『マンハント』:2018、中国
国際弁護士のドゥ・チウは、毎年必ず訪れている日本の港町で初めての居酒屋に立ち寄った。女将が少しだけ中国語を話せると言うので、ドゥ・チウは彼女と会話を交わす。ドゥ・チウが「ここに来ると、昔の映画を思い出す」と言って歌い出すと、女将は「その映画の台詞を覚えてる」と台詞を口にした。ヤクザの連中が店に乗り込んで来ると、女将は密かに包丁を握ろうとする。ドゥ・チウは彼女を静かに制し、「私は弁護士だ。力になろう」と告げた。
女性店員は奥の座敷を用意し、女将は心配するドゥ・チウに「慣れてるから」と告げる。「車に名画のDVDがあ。君にあげよう」とドゥ・チウが言うと、女将は取って来るよう頼む。ドゥ・チウが店を出ると、女将と女性店員は隠してあった銃を手にしてヤクザの連中を全滅させた。女将はレイン、店員はドーンという中国人で、2人とも天神製薬社長の酒井義廣に雇われた殺し屋だった。仕事を終えた2人は、店を去ることにした。レインはドゥ・チウのことを気にしながら、ドーンと共に車へ乗り込んだ。
天神製薬が65周年記念のパーティーを盛大に開き、酒井は顧問弁護士を務めるドゥ・チウへの感謝を述べた。酒井は新薬の開発を主導した息子の宏を呼び、後継者として参加者に紹介した。ドゥ・チウはアメリカの会社の顧問弁護士になることが決まっており、酒井に「上層部の指示で」と説明した。宏は大阪府警捜査一課係長の浅野に挨拶し、密かに新薬を手渡した。酒井は秘書の田中希子に「ドゥ・チウに息子を手伝ってもらいたい」と言い、彼を説得するよう指示した。希子はドゥ・チウをダンスに誘い、「待ってるわ」と告げた。その様子を、宏がじっと観察していた。
ドゥ・チウは遠波真由美という女性に声を掛け、母親が中国人だと聞く。真由美は彼を外へ連れ出し、「3年前の訴訟を疑ったことは?」と質問される。ドゥ・チウは真由美に車で家まで送ってもらい、詳細を訪ねる。すると真由美は、「2日後の午後3時、大阪駅の時空の広場で」と待ち合わせの場所を指定した。ドゥ・チウは家に入り、ベッドで就寝した。翌朝、彼が目を覚ますと、隣で真由美が死んでいた。ドゥ・チウは警察に電話しようとするが、そこへ家政婦が来て悲鳴を上げた。
浅野と部下たちが現場へ駆け付け、家政婦はドゥ・チウが殺人犯だと断言した。家の前には大勢のマスコミが押し寄せ、ドゥ・チウは連行されそうになる。しかし浅野は部下が手錠を掛けようとすると蹴り飛ばして阻止し、ドゥ・チウに拳銃を向けて「お前は人を殺し、警官を襲った。逃げるしかないぞ」と凄んだ。ドゥ・チウが逃亡すると、浅野は部下たちに捕まえるよう指示した。ドゥ・チウは列車の駅へ走り、地下鉄構内に入って逃亡した。
2人の男たちが少年をトラックに監禁し、刑事たちと睨み合っていた。そこへフリーの記者を装った捜査一課の矢村聡が現れ、男たちの隙を見て退治した。彼が所運を消防隊員に引き渡した直後、新人の百田里香がやって来た。彼女は伊藤課長の指示で来たことを告げ、浅野の応援に行くよう告げる。里香からドゥ・チウについて説明を受けた矢村は、浅野と合流せずに別の工事現場へ向かう。作業員に化けたドゥ・チウは矢村に気付かれ、里香を人質に取った。矢村が「彼女では足手まといだ」と言い、自分を身代りに連れて行くよう促した。ドゥ・チウは承諾し、里香を解放して矢村に銃を向けた。
ドゥ・チウが「俺は無実だ」と言うと、矢村は「だったら真相を追究しよう」と持ち掛ける。ドゥ・チウは「警察は信じない」と拒否し、矢村に車を運転させる。矢村は隙を見てドゥ・チウに襲い掛かり、2人は車から転げ落ちて格闘になった。ドゥ・チウは形勢を逆転させて銃を向け、「お前と戻れば俺は終わりだ」と告げて逃走した。浅野が伊藤に「ドゥ・チウが犯人だと断言できる証拠は揃っています」と報告すると、矢村は「動機は何でしょうか」と反論した。伊藤は矢村と2人になると、「お前がどれだけ成果を上げても、誤解する連中は一杯いる。でも、俺はお前の味方だ。やってみろ」と述べた。
