『ミッドナイト・スペシャル』:2016、アメリカ

8歳ののアルトン・マイヤーが誘拐され、犯人のロイ・トムリンを警察が追っているというニュースがテレビで報じられている。モーテルに宿泊したロイと幼馴染のルーカスは、そのニュースを見ている。ロイは毛布を被ってゴーグルとヘッドホンを装着しているアルトンに声を掛け、出発することを告げる。アルトンはロイに懐いており、抱き上げてもらう。3人が車でモーテルを出発すると、フロント係の女性が気付いて警察に通報した。
「牧場」と呼ばれるカルト教団施設では、教祖のカルヴィンが側近のドークと話している。カルヴィンはドークに「君の行動に我々の運命が懸かっている。我々には時間が無い」と言い、4日でアルトンを連れ戻すよう命じる。彼は大勢の信者が集まっている礼拝室へ移動し、日記を読んで説法を始めた。そこへFBIのミラー捜査官が部下たちを引き連れて乗り込み、捜査令状を見せた。彼は信者たちに、バスでジェファーソン高校へ移るよう促した。
ルーカスは夜道で事故を起こし、対向車と激突してしまう。運転手の男性が大怪我を負っているのを見た彼は、通り掛かった警官に救急車を呼んでもらおうとする。しかし警官が手配中の車に気付いたため、ルーカスは拳銃を構えた。ロイは「アルトンが大事だろ」と発砲を指示するが、ルーカスは躊躇する。しかし警官が拳銃に手を掛けたため、彼は発砲した。ルーカスは警察無線で救命士の派遣を要請し、車に戻って逃走した。
ミラーはカルヴィンを尋問し、信者が大量の武器を入手していることについて指摘した。「武器の所持は違法じゃない」とカルヴィンが言うと、ミラーは「どうやって教団の運営費を?」と訊く。カルヴィンが「畑を耕し、牛を飼い、乳製品も作っている」と説明していると、NSA通信部門のポール・セヴィエがやって来た。セヴィエはカルヴィンに、説法で引用した言葉や数字に政府の極秘情報が含まれていることを話す。「暗号化されているので解読は不可能なはずだし、公開すれば重大な国家反逆罪だ」と彼が言うと、カルヴィンは「息子のアルトンから聞いた」と告げる。するとセヴィエは、「我々も知っている」と述べた。
アルトンはカルヴィンの養子であり、実の父親はロイだった。カルヴィンが「アルトンは発作を起こし、外国語や存在しない言葉を発する。それを経典の言葉にした。神の言葉だ」と説明すると、セヴィエは「政府の言葉だ」と言う。セヴィエやミラーは、経典にある3月6日が何を意味するのか知りたがっていた。カルヴィンは見下したような笑みを浮かべ、「君たちは何も分かっていない」と述べた。ロイはルーカスとアルトンを引き連れ、旧知の間柄であるエルデンの家に辿り着いた。エルデンは事前に段ボールを貼って窓を塞いであり、ロイはアルトンにゴーグルを外して眠るよう促した。
「牧場は例の座標を解読したか」とエルデンが訊くと、ロイは「いや、日付だけだ」と答える。エルデンは「座標の場所は特定できてると言うが、その意味までは突き止めていないと告げる。「牧場の暮らしが懐かしいか」というロイの問い掛けに、彼は「とてもな」と言う。翌朝、異変に気付いたロイが寝室へ行くと、エルデンがアルトンの両目から放出される強い光を顔に浴びていた。ロイはエルデンを殴打して失神させ、怯えるアルトンを抱き締めて「大丈夫だ」と優しく告げた。
セヴィエは信者の保育士に尋問し、「アルトンは物を破壊する。成長と共に力が強まるので、昼は寝かせて夜に起こすようにした」という証言を得る。複数の信者を尋問した彼は、「アルトンが実母に捨てられ、2年前に来た」「3月6日は審判の日だから重要だ」「アルトンが施設にいれば私たちの罪は許される」という証言を得た。ロイはエルデンの車で出発する直前、彼を始末しようと考える。エルデンは「居場所がバレる」と助命を嘆願し、アルトンへの行為について「どうしても見たかったんだ」と釈明した。
ロイたちはガソリンスタンドに立ち寄り、アルトンに車で待機するよう指示した。ルーカスは買い物に行き、ロイは電話を掛けて今から向かうことを伝える。アルトンはゴーグルを付けたまま、車を出て空を見上げる。気付いた女性がゴーグルを外そうとするが、慌てて駆け付けたロイが間一髪で阻止した。ロイはアルトンに、言い付けを守るよう注意した。直後、空から軍事衛星が降り注ぎ、ガソリンスタンドが炎上する。ロイとルーカスはアルトンを車に乗せ、急いで離脱した。
