『ミッドウェイ』:2019、アメリカ

1937年、駐日大使館付き武官補のエドウィン・レイトンは、日本の海軍大将である山本五十六が大英帝国軍を招待した晩餐会に出席した。晩餐会の後でレイトンと2人になった山本は、「日本は中国進攻で勢いづき、大国になろうとしているが、石油の80%はアメリカ頼りだ。その供給が危うくなれば、思い切った手段を取らざるを得なくなる」と話す。「それをワシントンに伝えろと?」とレイトンが訊くと、彼は「我々を追い詰めるな。日本にも分別のある人間はいる。チャンスを与えてくれ」と告げた。4年後、日本は中国を征服し、ヒトラーがロシアを蹂躙する中で、アメリカは中立を保っていた。
1941年、12月7日。爆撃機で飛行していた米軍第6爆撃中隊長のディック・ベスト大尉は「これも練習だ」と称し、フラップを使わずに米空母エンタープライズへ戻った。相棒のジェームズ・マレーが心配する中、彼はエンジンを停止させて着艦する。彼は同僚のクラレンス・ディキンソン大尉に注意されても、全く悪びれなかった。ディキンソンや相棒のビル・ミラーたちは真珠湾行きが決まったが、ベストの隊だけは待機を命じられた。
ロイ・ピアース大尉真珠湾に停泊している戦艦アリゾナへ行き、水兵のサリー・ブラウンに声を掛けた。そこへ日本海軍の機動部隊が奇襲を仕掛け、アリゾナは炎に包まれた。連絡を受けたレイトンは現場を見た後、司令部へ向かった。偵察に出ていたディキンソンは攻撃を受け、無線連絡を入れる。ミラーは死亡し、ディキンソンは墜落する偵察機から脱出した。レイトンは太平洋艦隊司令長官のハズバンド・キンメル大将から、「私は更迭される。後任の人間には、もっと強く警告してほしい」と頼まれた。
第16任務部隊司令官のウィリアム・ハルゼー中将は情報部から届いた日本艦隊の位置情報が広範囲すぎたため、賭けのような思いで北だと推定する。ベストは魚雷隊の前に煙幕を張る任務を命じられ、不満を抱いた。彼は仲間を殺した連中に爆弾を落とさせてほしいと訴えるが、第6空母航空団司令のウェイド・マクラスキー少佐は「復讐のために作戦は変更しない」と却下した。ベストの隊は出撃するが、敵艦隊の姿は無かった。彼らがエンタープライズに戻ると、「日本艦隊は南だった」と告げられた。
ベストは怪我を負って戻ったディキンソンと話した後、港に来ていた妻のアンと会う。「すぐ出航だ。バーバラと実家に帰れ」と彼が言うと、アンは「戻らないと決めた」と告げる。アンは彼に、ロイを病院で捜したが見つからなかったと話す。ロイはベストにとって、海軍兵学校時代のルームメイトだった。病院を訪れたベストは、ロイの死を知った。山本は山口多聞少将と会い、「南雲忠一中将に戦艦の燃料タンクを破壊するよう進言したが拒否された」と聞かされる。山本は恐るべき過ちだと感じるが、敵の戦艦を沈めて英雄視されている南雲を簡単に更迭することは出来なかった。
チェスター・ニミッツ大将はキンメルの後任に指名され、アメリカ艦隊が東京湾に入るまで真珠湾に留まるよう命じられた。山本は残りの艦隊を壊滅させるべきだと訴えるが、陸軍は自分たちの輸送を優先するよう要求した。山本は山口に「状況は変わる」と告げ、話し合った計画の準備を進めるよう指示した。ベストはロイの葬儀に参列し、彼の妻であるマリーと話した。レイトンはニミッツと会い、駆逐艦に転属させてほしいと頼んだ。ニミッツは山本の考えを読んで次の動きを教えるよう命じ、「ハルゼーをマーシャル諸島に送る。罠が無いか確認しろ」と告げた。
