『マイアミ・バイス』:2006、アメリカ&ドイツ

ロシア人のFBI捜査官は麻薬の売人に成り済まし、麻薬組織アーリヤン・ブラザーズと接触した。だが、捜査官の素性は組織に漏れて おり、その場で射殺された。マイアミ警察特捜課のソニー・クロケットは、情報屋アロンゾからの電話を受けた。アロンゾは「俺のせい じゃない」と、必死に言い訳をした。ソニーは相棒リカルド・タブスと共に、逃走するアロンゾを追跡して捕まえた。アロンゾは、妻の リオネッタを拉致され、アーリヤン・ブラザーズにFBI捜査官を引き合わせたことを打ち明けた。しかし彼が情報を漏らす前に、組織は ロシア人がFBI捜査官だと知っていたらしい。
ソニーとリカルドの元に、リオネッタが殺害されたとの連絡が入った。それを知ったアロンゾは、走ってくるトレーラーの前に飛び出して 自害した。ソニーたちはマーティン・キャステロ主任から、スタンダード・パークに呼び出された。2人が到着すると、FBI捜査官フジマ が待っていた。フジマは、情報管理システムに欠陥があったために捜査官が犠牲となったことを説明した。
今回の捜査は、FBIやDEAなどアメリカの捜査機関の合同捜査だった。フジマは、この合同捜査に関与していないソニーとリカルドに 、情報漏洩ルートの割り出しを要請した。顔が知られていないので、潜入捜査が可能だという考えだ。アーリヤン・ブラザーズが麻薬を 入手するのは、コロンビアのホセ・イエロからと決まっている。イエロは外部の運び屋を使っている。その運び屋に成り済まし、イエロの 組織に潜入するのがソニーたちに課せられた任務だ。
イエロの組織は、ドラッグをハイチから入手していた。ソニーとリカルドは、ハイチ人の倉庫を襲撃した。2人はドラッグを強奪し、倉庫 を爆破した。彼らは情報屋ニコラスに連絡を取り、イエロに運び屋として紹介するよう要求した。その場には、ソニーたちの同僚である トゥルーディー、ジート、ジーナ、スワイテクも同席した。ニコラスはイエロを怖がって断ろうとするが、ソニーたちの脅しを受けたため、 承諾せざるを得なくなった。
ソニーとリカルドはコロンビアへ飛び、運び屋としてイエロに会った。イエロは今までのキャリアやニコラス以外の仲介人について詳しく 尋ねたが、ソニー達は高飛車な態度で拒絶した。交渉は決裂したかのように思えたが、ホテルに戻ったソニーたちの前にイザベラという女が 現れた。彼女の案内で、ソニーたちはモントーヤという男に会った。彼が組織の頭領であり、イエロは仲介役に過ぎなかった。モントーヤは ソニーたちを試すための仕事として、コロンビアから千キロのドラッグを運ぶよう指示した。
ソニーとリカルドは任務を遂行し、イエロとの電話で「ブツを盗もうとした奴らがいた」と嘘をついた。ソニーたちは、ハイチ人から強奪 したドラッグをイエロに見せ、今後も一緒に仕事をするための投資として無料で引き渡した。ソニーはイザベラをお茶に誘った。ソニーが モヒートを飲みたがると、イザベラは彼をモーターボートに乗せてハバナへ向かう。イザベラはソニーに質問され、自分がモントーヤの妻 ではなくビジネスパートナーだと告げた。ハバナに渡ったソニーは、イザベラと肉体関係を持った。
マイアミに戻ったソニーはタブスと合流し、キャステロとフジマの元へ行く。ソニーたちはフジマに調査内容を報告し、イエロが仲介人に 過ぎずモントーヤという黒幕がいることを教えた。フジマは指示した任務から外れていることを指摘するが、ソニーたちは自分達のやりたい ように捜査を続けると主張した。キャステロはフジマに脅しめいた言葉を告げて、捜査の続行を認めさせた。
ソニーとリカルドはコロンビアのバランキーヤに飛び、イエロと会った。イエロはマイアミまでブツを運ぶ仕事を説明するが、ソニーたちに 不審を抱き始めていた。リカルドは罠を仕掛け、イエロに情報をリークしているのがFBI本部だと突き止めた。そんな中、ソニーと リカルドの元に、アーリヤン・ブラザーズから電話が入った。彼らはトゥルーディーを拉致し、指示通りに動くよう要求してきた。彼らの の背後にイエロがいると知ったソニーたちは、トゥルーディーの救出に向かう…。

