『マンディンゴ』:1975、アメリカ
ウォーレン・マックスウェルはルイジアナでファルコンハースト農園という大農園を営んでいる。彼は奴隷商人のブラウンリーに、所有する黒人奴隷の数名を売却することにした。ブラウンリーはウォーレンが勧めたシセロを含む3人を購入した。ウォーレンは黒人の執事であるメムに、他の奴隷は小屋に戻し、売却した3人は鎖に繋いでおくよう命じた。そこへ片足の悪い息子のハモンドが来て、奴隷女であるビッグ・パールの具合が悪いことをウォーレンに伝えた。
獣医のレッドフィールドがパールを診察しているところへ、ウォーレンがハモンドと共にやって来た。パールはマンディンゴ(純潔のアフリカ人)であり、ウォーレンは処女を守るよう言い付けていた。それを聞いたレッドフィールドは、「それなら大丈夫だろう。盛りが付いて男を欲しがっているだけだ」と話す。彼は笑いながら、ハモンドに「お前が相手をしてやれ。最初の相手をするのは主人の務めだ」と告げた。ウォーレンはブランウリーに「男のマンディンゴを見つけたら3000ドル出す。あの子に種付けしたい」と述べた。
昼食の際、ハモンドはウォーレンから「パールが嫌いか?」と訊かれ、「抱きたいけど、体臭がキツいんだ」と答えた。ウォーレンは女中のルクレチアに、24人の子供を産ませている。レッドフィールドの指示を受け、ルクレチアと女中のルーシーは、パールをマンガン酸塩の風呂に入れて体臭を消そうとする。2人はパールに、最初の相手が白人であることを名誉に思って、抱かれたら礼を言うよう教えた。ハモンドはパールの元へ行き、彼女を抱いた。
シセロは黒人が虐げられている現状に怒りを覚えており、メムに読み書きを教えていた。それを知ったハモンドはウォーレンの部屋へ行き、メムが文字を読めることを報告した。ハモンドが「メムを殴ってやる」と息巻くと、ウォーレンは「皮膚が裂けるぐらい容赦なくやれ。傷口にピメンタードを塗り込んでやれ」と指示した。翌朝、ハモンドはメムを逆さ吊りにして、別の奴隷に棒で叩くよう命じた。
マックスウェルの親族であるウッドフォード少佐の息子、チャールズが農園を訪れた。ウォーレンはハモンドに、ウッドフォード少佐から困窮しているので金を貸してほしいという手紙が届いたことを話した。ハモンドが「貸すの?」と訊くと、彼は「お前次第だ。チャールズの妹のブランチと結婚しろ。そろそろ跡継ぎが必要だ。白人女と結婚しろ。奴隷の子供じゃダメだ」と語る。「結婚したら奴隷とは寝るべきじゃないと?」とハモンドが尋ねると、ウォーレンは「もちろん続けていい」と告げた。
とりあえずブランチと会うよう促され、ハモンドはチャールズと共にウッドフォード邸に向かう。その途中、ハモンドはウォーレンの友人を訪ね、男のマンディンゴを種付けに借りたいと申し入れた。だが、そのマンディンゴは3ヶ月前に死んでいた。その夜の相手として、友人はケイティーとエレンという黒人娘を用意した。エレンが処女と知ったチャールズは、ケイティーの方を選んだ。エレンはハモンドが今までに関係を持った黒人女とは違い、初めて「脚をどうされたんですか」と尋ねた。これまでの黒人女は気付かない振りをしていたことを、ハモンドはエレンに話した。
奴隷市場に立ち寄ったハモンドは、ミードという男のマンディンゴをドイツ人の未亡人が買おうとする姿を目撃する。白人女がセックスの相手として黒人を買うことに憤慨したハモンドは、彼女より高値でミードを競り落とした。ウッドフォード邸に到着したハモンドは、ブランチと会った。チャールズはブランチと部屋で2人になると、「結婚しないよな?」と問い掛ける。ブランチが「もちろん結婚するわ。条件もいいし」と軽く言うと、彼は「僕らがしたことを彼に話すよ」と口にした。するとブランチは「彼は信じないし、パパに追い出されるわよ。私は、この家と家族から逃げ出したいの」とチャールズを睨んだ。
ハモンドとブランチは結婚し、新婚旅行に出発した。ホテルでブランチとの初夜を迎えたハモンドは、彼女が処女でないことに気付いた。しかしハモンドが「どんな男に喜ばされた?」と問い詰めても、ブランチは純潔だと言い張った。ハモンドは怒りを覚え、父が常連だったマダム・カロリーヌの娼館に出掛けた。だが、いざ娼婦に誘われると、ハモンドは焦った様子で「その気は無いんだ」と遠慮した。
