『メカニック:ワールドミッション』:2016、アメリカ&フランス
ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ。殺し屋稼業から足を洗ったアーサー・ビショップは、サントスという名前で暮らしている。彼は小型クルーザーを住居にして、平穏に生活していた。ある日、アーサーがレストランへ行くと、若い女が近付いて「ブラジルに5ヶ月、やっと見つけた。ボスから伝言を預かって来た。3人の男を事故に見せ掛けて殺せ」と告げる。彼女は「死んだって話は嘘だったようね。当局に密告することも出来るのよ」と言い、店には他にも仲間がいることを教える。
指示に従うよう脅されたアーサーは、スマホで女の顔を撮影して要求を拒絶した。彼は店にいた敵を撃退し、その場から逃げ出した。小型クルーザーを爆破して放棄したアーサーは、サントスの身分証を焼却処分した。アーサーはタイ南部のリペ島へ行き、旧知の間柄であるメイが営むコテージに身を寄せた。パソコンで女の顔を検索したアーサーは、ボスの正体に辿り着いた。翌日、ジーナという女がコテージを訪れ、薬を切らしたので分けてほしいとメイに頼む。体中に暴行されたような痣を見つけたメイは、「もっと必要なら補給船に連絡してあげる」と告げる。しかしジーナはメイが用意した薬だけを受け取り、ヨットへ戻った。
その夜、メイはヨットから男の怒鳴り声がするのを聞き、アーサーにジーナを助けるよう頼む。アーサーは「ただの痴話喧嘩だ」と告げるが、メイが「嫌なら私が助けに行く」と言うので承知した。アーサーは暴力男のフランクを始末し、メイにジーナを任せる。アーサーはジーナの身分証とスマホを調べた後、灯油を撒いてクルーザーを爆破した。スマホに自分の写真があったため、彼はジーナがクレインの手下ではないかと疑った。
アーサーが拳銃を突き付けて尋問すると、ジーナはクレインに脅されて送り込まれたと白状した。フランクは虐待する恋人を演じ、ジーナが島へ逃げ込むという筋書きだった。アーサーは「俺に従え。クレインを消す」と言い、そのままだとクレインに殺されることを告げた。翌朝、メイはジーナの傷を手当てし、父が東洋医学の博士でアーサーが弟子だったことを話す。アーサーはジーナの情報をネット検索し、特殊部隊にいた彼女が1年半前にアフガニスタン戦線を離れ、カンボジアで人道主義活動を始めたことを知った。
ジーナは人身取引被害者の保護施設を運営しているが、数週間前に職員の女性が殺された。クレインの手下のジェレミーで施設を訪れ、「これは手始めだ。皆殺しにする」と脅した。監視のボートに気付いたアーサーは、ジーナと手を繋いで親密な関係を装った。ジーナはアーサーに、「感謝してるわ。子供たちが全てなの。売られたの殺されたりしたら耐えられない」と話す。アーサーは「分かるよ。俺も孤児だった。ギャングに売り飛ばされ、少年兵になる訓練を受けた。クレインもだ。俺だけ逃げた。奴は責められ、拷問された。これは復讐だ」と述べた。アーサーはジーナと肉体関係を持ち、補給船で逃げるよう指示した。
翌日、ジェレミーは警官隊を引き連れてアーサーを襲撃した。アーサーはジーナを人質に取られ、降伏を余儀なくされた。アーサーはタイのバンコクへ連行され、クレインと会った。クレインは彼を椅子に拘束し、立とうとすれば爆発する仕掛けだと告げる。彼はジーナを解放する条件として、3人の抹殺を命じた。1人目はクリルというアフリカの武器商人で、マレーシアの刑務所に収監されていた。クレインはアーサーに追跡装置を渡し、殺した後に飲みこむよう指示した。
ジーナが無事だという保証をアーサーが求めると、クレインは1人殺す度にテレビ電話を掛けることを約束した。マレーシアのペナン島へ赴いたアーサーはバスマンという名の身分証を偽造し、警官に反抗的な態度を取って逮捕される。刑務所へ護送されたアーサーは、クリルの命を狙った元子分を殺害した。クリルの信頼を得た彼は夕食に招かれて2人きりになり、棒を首に押し付けて始末した。アーサーは壁を爆破し、崖から海へ飛び込んで逃亡した。
