『マックQ』:1974、アメリカ
シアトル。刑事のスタン・ボイルは倉庫勤務の警官であるハイアットとウォリーを立て続けに射殺し、ダイナーに立ち寄った。車に戻った彼は男に襲われ、背中を撃たれて倒れた。スタンの相棒であるロン・マックQは、船上で生活していた。彼は部下のJC・デイヴィスから電話を受け、スタンが病院で手術を受けていること、銃撃事件の目撃者がいないことを聞かされた。マックQは麻薬組織を仕切るマニー・サンティアゴが絡んでいると確信し、記録を見たいとJCに告げた。
マックQは殺し屋のサミュエルズに命を狙われて返り討ちに遭わせ、目撃者に証言テープを録音させた。病院へ赴いた彼はボイル夫人のロイスと会い、スタンが昨晩に誰かとの電話で緊張していたこと、麻薬摘発に関する内容らしく思われたことを聞いた。警察署に出向いたマックQはコスターマン課長から過激派の仕業だという推理を聞かされて否定し、「サンティアゴの仕業だ」と断言した。彼は自分に担当させるよう求めるが、「冷静な判断が出来ない」と却下された。
コスターマンはマックQが犯人を屋上から突き落とし、全治4ヶ月の重傷を負わせて弁護士に訴えられた件を指摘した。マックQは全く悪びれず、「そのおかげで街は平和になった」と得意げに語った。彼はサンティアゴ国際運送を張り込み、サンティアゴが会っている男を盗撮した。サンティアゴは弁護士からスタンの事件を聞かされ、「俺じゃない。飛行機に乗ってた」とアリバイを主張した。サンティアゴを尾行してカフェに入ったマックQは、スタンの死亡を知った。
マックQはトイレに入ったサンティアゴを捕まえ、「お前の雇った殺し屋が死ぬ間際に白状した。ボイルと俺を殺せば1万ドルだと」と嘘をついて詰問した。サンティアゴが潔白を主張すると、マックQは激しい暴行を加えた。この一件が警察署に知られ、マックQは内勤への異動と査問委員会に掛けられることを通告された。憤慨した彼は「もうウンザリだ」と吐き捨て、警察を辞めた。彼はJCに、盗撮した写真を現像して男の名前を調べるよう頼んだ。
マックQが船にいると、スタンの葬儀を終えたロイスが訪ねて来た。マックQは娘であるジンジャーの写真を船に飾っており、ロイスから質問を受けて「毎週、日曜に会ってる」と答えた。マックQの元妻であるエレインは、大富豪のウォルター・フォレスターと再婚していた。ロイスが寂しさを漏らして「妹になりたいわ」と言うと、マックQは「大歓迎だ」と述べた。彼は私立探偵のピンキーを訪ね、仲間にしてほしいと頼んだ。「不景気で仕事が無い」とピンキーが告げると、マックQは「給料は要らない。私立探偵の資格が欲しい」と語る。スタン殺しの犯人を見つけ出す目的を聞いたピンキーは、登録を承諾した。
JCはマックQに現像した写真を見せ、セントルイスの殺し屋のフレディーだと教えた。マックQはエレインの元へ出向き、「5千ドルが欲しい」と語った。彼が「年金が入ったら返す」と約束すると、ウォルターは「返せる時でいい」と小切手を用意した。情報屋のロージーに金を渡したマックQは、サンティアゴがフレディー以外にもデンヴァーのカウフマンとマイアミのルーも雇ったことを聞かされた。さらにロージーは、カウフマンが黒人と繋がっていること、スタンが自分の情報網だったことを語った。
マックQはスタンと親しかったマイラの家に押し掛け、「あいつは何か情報を掴んでたのか」と質問した。マイラは「スタンが何を掴んだのかは知らないけど、私も昨日、知ったのよ」と麻薬の強盗計画があることを明かした。場所を問われた彼女は、「町一番の麻薬倉庫よ。ヒントは青い制服」と答えた。マックQは焼却処分のために麻薬を警察署から運び出す車を尾行し、処分場に辿り着いた。クリーニングの業者に化けた連中は運送役の刑事たちを射殺し、麻薬を奪って逃亡を図った。気付いたマックQは後を追うが、途中で見失った。マックQはコスターマンから「なぜ情報を知ったのに黙っていた?」と咎められ、「報告は依頼人にする」と告げた。