1942年2月1日、マーシャル諸島。ベストたちはロイ島の飛行場を叩く任務を命じられ、エンタープライズから出撃する。タロア島から敵が出撃したという知らせを受けたベストは、そちらも潰すべきだと考える。彼らは途中で遭遇した日本の機動部隊を迎撃し、タロア島の飛行場も叩いた。ベストたちが帰還した直後、日本の機動部隊が襲ってきた。エンタープライズは機銃で撃ち落とす、残った1機が特攻を掛けてきた。三等航空整備員のブルーノ・ガイドーは爆撃機に乗り込み、危険を顧みずに迎撃した。ミニッツは彼の勇敢な振る舞いを称賛し、一等航空整備員に昇格させた。ベストはホノルルの将校クラブでレイトンと遭遇し、挨拶を交わした。
1942年4月18日。アメリカ空母ホーネットが爆撃隊を乗せてエンタープライズの元へ到着した。ハルゼーはマイルス・ブラウニング参謀長に、爆撃隊の指揮官が有能なジミー・ドゥーリトル中佐だと教えた。爆撃隊は東京を空襲し、中国に着陸することになっていた。空襲は成功するが、レイトンは妻のダグネに「燃料切れで中国まで飛べず、東京湾に落ちるだろう。戦い方を考えなければ、もっと大勢が死ぬ」と語る。ドゥーリトルは悪天候の中で燃料が底を突いたため、爆撃機から脱出した。
山本は山口に、天皇陛下を危険に晒したことへの悔恨を吐露した。山口は東條英機首相が珊瑚海の作戦を実行するよう命じたことを伝え、「その後でミッドウェイに注意を向ければ良いのです」と語る。ドゥーリトルは中国の農村で百姓たちに銃を突き付けられ、教師のチュー・シャオサンに通訳してもらう。ドゥーリトルが日本を爆撃したことを知った百姓たちは態度を変貌させ、歓迎の意を示す。ドゥーリトルがクズーに行きたい旨を伝えると、百姓たちは協力を快諾した。
ニミッツは日本軍の動きを知り、ハルゼーを珊瑚海へ向かわせることにした。レイトンが「日本軍には珊瑚海より大きな狙いがある」という可能性に言及すると、彼は標的を割り出すよう命じた。1942年5月8日。ハルゼーは珊瑚海に到着するが、無傷の空母はホーネットとエンタープライズだけだった。ハルゼーはマクラスキーを空母航空軍の指揮官に任命し、急降下爆撃機に搭乗するよう指示した。ベストはハルゼーの指令で、副隊長から隊長に昇格した。
山本は南雲たちに、ミッドウェイを攻略するための図上訓練を繰り返させた。レイトンはニミッツに、日本が数週間以内にミッドウェイを攻めると告げた。ニミッツは戦闘情報班へ行き、暗号解読係のジョセフ・ロシュフォートから説明を受ける。まだ彼はミッドウェイの情報について半信半疑だったが、それでも「エンタープライズを呼び戻す。君たちはワシントンを納得させる方法を考えろ」と指示した。通信を受け取ったハルゼーは「敵に見つかれば真珠湾に戻らねばならなくなる」と述べ、届かなかったことにして燃やした。
レイトンは嘘の情報を電文で送らせ、わざと日本軍に傍受させた。彼は虚偽情報に反応した日本の電文を傍受し、ミッドウェイを攻める根拠としてニミッツに報告した。ニミッツはレイトンに、「ロシュフォートに敵の数と日時を調べさせろ」と指示した。1942年5月28日、ミッドウェイ諸島。映画監督のジョン・フォードはカメラマンを従え、撮影にやって来た。ベストは隊員のウィリー・ウエストから「自信がありません」と言われ、「可愛そうだが、操縦士が足りない。我慢して飛べ」と告げた。彼はウエストを僚機に指示し、偵察飛行に出るよう言う。しかし向かい風が足りずに不時着水し、ウエストは命を落とした。
1942年5月29日、真珠湾。ニミッツはハルゼーの体調が悪いと気付き、下船して病院に行くよう命じた。彼は爆撃を受けて激しく損傷した空母ヨークタウンの修理を急がせ、ハルゼーの後任にはスプルーマンス少将を据えた。ニミッツはミッドウェイでの配備を部下たちに説明し、レイトンに日本軍の具体的な位置情報を出すよう要求した。1942年6月4日、日本がミッドウェイを攻撃し、ニミッツは報告を受けて反撃を命じた。ベストやユージン・リンゼイ少佐たちはエンタープライズから飛び立ち、敵艦隊を発見して攻撃を開始する…。