庭でハモンドを待っていたミードは、娼館の奴隷に出て行けと要求される。奴隷が掴み掛かって来たので、ミードは反撃した。2人が喧嘩をしている様子を、娼婦や客たちが見物した。ハモンドが止めようとすると、客のデ・ヴェーヴ侯爵が「買った方に1000ドル出そう」と言い出した。ハモンドが応援する中、ミードは喧嘩に勝った。デ・ヴェーヴがハモンドに金を渡し、ミードを9000ドルで買いたいと交渉する。ハモンドが断ると、彼は「では私の奴隷と戦わせよう」と提案した。ハモンドが承諾し、数ヶ月後の勝負が決まった。
新婚旅行から帰る途中、ハモンドはエレンを買い取った。ブランチから「ミードの妻にするの?」と訊かれ、ハモンドは「違う」と答えた。自宅に戻ったハモンドは、ブランチが処女でなかったことをウォーレンには話さなかった。しかしブランチに対する怒りは残っており、ハモンドは彼女に「今夜は何もしない。君とは一緒に寝ない」と通達した。ウォーレンはハモンドがマンディンゴのミードを連れ帰ったことに興奮し、「すぐにビッグ・パールと交配させろ」と指示した。
ハモンドは書類を父に見せ、ミードがパールの兄だったことを報告する。しかしウォーレンは、「あいつらは知らんだろう。動物と同じで、黒人の近親相姦も上手く行く」と軽く言う。「奇形児が生まれたらどうするんです?」とハモンドが質問すると、「殺せばいい。余計なことは考えるな」と彼は答えた。エレンが1500ドルと知ったウォーレンが「高すぎる」と言うと、ハモンドは「気に入ったんだ。夜の相手にする」と述べた。
ハモンドが全く相手にしてくれないので、ブランチは酒浸りになった。彼女に求められても、ハモンドは冷たく拒絶した。彼はエレンと寝て、そして優しく接した。エレンが「子供は売るの?」と不安そうに訊くと、ハモンドは「僕らの子供は売らない。ここで育てる」と答えた。エレンが「子供が大きくなったら解放してくれる?男の子だったら辛い目に遭うわ」と言うと、ハモンドは「大切なことか?」と確認する。エレンが泣いているので、ハモンドは「分かったよ。子供は解放する。約束するよ」と告げた。
シセロが銃を奪って脱走し、数名の白人を殺害した。小屋に逃げ込んだシセロは、銃撃を受けて足を負傷した。シセロは外へ逃げ出し、ハモンドはミードに追跡を命じた。ミードに捕まったシセロは、「お前が俺を殺すことになるんだぞ。白人の命令に従うなんて、お前は犬なのか。自分の仲間を殺そうとしているんだぞ」と問い掛ける。ミードは力を緩めるが、逃げ出そうとしたシセロは追い付いた白人たちに捕まった。シセロはミードに「お前のせいで捕まったんだ。黒人同士が殺し合うのは、お前みたいに白人に従う奴がいるからだ。俺は奴隷として死なないだけマシだ。白人のために惨めな人生を送るなら、殺された方がいい」と告げ、縛り首にされた。
ハモンドとウォーレンはミードを娼館で決めた試合に出場させるため、ニューオリンズへ向かった。彼らが外出している間に、悪酔いしたブランチはエレンを部屋へ呼び付けた。鞭を持ったブランチは、エレンに服を脱ぐよう要求した。エレンを連れて来たルーシーは、「彼女は妊娠中です」と告げる。するとブランチは「赤ん坊を追い出してやる。アバズレ、メスブタ」と言い、鞭でエレンを激しく殴り付ける。駆け付けたルクレシアが止めようとすると、ブランチは逃げ出すエレンを追い掛けた。エレンは階段から転げ落ちた。
ニューオリンズの会場には大勢の見物客が集まり、ミードはデ・ヴェーヴの奴隷であるトパーズと試合をする。ルール無用の戦いが始まり、ミードはトパーズを殺して勝利した。帰り道、ウォーレンは「ファルコンハーストは有名になるぞ」と喜ぶが、ミードは「あんな殺し合いに価値などありません」と口にする。ハモンドは父から「言わせておくのか?」と問い掛けられ、「彼が正しい」と告げた。ルビーの首飾りとイヤリングを購入したウォーレンは、ブランチにプレゼントするようハモンドに促した。
ルクレチアはウォーレンに、ブランチがエレンを流産させたことを報告した。エレンはウォーレンから、自分で階段から落ちて流産したとハモンドに話すよう強要された。ハモンドは泣いているエレンを優しく慰め、土産としてルビーのイヤリングを渡した。ウォーレンは息子に早く跡継ぎを作れと要求し、ブランチに土産を渡すよう促した。ハモンドが仕方なく首飾りを渡すと、ブランチは大喜びした。
