『マイル22』:2018、アメリカ&中国

CIAのジェームズ・シルヴァはライフルを構え、ある民家を張り込んでいた。本部のジェームズ・ビショップやクイーンたちは、民家に5人がいることを伝えた。シルヴァの仲間であるアリスやサムたちは民家へ突入し、5人を拘束した。チームのウィリアムが金庫へ行き、ドライブを回収する。敵の1人が壁の向こうに隠れており、いきなり発砲して来た。銃撃戦が勃発し、チームの1人が死亡した。本部は殺害を許可し、アリスたちは次々に敵を始末する。1人の男が窓から飛び出すと、シルヴァがライフルを向けた。男が「後悔するぞ」と言い放つと、彼は「慣れてる」と冷徹に告げて射殺した。シルヴァたちが殺したのはFSBの7人で、そこは一味の隠れ家だった。逃亡してからニュースを見たシルヴァは、自分が殺した男が18歳だと知った。
16ヶ月後、東南アジアのインドカー・シティー。警官のリー・ノアは一人の自宅で、身分証や写真を燃やした。シルヴァはウィリアムたちから、コンテナを捜索したが目的のセシウムは発見できなかったことを知らされる。それはアリスが持ち込んだ情報であり、シルヴァは激しい苛立ちを示す。彼はアメリカ大使館へ行き、アリスを非難した。アリスは情報源が地元警官だと言い、「今までは完璧だった」と少し待つよう求めた。
アリスが元夫のルークから電話を受けると、シルヴァは「片付けて仕事に戻れ」と冷たく命じた。アリスは娘のインディアと電話で話し、授業参観に行けないことを謝罪した。ルークはダイアンという女性と再婚しており、彼女を授業参観に行かせるつもりだった。アリスは彼の挑発的な発言に腹を立て、悪態をついた。ルークは悪態が離婚アプリに反応したことを嫌味っぽく指摘し、アリスは苛立って携帯電話を叩き付けた。
シルヴァはアポ無しで大使館を訪れた女性と面会し、「政府に13億ドルの財産を没収される」と陳情を受ける。女性が「アメリカには友人がいる。ウォーレン・バフェットよ。幾らでも払える」と言うと、シルヴァは「彼はフランス人になった」と嘘をついてフランス大使館に相談するよう促した。ビショップはシルヴァたちを集め、一刻も早くセシウムを見つけ出すよう命じた。FSBのヴェラ・クラーギナは上司に呼ばれ、「もし奴が生き残ったら作戦は失敗だ」と釘を刺された。
リーはディスクを掲げてアメリカ大使館に近付き、警備の兵士たちに投降した。ヴェラは上司から、彼の抹殺を命じられていた。アリスはシルヴァに、リーが情報源だと告げた。リーはCIAに、「セシウムの情報をディスクに隠した。亡命と引き換えにディスクを開く」と持ち掛けた。ディスクは8時間後に自動消去されるように出来ており、アリスが脅してもリーは微動だにしなかった。彼が絵画に隠されているセシウムの存在を教えたため、シルヴァたちは彼の情報を信用することにした。
インドカーの外務審議官はアメリカ大使館を訪れ、リーの引き渡しをブレイディー大使に迫った。シルヴァは部下のMITたちに、ディスクのコードを解くよう怒鳴った。外務審議官は政府諜報部のアクセルを伴ってブレイディーと会い、リーにはスパイ容疑が掛かっていると説明する。リーは看護師に化けた2人の殺し屋に襲われるが、反撃して始末した。刺客が送り込まれたことでシルヴァはリーの重要性を感じ、守る必要があるとビショップに告げた。
ビショップは22マイル離れたラムシュタイン空軍基地までリーを送り届け、専用機に乗せる作戦を決定した。シルヴァは7人でチームを組み、リーを車に乗せて出発する。ビショップが通信コードを変更すると、FSBがシルヴァたちの動きを捉えた。バイクの集団が車に接近して爆弾を仕掛け、爆発でサムが重傷を負った。シルヴァたちは銃撃戦を繰り広げるが、敵はランチャーまで装備していた。ビショップはシルヴァに近くの車で逃げるよう指示した。シルヴァは動けないサムに手榴弾を渡し、リーを車に乗せて逃亡する。サムは2人の刺客をおびき寄せ、手榴弾で爆死した。
シルヴァたちは協力者のベーカリーに入り、厨房で弾薬を補充する。バイク軍団が店を包囲し、シルヴァはアクセルの姿を発見する。彼が歩み寄って「戦争を始める気か」と詰め寄ると、アクセルは「仕事をしているだけだ」と静かに告げた。シルヴァは店に戻り、リーを車に乗せる。敵は店に手榴弾を投げ込み、ダグが重傷を負った。シルヴァたちは襲い掛かって来た敵を倒し、車で脱出する。バイク軍団に包囲されたシルヴァたちはダグに後を任せ、近くのアパートに逃げ込んだ…。