督はローランド・エメリッヒ、脚本はウェズ・トゥック、製作はハラルド・クローサー&ローランド・エメリッヒ、製作総指揮はマーク・ゴードン&マルコ・シェパード&ウェズ・トゥック&ピーター・ルオ&ハン・サンピン&クー・リーミン&ジエ・ユー&ユー・ドン&ジェフリー・チャン&ブレント・オコナー&カーステン・ロレンツ&ウテ・エメリッヒ&スチュアート・フォード&ミゲル・パロスJr.&アラステア・バーリンガム&ゲイリー・ラスキン、共同製作はジョン・ポール・ペティネイト&ステファン・トロジャンスキー&シロ・クザー&ペリー・ケイン、製作協力はジョン・A・アミカレラ、撮影はロビー・バウムガートナー、美術はカーク・M・ペトルッチェリ、編集はアダム・ウルフ、衣装はマリオ・ダヴィニョン、視覚効果監修はピーター・G・トレイヤー、視覚効果プロデューサーはトリシア・マルグリュー、音楽はトーマス・ウォンカー&ハラルド・クローサー。
出演はエド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンズ、ウディー・ハレルソン、デニス・クエイド、マンディー・ムーア、アーロン・エッカート、ニック・ジョナス、豊川悦司、浅野忠信、ルーク・クラインタンク、國村隼、ダレン・クリス、キーアン・ジョンソン、レイチェル・ペレス・フォスケット、アレクサンダー・ルドウィグ、ブレナン・ブラウン、ジェフリー・ブレイク、ケニー・リウ、ジェイク・マンリー、ピーター・シンコーダ、マーク・ロルストン、ジェイク・ウェバー、エリック・デイヴィス、デヴィッド・ヒューレット他。


第二次世界大戦中にミッドウェイ諸島沖で起こった海戦(日本では「ミッドウェー海戦」と表記されることも多い)を描いた作品。
監督は『ストーンウォール』『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』のローランド・エメリッヒ。
脚本のウェズ・トゥックは、これが映画デビュー作。
ベストをエド・スクライン、レイトンをパトリック・ウィルソン、マクラスキーをルーク・エヴァンズ、ニミッツをウディー・ハレルソン、ハルゼーをデニス・クエイド、アンをマンディー・ムーア、ドゥーリトルをアーロン・エッカート、ガイドーをニック・ジョナス、山本を豊川悦司、山口を浅野忠信、ディキンソンをルーク・クラインタンク、南雲を國村隼、リンゼイをダレン・クリス、マレーをキーアン・ジョンソンが演じている。

1975年版と同じく、日本側の様子にも多くの時間を割いている。
結果としては、これが失敗だったと言わざるを得ない。アメリカ側の物語だけに絞り込んだ方が、話がまとまってスッキリとした印象になっただろう。
両側から描くことで話に幅が出たり深みが出たりすることを、狙っていたんだろうとは思う。
ただ、アメリカ側だけでも主要キャラクターとして配置されている人物やエピソードが多くて、まるで整理できていないのだ。

日本パートはホントに申し訳程度であり、「正義のアメリカに奇襲を仕掛けた倒すべき敵」としての存在でしかない。
互いの情報戦とか、相手の裏を読み合う心理戦とか、アメリカ側のキャラが日本の誰かに対して敵でありながらリスペクトを抱くとか、奇妙なシンパシーが芽生えるとか、そんなアプローチも無い。
中途半端に気遣いみたいなモンを入れても、何の役にも立っていない。
ミッドウェイ海戦が開始されると出番は増えるけど、出番が増えても効果的に機能しているとは言い難い。

