『マインドハンター』:2004、アメリカ&オランダ&イギリス&フィンランド

FBI捜査官のサラ・ムーアとJ.D.レストンは、少女2名が誘拐された事件の捜査に当たっていた。廃屋となったホテルの前で、2人 は犯人の車を発見した。無線で応援を要請している時、ホテルの中から少女の悲鳴が聞こえた。慌ててホテルに入った2人は、少女たちの 死体を発見した。その傍らでは、犯人らしき男が自殺していた。2人は本部に連絡を入れるが、刹那、覆面姿の男が部屋に飛び込んできた 。彼はサラを捕まえて盾にすると、J.D.に銃弾を浴びせた。
男は覆面を外し、サラたちに声を掛けた。それは訓練だった。サラとJ.D.はFBI心理分析官を目指す訓練生だ。教官のジェイク・ ハリスは、「サインを見落とさなければ犯人が2人組だというのは分かったはずだ」と冷静に指摘した。翌日、FBIアカデミーの授業で 、ハリスは「明日の最終試験は無人島で行う」と告げた。サラが「どうやったら少女たちを救えたんですか」と訊くと、「どうやっても 無理だ」とハリスは答えた。「被害者を救えない演出に何の意味があるんですか?」とサラが質問すると、ハリスは平然と「その無力さに 慣れるのが狙いだ」と告げた。
夜、訓練生のサラ、J.D.、ルーカス、ニコール、ヴィンス、ボビー、レイフはバーに繰り出し、客を分析した。ボビーとルーカスは、 カウンターにいる美女の電話番号を聞き出す勝負を始めた。レイフは男性客を指差して女性の好みを分析するが、彼はゲイだった。サラは ヴィンスから、「ハリスの成績評価表を見てしまった。俺はテストに落ちた。精神的に弱すぎると書かれていた。君も不合格になる。明日 の訓練は適当にやり過ごすことだ」と告げられた。
翌日、無人島へ向かうヘリコプターには、ゲストとしてフィラデルフィア市警の心理分析官ゲイヴ・ジェンセンが乗り込んできた。彼は 訓練には関わらず、見学者として同行する。島に到着すると、そこには海軍の訓練施設があった。ハリスが演出のために借りているのだ。 島には犯罪都市を再現した街のセットが組まれ、監視カメラが作動していた。街のあちこちには人形が置かれていた。
ハリスは「犯人は既に2人を殺している。月曜の8時までに分析を終わらせろ」と指示し、訓練生とゲイブを宿泊施設に案内した。彼は J.D.をチームリーダーに任命し、ヘリコプターで島を去った。沈んでいるサラに気付き、ルーカスが声を掛けた。「不合格を知った」 とサラが明かすと、ルーカスは「どんな困難にも立ち向かうしかない」と励ました。シャワーを浴びていたJ.D.は何者かに気配を 察知するが、それはニコールだった。J.D.ニコールと抱き合ってキスをした。
翌朝、訓練生は、洗面所に猫の死体が吊り下げてあるのを発見した。猫の口には、10時に針を合わせた腕時計が入れられていた。町を 調べていた訓練生は、ある店舗で若い女性の惨殺死体を模した人形を発見した。その人形は、操り人形のように天井から吊り下げられて いた。突然、店のラジカセから音楽が響いた。J.D.が停止ボタンを押すと、仕掛けられていたドミノが動き出し、液体窒素のボンベが 倒れた。噴射された液体窒素を両足に浴び、J.D.は命を落とした。
施設の電話は通じず、携帯も繋がらないため、外部への連絡は不可能だった。ゲイヴは12時で針が止まっている腕時計を発見し、「これは 殺人予告だ」と口にした。ボビーが「島に来る時、桟橋にボートが停泊していた。それに乗ってきた奴が犯人だ」と言いだした。全員が 桟橋へ行くと、ボートに仕掛けられていた爆破装置が作動した。桟橋が爆発し、海に落ちたサラが溺死しそうになる。ルーカスが慌てて海 に飛び込み、彼女を救出した。