2人目の標的は、エイドリアン・クックという男で、36時間以内に始末しろとクレインは命じた。クックは人身取引で財を築いた大富豪であり、オーストラリアのシドニーで高層ビルの最上階に住んでいた。アーサーは下見客としてビルへ行き、不動産業者が持っていた部屋の鍵を密かに撮影する。彼は間取り図を確認し、合い鍵を作る。アーサーは清掃業者を装い、クックの階下の部屋へ侵入した。外壁を登った彼は、クックが利用する天空プールのガラス底を割って転落死させた。
2度目のテレビ電話の際、ジーナは腕時計を使ってアーサーに船舶番号を教えた。ジェレミーが気付いて通信を遮断するが、アーサーは港湾局に問い合わせてジーナが監禁されている船の停泊場所を突き止めた。アーサーは船に乗り込むが捕まってしまい、3人目を始末するようクレインに命じられた。24時間以内に始末するよう指示されたアーサーは、ブルガリアのヴァルナへ飛んだ。マックス・アダムスはアメリカ国籍の武器商人で、修復した共産党記念館に住んでいた。アーサーはクレインの目的が商売敵の排除だと確信し、アダムスに接触して取引を持ち掛けた…。監督はデニス・ガンゼル、キャラクター創作はルイス・ジョン・カリーノ、原案はフィリップ・シェルビー、脚本はフィリップ・シェルビー&トニー・モジャー、製作はジョン・トンプソン&ロバート・アール&デヴィッド・ウィンクラー&ウィリアム・チャートフ、製作総指揮はアヴィ・ラーナー&ブライアン・プレスリー&トレヴァー・ショート&マーク・ギル&レス・ウェルドン&フランク・デマルティーニ&ボアズ・デヴィッドソン&スティーヴン・チャスマン&ジーヤン・ファン&ブー・チェン、共同製作はローナン・ファン&ジュン・リウ&イヴォンヌ・ファン、共同製作総指揮はサミュエル・ハディダ&ヴィクター・ハディダ、撮影はダニエル・ゴットシャルク、美術はゼバスティアン・T・クラヴィンケル、編集はマイケル・J・ドゥーシー&トッド・E・ミラー&ユーリ・クリステン、衣装はプリーヤナン・スワンナターダ、音楽はマーク・アイシャム。
出演はジェイソン・ステイサム、ジェシカ・アルバ、トミー・リー・ジョーンズ、ミシェル・ヨー、サム・ヘイゼルダイン、ジョン・セナティエンポ、トビー・エディントン、フェミ・エルフォウォジュJr.、アンテオ・クインタヴァル、ラータ・ポーガム、ボニー・ゼラーバック、スチュアート・ソープ、アレックス・クゼリッキー、ブラヒム・アチャバクヘ、トーマス・キウィ、アンドリュー・スターリン、フランシス・トンカラ・タムーヤ、タイス・ロドリゲス・ディアス、リネット・エモンド、アラン・ポッブルトン、メイシ・サップシムソング、ソージ・イカイ他。
チャールズ・ブロンソンの主演作をリメイクした1972年の映画『メカニック』の続編。
監督は前作のサイモン・ウェストから『THE WAVE ウェイヴ』『ブラッディ・パーティ』のデニス・ガンゼルに交代。
脚本は『サバイバー』のフィリップ・シェルビーと、これが初めての長編映画となるトニー・モジャーの共同。
前作から続投のキャストは、アーサー役のジェイソン・ステイサムのみ。
ジーナをジェシカ・アルバ、アダムスをトミー・リー・ジョーンズ、メイをミシェル・ヨー、クレインをサム・ヘイゼルダイン、ジェレミーをジョン・セナティエンポ、クックをトビー・エディントン、クリルをフェミ・エルフォウォジュJr.が演じている。『メカニック』の続編ではあるが、前作を見ている必要性は全く無い。この映画だけを単独で見ても、何のストレスも感じないことは確約できる。
なぜなら、前作から引き継いでいる要素は「主人公が殺し屋」という設定だけに留まっているからだ。
前作では「アーサーが組織の命令で恩人を始末し、父の仇討ちに燃える息子を弟子にして」という話が描かれていたが、今回の話には全く繋がっていない。
また、今回の映画で登場する組織も、前作の組織とは別物だ。アーサーが東洋医学を学んでいたとか、幼い頃にギャングに売られて兵士の訓練を受けていたとか、そういうのは今回の作品で初めて用意された設定だし。冒頭、アーサーはレストランで複数の敵と戦い、ロープウェイからハンググライダーにダイブして逃亡する。最初に派手なアクションで観客を掴もうってのは良くあるパターンだけど、それは悪くない判断だ。
その後、アーサーはクルーザーを爆破して処分する。これも行動としては理解できるし、何の問題も無い。
