『マン・オブ・スティール』:2013、アメリカ&カナダ&イギリス

クリプトン星に住む科学者のジョー=エルは、採掘地殻の崩壊が始まっていることに気付いた。彼は元老院の評議員たちと面会し、「採掘は自殺行為だと言ったはずだ。この星は間もなく消滅する」と告げた。評議員の1人が「埋蔵エネルギーを使い果たしたのだ。他にどうすればいいというのか」と反論すると、ジョーは「祖先たちのように、宇宙に目を向ければ良かった。かつての入植地など、居住に適した星があるはずだ」と主張する。
別の評議員が「全員でクリプトンから脱出すべきだというのですか」と言うと、ジョーは「いや、もはや我々は助からない。コデックスを渡してくれ。子孫だけは守り抜こう」と告げる。その時、ゾッド将軍と部下のファオラ=ウルたちが武装して議会に押し入った。ゾッドは「元老院は解散する」と告げ、議長を射殺した。ジョーが「正気か」と詰め寄ると、ゾッドは「こいつらが無駄に話し合っている間にクリプトンは衰退していった」と告げる。
ゾッドから「手を貸せ。共に子孫を救おう」と持ち掛けられたジョーは、「お前は、もう友ではない。ただの怪物だ」と拒否した。ジョーは連行される途中で護衛を倒し、通信機を使って妻であるララに発射の準備を指示した。ジョーはコデックスを盗み出し、ララの元へ戻る。ララは目的地を地球に定めていたが、生後間もない息子のカル=エルを送り出すことに迷いを見せる。ジョーはララを説得し、息子を小型宇宙船に入れた。
ゾッドが部下を連れて乗り込み、コデックスを渡すようジョーに要求した。ジョーが「これは全てのクリプトン人のためだ。男児を儲けた。数世紀ぶりの自然出産だ」と言うと、ゾッドは「異端者め」と激昂した。ジョーがゾッド一味と戦っている間に、ララは小型宇宙船を発射した。ゾッドはジョーを剣で突き刺し、船を撃ち落とすよう部下に命じた。しかし元老院の船が到着し、ゾッド一味を捕まえた。元老院はゾッド一味に対し、殺人と反乱の罪で300サイクル間の追放刑に処すと決定した。処刑しない元老院を口汚く罵ったゾッドは、手下と共にファントムゾーンへ隔離された。その直後に大規模な爆発が起き、クリプトン星は消滅した。
時は過ぎ、地球。荒波の中、新入り船員のクラーク・ケントは漁船で作業をしていた。近くの海底油田からSOSが届いたため、漁船は作業を中止して救助に向かう。船が現場に到着すると、海底油田は炎上していた。いつの間にか船から姿を消したクラークは炎の中に突入し、閉じ込められている作業員たちを救い出した。クラークは倒れて来た掘削機を支え、全ての作業員を救助ヘリで脱出させた。爆発と共に海へ落下したクラークは、少年時代のことを回想した。
小学生の頃、クラークは周囲の物が全て透けて見えたり、人の心が読めたりすることに怯えた。彼は学校でパニックに陥り、用具室に立て籠もった。教師がドアを開けようとすると、クラークは特殊能力でドアノブの温度を熱くした。母のマーサが呼び出され、クラークに出て来るよう促した。「世界は大きすぎるよ」とクラークが漏らすと、母は「だったら小さくすればいい」と告げた。マーサに諭されて用具室から出て来たクラークは、「僕、どこかおかしいの?」と問い掛けた。
海から上がったクラークはスクールバスを目撃し、また過去を回想する。ある時、クラークの乗っていたスクールバスが川に転落する事故を起こした。クラークは怪力でバスを岸まで運び、いじめっ子のピートを救助した。ピートの母はケント家を訪れ、「息子が見たのよ。あれは神の御業よ」とクラークの行動について語る。マーサと夫のジョナサンは否定するが、ピートの母は「だけどラナも見てる。それにクラークがこんなことをしたのは初めてじゃない」と言う。
クラークと2人になったジョナサンは、「助けたかったんだ」という息子に「それは分かるが、前にも話したはずだ。お前の秘密は誰にも知られちゃダメだって」「見殺しにすれば良かったの?」とクラークが言うと、ジョナサンは「ウチだけじゃなく、周囲の人にも危険が及ぶ。世間にお前の力が知られたら大変なことになる」と説いた。「これは神様のせいなの?」とクラークが尋ねると、ジョナサンは納屋の地下室に案内した。そこには小型宇宙船が保管されていたが、それが何なのか、ジョナサンは知らなかった。
ジョナサンは「お前はこれに乗っていた。これが一緒に入っていた」と告げ、宇宙船のコマンドキーを見せた。彼はクラークに、「大学で調べてもらったが、見たことも無い物質だと言われた。この世界の物ではないってことだ。お前もな。お前は地球外に生命がいるかどうかの答えだ」と話す。さらに彼は、「お前はただの人間じゃない。理由があってここに来た。経験していることに、いつか感謝する日が来るかもしれない。その時が来たら、自分の正体を明かすべきかどうか決めるんだ。お前は俺の子だが、宇宙のどこかに別の父親がいて、理由があってお前をここに送った。それを突き止めるのが、お前の使命だ」と語った。
デイリープラネット新聞の記者をしているロイス・レインは北極に降り立ち、北極航空のジェド・ユーバンクスと合流した。ロイスは米軍基地へ赴き、ハーディー大佐と国防研究局のハミルトン博士に面会した。取材中止命令が法廷で却下されたため、ハーディーたちはロイスの取材を受けざるを得なくなっていた。ハーディーたちはロイスに、氷の下に全長300メートルの物体が埋まっていること、周囲の氷が2万年前の物であることを明かした。
その夜、ロイスは氷山へ向かうクラークの姿に気付き、後を追った。クラークは宇宙船を発見し、装置にコマンドキーを差し込んで中に入る。宇宙船に近付いて写真を撮ったロイスは、警備ロボットの攻撃で深手を負った。悲鳴を耳にしたクラークは警備ロボットを破壊し、特殊能力でロイスの傷を手当てした。ハーディーやハミルトンたちは、氷に埋まっていた巨大宇宙船が出現するのを目撃した。帰国したロイスは記事を書くが、編集長のペリー・ホワイトから「宇宙人が実在するなんて記事は掲載できない」と却下された。そこで彼女は知人のグレン・ウッドバーンが運営しているサイトを使い、その記事を流出させることにした。