アルトンが突如として鼻から血を出したので、ルーカスは病院へ行こうかとロイに尋ねる。しかしロイは拒否し、アルトンに上を向くよう指示する。ルーカスは車を走らせ、ロイの妻であるサラが待つ家へ到着した。サラはアルトンを抱き締め、ロイに「寂しかった」と告げる。サラはアルトンを眠らせ、「顔色が悪いわ」とロイに言う。ルーカスは「病気なんだ」と口にするが、ロイは「金曜までに、あの場所に行かないと」と言う。ルーカスが「それでいいのか」と訊くと、彼は「日も場所も決まってる。病院へ行く暇は無い」と述べる。ルーカスが「死ぬかもしれない」と言うとロイは「あと3日だ。行けるさ」と告げ、サラも「やり遂げなきゃ」と同調した。
次の朝、ドークは仲間のレヴィと共に、サラの母親が暮らす家を訪れた。セヴィエはミラーに呼ばれてガソリンスタンドへ出向き、「昨夜、アルトンが軍事衛星を落とした。核爆発の探知衛星だ。最後の画像にアルトンが写っていた」と聞かされる。ミラーはアラバマに支局を設けたことを話し、そこを使ってアルトンを見つけ出すよう指示した。ルーカスはサラから「牧場の人じゃないの?」と問われ、「違う。ロイとは幼馴染だ。両親が牧場に入るまでは仲が良かった」と語る。彼は3日前にロイが来て助けを求めたこと、アルトンの目から出る光を見たことを話した。
ロイ、ルーカス、サラ、アルトンは車を乗り換え、座標の場所を目指す。サラは朝のニュース番組を見て、ガソリンスタンドで起きた事件を知っていた。アルトンは彼女に「やる必要があったの?」と訊かれ、「見られてた。警察と同じ無線が付いていた」と告げた。ドークとレヴィはサラの家を調べ、車の情報を入手した。アルトンは呼吸困難に陥るが、サラが息を吸うよう指示すると落ち着きを取り戻す。だが、今度は目から光を放って苦悶し、車の外へ出て嘔吐した。
ルーカスは「病気なんだろ。死に掛けてる。病院へ連れて行こう」と言うが、ロイは「死ぬはずがない。目的がある」と拒絶した。上空を見上げたアルトンは、「行かなくちゃ。奴らが来るよ」と口にした。彼はサラに「ルーカスと逃げて」と告げ、ロイと共に森を走る。洞窟を見つけたアルトンは中に入り、「知ってたのか」というロイの質問に「知らない」と答えた。ロイは彼に、「数時間で日の出だ。ここに隠れよう」と告げた。アルトンが「昼間、日差しの中で起きていたい」と言うと、ロイは「それは危険だ。死んでしまう」と反対する。しかしアルトンは、どうしても必要なのだと訴えた。
ルーカスとサラはモーテルに宿泊し、ロイたちを待つことにした。セヴィエは「説教に出た地名は関係ない。政府の通信で聞こえたのは通信だけだ」と解釈し、数字の意味を解読した。ドークとレヴィは、エルデンの家に乗り込んだ。アルトンがロイと共に日の出を見ると、巨大な透明のドームが出現した。ロイとアルトンは、ルーカスたちの部屋へ赴いた。まだ昼間にも関わらず、アルトンはゴーグルを装着していなかった。
アルトンはルーカスとサラに「日の出を見て自分のことが分かった。ある世界が存在している。僕たちの世界の上に。僕と同じ人が住んでいる」と語り、両目と掌から光を発した。サラが「仲間なの?」と尋ねると、彼は「たぶん」と答えた。アルトンが席を外している間に、サラはロイに「別の世界は、すぐに消えたの?」と訊く。ロイが「一瞬だった」と言うと、彼女は「あの子の住むべき世界よね。明日が来たら、お別れかも」と寂しそうに告げた。
ロイたちがモーテルを出発しようとすると、待ち受けていたドークとレヴィが発砲した。ロイたちは結束バンドで拘束され、アルトンが連れ去られた。ロイたちは拘束から脱出し、ドークとレヴィの車を追い掛けようとする。しかし軍の検問に遭い、もうアルトンと会うことは不可能だとロイは諦めた。アルトンは軍に捕まって政府の施設へ連行され、児童カウンセラーがシャロン・デイヴィソンが尋問しようとする。しかしアルトンはセヴィエにだけ話すと告げ、他の政府関係者には退室を要求した…。