矢村は里香に「証拠が完璧すぎる」と言い、65周年記念パーティーが催されていた時間に撮影された防犯カメラの映像を確認した。ドゥ・チウと一緒に天神製薬のビルから出てくる真由美の姿を見た彼は、3年前に会っている女性だと気付いた。3年前、真由美の婚約者だった北川正樹は企業秘密を盗んだとされ、裁判で敗訴した直後に不審死を遂げていた。真由美は矢村の前で、「彼は自殺したんじゃない。あの弁護士が死に追いやった」と語っていた。
ドゥ・チウはホームレスの集落で開かれている宴会に走り込み、坂口秀夫という男は彼が空腹だと気付いておにぎりを差し出した。坂口は事件を知っていたが、警官たちがドゥ・チウの捜索に来ると彼を匿った。次の日、矢村は事件の資料を調べ、ドゥ・チウを標的にした罠の可能性が高いと推理する。彼は里香と共に現場検証を行い、ドゥ・チウは右利きだが、犯人が左利きだと確信する。坂口はドゥ・チウに、黒い車が2日おきに集落へ来て働き手を連れて行くこと、行き先が製作会社の研究所であること、報酬が良くて戻って来た者が皆無であることを教えた。警官隊が来ると、坂口は仲間と協力してドゥ・チウを逃がした。
ドゥ・チウは酒井に電話を掛け、「お会いしたい」とカフェ・レストラン『ラ・メロディ』を指定した。酒井はドゥ・チウの同僚である青木を呼び、「彼がどこまで知っているか聞き出せ。警察の手には渡すな」と指示した。宏は浅野に連絡し、ドゥ・チウの動きを知らせた。ドーンは酒井から、ドゥ・チウを殺す指令を受けた。レインは薬の禁断症状で苦悶し、気付いたドーンが注射を打った。ドーンはレインに次の標的がドゥ・チウだと教え、「何なら私だけでやるわ」と告げた。
里香は車で移動中の矢村に連絡し、青木が動いたこと、浅野が部下に尾行を指示していたことを伝える。ドゥ・チウは『ラ・メロディ』で青木と面会し、レインは狙撃の機会を窺った。青木が「お前が殺してないのは知ってる。天神製薬を離れたことに関係があるのでは?。違法基金のイーザーと新薬の開発をしてる。3年前、お前が受けた企業秘密の窃盗事件だが、あれが新薬を作るための処方データらしい」とドゥ・チウに語っていると、ドーンは逡巡するレインに狙撃を支持する。しかしレインが青木を射殺したため、ドーンは銃を乱射してドゥ・チウを狙った。
浅野と部下たちが店に駆け付け、同時に矢村も到着した。ドゥ・チウがジェットスキーで逃走すると、すぐに矢村が後を追った。「無実なら一緒に真犯人を探そう」と矢村が言うと、ドゥ・チウは「警察は信じない。浅野は俺を殺そうとした」と告げて逃走する。真由美は彼の姿を発見し、腕を取って一緒に逃げ出した。彼女はドゥ・チウと新幹線に乗り、岡山県にある自分の牧場へ連れて行く。一方、ドーンは真由美を殺す指令を受け、レインに「今度は私だけでやるから」と告げた。
矢村と里香は駅の防犯カメラ映像を確認し、ドゥ・チウと真由美が一緒に行動していることを知った。真由美はドゥ・チウに「見せたい物がある」と言って車に乗せ、屋外の結婚式場へ連れて行く。彼女は北川が婚約者だったことを明かし、挙式するはずだった彼が目の前で自殺したことを語る。真由美はドゥ・チウを非難し、「新薬の処方を盗んだのは人を苦しめたくないからよ」と告げた。そこへドーンが姿を現し、ドゥ・チウと真由美に向けて発砲した。直後に矢村が駆け付け、ドーンの攻撃を妨害した。