監督&脚本はマイケル・マン、製作はピーター・ジャン・ブルージ&マイケル・マン、共同製作はブライアン・H・キャロル&グスマノ・ チェザレッティー&マイケル・ワックスマン、製作協力はサラ・ブラッドショー&ウェイン・モーリス、TVシリーズ創作&製作総指揮は アンソニー・ヤーコヴィック、撮影はディオン・ビーブ、編集はウィリアム・ゴールデンバーグ&ポール・ルベル、美術はヴィクター・ ケンプスター、衣装はマイケル・カプラン&ジャンティー・イェーツ、音楽はジョン・マーフィー。
出演はコリン・ファレル、ジェイミー・フォックス、コン・リー、ナオミ・ハリス、キアラン・ハインズ、ジャスティン・セロー、バリー ・シャバカ・ヘンリー、ルイス・トサル、ジョン・オーティス、エリザベス・ロドリゲス、ドメニク・ランバルドッツィー、エディー・ マーサン、イザック・ド・バンコレ、ジョン・ホークス、トム・トールズ、マリオ・エルネスト・サンチェス他。


1984年から1989年にかけてアメリカのNBCで放送されていたTVシリーズ『特捜刑事マイアミ・バイス』の映画版リメイク。
TV版で脚本や製作総指揮を務めていたマイケル・マンが、監督&脚本&製作を担当している。
ソニーをコリン・ファレル、リカルドをジェイミー ・フォックス、イザベルをコン・リー、トゥルーディーをナオミ・ハリス、フジマをキアラン・ハインズ、ジートをジャスティン・セロー、 キャステロをバリー・シャバカ・ヘンリー、モントーヤをルイス・トサルが演じている。

主人公2名がマイアミの潜入捜査官であるという設定や、主要キャラクターの名前は、TVシリーズから引き継がれている。
しかし、その内容は全く別物だと考えるべきだろう。
ソニーやリカルドのキャラクター設定も、まるで受け継ぐ気が無い。
あれか、歌手が昔のヒット曲を歌う時に、「昔と同じことをするのはイヤだ」ということでアレンジや歌い方を大幅に変えてしまい、あの 時と同じ歌を期待してる観客をガッカリさせるのと同じようなノリか。

マイケル・マンを監督に据えたのは「オリジナル版に携わっていたから」というのが大きな理由だったはずだが、そうであるにも関わらず、 オリジナル版へのリスペクトが、ほとんど感じられないという仕上がりになっている。
TV版で流れていたヤン・ハマーのテーマ曲も使われていない。
どうやら製作サイドはヤン・ハマーに「TV版と全く別のスコアを作って」と依頼して断られたらしいが、そりゃ「全く違うもの」を オファーした時点で間違いだろ。

そもそもマイケル・マンは製作に入る前の時点で、TV版とは異なるものを作ると公言している。TV版のようなファッション・トレンド を生み出すことにも、否定的な態度を示している。
TV版では、もう少し陽気なノリもあったような記憶があるが、この映画はハードでシリアス一辺倒だ。TV版ではヒット曲を流すMTV 的なノリもあったが、そういう方向性も無さそうだ。
どうやらマイケル・マンは、他の人間の意向が多く盛り込まれたTVシリーズに満足しておらず、全てを自分がコントロールした“俺様の 『マイアミ・バイス』”を作りたかったようだ。
なるほど、そりゃあTV版とは別物になるのも当然だ。

でも、『マイアミ・バイス』というタイトルを使い、TVシリーズの映画版リメイクとして製作される以上、TV版を知っている人は、 それと同じような映画を期待しているはずだ。
なのに全く異なるものとして作るのは、商業映画として不誠実ではないか。
まあ、そもそもマイケル・マンに商業映画監督としての愛想の良さを期待するのは、無駄なことではあるんだけどさ。
だけど、これってタイトルだけ借りた別物だろ。
それならマイアミ・バイスの名を使わず、オリジナル作品として作れよ。