クラークはロイスを救った後、宇宙船に留まっていた。彼の前にジョーの残像が現れ、自分やクラークの本名、クリプトン星のことを語る。ジョーはクラークに、かつてクリプトン人が新たな植民地を探し求めていたこと、これが探査船の1つであること、適当な星が見つかるとテラフォーミングを行ったことを語る。「人口のコントロールが可能になり、植民地を増やす必要は無くなった。しかし天然資源が枯渇し、地殻が不安定になった。やがてゾッド将軍がクーデターを起こしたが時既に遅く、破滅を予感した私と妻は、お前だけは救うべく手を打ったのだ」とジョーは説明した。
ジョーは「お前は我々の息子だが、地球人の子供でもある。地球人は我々とは違うが、だから我々と同じ過ちを犯さずに済む。お前が導き、希望を与えればな。誰にも善の力が宿っているという信念を彼らに伝えるのだ」と説き、クラークに「S」のいうエル家の紋章が入ったコスチュームとマントを託した。「自分の限界を確かめてみろ」とジョーに言われたクラークはコスチュームに着替え、空へと飛び立った。最初は力を制御できなかったが、すぐに上手く飛べるようになった。
ロイスはクラークについて調査し、マーサの元へ辿り着く。彼女がジョナサンの墓前にいると、クラークが現れた。記事に書かれたくないことをクラークが告げると、ロイスは「いずれは知られるわ」と言う。「そしたら、また消えるさ」とクラークが口にすると、「完全に消えるには人助けをやめることだけど、それは出来ないんじゃないの?」とロイスは問い掛ける。クラークは「父に言われたんだ、正体を明かさない方がいいって」と述べた。
かつて竜巻が迫った時、クラークはジョナサンを救おうとした。しかし近くに複数の人々がいる中、ジョナサンは身振りで「来るな」と制した。ジョナサンは竜巻に飲み込まれ、命を落とした。そのことをロイスに話したクラークは、「まだ正体を明かすには早いという言葉を信じて、父を殺してしまった。僕のせいだ」と口にした。ロイスはペリーから、ネットに記事を流したことを責められた。「取材は中止しました。裏取りの失敗をしたんです」と言うロイスに、ペリーは3週間の停職処分を下した。ペリーは裏取りの失敗を信じておらず、「取材を終わらせたのは賢明だ。そんな奴が近くにいると知ったら、この星の人間がどんな反応をすると思う?」と告げた。
クラークはマーサの元へ戻り、「僕の両親や、どこから来たのかが分かったんだ」と嬉しそうに告げた。マーサはクラークに、「いつか世界中がお前を受け入れるわ。心配だったのは、お前がどこかに連れて行かれるんじゃないかと思って」と述べた。スワンウィック将軍はハミルトンから、宇宙船が地球に近付いていることを聞かされる。ハミルトンは月と同じ軌道内に入った宇宙船と交信を試みていたが、反応は無かった。
その夜、宇宙船が上空に出現し、テレビ局は臨時ニュースを放送する。宇宙船に乗っているゾッドはテレビをジャックし、「我が同朋が、この世界に1名潜んでいる。私たちに引き渡してほしい。カル=エルに告げる。24時間以内に降伏せよ。さもなくば、この世界に災いが及ぶだろう」と語り掛けた。翌日、グッドバーンはテレビに出演し、ロイスが宇宙人の情報を知っていると暴露した。FBIは逃げようとしたロイスを捕まえ、車で連行した。
クラークは教会を訪れ、「あの宇宙船は僕を捜しているんです」と神父に告白する。「僕が名乗り出たって、ゾッドが去るかどうかは分かりません。地球を救える可能性があるなら、行くべきですか。ゾッドは信用できない。だけど、地球人も信用できないんです」とクラークが話すと、神父は「まずは信じてみてはどうでしょう?信頼関係はそこから始まります」と述べた。クラークはコスチュームに着替えてスワンウィック将軍の元へ行き、「ロイスを解放するなら身柄を預ける」と告げる。
手錠を掛けられてロイスと面会したクラークは、「ゾッドではなく、人類に身を任せたんだ」と言う。彼はマジックミラーの向こうでハーディーやスワンウィックが観察していることを知っており、手錠を引き千切って「支配できないから怖いんだろう。諦めろ、僕には勝てない。だが、敵じゃない」と語る。スワンウィックが「君を引き渡すよう命じられてる」と言うと、クラークは「おとなしく従おう」と口にした。
軍が待機する中、ゾッドの宇宙船が着陸した。ゾッドの代理として宇宙船から出て来たファオラは、クラークだけでなくロイスも連れて行くと言う。ロイスが承諾すると、クラークは密かにコマンドキーを渡した。クラークは船内の空気が合わず、ゾッドの前で倒れ込んだ。クラークは夢の中で、ゾッドに「クリプトンでは、人々のDNAは生まれる前から雛型としてコデックスに記録されている。お前の父親はそれを盗み、お前と共にここへ送った。クリプトンを地球で復活させるためだ」と言われる。コデックスを渡すよう要求されたクラークは地球の破滅を感じ取り、「そんなことはさせない」と拒絶した。目を覚ましたクラークに、ゾッドは「お前の父親を殺したことを悔やんでいるが、何度でも同じことをする。私には同胞に対する責任がある」と告げた。
隔離されたロイスが装置にコマンドキーを差し込むと、ジョーの残像が出現した。ロイスが助けを求めると、ジョーは「これは私の船だ」と告げ、扉を開けて護衛を倒した。ジョーはロイスを脱出ポッドへ案内し、彼女を脱出させた。拘束を解いたクラークはジョーの前に現れ、「コデックスの話は本当なの?」と尋ねる。ジョーは「まず地球人について学ばせたかった。然るべき時に、お前が2つの種族の架け橋となるために。お前なら救える。彼女も地球も」と言い、脱出ポッドの存在を教えた。クラークは大気圏に突入して燃えている脱出ポッドを追い掛け、ロイスを助けた。
小型機で地球に降り立ったゾッドたちはケント家の納屋にある宇宙船を調べるが、そこにコデックスは無かった。マーサはゾッドから「どこに隠した?」と詰め寄られるが、「知らないわよ」と答える。そこにクラークが駆け付け、激昂してゾッドに襲い掛かった。地球の空気に順応できていないゾッドの様子に気付いたクラークは、「僕は両親から感覚を操る方法を教わった。どうだ、苦しいだろう」と勝ち誇ったように言い放つ。そこに小型機が駆け付けてゾッドを救出し、ファオラと部下がクラークと対峙する。軍は空挺部隊を出動させ、クラークやファオラたちに向かって砲撃する。しかしクラークたちは全くダメージを受けず、激しい戦いを開始する…。