監督はピーター・バーグ、原案はグレアム・ローランド&リー・カーペンター、脚本はリー・カーペンター、製作はピーター・バーグ&マーク・ウォールバーグ&スティーブン・レヴィンソン、製作総指揮はスチュアート・M・ベッサー&ジョン・ローガン・ピアソン&グレアム・ローランド&ドナルド・タン&ジョナサン・グレイ&マシュー・ローズ&ジャド・ペイン&ランドール・エメット&デレク・コリソン&サム・スレイター&スコット・カーメル&デヴィッド・バーノン&ワン・チョンジュン&ワン・チョンレイ&フェリス・ビー&ロバート・シモンズ&アダム・フォーゲルソン、共同製作はエリック・へフロン、製作協力はダフネ・ランブリノウ&リック・ラファネロ、撮影はジャック・ジョフレ、美術はアンドリュー・メンジース、編集はコルビー・パーカーJr.&メリッサ・ローソン・チャン、衣装はヴァージニア・ジョンソン、音楽はジェフ・ルッソ、音楽監修はジェイソン・マーキー。
出演はマーク・ウォールバーグ、ジョン・マルコヴィッチ、ローレン・コーハン、イコ・ウワイス、ロンダ・ラウジー、テリー・キニー、エミリー・スケッグス、カルロ・アルバン、サム・メディナ、プールナ・ジャガナサン、イ・チェリン(CL)、ナターシャ・グブスカヤ、キース・アーサー・ボーデン、ジェニーク・ヘンドリクス、ビリー・スミス、マイク・ホームズ、ブランドン・スケイルズ、ピーター・バーグ、エル・グレアム、ニコライ・ニコラエフ、アリエル・フェリックス、トム・アスター、ケイト・リッグ、ローデス・ペレア、タチアナ・ロンデロス他。


監督のピーター・バーグと主演のマーク・ウォールバーグが『ローン・サバイバー』『バーニング・オーシャン 』『パトリオット・デイ』に続いて4度目のタッグを組んだ作品。
これまでの3作は全て実話ベースだったが、今回は初めてのフィクション。
シルヴァをマーク・ウォールバーグ、ビショップをジョン・マルコヴィッチ、アリスをローレン・コーハン、リーをイコ・ウワイス、サムをロンダ・ラウジー、ポーターをテリー・キニー、MITをエミリー・スケッグス、ダグラスをカルロ・アルバン、アクセルをサム・メディナ、ブラディーをプールナ・ジャガナサン、クイーンをイ・チェリン(CL)が演じている。

ピーター・バーグは3作連続で実話をベースにした作品を手掛けている内に、完全なるフィクションを演出する方法を忘れてしまったんだろうか。
「実話を基にしています」という部分に頼ることを覚えてしまい、フィクションでも同じようなやり方か通用するとでも思ってしまったんだろうか。
それなりに経験を重ねている人だから、さすがにそんなことは無いだろう。
そうは思うのだが、「もしかしたら」と邪推したくなるぐらい、残念なことになっている。

まあしかし考えてみれば、ピーター・バーグが優勝な監督だと思ったことなんて、そもそも1度も無かったんだけどね。
振り返ってみれば、『ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン』とか、『ハンコック』とか、『バトルシップ』とか、ポンコツな映画を撮っていたわけでね。
そんな人が「実話がベース」という部分に頼った時は、マシになっていたというだけなんだよね。
だから、ある意味では「いつも通りのピーター・バーグに戻った」ってことではあるんだよね。

冒頭のアクションシーンが描かれている時点で、シルヴァたちが何者なのか、具体的な目的は何なのか、場所はどこなのか、拘束した相手は何者なのか、そういった情報が全く分からない。たぶんシルヴァたちはCIAなんだろうってことぐらいは何となく分かるけど、それ以外は五里霧中の状態だ。
仕事を終えて去った後、ニュースの音声で「相手はFSBで襲った場所は隠れ家」ってことが初めて分かるが、やはりシルヴァたちの狙いが何だったのかは教えてもらえない。
そこからオープニング・ロールに突入し、シルヴァの過去が駆け足で紹介される。彼が幼少期から天才だったこと、しかし脳に異常があるせいで暴力的な衝動が強かったこと、母親から手首に付けた輪ゴムをは弾いて落ち着くよう諭されたこと、交通事故で母と兄が死んだことが説明される。
でも、それってホントに必要な情報なのか。現在のシーンだけに留めておいても、そんなに大きな影響は無いんじゃないか。台詞で過去について軽く触れる程度でも、別にいいんじゃないか。