夕食の時、ブランチは「家を建てたら近所の人々を招いてパーティーを開くつもりです」とウォーレンたちに話す。しかし食事を運んで来たエレンがルビーのイヤリングを付けているのを目にして、彼女は顔を強張らせる。部屋に戻ったブランチは、ハモンドに非難の言葉を浴びせた。感情的になった彼女は、関係を持った男について追及され、チャールズだと明かしてしまった。ハモンドから相手にされなくなったブランチはミードを部屋に呼び、肉体関係を強要した…。監督はリチャード・フライシャー、原作はカイル・オンストット、戯曲はジャック・カークランド、脚本はノーマン・ウェクスラー、製作はディノ・デ・ラウレンティス、製作総指揮はラルフ・サープ、撮影はリチャード・H・クライン、編集はフランク・ブラクト、美術はボリス・レヴェン、衣装はアン・ロス、音楽はモーリス・ジャール、主題歌歌唱はマディー・ウォーターズ。
出演はジェームズ・メイソン、スーザン・ジョージ、ペリー・キング、リチャード・ウォード、リリアン・ヘイマン、ケン・ノートン、ブレンダ・サイクス、ロイ・プール、ジー=ツ・クンバカ、ポール・ベネディクト、ベアトリス・ウィンド、ベン・マスターズ、デビー・モーガン、アイリーン・テッドロウ、レイ・スプルエル、ルイ・チュレンヌ、デュアン・アレン、アール・メイナード、レダ・ワイアット、シモーヌ・マックイーン、エヴリン・ヘンドリクソン、スタンリー・レイエス、ジョン・バーバー、ダーウィン・ロビンソン、カーウィン・ロビンソン、デボラ・アン・ヤング、デブラ・ブラックウェル、クーンバ、ストッカー・ファウンテリエ他。
カイル・オンストットの同名小説と、それを基にした舞台劇をベースにした作品(ちなみに舞台劇にはデニス・ホッパーが出演していた)。
脚本は『ジョー』『セルピコ』のノーマン・ウェクスラー、監督は『ミクロの決死圏』『絞殺魔』のリチャード・フライシャー。
ウォーレンをジェームズ・メイソン、ブランチをスーザン・ジョージ、ハモンドをペリー・キング、メムをリチャード・ウォード、ルクレチアをリリアン・ヘイマン、ミードをケン・ノートン、エレンをブレンダ・サイクス、レッドフィールドをロイ・プール、シセロをジー=ツ・クンバカ、ブラウンリーをポール・ベネディクトが演じている。リチャード・フライシャー監督は、これまでは巧みに隠蔽されたり、表現を和らげたり、美化された形でしか描かれなかったりした黒人奴隷制度の真実を明らかにしようという意図を持って、この映画を撮ったらしい。
それまでの作品だと、奴隷制度を正面から描いたとされるTVのミニ・シリーズ『ROOTS/ルーツ』がある。
だが、そんな『ROOTS/ルーツ』でさえ、ヘイズ・コードの関係で描写は穏やかになっていた。
「それじゃダメだ」という思いで、リチャード・フライシャー監督は本作品を撮ったのだ。
つまり、「ここにあるのは奴隷制度の真実だから、目を逸らさずに受け止めろ」ってことだ。冒頭から黒人が道具として売却される様子が描かれる。奴隷なので、市場で売買されるのだ。そして売却が決まると、鎖で繋がれる。
その時点で既に人権侵害も甚だしいのだが、そんなのは序の口だ。そもそも黒人は奴隷であり、人間扱いされていないので、人権など無いのだ。
人間ではないので、病気や怪我を診察するのは獣医の担当だ。つまり家畜やペットと同じような扱いってことだ。
白人のブラウンリーが棒を投げて、シセロに「取って来い」と命じるシーンもある。奴隷同士を鍛えて戦わせるという、闘犬のような扱もある。
家畜やペットと同様に、黒人奴隷には種類によってランク付けがあり、純血のアフリカ人なら高く売れる。南部の白人にとって、黒人は所有物であり、利用されるためだけに生きている。
だから読み書きなど許されないし、自由なんて何も無い。
失敗すれば必ず折檻されるし、失敗しなくても白人のご主人様が「殴りたい」と思ったら暴力を振るわれる。それに反抗することなど絶対に許されない。
黒人は「働いて食えれば幸せ」と考えるべき存在だ。何があろうとも、白人に服従しなければならない。
少しでも反抗すれば、殺されても仕方が無い。リウマチを患っているウォーレンは、黒人少年の腹部に足を乗せる。そうやってリウマチの毒を黒人少年に吸わせれば、リウマチが治ると信じているのだ。
そもそも誰かに毒を吸わせてリウマチが治るなんてことは無いのだが、それを信じている白人からすると、黒人に毒を移しても構わないってことだ。
白人は黒人に何をやっても構わないので、白人の男は黒人の女を犯して出産させ、その子供を奴隷として売り払う。