監督はザック・スナイダー、スーパーマン創作はジェリー・シーゲル&ジョー・シャスター、原案はデヴィッド・S・ゴイヤー&クリストファー・ノーラン、脚本はデヴィッド・S・ゴイヤー、製作はチャールズ・ローヴェン&クリストファー・ノーラン&エマ・トーマス&デボラ・スナイダー、共同製作はウェズリー・コーラー、製作総指揮はトーマス・タル&ロイド・フィリップス&ジョン・ピーターズ、製作協力はカート・カネモト、撮影はアミール・モクリ、編集はデヴィッド・ブレナー、美術はアレックス・マクダウェル、衣装はジェームズ・アシェソン&マイケル・ウィルキンソン、視覚効果監修はジョン・“DJ”・デジャルダン、音楽はハンス・ジマー。
出演はヘンリー・カヴィル、エイミー・アダムス、ラッセル・クロウ、マイケル・シャノン、ケヴィン・コスナー、ダイアン・レイン、ローレンス・フィッシュバーン、アンチュ・トラウェ、アイェレット・ゾラー、クリストファー・メローニ、マイケル・ケリー、ハリー・レノックス、リチャード・シフ、ディラン・スプレイベリー、クーパー・ティンバーライン、リチャード・セトロン、マッケンジー・グレイ、ジュリアン・リッチングス、メアリー・ブラック、サマンサ・ジョー、レベッカ・ブラー、クリスティーナ・レン、デヴィッド・ルイス、ターモー・ペニケット、ダグ・エイブラハムズ、ブラッド・ケリー他。


