『ミレニアム/1000年紀』:1989、アメリカ

ボーイング社のTUA35便が定められた高度に従って飛行していると、その上から突如としてDC10が出現した。機長のヴァーンと副操縦士のロンは慌てて高度を下げようとするが、DC10と接触してしまう。機体が墜落を始めたため、ロンは尾翼の確認に向かおうとする。しかし、客席の様子を目にした彼は、その動きを止めてしまう。謎の機械が廊下を転がる中、ロンは操縦席に戻ろうとする。その直後、機体は地上に落ちて大爆発を起こした。
輸送安全委員会の調査官であるビル・スミスは、仲間のトム、イーライ、ジェリーと共にヘリコプターで事故現場へ向かった。DC10はエンジンが1つ無くなり、尾翼も消失していた。先に現地入りしていた調査官のロジャーは、TUAの方で乗客354名と乗務員13名、DC10は乗客265名と乗務員11名全員が犠牲になっていることを報告する。ボイス・レコーダーは損傷が激しいということだったが、ワシントンへ送る前にコピーを渡すようビルはロジャーに指示した。
理論物理学者であるメイヤー博士が来ていたので、ビルは違和感を覚えた。ロジャーによれば、メイヤーは他の航空事故の現場にも顔を出しているらしい。ビルが事務所に戻ると、管制官のジェンズが弁護士に付き添われて待っていた。彼は沈痛な表情で当時の状況を語り、モニターで2機の接近に気付いた時には手遅れだったことを告げた。機体の破片が回収された格納庫に赴いたビルは、TUAの制服を着ているルイーズ・バルティモアという女性にコーヒーを入れるよう頼む。すると女性は顔を強張らせ、すぐに立ち去った。
ビルと同僚たちがボイスレコーダーの音声を確認していると、ルイーズがコーヒーを運んで来た。彼女はビルを見つめて微笑した後、その場から去った。ボイスレコーダーでは、ロンがヴァーンに「乗客が焼け死んでる」と告げていた。トムは「もしかすると事故の前に客室で火事が起きていたのかも」と言うが、ロジャーが「それは無い。飛行機の胴体に火事の痕跡は無い」と否定した。ビルは乗務員が幻覚を見たのだと判断した。
ビルとトムを引き連れ、体育館に回収された死体の確認へと出掛けた。検死官のブリンドルは、時間が逆に動いているデジタル式の腕時計があることを報告した。それも1つではなく、複数のデジタル時計が時間を逆行していた。ビルが記者会見に臨むと、その様子をルイーズが眺めていた。会見場に現れたメイヤーは、「通常の事故と違う点があるのでは?例えばボイスレコーダーに妙な記録があるとか。残骸の中に、時間と矛盾するような不可解な物は無かったか?」と質問した。ビルは「何のミステリーも無い」と告げたが、メイヤーは「そうは思わない。君のレポートを楽しみにしているよ」と述べた。
その日の仕事を終えたビルが帰ろうとすると、ルイーズが接触してきた。ビルがコーヒーに誘うと、彼女は「食事とお酒がいいわ」と言う。2人はルイーズの車で移動し、ホテルで肉体関係を持った。ルイーズが「ずっと一緒に居たい」と明日も共に過ごすことを求めると、ビルは「明日の夜は一緒だ」と言う。ルイーズは「仕事が多すぎるのよ。休んだ方がいいわ」と告げる。ビルが眠っている間に、ルイーズは勝手にモーニングコールをキャンセルした。
翌朝、ルイーズは仕事を休むよう頼み、「貴方が逃げ出しても世界は終わらないわ」と口にする。ビルが「ずっと休暇を取っていない。今回の調査が終わったら考えてみるよ」と告げると、ルイーズは思いつめたような表情を浮かべた。部屋を後にしたビルは、ルイーズのことが気になり、すぐに踵を返した。すると、ルイーズの姿が消えていた。ビルはルイーズについて調べ、そんな職員がTUAに存在しないことを知った。
