『ミッドサマー』:2019、アメリカ&スウェーデン

大学生のダニー・アーダーは双極性障害を抱える妹のテリーから、「もう耐えられない。パパとママと一緒に行く」というメールを受けた。ダニーは心配になってメールを送るが、返信は無い。彼女は両親に連絡するが、留守電になっていた。恋人のクリスチャンに電話したダニーは、テリーについて「大丈夫だよ。君の気を引こうとしてやってるだけだろ」と言われる。ダニーはパニック発作の持病があるため、抗不安薬を常用していた。彼女は友人に電話を掛け、「クリスチャンに頼り過ぎて嫌になったかも」と不安を吐露する。「支え合うのは当然よ」と友人は言うが、ダニーが一方的に頼る関係性だった。
クリスチャンはダニーの存在を重荷に感じており、1年前から別れを考えていた。彼に相談された友人のマーク、ジョシュ、留学生のペレは、別れることに賛同していた。クリスチャンはダニーから電話を受け、テリーが両親を殺して自殺したことを知らされた。彼はダニーの部屋へ行き、朝まで寄り添った。翌日、クリスチャンがパーティーに出掛けようとすると、ダニーは同行を希望した。彼女はクリスチャンと友人たちの会話で、6月半ばから2週間の予定でペレの故郷であるスウェーデンのヘルシングランドへ行く計画を知った。ジョシュのの目的は夏至祭の調査だが、他の2人は観光だった。
家に戻ったダニーは、クリスチャンに「行くなんて知らなかった」と責めるように告げる。クリスチャンは釈明し、「悪かった」と言って去ろうとする。ダニーは「責めてるんじゃないわ、話し合いたかっだけ」と告げ、彼を引き留めた。クリスチャンは仕方なく、彼女を旅行に誘った。来るはずがないと思っていたクリスチャンだが、ダニーは行くと言う。ペレは彼女に、ホルガ村という小さな共同体の出身であること、親族が9日間の特別な大饗宴を催すことを話し、夏至祭の白い衣装を着た住民の写真を見せた。
ダニーたちはヘルシングランドに到着し、ホルガ村へ向かう。その途中で平原に立ち寄った一行は、海外から戻った村の若い女性たちと出会った。ペレはロンドンから戻った親友のイングマールと再会し、ダニーたちに紹介する。イングマールはロンドンで知り合ったコニーと婚約者のサイモンを伴っており、2人を夏至祭に招いていた。マークたちはイングマールからドラッグを勧められ、喜んで受け入れる。ダニーだけは躊躇するものの、結局は承諾した。
スウェーデンは白夜のため、午後9時になっても明るかった。ダニーは幻覚に見舞われ、マークたちから離れて歩き出す。しかし恐ろしい幻覚を見たため、逃げるように走り出した。いつの間にか寝てしまった彼女は、翌朝になってマークたちに起こされた。一行は移動し、村に到着した。全ての住民は白い衣装を着ており、ダニーたちはペレの姉のダグニーや村長のオッドたちに歓迎された。90年に1度の大祝祭が始まり、住民は一斉に乾杯した。
ペレはダニーたちに、ルーン文字を彫って枕の下に置き、夢で力を得る伝統を教える。黄色い建物に気付いたクリスチャンが「あれは?」と尋ねると、ペレは「神殿のような物だ。入ってはならない」と答えた。ダニーたちがペレに案内された宿泊施設は、天井や壁に聖典のような絵が描かれていた。ペレは村民の一生が四季で分類されていることを語り、「18歳までの子供は春。36歳までは巡礼の旅をする夏。54歳までは労働の年齢で秋。72歳までは人々の師になる」と述べた。
ペレはダンス競技に勝った者が女王の冠を被ると説明し、「君たちも、そのために来た」と言う。建物に住人のインガが来ると、マークは目を奪われた。ペレはダニーたちに「明日は大変な1日だ」と告げ、寝るよう促した。彼は「大きな儀式の始まりだ。アッテストゥパン」と言い、クリスチャンが言葉の意味を訊くと「明日になったら説明する」と口にする。ジョシュは意味を理解していたが、ただ笑うだけでクリスチャンに答えは教えなかった。
翌日、草原にテーブルが置かれ、ダニーたちは住民に混じって会食を取った。老夫婦のダンとイルヴァが立ち上がり、何やら呪文のような言葉を唱えた。それか終わると住民が一斉に立ち上がり、グラスの酒を飲んだ。ダンとイルヴァは椅子に座ったまま運ばれ、会食は終わる。住民は崖の下に移動し、ダニーたちも同行した。ダンとイルヴァは崖の上に現れ、同行した住民が掌をナイフで切った。2人は石碑に歩み寄り、そこに血を付着させた。
ジョシュは儀式を仕切る男が持っている書物が気になり、ペレに尋ねた。ペレは「ルビ・ラダー。我々の聖なる書だ」と説明し、ジョシュが読みたがると「許されない」と教えた。イルヴァは崖から飛び降りて自害し、ダンも後に続いた。ダンは重傷を負ったが死なず、住民は呻くような声を発した。4名の男女がダンに歩み寄り、槌で頭部を殴り付けて殺害した。サイモンが「黙って見てるだけなんて」と激昂すると、長老のシヴが慌てて「昔から続く風習です」と説明した。彼女はダニーたちに、「2人は生命のサイクルを終えた。大いなる喜びです。新たに生まれてくる赤ん坊が名前を継ぐ」と述べた。
宿泊施設に戻ったクリスチャンは、ジョシュに「この村について論文を書こうと思う」と言う。夏至祭に関する論文を書いているジョシュは裏切りのような行為を批判するが、クリスチャンは考えを変えなかった。ダニーが村を去ろうとすると、ペレが「一生に一度のことを共に経験したかった」と釈明して引き留める。彼は「君の気持ちは分かる。幼い頃、僕も火事で両親を亡くした。でも、共同体の家族が僕を守ってくれた」と語り、「君はクリスチャンに守られてると感じる?」と問い掛けた。
村民が老夫婦の遺体を燃やす現場をダニーが眺めていると、クリスチャンが歩み寄った。「あれを見て動揺しないの?」とダニーが訊くと、彼は「もちろん動揺してる。でも、こういう文化なんだ。慣れるよう努力すべきだ」と語った。夜、ペレの妹のマヤは、クリスチャンのベッドに下に愛情ルーン文字を忍ばせた。それに気付いたジョシュは、翌朝になってペレに教えた。ペレはクリスチャンに「妹が君を好きらしい」と伝え、既にセックスが許されていると告げた。
マークは先祖の木に立ち小便したため、村民の怒りを買った。コニーは村を出ようとするが、村の男からトラックの手配に行ったサイモンについて「駅で合流すると伝えてくれと言われた」と言われる。コニーは「サイモンが自分を置いて行くなんて有り得ない」と彼の言葉を信じず、村を出て行こうとする。ジョシュはオッドにルビ・ラダーの内容を解説してもらうが、写真撮影は却下された。オッドは、彼に、障害者のルビンが書いて自分たちが解読すること、賢者は全て意図的な近親相姦で生まれることを教えた。
夕食の時間、ダニーたちは村の男から「コニーを駅まで送った」と言われる。マークはインガに誘われて夕食の席を離れ、そのまま翌朝になっても戻らなかった。ジョシュは深夜に神殿へ侵入してルビ・ラダーを撮影するが、背後から近付いた男に殴り殺された。翌朝、オッドは朝食の席で、ルビ・ラダーの19巻目が盗まれたことを話す。クリスチャンは彼に、「もしジョシュが犯人だとしても、俺たちは共謀していない」と語る。ダニーは女たちと行動するよう促され、一緒にお茶を飲んで儀式に参加した…。