しかも、そうやって変なトコで無駄な情報を与えるくせに、こっちが欲しい肝心な情報は薄いんだよね。
これが実話ベースの映画であれば、脳内補完も可能だろう。
だけど、そうじゃないので、ただ説明が下手なだけになっている。
情報を抑制することで、ミステリーとしての面白さに繋がっているわけでもないしね。
そもそも、そういうのを狙っているようにも思えないし。

前述したように、シルヴァが幼少期から強い暴力衝動を持っていたこと、輪ゴムで自分を落ち着かせるようになったことがオープニング・ロールで提示されている。
なので現在のシーンでもシルヴァはむやみやたらとイライラしているし、何度も手首の輪ゴムをパチンと弾く。
でも、そのキャラクター設定って主人公としての魅力を削ぐだけで、何のメリットも感じないのよ。
「すげえウザい奴だな」と思いながら、映画を見る羽目になっちゃうのよ。

ピーター・バーグはマーク・ウォールバーグと組んだ前の3作と同じく、リアルな肌触りを意識したような演出を見せている。話の内容を考えても、それが間違っているとは思わない。
しかし、ここで大きくネックになるのが「架空の国」という設定だ。
「インドカー」と地名が画面に出た時、「インドカーって何だよ」とツッコミを入れてしまった。
インドネシアがモデルなのは明らかだが、実話じゃないから、実際の国名を使うと色々と厄介だと思ったんだろう。
でも、そこで生じる陳腐さって、かなりデカいのよね。荒唐無稽まっしぐらな話ならともかく、そうじゃないのでね。

リーはアリスの脅しを受けた時、「セシウムが見つかったら国家が転覆する。その前に亡命したい」と言う。
でも、なぜセシウムが発見されたら国家が転覆するのか、それが良く分からない。そもそも、セシウムを盗んだのが誰なのか、目的が何なのかも分からない。
また、インドカー政府とFSBが執拗にリーの抹殺を狙う理由も良く分からない。
それがミステリーとしての面白さに繋がっているわけではないし、もう少し話を整理してアクション色を強くしても良かったんじゃないか。どうせピーター・バーグって、緻密なドラマ演出を得意にしているとは到底思えないし。

シルヴァが大使館でアクセルや外務審議官と会っている時、リーが刺客に襲われるシーンが並行して描かれる。
イコ・ウワイスを起用している以上、彼に格闘シーンを用意するのは当然のことだし、もちろん全面的に歓迎する。
ただし問題は、まるでリーが主役のようになっているってことだ。
彼をハッキリとした形でフィーチャーするのは、そのシーンとアパートの戦闘ぐらいしか無い。でも、「彼が主役で良くないか」と思ってしまうんだよね。ピーター・バーグがそれを意識して演出しているとは思えないけど、結果的には「シルヴァよりリーの方が主役に向いている」と感じるのよね。

開始から45分ぐらい経過して、ナレーションが「オーバーウォッチと実戦部隊は危険管理のプロだ。作戦上、この2つは3千キロ以上の距離を置く。オーバーウォッチの所在はアメリカの最高機密だ」と説明する。
ここでようやく、「ってことは、どうやらシルヴァたちはオーバーウォッチというグループの一員なんだろうな」ってことが何となく見えて来る。
でも、こんなのはオープニングで文字にして表示してもいいぐらいであって。
そこまで引っ張る意味は全く無い。

導入部で殺された青年が「後悔するぞ」と言っているので、たぶん後に繋がるんだろうってのは何となく予想できる。FSBが動き出すので、そこが関係しているのかなあと思いながら観賞することになる。
また、リーが本当に亡命だけを目的にしているわけではなく、何か秘密があるんだろうってのも何となく見える。
ただ、青年が殺された冒頭のエピソードとリーが繋がるのは、ちょっと意外だった。
ただ、それが映画を面白くしているかってのは、また別の話であって。

完全ネタバレだが、リーはFSBのために動いている三重スパイだ。
冒頭でシルヴァが殺した青年の母親は、FSBの高官だった。そこでFSBはシルヴァに復讐するため、リーを使ったのだ。
そしてラスト、リーとFSBは一気に行動し、シルヴァの仲間を全滅させる。
意外性はあるが、全く歓迎は出来ない。ガッカリ感しか無いよ。こういうバッドエンドは、まるで歓迎できないなあ。
ハードなアクション映画を見ていたはずなのに、終盤になって急にイヤミスみたいになっちゃうのよね。

そもそも、FSBはシルヴァを標的にしていたんでしょ。なのにシルヴァ以外のメンバーを皆殺しにして作戦終了って、それは意味不明だわ。
あと、「実は」というオチが訪れた時、それまで長く続いていたアクションが無意味だったことが明らかになるので、「なんだかなあ」と言いたくなる。
「壮大なネタ振り」ですらないのよ。
緻密に伏線を張って、それを最後に回収しているわけではないからね。ただの壮大な時間稼ぎに過ぎないからね。

(観賞日:2020年10月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会