが、麻酔で眠らされた。気が付くとイーサン はIMFの本部で拘束されており、ブラッセルが「この国の旗を守るためなら、私は幾らでも自分の血を流す」と告げて立ち去った。 マスグレイヴは無言で唇を動かし、イーサンに読唇術で「上海のフェン・シャン・アパートへ行け」メッセージを読み取らせ、こっそりと 小型ナイフを手渡した。
イーサンはIMF本部から逃亡し、上海に飛んで仲間と合流した。彼は高層ビルに潜入し、ラビットフットを盗み出した。イーサンは ラビットフットに発信器を仕掛け、ディヴィアンに渡そうとする。しかし指定の取り引き現場で襲われ、意識を失った。気が付くと、彼は 拘束され、目の前にはデイヴィアンがいた。彼はイーサンに、「おまえの脳に爆弾を仕掛けた。ラビットフットの隠し場所を教えろ」と 要求した。イーサンは「渡したはずだ」と言うが、デイヴィアンは納得せず、ジュリアを連れて来て銃を突き付けた…。

監督はJ・J・エイブラムス、TVシリーズ創作はブルース・ゲラー、脚本はアレックス・ カーツマン&ロベルト・オーチー&J・J・エイブラムス、製作はトム・クルーズ&ポーラ・ワグナー、共同製作はアーサー・ アンダーソン、製作総指揮はストラットン・レオポルド、撮影はダン・ミンデル、編集はメアリーアン・ブランドン&メアリー・ジョー・ マーキー、美術はスコット・チャンブリス、衣装はコリーン・アトウッド、視覚効果監修はロジャー・ガイエット、音楽はマイケル ・ジアッキノ、音楽監修はダニー・ブラムソン。
主演はトム・クルーズ、共演はフィリップ・シーモア・ホフマン、ヴィング・レイムス、ローレンス・フィッシュバーン、ビリー・ クラダップ、ミシェル・モナハン、ジョナサン・リス=マイヤーズ、ケリー・ラッセル、マギー・Q、サイモン・ペッグ、エディー・ マーサン、バハー・スーメク、ジェフ・チェイス、マイケル・ベリーJr.、カーラ・ギャロ、ベラミー・ヤング、ポール・キーリー、ジェーン・ デイリー、グレッグ・グランバーグ、サブラ・ウィリアムズ、ローズ・ローリングス、サッシャ・アレクサンダー、トレイシー・ ミッデンドーフ、アーロン・ポール他。


かつての人気TVシリーズ『スパイ大作戦』をリメイクしたシリーズの第3作。
イーサン役のトム・クルーズとルーサー役のヴィング・ レイムズは、1作目からのレギュラー。デイヴィアンをフィリップ・シーモア・ホフマン、ブラッセルをローレンス・フィッシュバーン、 マスグレイヴをビリー・クラダップ、ジュリアをミシェル・モナハン、デクランをジョナサン・リス=マイヤーズ、リンジーをケリー・ ラッセル、ツェンをマギー・Q、ベンジーをサイモン・ペッグが演じている。

監督は当初、デヴィッド・フィンチャーが務めるとアナウンスされていた。しかし彼が降板し、次に名前が挙がったジョー・カーナハンも 最終的には企画から退いた。
そこでトム・クルーズが抜擢したのは、『エイリアス/2重スパイの女』の演出家J・J・エイブラムスだ。トムは『宇宙戦争』の企画で 彼と会っており、送られてきた『エイリアス』のDVDを見て高く評価したらしい。
シナリオ作成には、ディーン・ジョーガリスやロバート・タウンが関わっていた。デヴィッド・フィンチャーが監督に決まった際は、 フランク・ダラボンの仕上げたシナリオが使われることになっていた。
しかしJ・J・エイブラムスはダラボンのシナリオを使用せず、『エイリアス』の盟友アレックス・カーツマン&ロベルト・オーチーと共 にゼロから脚本を書き直した。
製作費は1億5000万ドルで、これは初めて劇場映画を撮る監督の作品としては、史上最高の金額だ。

1作目は、フェルプスを悪党にした上にチームプレー無しという、TV版へのリスペクト皆無の作品に仕上がっていた。
2作目は、ジョン・ウーがセルフ・パロディーとして作り、出て来る奴らはみんなバカだった。
前2作によって、どうしようもないぐらい悲惨な状態になっていた。
そんなシリーズを救い上げることは、もう不可能だ。幾ら頑張っても、前2作で抱えた多額の負債の内、ようやく利息分だけは返済できる かなという程度だろう。
そもそも、シリーズ続行の決定そのものが無茶なのだ。
で、そんな「救出のミッションはインポッシブル」と思われるシリーズ第3作において、J・J・エイブラムスは「派手なアクションで 畳み掛け、観客の思考回路を停止させよう」という作戦を取った。
どうせトム・クルーズのオレ様映画なんだから、アクションだけを楽しむ単純な内容にすりゃいいやという開き直りなのか、頭脳戦は全く 無い。