DCコミックの人気キャラクター、スーパーマンを主人公とする映画。
『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』のクリストファー・ノーランが原案と製作、『ジャンパー』『ゴーストライダー2』のデヴィッド・S・ゴイヤーが原案と脚本、『ガフールの伝説』『エンジェル ウォーズ』のザック・スナイダーが監督を務めている。
クラークをヘンリー・カヴィル、ロイスをエイミー・アダムス、ジョーをラッセル・クロウ、ゾッドをマイケル・シャノン、ジョナサンをケヴィン・コスナー、マーサをダイアン・レイン、ペリーをローレンス・フィッシュバーン、ファオラをアンチュ・トラウェ、ララをアイェレット・ゾラー、ハーディーをクリストファー・メローニ、スワンウィックをハリー・レノックス、ハミルトンをリチャード・シフが演じている。

明朗快活にスーパーヒーローを活躍させた『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』や『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』が興行的に失敗し、主人公が自分の生き方に苦悩したサム・ライミ監督の『スパイダーマン2』やリアル志向で重厚なテーマを掲げたクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』は好評で大ヒットした。
貴方が新しいアメコミ映画を作ろうとしている映画人なら、どちらの路線を狙うだろうか。
もちろん、普通は『スパイダーマン2』や『ダークナイト』のような路線だろう。
それは映画人として真っ当で賢明な判断だ。