ただし問題は、「証拠を消すためクルーザーを爆破する」という手順がフランクを始末した時も実行されるってことだ。
同じ作品中に、しかも立て続けに2度もあるってのは、あまり格好がよろしくない。犯罪組織ってのは簡単にバレちゃダメなはずだが、アーサーが襲って来た女の顔をパソコンで検索すると、あっという間にボスまで突き止めることが出来てしまう。
そんなボスの顔写真がパソコンに表示された時点では、それが誰なのかを観客は教えてもらえない。アーサーがジーナを問い詰める際、「俺の写真を持つ2人目の女。1人目はクレインの手下だった」と言うので、そこで初めて「あの男はクレインっていうのね」と分かる。
でも、そこまでクレインの名前を隠して引っ張る意味は全く無い。最初に顔写真で出た時点で、アーサーに「クレイン」とでも呟かせればいい。
っていうか、たぶん隠したまま引っ張っている意図は無いんだろうけど、どっちにしろ結果としては同じことだ。アーサーとクレインの関係は、しばらく隠されたままで物語が進行する。
だけど、関係性を謎にしたまま引っ張るほど、そこに重要な価値があるようには到底思えない。
「かつて2人ともギャングに売られて兵士として訓練を積んだ」ってのは、アーサーが「敵はクレイン」と気付いた時点で説明しちゃってもいいような情報だ。
また、「自分は逃げてクレインは拷問された。これは復讐だ」と言うけど、そこからの流れを見る限り、クレインの復讐心って全く見えてこないのよね。っていうか極端なことを言ってしまえば、アーサーとクレインに深い関係性なんて無くても一向に構わないのよ。
単に「かつて仕事をした関係」とか、いっそのこと「名前だけは知っている悪党」とか、その程度でも充分に事足りる。
重視すべきは「かつては兄弟分だった」という部分なんだけど、それは全く活用されていないわけで。
「兄弟分の絆が強かったので余計に愛が憎しみに変わって」とか、「兄弟分への罪悪感で苦悩して」とか、そんなのは何も無いし。クレインがジーナを使って企んだ計画は、「ジーナがフランクに虐待されて島へ逃げ込んだと装い、アーサーに助けられる。アーサーが惚れたトコでジーナを誘拐し、指示に従わせる」という内容だ。
だけど、まず「アーサーがジーナを助けるとは限らない」という問題がある。結果的には助けているけど、それはメイに頼まれて仕方なくだ。本人の意志としては、関わることを避けようとしている。
また、ジーナを助けたとしても、アーサーが惚れるとは限らない。
クレインは絶対にアーサーを使って3人を暗殺させたいわけで、その狙いからすると、彼の計画はギャンブル性が強すぎて隙だらけだ。もっと根本的な問題として、「別にアーサーじゃなくてもよくねえか」と思ってしまう。
クレインはアーサーと同じように特殊な訓練を受けた過去があり、殺し屋としての高い能力を持っている。それだけでなく、彼は組織のボスでもある。
だったら本人の能力なり組織の力なりを使って、標的の3人を始末することも可能じゃないかと思うのだ。
そこに例えば「アーサーを巻き込んで罪を被せたい」という狙いがあるならともかく、標的を始末する以外の意図は見えないし。ジーナがクレインに従う理由は、「クレインに施設の人間を皆殺しにすると脅されたから」ってことだ。
それを彼女が説明した時、違和感を拭えなかった。
もちろん、既に職員1名が殺されているんだから、たた口だけじゃなくて実際に皆殺しにしようとする可能性は高いと思うよ。ただ、「だから残虐だと分かっている男の言いなりになる」って、それは人道主義活動をしている人間としてどうなのよ。
それは「施設の人間を守るためなら、他の人間が犠牲になっても仕方ない」ってことにも繋がるぞ。せめて、もう少し他の方法を考えようよ。なんで「それ以外に無い」ってことで、簡単に従っちゃうのよ。
「子供たちを売られたら耐えられない」と言っているけど、それだけで自身の行動を全面的に正当化しちゃってるのは賛同しかねるぞ。クレインはアーサーから「どうやって俺を見つけた?」と質問され、「プライバシーなんか現代には存在しない。顔認識システムに衛星追跡装置」と答える。
だけど、そんなことを余裕しゃくしゃくで言っているけど、メッセンジャーの女は「5ヶ月も掛かったわ」と話していたぞ。