脚本&監督はアリ・アスター、製作はパトリック・アンデション&ラース・クヌーセン、製作総指揮はペレ・ニルソン&フレドリク・ハイニヒ&フィリップ・ウェストグレン&トマス・ベンスキー&ベン・リマー、共同製作はタイラー・キャンペローン&ジェフリー・ペンマン&ボー・フェリス、製作協力はティンティン・シェイニウス、撮影はパヴェウ・ポゴジェルスキ、美術はヘンリク・スヴェンソン、編集はルシアン・ジョンストン、衣装はアンドレア・フレッチ、音楽はボビー・クーリック。
出演はフローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィル・ポールター、ヴィルヘルム・ブロングレン、エローラ・トルキア、アーチー・マデクウィ、ヘンリク・ノーレン、グンネル・フレッド、イザベル・グリル、アグネス・レイズ、ジュリア・ラグナルソン、マッツ・ブロムグレン、ラース・ヴァリンジャー、アンナ・アストロム、ハンパス・ハルベルグ、リヴ・ミヨネス、ルイーズ・ペーターホフ、カタリナ・ウェイドヘイゲン、ビヨルン・アンドレセン、トマス・イングストロム、ダグ・アンダーソン、レナート・R・スヴェンソン他。


『ヘレディタリー/継承』で注目を集めたアリ・アスターが、次に手掛けた作品。
ダニーをフローレンス・ピュー、クリスチャンをジャック・レイナー、ジョシュをウィリアム・ジャクソン・ハーパー、マークをウィル・ポールター、ペレをヴィルヘルム・ブロングレン、コニーをエローラ・トルキア、サイモンをアーチー・マデクウィ、シヴをグンネル・フレッド、マヤをイザベル・グリル、ダグニーをアグネス・レイズ、インガをジュリア・ラグナルソン、オッドをマッツ・ブロムグレン、イングマールをハンパス・ハルベルグ、イルヴァをカタリナ・ウェイドヘイゲン、ダンをビヨルン・アンドレセンが演じている。