クリストファー・ノーランとデヴィッド・S・ゴイヤーは、『ダークナイト』を手掛けたコンビである。
その『ダークナイト』が大ヒットしてバカみたいに絶賛されたんだから、そりゃあ似たような路線でスーパーマンを復活させようとするのも当然っちゃあ当然だろう。
ただ、私なんぞは「スーパーマンよ、お前もか」と言いたくなってしまう。
スーパーマンまでもがダークナイトに近寄ってしまったら、人類は明るく健全なスーパーヒーローをどこに見れば良いのだろうか。

かなり陰気で重苦しいトーンが強くなっており、その時点で「スーパーマンよ、お前もか」と言いたくなる。
「コミックのスーパーマンも悩んでいた」「コミックでも最近は路線変更していた」と言われれば、そういうことなんだろう。「お前は単なる懐古趣味だ」と批判されたら、全面的に否定することは出来ない。
ただし、私は決してリチャード・ドナー版の『スーパーマン』が傑作だと思っているわけでは無い。
引っ掛かるのは、「スーパーマンがリアル志向の苦悩するスーパーヒーローに仲間入りしてしまったら、もはやスーパーマンとしてのアイデンティティーってどうなのよ」ということなのだ。

クリストファー・ノーランは『バットマン ビギンズ』を刑事ドラマのように描き、『ダークナイト』を犯罪映画として撮った。
彼は自分の描きたいテーマを具現化するために、アメコミ映画を利用する。
そこにはアメコミ映画に対する愛など微塵も無い。そしてアメコミ映画を作るセンスも無い。
そういう人間が、アメコミの中でも王道中の王道と言える『スーパーマン』を映画化した時に、コレジャナイ感に満ち溢れた仕上がりになるのは、仕方が無いことなのだろう。

ジョーは議長を射殺して評議員たちを捕まえたゾッドを「同胞に銃を向けた」と批判するが、どっちにしても、そのまま放置していれば全員が死ぬのだ。死ぬ時期が少し早まっただけのことだ。
しかも、クリプトンを滅亡に追い込んだのは愚かな元老院の連中であって、ゾッドの手口は乱暴だが、「クリプトンを救いたい」という気持ちはジョーと同じだ。
ジョーは「救う子孫をお前が決めるのか」と質問し、黙り込んだゾッドを非難しているけど、テメエも息子だけをコデックスと共に脱出させるんだよね。それはゾッドが独断で救う対象を選ぶのと、何がどう違うのか。
「息子だから助ける。ついでに、クリプトン星の未来であるコデックスまで乗せる」ってのは、完全にエゴでしかないでしょ。

元老院はゾッド一味を捕まえた後、処刑せずにファントムゾーンへ隔離する。
だけど、もう星が滅亡することは分かっているはずなのに、今さら収監するのはアホにしか思えない。実際、クリプトン星人が全滅して、ゾッド一味だけが生き延びる形になっちゃうし。
滅亡の危機を知りながら採掘を続けたのも相当にアホだけど、ゾッド一味を処刑せず収監する処置に関しては、そのレベルではない。
「ゾッド一味の反乱を制圧して隔離した後、星が滅亡する危機が判明」という流れにしておけば、そんなマヌケなことにならなかっただろうに。

クリプトン星が爆発した後、すっかり成長したクラークを最初に登場させて、そこから回想を何度か入れるという構成にしてある。
そうすることで「クラークが成長するまでの経緯を短めに処理することが出来る」という利点があるが、それを考慮しても、あまり上手い構成だとは感じない。
っていうか、クラークが北極へ行くまでに回想で描くのは小学校時代の2つのエピソードだけなので、「成長の過程を削り過ぎじゃないか」と思ってしまうし。
その2つしか描かないのなら、先に描写してから「そして時は過ぎ」という風に青年時代へワープしても、大して変わらないんじゃないかと。