ドゥ・チウと真由美が車で逃亡すると、矢村が追跡した。レインはバイクを走らせながらドーンに連絡し、応援を呼んでおいたと知らせる。ドゥ・チウは横転事故を起こし、矢村は彼と自分に手錠を掛けた。そこへ殺し屋集団が来たため、ドゥ・チウ、矢村、真由美は逃亡する。ドゥ・チウは「こうなったら助け合うしかない」と矢村に告げ、真由美に「北川の証拠は全て警察が提供した物だ。俺はそれを信じた」と訴える。真由美は矢村の質問を受け、事件の夜にドゥ・チウと一緒にいたことを証言した。
3人は牧場へ行き、使用人を全て立ち去らせて殺し屋集団を待ち受けた。殺し屋集団が乗り込んで来ると、3人は銃を手にして戦う。ドゥ・チウはドーンと戦い、建物の外へ出た。ドーンが追って来ると、矢村が発砲した。銃弾を浴びたドーンは薬を注射するが、もう立つことは出来なかった。駆け付けたレインが発砲し、矢村は右肩を撃たれる。ドーンはレインの看取られて死亡し、駆け付けた里香は矢村を心配する。ドゥ・チウ、矢村、真由美、里香は、軽トラで病院へ向かった。
矢村は里香に手錠を外すよう指示し、ドゥ・チウに「逃げろ」と促す。ドゥ・チウは矢村を手術室まで運び、それから真由美と共に病院を去った。手術が無事に終わって里香が安堵していると、浅野が現れて「ドゥ・チウはどこだ」と詰め寄った。里香が「薬で既に足が付いています。係長としての貴方はも、もう終わりです」と鋭く言い放つと、浅野は憤慨して去った。彼は酒井の元へ行き、希子を殺した宏から助けを求められた電話の音声記録を聞かせる。浅野が高飛びの資金を用意するよう要求すると、酒井はレインに始末させた。一方、ドゥ・チウは真由美から、北川が隠してあった生体実験の写真や新薬の処方コードを見せられる…。監督はジョン・ウー、原作は西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』(徳間書店刊)、脚本はニップ・ワンフン&ゴードン・チャン&ジェームズ・ユエン&江良至&ク・ゾイラム&マリア・ウォン&ソフィア・イェー、製作はゴードン・チャン&チャン・ヒンカイ、製作総指揮はピーター・ラム&ラ・ペイカン、共同製作総指揮はイエ・ロンジャン&グアン・ハイロン&リチャード・ルイ、撮影は石坂拓郎、美術は種田陽平、編集はホイ・ウォン&リー・カーワー、衣装は小川久美子、アクションコレオグラファーは園村健介、音楽は岩代太郎。
出演はチャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン、國村隼、アンジェスル・ウー、桜庭ななみ、池内博之、TAO、トクナガクニハル、矢島健一、田中圭、ジョーナカムラ、吉沢悠、竹中直人、倉田保昭、斎藤工、屋敷紘子、中田裕一、松浦健城、城明男、森本武晴、佐藤五郎、山本智康、加藤幸司、岡本多緒、中村譲、辻伊吹、新居則子、瀧澤悠平、大塚洋太、濱口望海、北口裕介、矢島一憲、湯本信一、吉田達郎、山本健太郎、藤原一正、上川智子、島原隼人、小林隼人、石田大樹、佐佐井隆文、北崎秀和、三元雅芸、浦野博士、水野麗奈、前山隆ら。
西村寿行の同名小説を基にした1976年の映画『君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ』をリメイクした中国映画。
監督は『レッドクリフ』2部作や『レイン・オブ・アサシン』のジョン・ウー。
ドゥ・チウをチャン・ハンユー、矢村を福山雅治、真由美をチー・ウェイ、レインをハ・ジウォン、酒井を國村隼、ドーンをアンジェスル・ウー、里香を桜庭ななみ、宏を池内博之、希子をTAO、浅野をトクナガクニハル、堂塔を矢島健一、北川を田中圭、青木をジョーナカムラ、伊藤を竹中直人、坂口を倉田保昭が演じている。『君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ』からは、内容が大幅に改変されている。
例えば主人公が警察に追われるのは、オリジナル版では「女性に強盗だと訴えられ、罠だと確信して逃亡する」という流れだ。そして訴えた女を見つけたら殺されており、それも警察に疑われるという展開になっていた。
