『ミシェル・ヴァイヨン』:2003、フランス

25年近くもの間、「ヴァイヨン」と「リーダー」という二大チームが世界中のサーキットで覇権を争っていた。ヴァイヨンのレーサーを務めるミシェル・ヴァイヨンの母であるエリザベートは、恐ろしい夢で目を覚ました。それは、ルマンに参加したミシェルがリーダーのナンバー13と接触して事故死する夢だった。夫のアンリは、怯えるエリザベートに声を掛けて落ち着かせた。母から電話を受けたミシェルは、「ルマンには出ないし、リーダーは5年前にレースを辞めてる。だからルマンに13番は無いんだ」と告げた。
ミシェルはエスキモーの族長に最近の天候を尋ねてから、ノースパラレル・カナディアン・ラリーに参加した。ナビゲーターのデヴィッドを助手席に乗せた彼は、氷上を走ってコースに戻った。チームメイトのスティーヴ&ジュリオ組に追い付いた彼は、ボブ・クレイマーの車が前を走っていると知る。ミシェルはスティーヴと協力してクレイマーの車を左右から挟み込み、動けなくしてから先にチェックポイントを通過した。ミシェルたちが1位でゴールし、スティーヴたちが2位となった。
ミシェルたちが表彰式の会場へ向かっていると、一台の車が挑発的な運転で前に出た。スティーヴは腹を立てるが、運転手が好意を寄せるレーサーのガブリエルだと知って、おとなしくなった。ミシェルは仲間を連れて帰郷し、両親や兄でチーム監督のジャン=ピエールたちと会食を取った。アンリはミシェルたちに、プジョーから新エンジン開発の知らせが届いたこと、ルマンに間に合うことを告げた。ミシェルは母の不安げな表情を見て、「リーダーも13番も出ないから」と告げた。
アンリはデヴィッドに、「イタリアのレースでは君が走れ。いい結果が出たら、ルマンではミシェルと組ませる」と言う。デヴィッドは喜び、パリダカに出場している妻のジュリーに電話を掛けた。ルマンのレセプションに赴いたミシェルたちは、リーダーが13番を希望してレースに復帰することを知った。チーム・マネージャーのウォンは5年前に他界したが、娘のルースが引き継いだのだ。レセプション後のオークションで、ルースはミシェルへの対抗心を剥き出しにした。
イタリアのレースに参加したデヴィッドは、怨みを抱くクレイマーに車をぶつけられる。デヴィッドは助手席のジュリオが「もうすぐ橋だ。先に行かせろ」と言うのも聞かず、怒りに任せてクレイマーに対抗する。デヴィッドは車を横転させてしまい、ジュリオは後から来たミシェル&スティーヴに事情を知らせた。その直後にデヴィッドの車が爆発し、彼は死亡した。葬儀の場でジュリーと対面したミシェルは、お悔やみの言葉を告げた。
ルースはリーダーの監督から、練習走行でのタイムが著しく不足していることを聞かされる。「優勝するには優秀なエンジンとレーサーが必要だ」と監督が言うと、ルースは側近のオデッサに「彼は無能よ」と告げて解雇した。ジュリーはジャン=ピエールの元へ行き、夫の代役としてルマンに参加させてほしいと申し入れた。ジュリーはテストを要求してサーキットを走るが、ジャン=ピエールは難色を示す。しかしミシェルの説得を受けたジャン=ピエールは、ジュリーのタイムを確認した上で承諾した。
デヴィッドの爆発事故は、警察では原因不明として処理された。しかしメカニックのジョゼは事故車を調べ、プロメテウスの結晶を発見する。彼はミシェルたちに、プロメテウスの結晶がタンク内なら安全だが、電気系統に影響を与えると爆発することを説明した。予選の朝、オデッサはジョゼの運転するヴァイヨンのトレーラーを狙撃した。タイヤを撃たれたトレーラーは立ち往生し、サーキットに行けなくなってしまった。連絡を受けたミシェルたちはヘリコプターで駆け付け、レースカーでサーキットへ向かう。何とかギリギリで間に合い、チームは予選に参加できることになった。
深夜の予選中、オデッサはヴァイヨンのピットに忍び込み、タイヤに細工を施した。スティーヴはオデッサを目撃し、逃げる彼女を追って捕まえた。スティーヴはルースの元へオデッサを連行し、「次はしまっておけ」と告げた。ピットへ戻ったスティーヴは仲間たちに事情を説明し、「破壊工作の時間は無かった」と告げた。ルースはスティーヴの元へ行き、彼を誘惑してセックスに持ち込んだ。翌朝、ミシェルは父が拉致されたことを知り、ルースに詰め寄った。するとルースは、「警察に通報したり、レースに勝ったりすれば命は無い。レースに出場して負ければ、無事に返す」と告げた…。