脚本&監督はジェフ・ニコルズ、製作はサラ・グリーン&ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ、製作総指揮はスティーヴン・ムニューチン&グレン・バスナー&ハンス・グラファンダー&クリストス・V・コンスタンタコプーロス、共同製作はエリック・N・ヘフロン、製作協力はクリスティン・マン&ライアン・ケイヒル&ダリウス・シャミール、撮影はアダム・ストーン、美術はチャド・キース、編集はジュリー・モンロー、衣装はエリン・ベナッチ、音楽はデヴィッド・ウィンゴ。
出演はマイケル・シャノン、ジョエル・エドガートン、サム・シェパード、キルステン・ダンスト、アダム・ドライヴァー、ジェイデン・リーバハー、ビル・キャンプ、スコット・ヘイズ、ポール・スパークス、デヴィッド・ジェンセン、シャロン・ランドリー、デイナ・グーリエ、シャロン・ギャリソン、アリソン・キング、ショーン・ブリッジス、ルーシー・ファウスト、ジェームズ・モーゼス・ブラック、イヴォンヌ・ランドリー、モーリーン・ブレナン、アン・マホーニー、ギャレット・ハインズ、ケリー・ケイヒル、ウェイン・ペレ、デイン・ローズ他。


『MUD マッド』『ラビング 愛という名前のふたり』のジェフ・ニコルズが脚本&監督を務めた作品。
ロイをマイケル・シャノン、ルーカスをジョエル・エドガートン、カルヴィンをサム・シェパード、サラをキルステン・ダンスト、セヴィエをアダム・ドライヴァー、アルトンをジェイデン・リーバハー、ドークをビル・キャンプ、レヴィをスコット・ヘイズ、ミラーをポール・スパークス、エルデンをデヴィッド・ジェンセンが演じている。

冒ロイが卑劣な誘拐犯じゃないことは、登場シーンで既に分かる。アルトンが彼に懐いている様子で、それは明らかだ。
一方、カルヴィンが登場してドークに「4日以内にアルトンを連れ戻せ」と命じるシーンでは、「いかにも悪人でござい」という描写になっている。
なので、「ロイが息子を悪党から守るために連れ出した」という善悪の構図が分かりやすく成立しているのだろうと思っていた。
しかしながら実際のところ、問題はそう単純では無かったのである。

カルヴィンはカルト教団の教祖だし、大量の武器を集めているし、アルトンを身勝手に利用しようと企んでいる。そんな教団からロイはアルトンを連れ出し、必死で守ろうとしている。
表面的な部分だけを見れば、前述した「善と悪との対立」という図式になっている。
だが、ロイは「アルトンの方が大事」という理由で、警官を撃つようルーカスに命じる。その現場には大怪我を負った事故の被害者男性もいるが、ロイは放置して逃亡する。
救命士は呼んでいるが、あまりにも無責任で不誠実な行動である。
そのシーンが訪れると、ロイを「善人」と見ることが難しくなるのである。

これが「ロイもカルヴィンも、どっちも問題のある人物であり、そんな連中が身勝手な理由でアルトンを奪い合っている」という話なら、「ロイへの感情移入が難しくなる」という難点は置いておくとして、事故シーンのような行動を取るのは理解できなくもない。
しかし厄介なことに、ロイは全面的に正しい人間として描かれるのである。
そして恐ろしいことに、そこには宗教的な感覚が見え隠れする。
劇中ではカルヴィンの組織がカルト教団として描かれているが、正しいとされているロイ側の考えも、やはり狂信的にしか思えない。