コスターマンはマックQに、探偵の登録は下りなくないと通告する。公安委員のトムズは彼に、「なぜ犯人は情報が分かったんだろう。誰かが教えないと無理だ」と語った。マックQがロイスを訪ねると、「実家へ帰るから貴方の車で送って」と頼まれた。マックQは深夜の国際運送に侵入し、テーブルに上に置いてある麻薬を発見した。サンティアゴは彼の侵入を察知しており、一味を率いて待ち受けていた。サンティアゴは袋の中身が全て砂糖だと教え、「警察署で摺り替えられたんだ」と怒った。マックQが「スタンを殺したのは?」と質問すると、彼は「俺じゃない。たぶん真相を知ったんだろう。ずっと前から砂糖に摺り替えてたんだ」と述べた…。監督はジョン・スタージェス、脚本&共同製作はローレンス・ロマン、製作はジュールス・レヴィー&アーサー・ガードナー、製作総指揮はマイケル・ウェイン、撮影はハリー・ストラドリングJr.、美術はウォルター・シモンズ、編集はウィリアム・ジーグラー、音楽はエルマー・バーンスタイン。
主演はジョン・ウェイン、共演はエディー・アルバート、ダイアナ・マルドア、コリーン・デューハースト、クルー・ギャラガー、デヴィッド・ハドルストン、ジム・ワトキンス、アル・レッティエリ、ジュリー・アダムス、ロジャー・E・モーズリー、ウィリアム・ブライアント、ジョー・トルナトーレ、リチャード・ケルトン、ディック・フリエル、リチャード・イーストハム、フレッド・ワウ他。
『シノーラ』『さらばバルデス』のジョン・スタージェスが監督を務めた作品。
脚本は『スインガー』『12月の熱い涙』のローレンス・ロマン。
マックQをジョン・ウェイン、コスターマンをエディー・アルバート、ロイスをダイアナ・マルドア、マイラをコリーン・デューハースト、トムスをクルー・ギャラガー、ピンキーをデヴィッド・ハドルストン、JCをジム・ワトキンス、サンティアゴをアル・レッティエリ、エレインをジュリー・アダムスが演じている。ハリウッドで西部劇が全盛期だった頃、ジョン・ウェインはジョン・フォード監督作を始めとする数多くの映画で主演を務め、大人気俳優の地位を確立した。戦争映画など現代劇への出演もあったが、「西部劇の帝王」という印象が強かった。
しかし1960年代に入って西部劇が下火になっていき、製作本数は減る一方だった。
そんな中でジョン・ウェインが挑んだのが、当初はスティーヴ・マックイーンが主演予定だった本作品だ。
『ダーティハリー』などに見られる1970年代ハリウッド・アクション映画の「組織に馴染まない一匹狼のアウトロー」というパターンを、この映画も採用している。
ただし本作品では前半であっさりと刑事を辞めるので、そこは少し異なるが。マックQは融通が利かない頑固者で、何の裏付けも取れていない段階で「スタンはサンティアゴに殺されたに違いない」と決め付けている。その確信に基づいて真っ直ぐに行動し、周囲の忠告には全く耳を貸さない。
目的を果たすためなら平気で暴力を行使し、躊躇は全く無い。自分は常に正しいと信じ込んでおり、後で過ちが明らかになったとしても反省や後悔は全く見せない。
舞台が現代の都市部になっても、ジョン・ウェインが演じるキャラクターの性格設定は、西部劇の頃と大して変わっていない。
それはザックリ言うと、アメリカという国が育んで来た「強さこそ正義」というマッチョイズムを体現するキャラクターだ。本作品には大きな問題があって、「マックQの見立てが完全に間違えている」ってことだ。