夜、無人の格納庫で破片を見回していたビルは、未知の機械が落ちているのに気付いた。機械を調べた彼は電気ショックを受け、意識を失った。すると、朝とは髪型も格好も異なるルイーズが、仲間のピンキー&スーザンと共に歩み寄った。ピンキーたちがビルなのかどうか気にしていると、ルイーズは「写真と似てるわ」と口にした。ルイーズはビルがスタナーに触れたことを知り、「きっと全て見たわね。だったら手遅れだわ。逃げるのよ」と仲間に告げた。
ルイーズはビルに向かい、「貴方は助かるわ。貴方の調査している計画は膨大よ。忘れることね」と告げた。ビルが目を開けると、彼女は「あれは単なる事故よ」と述べた。ルイーズら3人は、光の中に消えた。タイムトラベラーである3人は、1000年後の世界に戻った。マスターのコヴェントリーに「失敗したな。パラドックスを残した」と責められたルイーズは、「無くしたスタナーを取りに行ったら、スミスがスタナーで気を失っていた。我々は姿を見られた」と報告した。
パラドックスの影響で、時空のひずみによる揺れが生じた。コヴェントリーが「過去を変えたな。報いが訪れるぞ」と言うと、ルイーズは「何も変わってない。どうせ我々は絶滅するし、その醜い顔も変わらない」と告げた。何が起きたか調べて対処するため、ルイーズたちはビルの様子をモニターに映し出す。起き上がったビルが「ルイーズ」と口にすると、ルイーズは「名前は教えてない。なぜ知ってるの?」と困惑した。ビルの手元には、起爆剤が残されていた。
ルイーズはロボットのシャーマンに、「過去に彼と会ったのね?でも、あの時代には言ってないわ」と告げる。シャーマンは「スミスの時代に奴と会っているが、現在の君は格納庫で会っただけだ。だから君は、奴と再び会う必要がある」と語るが、ルイーズには意味が良く分からない。シャーマンは「通常の君の任務は、死に掛けている人間を連れて来ることだ。だから感情移入など無い。君が助けないと、彼らは死ぬ運命だ。しかしスミスは違った。君は彼を混乱させて去ったことに罪悪感を抱いている」と話すが、ルイーズは「罪悪感なんて持ってないけど。また会ったら殺すかも」と軽く告げた。
次の任務を受け、ルイーズたちは1963年へタイムスリップした。客室乗務員に化けたルイーズたちは航空機に現れ、数名の乗務員と乗客をスタナーで気絶させる。しかしハイジャック犯がスーザンを撃ったため、予定が少し狂ってしまった。犯人をスタナーで気絶させた後、ルイーズたちは実働部隊に連絡を入れた。航空機が1000年後の世界にタイムスリップし、実働部隊は乗客を外へ誘導する。隊員が気絶している乗客に声を掛けると、ルイーズは「その人は生存者よ」と注意した。
乗客と瓜二つの代替死体が機内に運び込まれ、座席に座らされた。マスターは『事故原因はハイジャックだ。生存者がいることも分かった。全て模倣しろ。操縦室で発砲してる。爆弾を使え」と部下に指示した。スーザンはルイーズに「スタナーを無くしたわ」と言い残し、息を引き取った。慌ててスタナーを探しに行こうとしたルイーズだが、既に爆弾が仕掛けられていた。ルイーズはギリギリで脱出し、爆破に巻き込まれることは回避した。
評議会の面々はルイーズに、「スタナーがメイヤーの手に渡るとマズい。奴からスタナーの機能を全て知ることが出来るだろう」と告げた。彼らはルイーズに、「1989年へ行ってスミスと格納庫で会う前に戻り、格納庫へ行くのを阻止しろ。スミスが名前を呼んだということは、前に会っている。その時に戻れ」と命じた。TUAの制服で1989年に戻ったルイーズはビルと接触し、マスターやシャーマンの指示に従って彼の気を惹くための行動を取る。そしてビルを誘惑し、彼と肉体関係を持った…。