クラークの特殊の能力を「忌まわしき力」として描写していることには、強い違和感を覚える。
「忌まわしき力と思っていたが、正義のために役立つ力だと感じるようになる」という心情変化のドラマを用意していて、そのために最初は忌まわしき力という解釈から始めているのだと捉えても、やはり腑に落ちないモノがある。
「そういう話をスーパーマンでやるかね」と思ってしまうのだ。
クリストファー・ノーランって、前述した『バットマン ビギンズ』や『ダークナイト』でもそうだったが、ようするに「そのアメコミのオーソドックスなパターンから外れた要素を持ち込むことで、独自の作家性を出したがる」というタイプの人なのかもね。

クラークが北極の宇宙船を発見し、ジョーの残像が出現した時に、彼がクリプトン星の歴史やクラークが地球へ送られた経緯について説明する。
でも、その説明の大半は、冒頭で描いた内容を繰り返しているだけなのよ。
だったら、いっそのことクラークが地球で暮らしている状態から物語を開始して、宇宙船で出現したジョーの残像が説明する時、補足のために過去の映像を出す形にすればいいんじゃないかと。
そうすれば、無駄な二度手間は省けるでしょ。

ジョーの残像はクラークに、「地球人は我々とは違うが、だから我々と同じ過ちを犯さずに済む。お前が導き、希望を与えればな。誰にも善の力が宿っているという信念を彼らに伝えるのだ」「地球の人々は、お前を憧れの存在として後を追うだろう。つまずき、転びながらも、いつか共に光に包まれることになる。その時、彼らを助け、共に奇跡を起こせ」と語る。
それだけでクラークが「正義のヒーロー」としての使命感に目覚めるってのは、かなり強引な部分もあるにはある。
でも「それがスーパーマンだから」ということで、個人的には受け入れられる。
それよりも問題なのは、「使命感に目覚めたように描いておきながら、実は目覚めちゃいない」ってことだ。

使命感に目覚めていないことを顕著に示すシーンとして、神父への告白がある。
ここでクラークは、「ゾッドは信用できないが、人類も信用できない」と口にしている。ジョーは人類を救うために行動しろと言っていたのに、クラークはそれを受け入れたわけではないのだ。
しかし、一応は回想シーンで「幼少時代にイジメを受けた」なんて様子も挿入されているものの、クラークを「人間不信だから、人類を救うために戦うのは承服しかねる」という形で持って行くには、そのための描写やクラークの心情表現が相当に不足している。
っていうか、ジョーの残像と話した後の様子を見る限り、「晴れやかな気持ちで実父の教えを受け入れた」という感じに見えたので、その後に「人類は信用できない」とか言いだされると、かなり違和感があるし。

クラークがジョーと会って「正義のヒーロー」としての使命感に目覚め、そこから「地球や人類を守るためにゾッド一味と戦う」という展開になるのかというと、そうではない。ゾッドが身柄の引き渡しを要求すると、クラークは名乗り出て連行されることを選択する。
「地球や人類を救うためには、それが最適な方法だ」という考えに基づいて行動しているのだし、無闇に戦わずに解決できるなら望ましいことだから、全面的に否定しちゃいけないんだろうけど、「ヌルいよ、死ぬほどヌルいよ」と言いたくなる。
戦いを回避することで、映画としては退屈極まりない展開に突入してしまうからだ。
そして、しばらくはダラダラとした時間が続く羽目になる。

イデオロギーに関する主張をさせるのなら、せめてクラークにはゾッドの「同胞を救うために」という思想と真っ向から論争させるべきだろう。やり方はともかく、「クリプトン人を救いたい」という彼の考えは全面的に否定されるべきものではないから、それに対して同じクリプトン人であるクラークがどのように感じるかってのは、大切なポイントじゃないかと思うのだ。
ところが、そこに関しては正面からの論戦を回避し、ホントの戦闘に突入する。
ジョーは「クリブトン人と人間の共存は可能だ」とゾッドに説いていたのに、クラークはゾッドが「この船を破壊すればクリプトン人は滅びる」と告げても「自ら招いた運命だ」と言い放つ。父親は「共存」を望んでいたのに、息子は大して苦悩や葛藤もせず、あっさりとクリプトン人を絶滅させることを選択しちゃうのだ。
いいのか、そんな形で。