それが成人かどうかなんて、白人にとっては関係が無い。相手が赤ん坊であろうと、それが黒人であれば、商品や道具として扱うのは構わないのである。
また、白人女性が夜の相手をさせるために、たくましい男の黒人を買うこともある。登場する白人の中でハモンドだけは、エレンに優しく接したり、ミードが殺されそうになると試合を止めようとしたりと、黒人に対して思いやるような態度を見せている。
しかし、それは決して黒人に対する差別意識が無いということではない。
あくまでも「奴隷に対して優しく接している」というだけであり、それはペットや家畜に対して優しく接するのと変わらない。
同じ人間として扱っているわけではないので、何かのきっかけで怒りの感情が芽生えると、それは行動に表れる。終盤、ブランチが混血児を出産したことで、ハモンドはプッツンしてしまう。
まず、その赤ん坊を即座に抹殺する。「産まれた子供に罪は無い」などという綺麗事は、ハモンドには通用しない。
続いてブランチも毒殺したハモンドはミードを殺しに行き、庇おうとしたエレンを「ベッドの相手だからって自分が黒人なのを忘れるな」と罵る。
エレンは愛されていると思っていたが、ハモンドは彼女を人間として愛していたわけではない。ペットとして可愛がっていただけであり、ブランチのことで苛立っていた感情を和らげる道具、あるいは現実から逃避するための道具として利用していただけだ。
そこには確固たる差別意識がある。そしてハモンドはミードに対し、大きな窯に湯を沸かすよう命じる。湯が沸騰すると、そこに入るようミードに命じる。
つまり自ら熱湯で釜茹でになって死ねという命令だ。
ミードが事情を釈明しようとしても、ハモンドは聞く耳など貸さない。黒人の弁明など、白人が聞く必要は無いのだ。
ハモンドはミードから尊敬され、信頼される存在だったが、それはミードの一方的な思い込みだ。
彼の言う通り、ハモンドもただの白人なのだ。
ハモンドはミードを撃ち、窯に落ちた彼を鍬で何度も突き刺して殺害する。そのように、かなり痛々しいというか、エグいというか、そんな黒人差別の様子が、これでもかと描かれている。
そういう説明だけを聞くと、「残酷な奴隷制度の真実を克明に描くことで、その問題点を指摘し、未だに根強く残る黒人差別に対して問題提起しようとする社会派映画」という印象を抱くかもしれない。
だが、それは大きな間違いである。
この映画を見ても、社会派映画という印象は微塵も受けない。そこから発信される硬派なメッセージなんて、何も感じ取ることは出来ない。この作品をジャンル分けするならば、それはもう間違いなくエクスプロイテーション映画である。
「奴隷制度の裏側見せます」という見世物感覚に満ち溢れた、スキャンダラスな内容で観客を呼び込もうとする商業主義にまみれた、そんな映画である。
そんなことは全く信じられないという人もいるかもしれないが、しかし本作品の真実は、そこにあるのだ。
何しろ、あのディノ・デ・ラウレンティスがプロデューサーなんだから、それを考えれば「ああ、なるほど」と納得できるんじゃないかと。
実際、そういう見世物的な黒人迫害の描写を除外して、ドラマとしての中身だけを抽出すると、かなり陳腐で安っぽい。つまり、この映画の鑑賞方法は、「白人が黒人を虐げる様子を見世物として楽しむ」というのが適切ということになる。
しかし、それは倫理的にどうなのかという疑問が沸いてしまう(特にアメリカ人なら、それはデリケートにならざるを得ない問題だろう)。
見世物映画としても素直に楽しむことが出来ないってことになると、そりゃあ駄作扱いになるのも止むを得ないのではないかと。
っていうか、これを単純に見世物映画として楽しむことが出来る人は、ちょっとヤバいと思うし。ここに描かれている黒人の扱いが真実なのかどうか、私はアメリカの奴隷制度に詳しいわけではないので、本当のところは分からない。
ただ、アメリカで公開された時に酷評を浴びたものの、「事実とは異なる」という反論ではなかったらしいから、そんなに大きく異なることは無いんだろう。
ただ、それが真実だったとしても、何でもかんでも有りのままを全てストレートに描けばいいってもんじゃないことを、この映画は教えてくれる。
少なくとも、それだけで面白い映画が出来上がるわけではないってことだ。(観賞日:2013年12月11日)