監督はルイ=パスカル・クーヴレール、原作はジャン・グラトン&フィリップ・グラトン、脚本はリュック・ベッソン&ジル・マランソン、製作はピエランジュ・ル・ポギャム、製作総指揮はモーリス・イルーズ、撮影はミシェル・アブラモヴィッチ、美術はジミー・ヴァンスティンキース、編集はエルヴェ・シュネイ、衣装はマルティーヌ・ラパン、音楽はアーカイヴ。
出演はサガモア・ステヴナン、ピーター・ヤングブラッド・ヒルズ、ジャン=ピエール・カッセル、ダイアン・クルーガー、ベアトリス・アジュナン、リサ・バービュシア、フィリップ・バス、ステファノ・カセッティー、アガト・ド・ラ・ブライユ、フィリップ・ルルーシュ、フランソワ・ルヴァンタル、ステファーヌ・メッツガー、スコット・スラン、ゲイリー・コーワン、リサ・クーヴェレール、ジャンヌ・モラン、ピーター・ハドソン、パトリス・ヴァロッタ、ジェラール・シャイユー、ケン・サミュエルズ他。


ジャン・グラトンが執筆し、シリーズの途中から息子のフィリップ・グラトンも作画に参加するようになったバンド・デシネ(フランスの漫画)を基にした作品。リュック・ベッソンのヨーロッパ・コープが製作している。
監督はCM界で活躍し、2002年の『略奪者』で劇場映画デビューしたルイ=パスカル・クーヴレール。
脚本はリュック・ベッソンと、これが初長編となるジル・マランソンの共同。
ミシェルをサガモア・ステヴナン、スティーヴをピーター・ヤングブラッド・ヒルズ、アンリをジャン=ピエール・カッセル、ジュリーをダイアン・クルーガー、エリザベートをベアトリス・アジュナン、ルースをリサ・バービュシア、ジャン=ピエールをフィリップ・バス、ジュリオをステファノ・カセッティーが演じている。

原作は読んだことが無いが、少なくとも映画版に関する限り、作っている面々にはレースに対する愛も情熱も無い。レースの醍醐味を表現しようとか、そんな意識も全く無い。
それはオープニングから顕著に表れている。
エリザベートの夢ではあるのだが、ミシェルは前を行くリーダーの13番に追い付くと、ガシガシと車を激突させるのだ。
そういうことを売りにする類のレースなら、まだ分からんでもないよ。だけど、それってルマン24時間耐久レースなのよ。
なぜ他の車を追い抜こうとせず、車をぶつけるのかと。全く意味不明だわ。

そもそもルマンって耐久レースだから、先にゴールした方が勝ちってわけじゃないので、そういうデッドヒートもおかしいし。リュック・ベッソンって、ルマンのルールを知らないのか。
で、ミシェルは車をぶつけるだけでは飽き足らず、13番に幅寄せしてコースアウトさせ、先にコースへ復帰するという卑怯なことをやらかす。
その後、スピンした13番に激突して飛ばされ、爆発炎上するんだけど、それって完全に自業自得でしょ。
だから、その悪夢を「悲劇的な出来事の予兆」として描いているけど、ちっとも共感できないのよ。

ミシェルは母の電話を受けた時、エスキモーの族長から話を聞いている。彼は仲間たちに、「潮を含んだ風が吹き抜けた。塩水を含んだ氷は割れやすい」と言う。
レースに何の関係があるのかと思ったら、ラリーが始まるとコースを外れて氷の張った湖へ出る。
それがルール違反にならないのかという問題は置いておくとして、すぐに氷が割れ出すので、慌ててミシェルは逃げる。
ミシェルはレースに備えて族長から情報を聞き、「今の氷は割れやすい」と分かっていたはずなのに、なぜ氷の上を選ぶのか。底抜けのバカなのか。

ミシェルと仲間たちはクレイマーが前を走っていると知り、挟み込んで妨害する。
つまりエリザベートの夢の中だけでなく、ミシェルはホントに卑怯なことを平気でやるようなレーサーなのだ。そりゃあクレイマーが恨みを抱くのも当然だ。
もちろん、デヴィッドの車に細工を施して死に追いやったクレイマーの所業は酷いよ。
だけど、そもそもミシェルたちにも非があるので、全面的に「同情すべき被害者」として見ることが出来なくなってしまう。

チーム・ヴァイヨンはラリーに出場しているのに、ルマンにも同じメンバーで出場する。
また、最初のラリーでナビゲーターを務めていたデヴィッドが、別のレースではドライバーを担当したりする。
「パリダカに出ている」という台詞があったとは言え、デヴィッドが死ぬと未亡人のジュリーが代役としてチームに加わる。
全体を通して、「もしかしてレースを舐めてます?」と言いたくなるような設定や描写のオンパレード。
まあ「もしかしてじゃなくて、ホントにレースのことなんて何も考えちゃいないんだろう。

リーダーのチーム監督が言う「コースレコードよりタイムが9秒も遅い。優勝にはエンジンとドライバーが必要だ」という言葉は、何の間違いも無い正しい言葉だ。ところがルースは「彼は無能よ」と言い、クビにしてしまう。
いやいや、無能なのはアンタだよ。
で、真っ当なことを言っていた監督をクビにした彼女が何をするのかというと、「トレーラーのタイヤを撃って車が間に合わないようにする」とか、「タイヤに細工を施す」とか、「レーサーの父親を拉致して脅しを掛ける」といったことだ。
メチャクチャだよ。
せめて最初はエンジン開発や優秀なレーサー起用などに奔走し、最後の手段として何か卑怯な手を使うってことならともかく、ルースは最初からレースで勝つための真っ当な努力を何もしないのだ。卑怯な妨害工作だけなのだ。