監督はマイケル・アンダーソン、原作はジョン・ヴァーリイ、脚本はジョン・ヴァーリイ、製作はダグラス・レイターマン、共同製作はロバート・ヴィンス、製作総指揮はジョン・フォアマン&フレディー・フィールズ&ルイス・M・シルヴァースタイン&P・ガエル・マウラント、製作監修はジョン・M・エッカート、撮影はルネ・オオハシ、編集はロン・ウィスマン、美術はジーン・ルドルフ、衣装はオルガ・ディミトロフ、音楽はエリック・N・ロバートソン。
出演はクリス・クリストファーソン、シェリル・ラッド、ダニエル・J・トラヴァンティー、ロバート・ジョイ、アル・ワックスマン、ロイド・ボックナー、ブレント・カーヴァー、デヴィッド・マキルレース、モーリー・チェイキン、ローレンス・デイン、トーマス・ハウフ、ピーター・ドヴォルスキー、レイモンド・オニール、フィリップ・エーキン、デヴィッド・カルデリシ、ゲイリー・ライニキー、ユージーン・クラーク、セドリック・スミス、マイケル・J・レイノルズ、ヴィクトリア・スノー、スザンナ・ホフマン、クローデット・ローチ他。


SF作家のジョン・ヴァーリイが脚本を担当した作品。
監督は『2300年未来への旅』『オルカ』のマイケル・アンダーソン。
ビルをクリス・クリストファーソン、ルイーズをシェリル・ラッド、メイヤーをダニエル・J・トラヴァンティー、シャーマンをロバート・ジョイ、ブリンドルをアル・ワックスマン、輸送安全委員会のウォルターズ委員長をロイド・ボックナー、コヴェントリーをブレント・カーヴァー、トムをデヴィッド・マキルレース、ロジャーをモーリー・チェイキンが演じている。

最初に映画の企画が持ち上がったのは1979年で、ジョン・ヴァーリイが自身の短編小説『空襲』をモチーフにした脚本を執筆した。
その後、監督が3度も変更になり、その度に彼は脚本を書き直している。
それと並行して彼は小説『ミレニアム』も出版しており、ベースは映画と同じだが、その内容は大きく異なっている。
脚本家として名前がクレジットされるものの、ジョン・ヴァーリイは映画の内容にあまり納得していなかったようだ。

SFサスペンスと恋愛劇を組み合わせようとしているのだが、これが見事なぐらい失敗している。
まず恋愛劇の部分が、ものすごく陳腐で安っぽい。
ルイーズがビルに声を掛け、その日の内に関係を持つ。その時点では謎の女性であるルイーズは、「出会えたのは運命よ」「もっと一緒に居たい」などと、ビッチなのかと言いたくなるぐらい積極的だ。
その一方、彼女は「貴方は疲れている」「明日も一緒に居たい」などと言い、ビルに仕事を休ませようとする。
それこそがルイーズの目的なのだ。次の夜にビルが格納庫へ行ったら困ったことが起きるので、それを阻止しようとしているのだ。

だけど、格納庫へ行くのを阻止する方法として、「主任のビルを口説いて肉体関係を持ち、メロメロにして仕事を休ませようとする」って、ものすごくバカっぽいと思うんだよな。
それって、確実性が高いとは言えない作戦だし。
出会った当日にセックスして、それもワン・ナイト・ラブじゃなくて「ずっと一緒に居たい」と思ってくれる可能性って、かなり低いでしょ(ビルは出会ったばかりで良く知らない相手と簡単にセックスし、簡単に惚れているけど、それも安っぽく見えるし)。

それに、どんだけ惚れたとしても、だからって大事な仕事を休むような奴は、あまり多くないでしょ。
実際、ビルもよっぽどセックスの相性が良かったのか、「ずっと一緒に居たい」とベタ惚れしているけど、仕事を休んでほしいという頼みについては「それはそれ」という感じで断っているし。
あとさ、「仕事へ行く」ってのと、「その夜に格納庫へ行く」ってのは、別の行動でしょ。
仕事へ行ったからって、その夜に無人の格納庫へ行くとは限らない。逆に、仕事を休んだとしても、夜になって無人の格納庫へ行く可能性はあるわけで。

そういう諸々を考えると、「色仕掛けで仕事を休ませようとする」ってのは、やっぱり阿呆の作戦にしか思えないんだよな。
むしろ、その夜に無人の格納庫へ行くことを阻止したいのなら、仕事には行かせて、その上で「早く帰って来てほしい」と頼んだ方が、まだ賢いんじゃないかと。
っていうか、どうしても格納庫行きを阻止したいのなら、薬で眠らせるなり、捕まえて縛っておくなり、色々と手はあるだろ。
「力尽くの方法だと歴史に介入してパラドックスが起きることに繋がるから、それは避けなきゃいけない」ということがあるとも思えない。それがパラドックスに繋がるというのなら、肉体関係を持つことだってパラドックスに繋がるはずだし。