ゲイヴが「ハリスは偽の演習じゃ物足りなくなったのかもな」と言うと、ヴィンスが持ち込みを禁じられていたはずの拳銃を取り出し、 「向こうがその気なら受けて立つ」と告げた。ゲイヴたちは立ち入り禁止エリアの扉を壊し、武器を入手した。彼らは熱感知システムを 発見し、それを使って島中を捜索するが、誰も見つからなかった。そして時刻は12時になった。
サラが「この中に犯人がいるのかも」と言い出したので、全員が銃を構えた。その場を離れていたルーカスが戻ると、彼はゲイヴに銃を 突き付けた。ルーカスは地図を見せ、「部屋を調べたら、こんな物があった。島の詳しい情報が入った地図だ」と告げた。「話を聞いて くれ」とゲイヴが立ち上がると、全員が銃を向けた。ルーカスがゲイヴの銃を奪った。
ルーカスがゲイヴに「ひざまずけ」と怒鳴った直後、全員が次々に眠り込んだ。コーヒーに薬が混入されていたのだ。目を覚ました後、 ボビーがゲイヴに手錠を掛けた。ゲイヴは「コーヒーを入れたのは俺じゃない、レイフだ」と告げる。そのレイフは、首を切断されて殺害 されていた。6時に合わせた腕時計が2つ見つかり、ルーカスたちはゲイヴを監禁して「次はどんな罠だ」と尋問した。
ゲイヴは「俺は司法省の人間で、ハリスを調べに来た。ハリスが過激な訓練をしているという噂があって、長官に頼まれた」と説明するが 、ルーカスたちは全く信じない。彼らは車椅子のヴィンスを監視役に残した。サラは壁に書かれた数列に何かヒントがあるのではないかと 考えた。ボビーが「光の速度だ」と気付き、サラは照明を消した。すると全員の上着に何かの粉で書かれたアルファベットが光った。だが 、それらの文字が何を示すのかは分からないまま、6時が訪れた。
ヴィンスは何かの物音に気付き、ドアを開けて廊下を見た。すると水道管から水が廊下に溢れ出し、蛍光灯が吊り下がって火花が散った。 慌ててヴィンスは車椅子を捨て、天井のパイプにぶら下がった。ゲイヴは「向こうの物置にブレーカーがある。電源を切らないと感電死 するぞ」と叫ぶ。彼はヴィンスを説得して拳銃を投げさせ、手錠を外した。ゲイヴは銃撃で壁に穴を開け、ボルダリングの要領で物置まで 到達してブレーカーを落とした。
ルーカスたちが現場に駆け付けると、ヴィンスが「ゲイヴが助けてくれた」と告げた。ボビーは水を止めるための作業に入り、「犯人は腕 のいいエンジニアかもしれない」などとウンチクを語った。するとルーカスたちは、彼に疑いの目を向けた。ボビーが水道管のハンドルを 閉めると、仕掛けられていた矢が発射された。ボビーは3本の矢を受けて命を落とした。
ルーカスたちは上着に書かれた「CROATOAN」という文字について考え始めた。ヴィンスが「クロアトアン、移民が残した言葉だ」 と言い出し、100人を超える住民が忽然と消えた事件を語った。その時、島の木に残されていたのがクロアトアンという文字だが、意味は 分かっていないという。ルーカスたちは、犯人が島にいる全員を殺害するつもりだと確信した。犯人が残したと思われる血痕が見つかり、 ルーカスたちは装置を使って血液を照合した。その結果、DNAはサラの血液と一致した。
ニコールは拳銃を構えて激しく喚き立てるが、ルーカスはサラを擁護した。ニコールは「信用できるのは自分だけよ」と言い、部屋を出て いった。サラは、犯人が自分たちの個性を知っており、どこで誰を殺すか決めていたのだと気付いた。ニコールは自動販売機でタバコを 発見し、火を付けた。だが、そこには強力な酸が仕込まれており、ニコールは死亡した。ニコールの死を目撃した後、ルーカスたちは部屋 に戻った。その時、スピーカーから「楽しんでるか?俺は楽しんでるぞ」というハリスの挑発的な声が聞こえて来た…。