家の敷地で姪のローラが勝手に車を運転してアンリが「止めてくれ」と言うと、ミシェルは助手席に乗り込む。
ではローラを止めるのかと思いきや、運転の方法を教える。
ジュリーにコースの走り方を教えたミシェルは「目隠しして走れるぐらいでないと」と言い、ジュリーが「不可能よ」と告げると、サーキットで彼女に目隠しさせて車を走らせる。
とりあえず、ミシェルの車やレースや運転に対する考え方が、ちっとも共感を誘わないモノだったことは確かだ。

事故車を調べたジョゼが「プロメテウスの結晶だ。タンク内なら安全だが、電気系統に影響を与えると爆発する」とか言い出したところで、「ああ、そういうノリなのね」と気付かされた。
ようするに、徹底してバカバカしいノリの話ってことだ。
だから、仲間を亡くしたばかりのミシェルと夫を亡くしたばかりのジュリーが、何の迷いも見せず簡単に恋愛関係へ落ちる軽薄な展開も、全面的に受け入れなきゃいけないんだろう。

トレーラーの妨害工作に関しては、「そもそもヴァイヨンが当日の朝に車を運んでいるのは遅いだろ。なぜ前日に搬入しないのか」という疑問が湧く。
そこは一応、「ジョゼが破壊工作を恐れたから前日に運ばなかった」という言い訳が用意されているが、まるで腑に落ちるものではない。
で、そこからレースカーでサーキットまで向かっても、どう考えたって間に合いそうにないのだが、なぜか間に合ってしまう。
いやあ、ミシェルたちって凄いんだね(棒読み)。

スティーヴはピットに潜入していたオデッサを捕まえるが、何をしていたか聞き出そうともせず、すぐにルースへ引き渡す。
そして仲間に「破壊工作の時間は無かった」と言うが、アンタが見つけた時点で既に細工は終わってるんだよ。
で、スティーヴがボンクラなだけじゃなく、なぜか仲間たちも「破壊工作は無かった」と信じ込んだようで、何も気にしない。
どいつもこいつもバカばっかりだよ。
あとさ、何度も妨害工作をされているのに、なぜルマンの責任者に報告するなり、警察に通報するなりしないのかと。

スティーヴがルースに誘惑されて簡単に寝ちゃうので、序盤でガブリエルを口説いていた描写は全くの無意味になる。
っていうか、ルースがスティーヴを口説いてセックスに持ち込む行動も、まるで無意味。
ミシェルに「父の居場所は?」と詰め寄られた時に「一晩中、部屋にいた」と告げ、証拠としてベッドの隣で寝ているスティーヴを見せるけど、実行犯じゃないからアリバイ工作なんて無意味でしょ。その直前に、オデッサに行動させているんだし。
しかも、自分からアンリの誘拐を認めちゃうから、ますます無意味だし。

ルースはミシェルに「レースに出場して負ければ無事に父親を返す」と言うけど、ルマンってヴァイヨンとリーダーの2チームしか参加していないわけじゃないでしょ。つまり、ヴァイヨンを負けさせたからって、リーダーが優勝できるとは限らないのよ。
だからルースのやってることは、ホントにボンクラでしかない。
で、ミシェルはジュリーを自分に偽装して運転してもらい、その間にルースの車の履歴を調べて父の居場所を突き止めようとするが、捕まってしまう。そんでハトの激突でクレイマーが怪我を負い、ルースはミシェルに代役として走るよう要求する。
賢明な皆さんならお分かりだろうが、どっちのチームも反則で失格だ。

ジュリーは13番にミシェルじゃなくて夫を殺したクレイマーが乗っていると思い込んでいるので、ガシガシと車をぶつける。
そんで激しいクラッシュで両方の車が炎上するが、2人とも無事。それどころか、ほとんど傷も負わずにピンピンしている。
で、リタイヤになったのをいいことに、2人はスティーヴも連れてアンリを助けに行く。
その時にスティーヴが撃たれて怪我を負い、サーキットに戻ったミシェルは彼の代わりに走るんだが、だから反則だっての。

もうクレイマーがリタイヤしているので、急に登場したボアマンという謎のドライバーがリーダーの車を運転している。クライマックスなのに、そこで急に名前が出てくる奴が戦う相手なのだ。
で、そいつを追い抜こうとミシェルは必死でスピードを上げるのだが、冒頭でエリザベートが見ていた夢と同じことを言いたくなる。
つまり、ルマンは先にゴールした方が勝つレースじゃないので、そういう描き方は変だってことだ。
しかも、ボアマンはゴール直前でガス欠を起こし、必死で車を押す。
その後ろからパンクしたミシェルの車がゆっくりと追い抜いて勝つんだけど、そんな対決では全く盛り上がらんよ。

(観賞日:2015年9月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会