ルイーズが1000年後の時代に戻り、彼女がタイムトラベラーであることやミスを犯したことなどが説明される辺りは、あまり説明が上手くないと感じる。
もっと気になるのは、その後には1963年へタイムスリップする任務が描かれ、彼女たちの目的&目的を遂行するための方法が説明されるのだが、それをビルよりも先に観客が知ってしまうのはどうなのかってことだ。
それはビルが調べて突き止めるか、もしくはルイーズがビルに明かすか、どちらかの形にして、ビルと観客が同じタイミングで知る形にすべきではないかと思うのだ。

ただし、ビルが調べて突き止めたり、ルイーズが明かしたりするような形だと、セリフによる説明になってしまう可能性が高い(補足としての映像を入れることは難しくないが)。
それはそれで表現として上手くないので、そういう問題を回避するためには、ビルがルイーズと共にタイムスリップし、ミッションを遂行する様子を目撃するような展開にするのがベターかもしれない。
そうすれば、「ルイーズがビルに一つ一つの行動や意味について説明する」という形を利用して、観客に分かりやすく説明することも出来るし。
でも実際にビルが事実を知るのは、「終盤に入ってメイヤーと話し、そこにルイーズが現れて話す」という形だ。そんな短いやり取りだけで理解する処理にしてあるのは、残り時間が少ない中でのやっつけ仕事にも近い印象を受ける。

「最初にルイーズがビルとセックスする様子を描き、それを知らないルイーズが格納庫で彼と会い、ビルが格納庫へ行くのを阻止するためにルイーズが1989年へ戻る。その戻ったルイーズが、最初にビルとセックスしたルイーズ」という設定は、無駄にややこしい割には、あまり効果的に作用しているとは思えない。
それが物語の面白さや深みに繋がっているような印象を受けないのだ。
むしろ、そこでタイム・パラドックスを作らずに話を構築した方が、スッキリしたんじゃないかと。

後半、ルイーズが1989年へ戻り、序盤でビル側から描いた「格納庫でルイーズと出会い、彼女がコーヒーを運び、仕事が終わった後で声を掛けて来て、セックスして」という様子をルイーズ側から再び描く。
でも、そうやって同じシーンの裏表を見せた所で、それが話しの厚みには繋がらない。
なぜなら、ルイーズが1989年へ戻った時点で、こっちは彼女の正体や目的を全て知っているからだ。
そこを裏側から見せたところで、「あの時のアレは、そういうことだったのか」とか、そういう新発見の面白味は無いのだ。

裏側から見せる手順では、ビル側から見せた時よりも内容が増えている。車で移動している時の様子や、レストランで会話を交わす時の様子、ホテルの部屋に入った時の様子が追加されている。
そこで2人の恋愛ドラマを充実させようとしているのだが、「どうでもいいわ」という感想しか沸かない。
そこに来て2人の恋愛劇ばかりを描かれても、「そういうのを求めてるわけじゃないから」と言いたくなる。こっちとしては、SFサスペンスとしての盛り上がりを期待していたわけで。
でも、その部分は、SFの要素が皆無なのよね。「メイヤーの手にスタナーが渡ったらマズい」とか言ってたのに、そういう危機感も、その間は完全に忘却の彼方だし。

なぜ未来人が過去に起きた航空事故の現場から死ぬはずだった人々を連れ出し、未来へ連れ帰っているのかというと、「1000年後の時代は人類が絶滅寸前となっており、生殖機能も失われている。だから過去の人間を連れて来て再生を図っている」という事情がある。
しかし、そういう部分を掘り下げて物語を充実させようという意識が乏しい。
たぶん本作品において最も重要な部分って、そこじゃないかとも思ったりするんだけどなあ。
それにしては種明かしも雑だし、すげえ淡白なんだよなあ。

(観賞日:2014年6月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会