そんだけ時間と手間を掛けなきゃ発見できなかったのに、「すんげえ簡単に見つけましたよ」みたいな言い回しなので、なかなかのカッコ悪さだ。アーサーはクリルと接触するため、わざと警官に逮捕される。
だけど、「町で警官に反抗的な態度を取った」というだけであり、怪我を負わせたわけでもない。その程度で刑務所に収監されるってのは、どうにも解せない。
しかもクリルが収監されているのは、絶壁にあって脱獄不可能と言われてるような刑務所だ。ってことは、かなりの重罪人が収監される刑務所じゃないのか。
軽微な罪で捕まったアーサーが、そんな場所へ送られるのは違和感があるぞ。しかも、逮捕されたら裁判も無しで収監されているし。「主人公が目的を遂行するため、わざと罪を犯して刑務所に収監される」という行動を取るのなら、刑務所の中だけで物語を作ってもいいぐらいだ。実際、そういう内容の映画は幾つもある。
しかし本作品は色んなことを盛り込みたいという意欲が強かったのか、刑務所での出来事は「あくまでも仕事の1つに過ぎない」という扱いになっている。だから刑務所へ収監されたアーサーは、あっという間にクリルの信頼を得て、あっさりと彼を始末している。
クックの時にしても、刑務所と同じく「ものすごく警備が厳重で」ということが説明されるが、時間の都合でアーサーは簡単に仕事を片付ける。
それは「アーサーが有能」ってことのアピールに繋がらず、「話が淡白で雑」という印象に繋がっている。クレインはアーサーに、3人を始末するだけでなく事故に偽装することを要求している。
でも、事故じゃなきゃいけない理由が分からない。「殺人だとクレインが商売敵から疑われる」ってことかもしれないが、だとしても大きな問題があるようには思えないぞ。
どっちにしろ、アダムスの殺害を指示する時にクレインは「クリルとクックの死で奴は警戒してる」と言っちゃってるし。殺人であろうとなかろうと警戒するのは確実なので、事故に偽装しても意味は無いぞ。アーサーを使っているから、捜査機関にクレインが疑われる恐れは低いし。
「武器商人が立て続けに死んだ」ってことで捜査が始まる可能性はあるが、その場合は事故に偽装しても意味が無いし。アーサーはクリルを始末する際、首を絞めて窒息させている。
それは事故に見せ掛けていると言えるのか。どう見ても、ただの殺しにしか思えないんだけど。
「食事が喉に詰まって死んだ」という偽装のつもりかもしれないけど、調べりゃ首を絞めた跡が簡単に見つかるでしょ。
しかもクリルが死んだ時、一緒にいたのはアーサーだけだ。そのアーサーが、騒動の直後に刑務所から脱獄しているんだから、もはや「私か殺しました」と言っているようなモンでしょ。クックを始末した後、アーサーがジーナの監禁されている船を突き止め、乗り込むという展開が用意されている。
「標的を指定され、作戦を立てて準備を整え、仕事を遂行する」というパターンが3つも続いたら観客を退屈させる恐れがあると考え、変化を付けようと考えたのかもしれない。
だが、まだまだ時間は残っているので当然っちゃあ当然だが、アーサーはジーナを救出できずに捕まってしまう。
どうせ無駄な行動になっちゃうのは分かり切っているし、実際に何のに捻りも無く「捕まりました。改めて3人目の始末を命じられました」という展開に繋がるだけなので、「その寄り道って要らなくねえか」と言いたくなる。
あと、アーサーが反乱を企てるのは分かり切っているだろうに、追跡装置を渡すだけで見張りも付けず自由に行動させているクレインがバカにしか思えん。アーサーはクレインの狙いを知り、アダムスと手を組むことにする。アダムスも武器商人なんだけど、「弱者に武器を提供している」という説明で善玉っぽいポジションに配置しようと目論んでいる。
だけど「弱者に武器を提供している」ってのは本人が自分の悪事を正当化するための説明に過ぎず、手広く商売している武器商人であることは事実なわけで。
クレインが死んでアダムスが残ったら、世界の武器市場は彼が独占することになる。それって結局、クレインがアダムスに替わっただけでしょ。
それなのに、まるで「アーサーが悪党を始末してハッピーエンド」みたいな見せ方になっているのは、ちょっと無理があるんじゃないか。(観賞日:2018年1月21日)