ロイはルーカスに警官を撃つよう指示する時、「アルトンの方が大事だろ」と告げる。
しかし、それは「アルトンの命が大事」という意味ではない。彼はアルトンの状態が悪化しても、衰弱が見えるようになっても、病院へ連れて行くことは拒否する。
「診察されたらマズいことになるから」という意味で、病院を拒んでいるわけではない。「金曜までに座標の場所へ行く」という目的を、何よりも優先しているだけだ。
そこには「息子が死ぬかも」という苦悩や葛藤など、微塵も感じられない。

アルトンが嘔吐した後にルーカスが心配して「病院へ連れて行こう」と言っても、ロイは「目的があるから死ぬはずがない」と主張して彼を投げ飛ばす。
そのくせ、アルトンが洞窟で「昼間に日差しの中で起きていたい」と言うと「無理だ。死んでしまう」と反対する。
つまりロイの中で、「目的のための行動ならアルトンは絶対に死なないが、それ反する行動だと死ぬ」という確信があるのだ。
繰り返しになるが、そういう感覚は明らかに狂信的だ。牧場とは別の意味で、かなり問題のある確信犯になっている。

ルーカスが事故を起こした時も、警官を撃った時も、それをアルトンが気にしている様子は無い。
ヘッドホンは外しているから、音声は聞こえているはずだ。だから事故が起きたことも、発砲があったことも分かったはずだが、「自分のせいで死人が出たかも」という不安や心配は皆無だ。
また、ガソリンスタンドの事件は「アルトンが意図せぬ出来事」なのかと思ったら、彼が軍事衛星を落としたことが明らかになる。アルトンは平然とした態度で「見られていたから」と言うが、そこに罪悪感など無い。大勢の犠牲者が出た可能性もあるが、全く気にしていない。
まるで可愛げが無いので、「守るべき子供」「哀れな犠牲者」という印象は微塵も受けない。

アルトンは政府の極秘情報を解読しているのだが、そんなことをする必要性が全く分からない。
それをカルヴィンたちに話す意味も同様だ。そんなことをして、何の意味があるのか。
アルトンは上の世界に行きたがっているだけなんでしょ。その目的を達するために、極秘情報をカルヴィンたちに喋る必要なんて無いでしょ。
あと、そもそも政府は、何の目的でその数字を「極秘情報」として握っていたのか。それもサッパリ分からんよ。

ロイとサラがアルトンの実の両親だとすると、アルトンの「上の世界から来た」という説明は整合性が取れなくなる。
政府はアルトンが機密情報を盗んだから危険だと感じて捕まえたのか、それより前から何かしらの情報を掴んでいたのか、その辺りが判然としない。
数字を解読することで、何を得ようとしていたのかも全く分からない。座標の場所に到着しなくてもアルトンは巨大ドームを出現させることが出来ているが、じゃあ座標の意味は薄くないかと思ってしまう。
そんな風に、色んなトコで違和感や疑問点が生じる。
だが、最後まで観賞しても、腑に落ちるような説明は用意されていない。

終盤、アルトンが巨大ドームを出現させると、近くにいる大勢の人々が謎の建物群を目撃する。それが「上の世界の風景」という設定になっているのだが、観客を圧倒するような力は全く無い。
そこに別世界っぽさが無いとは言わんが、あくまでも「地球上に実在していたら、まるで別世界の用だと表現したくなる」という建物に過ぎない。
風景として、「ホントに別世界に見える」という説得力が弱すぎる。もっと盛り上げなきゃダメなトコで、ガックリと来る。
そんな建物なんか見せずに、「アルトンが一瞬で姿を消す」というだけで済ませておけば良かったのに。

アルトンが去った後、ルーカスは政府の取り調べを受け、サラはトラック休憩所のトイレで髪を切る。ロイは逮捕され、空を見上げる。
これで映画が終わってしまうのだが、「いや何が?」と言いたくなる。
物語が着地していないまま、放り出している印象しか受けない。牧場の連中も途中で完全に消えてしまうが、ちゃんとフォローせず放り出しているようにしか思えない。
「答えを観客に預け、余韻を残すエンディング」ってことじゃないよ。ちっともスッキリせず、心地良くない終わり方だわ。

(観賞日:2018年12月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会