それに対して本作品では、最初から殺人犯として追われる形となっている。そして主人公は罠だと確信して逃げるのではなく、刑事に「逃げろ」と銃を向けられて逃走するという形になっている。
オリジナル版では、矢村が主人公を犯人だと確信して捕まえようとしている時間帯が、かなり長く続く。それに対して本作品では、前半の時点で「こいつは犯人じゃない」と感じている。
それ以外でも、かなりの違いが多くの違いがある。オープニングのシーンから、既に「これはマジに見るべき映画じゃないんだな」と思わせる雰囲気がプンプンと漂っている。
演歌がBGMとして流れる中でドゥ・チウが町を歩いているだけのシーンなのだが、既に滑稽さが強く感じられる。ドゥ・チウが入る居酒屋も、どこか作り物っぽさを漂わせる。それはシーンの見せ方も含めてってことだ。
レインとドーンの銃撃シーンも、ギクシャク感が半端無い。
そこに限らず、最初から最後まで、「先に撮りたいシーンが幾つかあって、それを全て盛り込むために後からシナリオを考えたんじゃないか」と邪推したくなる内容になっている。居酒屋のシーンでは、カタコトの日本語しか話せない女将が「少しだけ中国語を話せる」と言って流暢に中国語を喋るという「ツッコミを入れるべきなのかどうか」と困惑させられる展開がある。
女将は「日本人に化けている中国の殺し屋」という設定なので、中国語が堪能で日本語が拙いのは当然っちゃ当然だろう。ただ、それなのに生粋の日本人を装っているのが、「アホなのか」と言いたくなる。
そもそも、レインとドーンが居酒屋の女将と店員に化けている意味がサッパリ分からないし。
ちなみに、このシーンでドーンはジョン・ウー作品には付き物の二丁拳銃を使っている。それを担当するのがハ・ジウォンじゃなくてジョン・ウーの娘であるアンジェスル・ウーってのは、少しだけ「娘びいきかな」ってのを感じたりする。65周年記念パーティーのシーンでは、大勢の客が来ているのに、宏が平気で浅野に薬を渡す。一応は周りに気付かれないように注意しているが、もっと人がいない場所で渡せる機会なんて幾らでもあるはずでしょうに。
そのパーティーでは、大勢が同じ振り付けで踊る様子が描かれるが、その不自然さが際立っている。
そのシーンで希子がドゥ・チウを誘うが、この時点では彼女が酒井の秘書であることを説明していない。粗筋では「秘書」と書いたが、ホントは説明不足で分かりにくくなっている。
でも、その程度のことを気にしていたら、この映画に最後まで耐えられないだろう。それ以降も、説明不足や描写の不手際は次々に出て来るのでね。ドゥ・チウは自宅で就寝した翌朝、希子の遺体を発見している。
だけど、前日に希子は彼の家へ来て、犯人に殺されているのよね。
そこへドゥ・チウが帰宅しているのに、犯人は遺体をどこへ隠しておいたのか。そしてドゥ・チウが眠っている間に、どうやって遺体をベッドの隣へ寝かせたのか。
ドゥ・チウは希子とセックスしてから就寝したわけでもないのに、なぜ翌朝まで彼女の存在に気付かないのか。
睡眠薬でも飲まされたのならともかく、そうじゃないんだからさ。家政婦がドゥ・チウを全く信用せず、憎しみでもあるかのように犯人だと断言するのは違和感が強い。
彼女も犯人とグルなのかと思ったが、そうじゃなくて単純に不自然なだけだった。
まだ事件が発生してから間もないのに、警察と同じタイミングで大勢のマスコミが家へ押し寄せているのも不可解だ。
浅野なり犯人なりがマスコミにリークしたという設定だったりするのかと思ったが、そんなことへの言及は何も無い。なので、ただ描写に無理があるだけってことになっている。ドゥ・チウが逃亡する経緯にも、かなり無理がある。浅野は手錠を掛けようとする部下を蹴り飛ばしてドゥ・チウに逃げるよう要求するが、ただの意味不明な行動になっているんだよね。