この手の映画で難しいのは、どうやって女性キャラクターを関与させるかってことだ。
戦争映画だから、当然のことながら戦場のシーンが大半を占める。まだ陸地なら「現地の村にいる女性」みたいなキャラを出すことも出来なくないが、海戦だと空母や潜水艦に女性を乗せることは出来ない。いや出来なくはないけど、その時点で「史実を完全に無視したファンタジー」になってしまう。
そのため、この映画ではベストやレイトンが妻と一緒にいるシーンを挿入して、女性キャラを登場させている。
ただ、そこに緩和やチェンジ・オブ・ペースの意味が全く無いとは言わないけど、優れた効果を発揮しているとも思えない。レイトンが心の内を話す相手なんて、別に親友や部下でもいいんじゃないかと思ったりもする。
完全に女性を排除してゴリゴリの硬派にしちゃっても、それはそれで有りだったんじゃないかとは思うけど、そんなのはローランド・エメリッヒらしくないわな。

オールスター映画ではないので、主要キャラクターの多さが混乱を招いている。もっと主要キャラを絞り込んでしまっても良かったんじゃないだろうか。
例えばドゥーリトルは東京大空襲のパートしか出て来ないキャラなので、もっと全編に渡って話に絡んで来るキャラだけに絞っても良かったんじゃないかと。
まあ、どうしても中国パートを入れたかったんだろうけどね。「要らない」「邪魔だ」と感じるシーンは幾つもあるが、その中でもダントツなのが中国パートなんだけどね。
たぶん中国資本が入っているので、そういうトコに目を向けた内容になっているんじゃないかな。

当然のことながら、全員が戦争に勝つために動いているのは誰でも分かるだろう。ただ、もう少し細かい行動理念に入り込もうとした時、そこが良く分からない。
全員がボンヤリしているので、それが緊迫感の乏しさにも繋がっている。そういう問題を解消する上でも、主要なキャラクターを絞り込んでも良かったんじゃないかと。
そういう方向性で作った場合、1975年版とは全く違うアプローチになる。
だけど、それによって大きな差異が生じるし、真正面から比較されるのを避けることにも繋がったんじゃないかと思う。

ただ、何しろ監督がローランド・エメリッヒなので、ようするに「たくさんの乗り物やデカい乗り物を次々に登場させて、派手なドンパチを見せたい」ってことなんだろう。
人間ドラマの部分は極端に言ってしまえば、ドンパチのシーンを繋ぎ合わせるための接着剤みたいなモンなんだろう。
そう割り切ってしまえば、あまり文句も出なくなるんじゃないかな。
でも、「じゃあ戦争シーンは見応え充分なのか」と問われたら、それも厳しいんだけどね。CGたっぷりの爆発や銃撃が大雑把に描かれるだけだからね。

CGたっぷりでアクションシーンを表現する戦争映画ってのは、たくさん作られて来た。
だからこそ、あえてCGに頼らず本物の戦闘機にこだわった『ダンケルク』が注目を集めるようなこともあった。
まあ結果として『ダンケルク』が傑作になったかと問われると答えはノーだが、そういう方向性で他の戦争映画との差別化を図ろうとしたわけだ。
しかし『ミッドウェイ』には、「この映画ならでは」と感じる趣向や、既存の作品には無い映像表現は特に見当たらない。

粗筋でも少し触れたように、ジョン・フォードの登場シーンがある。「お遊び」のような意識で1シーンだけ登場させたのかと思ったら、その後にも再び出番が用意されていた。
だけど、何のために出しているのかサッパリ分からない存在だ。
彼がいようがいまいがストーリー展開には何の影響も無いし、そこにエピソードとしての面白味があるわけでもない。ドラマ的な要素は皆無なのだ。
「有名人だから出してみた」という程度にしか思えないし、ただ邪魔なだけだ。

終盤、ベストたちは最後に残った空母の飛龍を攻撃して炎上させ、雷撃処分に追い込む。攻撃の後で消息不明となったベストだが、死んだと思っていた仲間の元に戻って来る。
「全ての空母を撃破し、ベストが無事に生還する」という展開を描いたんだから、もう「アメリカ側の大勝利」として終わらせればいいはずだ。
しかし、その後で日本側のパートを挟み、「日本からしてみれば悲劇」という見せ方をする。
バランスを取っているつもりかもしれないけど、逆にバランスを崩しているとしか思えんよ。

(観賞日:2022年6月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会