監督はレニー・ハーリン、原案はウェイン・クラマー、脚本はウェイン・クラマー&ケヴィン・ブロドビン、製作はジェフリー・ シルヴァー&ボビー・ニューマイヤー&ケイリー・ブロコウ&レベッカ・スピンキングス、製作総指揮はモリッツ・ボーマン&ガイ・ イースト&ナイジェル・シンクレア&レニー・ハーリン、共同製作はスコット・ストラウス&アーウィン・ゴスチョーク&ハンス・デ・ ウィアーズ、共同製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン、撮影はロバート・ギャンツ、編集はポール・ マーティン・スミス&ニール・ファレル、美術はチャールズ・ウッド、衣装はルイーズ・フロッグリー、視覚効果監修はブライアン・M・ ジェニングス、音楽はトゥオマス・カンテリネン。
出演はLL・クール・J、ジョニー・リー・ミラー、キャスリン・モリス、ヴァル・キルマー、クリスチャン・スレイター、パトリシア・ ヴェラスケス、クリフトン・コリンズJr.、アイオン・ベイリー、ウィル・ケンプ、カサンドラ・ベル、ジャスミン・センダー、 アントニー・カメリング、ダニエル・ボワセヴェン、トレヴァー・ホワイト他。


『ディープ・ブルー』『ドリヴン』のレニー・ハーリンが監督を務めた作品。
ゲイヴをLL・クール・J、ルーカスをジョニー・リー・ ミラー、サラをキャスリン・モリス、ハリスをヴァル・キルマー、J.D.をクリスチャン・スレイター、ニコールをパトリシア・ ヴェラスケス、ヴィンスをクリフトン・コリンズJr.、ボビーをアイオン・ベイリー、レイフをウィル・ケンプが演じている。
ウィル・ケンプは、公開されたのは『ヴァン・ヘルシング』が先だが、実際の映画デビューは本作品だ。

撮影は2002年にオランダで行われ、2003年に公開される予定だった。
しかし初公開は2004年6月まで延び、アメリカでの公開に至っては2005年まで遅れた。
そこまで大幅に公開が遅れた理由は2つあって、1つはスクリーン・テストの評価が芳しくないため残酷描写を薄めるなどの作業が 行われたこと。
もう1つは、製作したミラマックスとディメンション・フィルムでレイオフの嵐が吹き荒れ、しばらくの間、お蔵入りの状態になっていた ことだ。

『ディープ・ブルー』では、「演説をぶっていたサミュエル・L・ジャクソンがサメにパックンチョされる」というシーンを用意した レニー・ハーリンだが、今回はそういう「有名俳優をあっさり殺す」というセオリー破りを、さらにレベルアップさせている。
彼は本作品を撮影するに当たって、主人公を決めなかった。
「誰が、いつ死ぬかは分からない」という作りにしているわけだ。

冒頭、「少女誘拐事件を捜査する2人が犯人に襲われるが、それは訓練でした」というコケ脅しを持って来る。
だけど、それが訓練なら、「犯人の自殺で終結するなんて有り得ない」と悟っても良さそうなものだが。
犯人が自殺して終わりなら、訓練生は何もやっていないということになってしまう。
あと、「今度は君の番だ」とJ.D.が言い、最初はサラが一人でホテルを調べに行っているが、ってことはホテルの前にも、他に調査 するための場所が用意されていたのか。
すげえ大掛かりな訓練なんだな。

っていうか、それが心理分析官にとって何の必要性がある訓練なのかは良く分からない。
その訓練では、犯人像を分析して、そこから行動を推測しているわけでもないし。
現場の捜査官ならともかく、「犯人が隠れている現場へ乗り込み、共犯者の存在を察知して捕まえる」ということが、心理分析官に必要な スキルなのかなあ。
あと、ハリスは「被害者を救えない演出に何の意味が?」と訊かれて「その無力さに慣れるのが狙いだ」と言うが、そんなの訓練でやる 意味は無いぞ。
なんちゅうアホな訓練なんだ。