その時点で浅野が犯人とグルなのはバレバレなんだけど、だからってドゥ・チウを逃がす必要性があるのかと。
逃がしたところで、それで何がどうなるわけでもないでしょ。彼は「ホシは危険人物だ。必要とあれば拳銃の使用も止む無しだ」と部下たちに言うけど、そんなの彼の権限じゃ勝手に決められないし。
しかも部下を思い切り蹴り飛ばして逃がしているわけで、そうなると部下が上層部へ報告する可能性が濃厚でしょうに。
でも、浅野の行動は上層部にバレていない様子なんだよね。どうやって部下の口を封じたのか。矢村は普通に登場させればいいいものを、「他の事件を解決する」というシーンを用意している。彼の活躍を最初に見せておきたかったんだろうけど、ただ邪魔なだけのシーンと化している。
このシーンだけを取っても、いかに本作品がデタラメなのかが良く分かる。
しかも、ケレン味溢れるアクションでもあるのかというと、あっさりと犯人を退治して淡白に終わってしまうのだ。わざわざ余計なシーンを盛り込んだのに、ちっとも矢村の活躍をアピールできていない。
少年が泣きながら「僕も刑事さんみたいになれる?」と言い、矢村が「どんな仕事でもいい。ただ、逃げないことだ」と説くシーンなんて、まるで必要性が無いぞ。矢村は浅野の応援に行くよう指示されるが、別の場所へ向かう。まるで最初からドゥ・チウの動きが分かっていたかのように、真っ直ぐに向かった工事現場で彼を発見する。
人質になった矢村がドゥ・チウと揉み合いになると、なぜか都合良く鳩舎の近くで車から転がり落ちる。そして、もはやセルフ・パロディーにしかならない「鳩が飛ぶ」という演出が待ち受けている。
ここはジョン・ウー作品を良く見ている人なら、興奮するか、あるいはニヤニヤできるだろう。
ちなみに、その後も鳩が飛ぶシーンは用意されている。ドゥ・チウが坂口と出会うシーンを粗筋では「ホームレスの集落」と書いたが、「そんなの日本にあるわけねえだろ」と思うかもしれない。
でも、みんなで暮らす建物があって、その前にある広場では宴会が開かれていて、ちょっとした集落っぽいのよ。
で、ここで坂口がドゥ・チウに中国語で話し掛けると、なぜか動画から静止画に切り替わる。
どんな狙いがあるのかは分からないが、得られる効果が何も無いことは間違いない。矢村はドゥ・チウが綿密な罠にハメられたと推理し、里香を伴って現場検証へ赴く。ところが、当日の犯人の行動をナレーションで説明し、補足のためのイメージ映像が写し出されると、そこではドゥ・チウが希子を殺している。
どういうことだよ。
さらに、里香が被害者となり、ドゥ・チウに命を狙われるイメージ映像まで挿入される。
どうやら「里香が自分を被害者の立場に置いて妄想してしまった」ってことのようだが、それも筋が通らんぞ。その前に彼女は、矢村から「ドゥ・チウに成り切って考えろ」と指示されているんだぜ。なんで被害者サイドに回ってんだよ。
そもそも、里香というキャラ自体が要らないし。その造形も、作品に全く馴染んでいないし。酒井はドゥ・チウから面会を求められると、青木を差し向ける。
なので青木は酒井の悪行を知った上で手下になっているのかと思いきや、ドゥ・チウに天神製薬の違法行為に関する情報をベラベラと喋る。「ドゥ・チウがどこまで知っているのか聞き出せ」と命じられたのに、その任務を遂行する気はゼロだ。
酒井は青木に何も期待しておらず、ドゥ・チウを殺すための囮に使っただけなのかもしれない。
ただし、そうだとしても、わざわざ内部情報をベラベラと喋るような奴を派遣する意味は無いでしょ。真由美は牧場に着いた直後、ドゥ・チウに「見せたい物がある」と言って車に乗せる。行き先はカップルが挙式している屋外の式場で、 彼女は「そこで自分も挙式する予定だったけど、現場へ車で来た北川が拳銃自殺した」ってことをドゥ・チウに話す。
