『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』:2007、アメリカ&カナダ

エドワード・マゴリアムがオーナーを務めるオモチャ屋の地下室には、ベリーニという男が暮らしていた。彼の仕事は子供たちのために本を作ることだ。その本には、ナポレオンにオモチャを作ったとか、リンカーンに石切り遊びで勝ったとか、今までマゴリアムがやったことが記されている。マゴリアムは天才と呼ばれていたらしいが、店の常連客であるエリック少年の母エリーは「変人」と呼んでいる。
オモチャ屋の店長を務める23歳のモリー・マホーニーは、毎朝必ずピアノに向かう。彼女はコンチェルトを作曲しようとしているのだが、いいメロディーが浮かばない。幼少時代には天才ピアニストと呼ばれていたモリーだが、大人になって自信を失った。ホリーは出勤し、店の2階に住んでいるマゴリアムを起こした。するとマゴリアムは、「113年間も店を経営して来たが、今まで一度も領収書を見たことが無かった。店の価値を知るために、会計士を雇うことにした」と告げた。
モリーが行き詰まっていることを相談すると、マゴリアムは彼女に木のキューブをプレゼントし、「思いがけない冒険には、思いがけない道具が必要だ」と述べた。開店時間を迎えると、大勢の子供たちがやって来た。子供たちは店内のオモチャで自由に遊び、マゴリアムも一緒になって楽しんだ。店内のオモチャは不思議な物ばかりで、人形が喋ったり歩き回ったりする。欲しい商品をリクエストされたモリーがビッグ・ブックを開くと、その商品が瞬時に出現する。マゴリアムの店は、彼の魔法で溢れているのだ。
会計士のヘンリーが店を訪れると、マゴリアムは簡単な質問をしただけで採用を決めた。彼は店の奥にある事務所にヘンリーを案内し、「帳簿を付けたことは一度も無いんだ」と話した。店の価値を算定しようと思った理由を尋ねられたマゴリアムは、「この世から私が消えるからだ」と答えた。エリックから壁の異変を教えられたマゴリアムは、「注意して見張る必要があるな」と口にした。
ヘンリーはマゴリアムに、魔法のドアノブを購入した30万ドルの領収書について質問した。するとマゴリアムは「私は200ドル以上の物は買わない」と言う。雇用記録にあるベリーニについて訊かれると、「彼は地下室で本を作ってる。産まれた場所だから、追い出すわけにもいかない」と述べた。過去の雇用記録に「惑星ヤーウェーの王」といった架空の存在が多く記されていることをヘンリーが指摘すると、彼は「架空ではない。その星も王様という役職も架空だが、架空ではないんだ」と語った。
ヘンリーはエジソンの借用証をモリーに見せ、意見を求めた。モリーが「サインがあるから、本物なのね」と言うので、ヘンリーは彼女が店の不思議を全て信じていることについて理由を尋ねた。するとモリーは「魔法のオモチャ屋だからよ」と答える。ヘンリーが「確かに風変わりな店だけど、ただの店だよ。魔法なんか無いんだ」と告げると、ホリーは「そうでしょうね、貴方には」と口にした。閉店後、マゴリアムは動きを見せる壁に向かい、「これから不安だろうが、100歳を超えているのに拗ねるなんて情けないぞ。明日からはモリーが面倒を見てくれる。機嫌を直して、私を笑顔で見送ってくれ」と諭した。
エリックはサマーキャンプを切り上げて戻って来たが、そのと引き換えにエリーとは「友達を作る」と約束していた。しかしエリックはオモチャ屋を訪れても、いつも1人で遊んでいた。そのことをエリーがたしなめると、エリックは「僕はみんなに嫌われてるから」と言う。エリーが「一緒に遊ぼうって誘った?」と訊くと、彼は「誘ってないけど、どうせ無駄だよ」と告げる。するとエリーは「1人でいいわ。知らない子を誘って、友達を作ってみなさい」と、穏やかな口調で促した。
次の日、オモチャ屋へ赴いたエリックは、スケッチブックに言葉を書き、事務所で仕事をしているヘンリーに見せて筆談した。エリックは「一緒に遊ばない?」と誘うが、仕事で多忙なヘンリーに断られてガッカリした。モリーは壁の異常に気づき、マゴリアムに報告した。マゴリアムは「説得したが、ダメだったか。店は私の出発が気に入らないらしい」と述べ、モリーに「君に店を譲る」と告げた。
モリーが困惑して「頂けません」と断ると、マゴリアムは「仕事を探していると言っていたじゃないか」と告げる。モリーは「それは作曲の仕事です。店の経営じゃありません。それに私には不思議な力なんて無い」と語る。「店を辞めてどうするんですか」と彼女が尋ねると、マゴリアムは「私は消える」と答えた。店のオモチャが変な動きを示し、子供たちに悪戯をしたり怖がらせりするようになった。そこでマゴリアムたちは子供たちを外へ避難させ、ひとまず閉店することにした。