ゾッドはクラークを宇宙船に連行した後、「私は軍の司令官、お前の父親はクリプトン随一の科学者。星が滅びるということ以外は意見が対立した。私はクリプトン星と文明を守るために兵を挙げたが、ファントムゾーンに送られた。だが、クリプトン星の崩壊で、再び自由の身となった。しかし我々は故郷の残骸の間を死ぬまでかいくぐる運命にあった」と語るが、それもジョーの残像が語るセリフと同様、ほぼ二度手間だ。クラークは知らなかっただろうけど、観客は知っている情報ばかりだ。
「クリプトン星の崩壊で、再び自由の身となった」というのも、いちいち説明されなくても分かることだ。
さらにゾッドは「どうやって地球に来た?」と問われ、「我々を幽閉していた船にハイパードライブを装着した。かつての植民地を巡って生存者を探したが、いずれも滅び去っていた。そういった場所から武器を集め、ワールドエンジンを手に入れた。そして33年待ち続けて、ついに救難信号を探知した。お前が古い探査船に接触した時、発信された物だ。お前が我々を呼んだのだ」と語る。
だけど、ゾッド一味が地球へ来た方法とか、そこまでの経緯なんて、どうでもいいでしょ。そんなことを説明するためにダラダラと時間を費やし、退屈で何の盛り上がりも無い状態を引き延ばして、何の得があるというのか。
クラークが見ている幻想の中で砂嵐を起こしたりしても、そんなモンで迫力や緊迫感が生じるわけじゃないぞ。

あと、ジョーの出番が多すぎるだろ。てっきり、北極でクラークにメッセージを伝えて役目は終わりかと思いきや、ロイスの前にも出現し、それどころか扉を開けたり敵を倒したりするんだぜ。
もはや「死者の残像」というレベルじゃないだろ。普通に生きているのと大して変わらないぞ。何のために冒頭で殺したのかと。
っていうか、それ以前の問題として、「ゾッドがロイスを宇宙船に連行した意味って?」と思っちゃう。連れて来ても隔離しているだけで、ホントに目的がサッパリ分からんのよ。そんで、ジョーの導きを受けて脱出するから、例えば「クラークを救うために奔走する」という使われ方をするわけでもないし。
それと、そこでもジョーの出番は終わりじゃなく、また終盤も登場するのよ。
ホント、でしゃばり過ぎだっての。

クラークは「それが地球や人類にベストの選択だ」と考え、戦いを回避して宇宙船へ連行されたはずだ。
ところが、ゾッドの話を聞いて脱出した後は、地球や人類のことなんて全く考えていないかのように大暴れする。マーサが脅されているのを見た彼は激昂してゾッドに殴り掛かり、まず手始めにガソリンスタンドと車を破壊して爆発を起こす。その後も、ゾッド一味と戦う中で場所を移動しながら、街を破壊しまくっている。
そこに「人類を救うため」「地球を守るため」という目的意識など全く無い。ただ単に、「目の前にいる敵を倒す」という意識だけで戦っている。
一応、墜落するヘリに乗っていた男やファオラに襲われそうになったハーディーを助けているので、「視線に入った対象は助ける」という程度の意識はあるらしい。しかし、クラークが助けた人数よりも、ファオラたちに殺された人数の方が圧倒的に多い。
ファオラはクラークに「お前が1人救う度に、我々が百万殺す」と言っている。実際、その後にファオラは色んなトコを攻撃するが、クラークは何も出来ずに傍観するだけだ。どうせ攻撃されてから助けに行っても、もう死んでるしね。

そりゃあ現実的に考えれば、クラークが一人だけで救うことの出来る人間なんて、たかが知れているだろう。全世界では同時に色んな事件が勃発しているわけで、その全員を救うことなんて絶対に不可能だ。
だけど、そういうトコをマジに指摘しちゃったら元も子も無いぜ。
そこは見て見ぬフリをするのが、アメコミ映画としての暗黙のルールじゃないかと。
そこをリアル路線でやろうとするのは、「いかにもノーラン&ゴイヤーらしい」とは言えるだろうけど、そんな「らしさ」なんて要らんわ。野良犬にでも食わせてしまえ。