彼は「犯罪撲滅のためなら暴力を振るっても構わない。相手が悪党なんだから、法に縛られずに行動すべきだ」という考えの持ち主で、自分が正しいと思って疑わない。そして彼はサンティアゴがスタンの殺害に絡んでいると確信し、白状しない彼をボコボコにする。
しかし我々は、その前の段階でマックQが間違っていることを知っている。
ホントに相手が犯人ならともかく、そうじゃないので、その暴力に「それは違う」と言いたくなる。マックQがスタン殺しの犯人について調べ始めた時点で、まだ「スタンを殺した犯人はサンティアゴの殺し屋」という可能性はある。
でも、仮にそうだったとしても、「スタンが刑事として行動していたのに、殺し屋に始末された」というマックQの考えが間違っていることは、既に確定事項となっているのだ。
っていうか、なぜ最初にスタンが警官を射殺するシーンを描いたんだろうか。
それによって得られるメリットなんて、何も無いでしょうに。どう考えたって、「実は」と真相が明かされるまで隠した方が得策でしょ。完全ネタバレを書くと、処分される麻薬を砂糖に摺り替えていた犯人はスタンだ。
彼はロイスやウォリー、トムズたちとグルになって、犯行を重ねていた。しかしトムズはロイスと一緒に麻薬を独占しようと目論み、スタンを始末した。そしてトムズはマックQの車に麻薬を隠し、ロイスがマックQに「実家へ送ってもらう」という名目で車を出させ、トムズと合流する計画だ。
粗筋では書いていないが、ロイスがマックQに車で送ってほしいと頼んだ直後、トムズが来ている。ロイスとは何の関係も無いはずなので不自然な訪問に感じたが、実はズブズブの関係だったわけだ。
でも、訪問した時点では違和感しか無いわけで、そう感じさせるのは失敗でしょうに。そこは「ごく自然な訪問」に見えるように、シナリオを作っておくべきでしょうに。終盤に入るとマイラが殺され、マックQはトラックに挟まれて車ごとスクラップにされそうになる。脱出したマックQは、なぜか「犯人は自分を殺そうとしたんじゃなくて、車から引き離そうとしたんだ」と断言する。
何の根拠も無いので突飛にしか思えない推理だが、都合が良すぎることに的中している。
ようするに「車に麻薬が隠されているので、マックQを引き離して奪おう」という目論見ってことだ。
でも、そんな強引な方法を取らなくても、マックQが車から離れるチャンスなんて幾らでもあるでしょうに。あと、車をスクラップにした犯人が誰なのかは全く分からないんだよね。
トムズだとしたら人員が足りないし、そんなことをしなくてもロイスがマックQに車で送ってもらう計画で済むでしょうに。
だけどサンティアゴ一味と仮定しても、やっぱり不可解なんだよね。車に麻薬が隠されている情報は、ロイスとトムズしか知らないはずだからね。
あと、マイラを殺した犯人も全く分からないままだし。その目的も良く分からないし。マックQがロイスの計画に気付いた直後、トムズが合流するためにやって来る。マックQはトムズを射殺し、ロイスは逃げる素振りも無い。
これで麻薬を盗んだ一味はロイスを除いて全員が死亡しているので、もう話を終わらせてもいいはずだ。
でも、これだとマックQは終盤まで間違った推理に基づいて動いていただけになってしまうので、どうにも格好が付かない。
そこで「サンティアゴの一味が麻薬を奪いに来る」という展開を用意し、マックQが銃撃戦で全員を退治する結末を描く。
でもメインの事件にサンティアゴ一味は関わっていないので、それは冷静に考えると、取って付けただのアクションシーンに過ぎないんだよね。(観賞日:2025年2月2日)