冒頭、ダニーがテリーからのメールで不安を覚え、無理心中を知るエピソードが現在進行形で描かれる。このエピソードは、ホルガ村で起きる出来事との直接的な関係は全く無い。ダニーの精神状態が不安定であることを示すためのシーンだ。
だけど、そのためだけに、そこまでショッキングな出来事を現在進行形で描く必要性がホントにあるのかと思ってしまう。
「双極性障害の妹が両親を殺して自殺し、本人も精神を病んでいる」という設定なら、そこだけで話を作っても良くないかと。
まるで関係の無い「田舎の村の恐ろしい因習」という話に入っていくので、「あの冒頭シーンは要らなくないか」と思ってしまう。

そこまでの出来事じゃなくてもいいし、「こんなことが過去にありまして」という形でもいい。いっそのこと、台詞だけで済ませてもいい。オープニングから観客を怖がらせようとして、欲張り過ぎているんじゃないかと。
オープニングだけでなく、村に着く前のシーンも同じようなことが言える。
ダニーが幻覚を見て不安になったり、幻覚に怯えて走り出したりするシーンがあるが、それはホルガ村の因習と何の関係も無い。ドラッグとダニーの精神状態が重なって生まれた恐怖だ。
そんなトコで恐怖を描いたら、ピントがズレるでしょ。

ダニーたちがホルガ村に到着すると、その時点で不気味さが漂っている。全員が白い衣装を着ており、笛を吹いている連中がいたりして、表面的には「牧歌的で穏やかな村と、そこに住む友好的な人々」という描写になっている。
でも、最初から「こいつらはヤバい」ってことがハッキリと分かる。その平和的な笑みが、ものすごく怖い。
むしろ実際にヤバい出来事が起きてからの方が、怖さが薄くなるぐらいだ。
手を繋いで草原を走り回るのも、ゆっくりとしたダンスを一緒に踊るのも、普通に不気味だ。

会食シーンが終わった時点で、「この老夫婦は今から死ぬんだろうな」ってのは簡単に予想できる。自ら死を選ぶのか、楢山節考みたいな扱いになるのかは分からないけど、とにかく死が待っていることは予想できる。
ペレが「72歳までは人々の師になる」と説明し、ダニーに「その後は?」と問われると何も答えなかったシーンが、ものすごく分かりやすいヒントになっているし。
しかも崖から身投げするまでの手順を、ゆっくりと丁寧に描いているのよね。そこだけ取っても、今から身投げするのはバレバレだ。
なので崖から飛び降りてダニーたちがショックを受けても、こっちは「でしょうね」としか思えないのよね。

会食が始まる時点で、村民の顔からは笑顔が消えている。これは大きなマイナスだなあ。
これから老夫婦が身投げすることが分かっている中で、それでも村民は笑顔を浮かべている方が薄気味悪いでしょ。
あと、「ホラー映画なのに景色が明るい状態が続く」ということを高く評価する声もあるようだが、それは全く賛同できないなあ。
コミューンの不気味さを表現するなら、明るい方が絶対に得策だからね。それは斬新でも何でもないでしょ。

「サイモンから駅で合流すると伝えてくれと頼まれた」と村の男がコニーに言った時点で、サイモンが殺されたのはバレバレだ。
その言葉を信じなかったコニーも姿を消し、「駅まで送った」と村の男が言った時点で、「コニーも殺されたな」ってのはバレバレだ。
この2人の時は犯行現場を見せていないので、ジョシュが撲殺される様子が描かれた時に「そこは普通に見せるのね」と言いたくなった。
そうじゃなくて、先に「サイモンの遺体を誰かが発見する」という手順があった方が良くないか。そこは順番が逆じゃないか。

ホラーというジャンルを考えても、147分という上映時間は長すぎる。その時間に見合っただけ内容が詰まっているとも思えない。もっとシェイプアップできるのに、薄く引き伸ばしているだけにしか思えない。
ジョシュが殺された時点で1時間半ぐらい経過しているが、明確な「殺人シーン」は、それだけだ。「殺害が無くても充分」と言えるほどの恐怖描写も無い。
主要キャストが殺人に気付くのは2時間以上が経過してからで、これもタイミングが遅すぎる。
殺人が明示されなくても充分と思える恐怖描写があるわけでもないし。

(観賞日:2021年9月22日)


2020年度 HIHOはくさいアワード:第11位

 

*ポンコツ映画愛護協会