バーのシーンでは、ボビーとルーカスが女を口説く対決をしたり、レイフが男性客の女の趣味を分析していたらゲイだったりと、いきなり バカっぽさを露呈している。
まだ訓練生かもしれんけど、それにしてもボンクラ揃いだ。
FBI心理分析官を目指す訓練生という設定にしてあるが、『13日の金曜日』シリーズに登場する若者たちと、そんなに中身は変わらない んじゃないか。

「J.D.がシャワーを浴びていると何者かに気配を感じる」というスリルがあるが、「それはニコールでした」という肩透かし。
どうでもいいが、ホントにオツムのあまり良くない連中にしか見えないよな。
しかも、そんなに若くないんだよね。
そこそこの年を取っている連中だ。
J.D.が殺された途端、全員がすっかり平常心を失い、互いに銃を向け合ったり攻撃的になったりする。
みんながパニックに陥っており、冷静に犯人像や手口を分析しようという態度は、わずかにサラが見せる程度。

上着に書かれた「クロアトアン」という文字を解読するシーンがあるが、それが分かっても、「だから何なのか」と思ってしまう。
だって、その言葉の意味は分かっていないのよ。
「犯人は島にいる全員を殺すつもりだ」とか言い出すけど、そんなのは暗号を解読する前から分かり切っていることだし。
謎を解いても「そうだったのか」というスッキリした感覚は全く味わえない。

レニー・ハーリン監督は、前述したように、まだ演習の段階から、不安を煽ったり、緊張感を醸し出そうとしたりする演出を行って いる。
そのため、J.Dが殺されても、「演習だったはずなのに本当に殺人が起きてしまう」というところでの緩急の差は弱くなっている。
ただし、レニー・ハーリンに、その辺りの繊細な演出、キメの細かい処理を求めても仕方が無い。
彼は「ケレン味だけが人生だ」というスタイルの監督なのだから。

液体窒素が噴射された後、全くの無抵抗で突っ立ったまま両足がポキリと折れて死んでいるんだが、せめて倒れ込んで逃げるとか、そう いうことは出来なかったのか。
あと、両足首からポキリと折れても、それだけで絶命することは無いと思う。
液体窒素で固まっているから、出血性ショックによる死亡というのも考えられない。
しかし、「その手口でホントに死ぬのか」「その手口はホントに可能なのか」という辺りにツッコミを入れず、「バカだなあ」と笑い ながら見るのが吉だろう。

犯人は、いつの間に手の込んだドミノの仕掛けを用意したのか。島に到着してから翌朝まで、他の誰にも知られず、一人で自由に行動 できる時間というのは、それほど多くなかったはずだ。
人間離れした手先の器用さと行動スピードを持っているのか。
ヘリコプターは、ハリスを置き去りにして島を去ったのか。
犯人は全員を抹殺した後、どうやって島を脱出するつもりだったのか。
そういう疑問点は幾つもあるが、それも全て華麗にスルーすべきだろう。

殺人の手口は残酷で、どれも凝っている。そういう部分で観客のご機嫌を窺おうという意識が感じられる。
しかし残念ながら残酷さが中途半端で、殺人ショーとしては生温い。
ただ、どうやらそこは監督の望み通りの仕上がりではなく、スクリーン・テストの結果を受けて、不本意な形にせざるを得ないという事情 があったようだ。
正直、これってサスペンスじゃなくて完全に『13日の金曜日』の系列に入るスラッシャー映画なので、殺人シーンでのアピールが弱まると 厳しいモノがある。
まあ、ホントはサスペンス映画のはずなんだから、「そっちで頑張れよ」と思うかもしれんが、それはレニー・ハーリンの得意分野では ないだろうし、ホラー寄りに演出したのは悪くない考えだったと思う。
これがダメな映画になってしまった最大の原因は、シナリオが粗いからでもなく、サスペンス演出が今一つだからでもなく、残酷描写が 抑制されてしまったことにあると私は思う。

(観賞日:2010年6月16日)


第28回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の助演男優】部門[ジョニー・リー・ミラー]
<*『イーオン・フラックス』『マインドハンター』の2作でのノミネート>
ノミネート:【最悪の言葉づかい(男性)】部門[ジョニー・リー・ミラー]

 

*ポンコツ映画愛護協会