主人公が結婚している時点で「スパイ大作戦」じゃねえだろ、と思うが、そりゃ今さら言うことでもない。
シリーズ第1作から、既に「スパイ大作戦」じゃなかったわけだから。
ミッション・インポッシブルというタイトルだけを拝借した、TVシリーズとは何の関係も無い別の作品だったわけだから。
そこは切り離して考えなきゃいけない。

まずタイトルロールが明けて、ジュリアや家族が主人公を「イーサン」と呼んでいることに驚いた。
イーサンってコードネームじゃなくて本名なのかよ。
普通、スパイって偽名で活動するだろ。
デイヴィアンの前でルーサーが叫んでしまい、それでイーサンの名前を知られているが、ルーサーがお粗末だったんじゃなくて、そりゃ 本名で活動していりゃ、正体なんて簡単にバレるよ。

イーサンが最初に関わる任務がリンジーの救出というのは、違和感を覚える。
「敵に捕まっても当局は一切関知しない」というのがIMFであるべきじゃないかと思うのだ。
「IMF上層部は見捨てようとするが、イーサンが救出に向かう」という形なら分かるんだが。
一応、マスグレイヴが「デイヴィアン逮捕に重要な存在だから」と言い訳しているが、納得できるものではない。

緊張感を持続させようという狙いがあるんだろうが、常に陰鬱で閉塞感に満ちた雰囲気がある。
最初の任務からして、完全なる失敗に終わっているんだもんな。
「目的は達成するが仲間を失う」ってことじゃなくて、リンジー救出が目的で、その彼女が死んでいる。
また、イーサンのアクションが結果に繋がらないという事態が、中盤から後半に掛けて連続しているのもストレスが溜まる。
爆破された橋を飛び越えてよじ登っても、デイヴィアンには逃げられる。病院へ急行しても、ジュリアは拉致されている。包囲したIMF 職員から逃亡を図るが、すぐに捕まる。
そういうストレスを一気に解消するだけの達成感や解放感は、その後に待ち受けていない。

前2作は、とにかくイーサン・ハントのワンマンプレーばかりが目立った。
それに比べると、今回はチーム・プレーを意識したらしく、だから最初の任務でもイーサンだけが活躍するわけではない。
しかし、前2作に出ていたルーサーはともかく、デクランとツェンはキャラ紹介が全く無いので、どういう性格なんだかサッパリ 分からない。
デクランがヘリを操縦し、ツェンは銃を持って突入しているので、それが得意分野なのだろうということは推測できるが。

バチカンでのミッションには、しっくり来る行動理由が無い。
「リンジーの名誉回復のため」というのは、動機として、あまりに脆弱だ。
それと、目的遂行のためとは言え、バチカンの地下にある重要な壁画を破壊したらダメだろ。その責任は誰が取るんだよ。
しかもIMFに命じられた任務じゃなくて、イーサンが勝手にやっていることなんだし。

バチカンのミッションに関してイーサンは「楽勝だった」と口にしているが、それで目的達成にならないことは、オープニングの映像で 分かっている。
デイヴィアンが逃亡し、イーサンを捕まえ、人質にしたジュリアを銃撃することは分かっているのだ。
劇中の見せ場を最初に持って来るというのは『エイリアス』方式を採用したのだろうが、ここではマイナスに働いている。

イーサンは脅されてラビットフット強奪に向かう。
そのラビットフットが何なのかは、最後まで明らかにされない。
そこをマクガフィンにしておくのは、納得しかねる。せめてマクガフィンにするなら、もう前半からずっと、それに関わる物語展開に すべきなんだよ。
後半になってから主人公が深く関与するブツを、マクガフィンにするってのは違和感がある。

そもそもデイヴィアンがジュリアと引き換えにラビットフット強奪を要求して来る展開そのものに強引さを感じるが、それはともかく、 「厳重な警備のビルから、いかに盗み出すのか」という部分を、簡単に処理したらダメだろ。
時間が足りないということなら、それまでのシーンを削ればいい。そして、中盤辺りで、その仕事を要求される展開にすればいい。
いっそ、「恋人を拉致され、仕事を要求される」という部分だけで話を作ってもいい(『ミッション・インポッシブル』としては、身内を 深く関与させるのは違うだろうという問題は、ひとまず置いておくとすればの話だが)。

クライマックスの展開は、わざわざ敵がジュリアをイーサンの前に連れて来て、しかも、わざわざ変装マスクを被せた偽者だったという、 そんな手間を掛ける必要性は、実は全く無い。
で、「デイヴィアンが立ち去って、マスグレイヴが現れて、トンマなせいでイーサンに逃げられて、そのイーサンがデイヴィアンと戦って 、またマスグレイヴが現れて」という展開になっていくのだが、悪党2人の出し入れがゴチャゴチャしているのは、どうなのよ。もう ちょっとスッキリできないのか。
しかも、肝心な時に、イーサンは電気ショックで仮死状態になっていて活躍できない。そして、それまで人質になっていただけのジュリア が銃を手にして、ド素人なのに見事な技術でマスグレイヴを狙撃し、さらにイーサンを蘇生させるという大活躍を見せる。
なんだ、そのシナリオは。
あと、上海の仕事が終わると、やっぱりチームプレーは無くなってしまうのね。

(観賞日:2009年3月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会