ゾッドはコデックスがクラークの中に注入されていると知り、ワールドエンジンを放って地球をテラフォーミングしようと目論む。
まだコデックスを入手しない内からテラフォーミングを開始するのは、ちょっと行動として腑に落ちない。
だったら、コデックスのありかが判明する前からテラフォーミングを始めていても、大して変わらなかったんじゃないかと。
「コデックスがクラークの中に注入されていることが分かった」→「それなら地球をテラフォーミングしよう」という思考回路が、ちょっと良く分からんぞ。

テラフォーミングが開始された後、クラークはスワンウィックたちに「自分が乗って来た宇宙船とゾッドの船のファントムドライブを衝突させれば、ブラックホールが生まれて敵は吸い込まれる」と提案し、ワールドエンジンを止めるために行動する。
そこではハッキリとした形で「地球や人類を救うため」という行動意識が見える。だが、その間も街は破壊され、大勢の犠牲者が出ている。
で、ハーディーが自らを犠牲にしてワールドエンジンを破壊した直後、ロイスを助けたクラークがキスするので、「TPOを考えろよ」言いたくなる。
その後はゾッドと戦うけど、既に破壊されまくっているとは言え、平気で市街での戦闘を繰り広げて建物を壊しまくるので、「ホントに人類を守ろうという気があるのか」と思ってしまう。

今回の映画版では「ゾッドの目的はコデックスを手に入れることであり、そのコデックスはクラークの体内に注入されている」という設定にしているのだが、そのせいで問題が生じている。
それは、「クラークが地球を離れれば、とりあえず人類がゾッドに攻撃される事態は回避できる」ってことだ。
だって、そうでしょ。ゾッドの当面の目的は、人類滅亡や地球征服じゃなくて、コデックスの入手なんだから。つまり、地球や人類は、ザックリと言ってしまえば「クリプトン人の内輪揉めに巻き込まれただけ」ってことになってしまう。
ゾッドはコデックスを手に入れるだけじゃなくて、地球をテラフォーミングして植民地星に変えようと目論んでいるので、人類が無関係というわけではないよ。
ただ、「コデックスの奪い合い」という部分においては、完全に無関係だ。そして、ゾッドがテラフォーミングを始めようとするのは終盤に入ってからであり、それまでは「コデックス入手」だけを目的として掲げていた。だから、その時点でクラークが地球を離れて戦っていれば、ひとまず人類は巻き込まれずに済んだはずなのだ。

しかも、そもそも意図的ではないものの、信号を出してゾッド一味を地球へ導いたのはクラークだからね。
テメエで呼び寄せておいて、そいつらを倒してるんだから、完全にマッチポンプでしょ。
おまけに大勢の犠牲者が出ているし、戦いの中で地球を壊しまくっているし、すんげえ迷惑な異星人じゃねえか。
そんで、最後にクラークは新人特派員としてデイリー・プラネット社に入社して呑気な笑顔を見せるんだけど、「すんげえ大勢の人が死んでんねんで」と言いたくなるぞ。
テメエのせいで大勢が犠牲になったことに対する罪の意識なんて、まるで見せないんだよな。

それとさ、破壊の限りを尽くされてボロボロになった街だって、まだ復興されていないはずでしょうに。
だったらクラークは新聞社に入る前に、復興の手助けでもしろよ。ホント、ちっとも魅力的じゃねえわ、今回のクラーク・ケントって。
旧シリーズだとロイス・レインが身勝手で嫌な女だったけど、今回はクラークが不愉快な男だ。
ロイスに関しては、不快じゃないけど魅力的でもない。どうでもいいキャラになっている。
まあ、それはロイスに限らず、地球人キャラは総じて中身が薄いけど。

(観賞日:2014年12月27日)


2013年度 HIHOはくさいアワード:2位

 

*ポンコツ映画愛護協会