冒頭、アロンゾを追跡する展開で主役2名が登場しているというのに、彼らの人物紹介は全く無い。
彼らが刑事なのは分かるが、詳しいキャラクターは全く分からない。
その後にキャラが描写されていくのかというと、それも無い。
TV版とは全く異なるものとして作っているのに、観客がTV版を見ていることを前提にしているかのように、人物紹介も人間関係の説明 も全く無い。

早い段階からリカルドとトゥルーディーのラブシーンがあるが、「そんな暇があったらキャラ紹介をしろよ」と言いたくなる。
まだソニーとリカルドは出番が多いからマシな方で、同僚であるトゥルーディーやジートたちは、まるで中身が無い。
出番も少ないので、キャラクター紹介もへったくれも無い。
ほとんど、ただの数合わせに過ぎないような存在と化している。

マイケル・マンは夜の街を撮るのが得意な人で、この映画でも、夜のシーンが非常に多い。
昼間のシーンになっても、マイアミの抜けるような青空を写そうとはしない。
昼と夜のコントラストを見せないのなら、マイアミを舞台にしている意味が薄いぞ。
で、すぐコロンビアへ舞台を移すが、マイアミでやれよ。なぜコロンビアの青空を写しているんだよ。
クライマックスの銃撃戦も夜の闇の中で行われるので、何がどうなっているのか良く分からない。

ソニーはモントーヤの車で最初の仕事を指示され、その車が去って行く際、イザベラをじっと見つめる。彼女が特に気になるような態度を 取ったわけではない。すぐにイザベラをナンパするが、それまでに「普段からプレイボーイ」という描写があったわけではない。
だから「ナンパなソニーと一途なリカルド」という色分けも出来ていない。
というか、女方面に限らず、ソニーとリカルドのキャラの描き分けは出来ていない。コンビネーションの面白さも無く、バディー・ ムーヴィーとして描く意識を全く感じさせない。
っていうかハッキリ言って、リカルドって脇役でしょ。ソニーとイザベラの関係がメインであって、ソニーとリカルドのコンビがメインと いう形には見えないぞ。後半に入ってトゥルーディーが拉致されるという展開はあるものの、取って付けた感が強いし、それによって リカルドが主役になっている印象は薄いし。
そもそもリカルドとトゥルーディーの関係描写も少なかったし。

イザベラは「夫がいなくても生きていける」とクールに言いながら、すぐにソニーになびいて肉体関係を持つ。
えらく軽い女だな。
そして、ソニーとイザベラのラブシーンにも力を入れる。
いや、だからさ、濡れ場が害悪だとは言わないが、2人の恋愛がメインになっているぞ。
大人のロマンスに重点を置くんじゃなくて、もっと潜入捜査のサスペンスに時間を割いてよ。

いつの間にか、「情報漏洩のルートを探り、ネタを漏らした犯人を突き止めること」という、潜入捜査の目的が忘れ去られていく。
そして最終的には、イエロの一味を壊滅させて、それで話が終わっている。任務は遂行されず、モントーヤのことも放置され、情報漏洩の 犯人も分からないまま終わる。
事件が解決せず後味の悪さが残るという、嫌なとこだけTV版を踏襲していやがる。
でも「スッキリせずに終わる」ってのは、すぐに次の放送があるTV版だからこそってトコもあったんじゃないか。そこは映画版では真似 しなくていい箇所だろ。
あとスッキリしないにしても、情報を漏らしていた犯人は明かそうぜ。

リアリズム路線を狙ったようだが、ただ地味なだけにしか感じない。
リアリズムとしての迫力や凄味を感じない。
で、トレーラーパークの爆発シーンは派手だが、そこだけが唐突なケレン味で、全体のテイストから浮いてしまうという皮肉。
あと、その爆破に巻き込まれたトゥルーディーは、間違い無く死ぬだろうに。
それで生き延びるって、そこだけ、なぜ荒唐無稽になってんのよ。

(観賞日:2008年12月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会