だけど、それを説明するために、わざわざ式場まで行く必要性は無い。牧場で「こんなことがありまして」と説明すりゃ済む。
わざわざ式場へ行くのは、そこでのアクションシーンを描きたいからだ。牧場で話を進めると、「式場でアクションをやって、そこから牧場へ移動してアクションをやって」という構成に出来ないからだ。
そういう都合のために、キャラは不自然な行動を余儀なくされている。
北川が式場まで来て、真由美の目の前で射殺するってのも違和感たっぷりだしね。矢村は式場でドーンが襲撃したのを見ているので、「ドゥ・チウや真由美が命を狙われている」ってのは分かっていはずだ。それなのに彼は、ドゥ・チウと自分を手錠で繋ぎ、鍵を捨ててしまう。
そのせいで、殺し屋集団から逃げる時も、戦う時も、手錠が邪魔になってしまう。ドゥ・チウは利き腕を手錠で繋がれているので、拳銃を撃つ時も厄介なことになってしまう。
矢村がアホにしか見えない。
しかも、手錠で繋いでいることが、『手錠のまゝの脱獄』のようなドラマを生んでいない。
もはや2人は助け合うしかない状況なので、手錠で繋いでいる意味なんて皆無だし。真由美はドゥ・チウと矢村に「逃げ切るのが先よ」と言い、3人は牧場へ行く。
使用人を全て立ち去らせるので、殺し屋集団が来るのに備えて何か策を用意するのかと思ったら、ただ真正面から普通に戦うだけ。そんなに時間は無かっただろうけど、罠を仕掛けるようなことも無い。
「牧場にあった銃を手に入れる」という部分では意味があるかもしれないが、あまりにも知恵が無い。
相手の方が圧倒的に数は多いんだから、そこは知恵で対抗しろよ。浅野が酒井の元へ乗り込んで録音した電話の音声を聞かせるシーンで、希子が殺された事件の真相が明らかになる。犯人は宏で、相談を受けた浅野が証拠を隠蔽してドゥ・チウの仕業に見せ掛けるための細工を施していたのだ。
だけど、回想シーンで「浅野が希子をベッドに運び、続いてドゥ・チウもベッドに運ぶ」という行動を見せているのは不可解極まりないぞ。
希子はともかく、眠っているドゥ・チウをベッドに運ぶのは変だろ。なんでドゥ・チウは全く気付かないんだよ。
あと、宏の動機は「希子を自分のモノにしたかったので、嫉妬心でカッとなった」ってことなんだけど、あまりにもバカバカしくて呆れる。そこは全く計画性が無いってことになるからね。矢村には「かつて妻が飲酒運転事故の犠牲になっている」という過去があり、伊藤が「いいかげん、前を向いて生きろ」と説くシーンもある。
しかし、この設定はストーリー展開に全く関係が無い。
どうやら「妻を亡くした矢村は、いつ死んでも構わないという思いで仕事をしている」という形で関連性を持たせようとしていたようだ。
だけど矢村の行動を見ても、そんな風には全く感じ取れないのよね。
そして、「今回の一件を通して、矢村は前を向いて生きられるようになった」という変化に繋がるわけでもないし。終盤に入ると、薬物実験の材料にされた坂口が暴れ出し、ドゥ・チウが止めるシーンがある。ドゥ・チウが薬で暴走し、矢村の説得で正気 に戻って一緒に戦う展開もある。レインが寝返り、天神製薬と戦う展開もある。宏が自ら薬を打ってバーサーカーに変貌し、戦う展開もある。
そういった終盤の展開は、いかにもジョン・ウーらしい力技だ。
「シナリオはデタラメだが、勢いと情熱だけで強引に捻じ伏せよとする」ってのは、ハリウッド進出前のジョン・ウー作品に見られた特色と言えるかもしれない。
そういう本来のジョン・ウーの持ち味が、存分に発揮された作品ってことになるのかもしれない。(観賞日:2019年9月24日)
2018年度 HIHOはくさいアワード:第7位