マゴリアム、モリー、ヘンリー、エリックは会議を開き、店の反乱について話し合う。ただし、ヘンリーはオモチャたちが客を困らせていた事態を全く見ておらず、状況が把握できていない。マゴリアムは「子供らしい感覚を店に教え込んで来たが、そのせいで感情が爆発しやすくなってしまったようだ」とモリーたちに話す。モリーとヘンリーが些細なことで言い争いを始めると、それを仲裁したマゴリアムは「ヘンリーを呼んだのは、モリーへの遺産を計算してもらうためだ」と述べた。
モリーはマゴリアムの「私は消える」という言葉が隠居を意味するのではなく、天国への旅立ちを意味しているのだと知った。モリーが「病気なの?」と尋ねると、マゴリアムは「いや、違う」と答える。それでもモリーは、マゴリアムを強引に入院させた。ヘンリーがマゴリアムのことより医療保険の書類が無いことを心配するので、モリーは腹を立てた。担当医のダンはモリーに、マゴリアムの体を検査しても全く異常が無かったことを告げた。
マゴリアムはモリーから「どこも悪くないのに、なぜ消えるの?」と問われ、「時が来たからだ」と述べた。改めて店のことを頼まれたモリーは、「どうすればいいの?」と戸惑いを露わにする。マゴリアムは「木のキューブを渡しただろ。あれを誰かが信じたら、どうなると思う?」と彼女に告げた。モリーはダンから、「健康な人を入院させておくことは出来ません」と言われる。モリーが「あの人は明日、死のうと思ってるのよ」と訴えると、ダンは「だったら、何か生き甲斐を見つけてあげるといい」と口にした。
モリーは帰宅し、木のキューブに「解決方法があるなら、今すぐ教えて」と話し掛けた。しかし何の反応も無いので、彼女は「いいわ。自分でやる」と決意の表情で呟いた。翌朝、彼女がマゴリアムの荷物を取りに店へ行くと、ヘンリーが待っていた。ヘンリーは「自分が店番をするから、店を開けよう」と彼女に持ち掛ける。店番を買って出た理由を訊かれた彼は、「冷たい人間じゃないと証明したい。君が好きだし、だから力になりたいんだ」と述べた。
モリーは退院したマゴリアムを連れて街へ出ると、寝具店のベッドで一緒に飛び跳ねたり、公演に気泡緩衝材を敷いてダンスを促したりした。マゴリアムが「最高の最期の日だ」と言うので、彼女は悲しそうな表情になった。「生きてる方がいいと思ってもらいたかった」とモリーが告げると、マゴリアムは穏やかな笑みを浮かべて「最高の最期の日だよ」と述べた。一方、ヘンリーは店に陳列されている人形に話し掛けながら、商品をチェックしていた。そこへエリックが来て、「いいんだよ、ごっこ遊びをしても」と告げた。
マゴリアムは公衆電話から店に電話を掛け、エリックに「伝えたいことがある。友達を作ってほしい」と述べた。マゴリアムはヘンリーに代わってもらい、「最重要事項を伝える」と言うが、そこで通話時間が終了してしまった。店の営業時間が終わった後、エリックはヘンリーに「遊ぼう」と誘いを掛けるが、「ごめん、今から会社に戻らないと」と断られた。エリックが「いつもはモリーに家まで送ってもらうんだけど」と言うと、ヘンリーは「じゃあ、送って行こう」と述べた。
エリックがヘンリーから、いつも様々な帽子を被っていることについて質問される。エリックは帽子をコレクションしていることを話し、興味を示したヘンリーに「見に来る?」と告げた。彼の部屋に入ったヘンリーは、四方の壁を覆い尽くすほどの帽子の量に驚いた。2人はその帽子を使い、ごっこ遊びを始めた。そこへエリーが帰宅し、「何をしてるんですか」とヘンリーを責めるような口調で告げた。慌ててヘンリーは釈明し、逃げるように立ち去った。
マゴリアムとモリーは、夜のオモチャ店に戻って来た。モリーは「まだ行かないで。心の準備が出来てない」と涙を浮かべ、マゴリアムに抱き付いた。マゴリアムは優しい表情を浮かべ、シェークスピアの言葉を例えに出してから「私は人生の五幕を全て生き抜いた。私が行くことを喜んでくれとは言わない。君がページをめくってくれたら、それでいいんだ。誰かに私のことを尋ねられたら、面白おかしく話してやるといい。これは君に訪れたチャンスだ。掴みなさい」と語った…。

脚本&監督はザック・ヘルム、製作はリチャード・N・グラッドスタイン&ジェームズ・ガラヴェンテ、共同製作はバーバラ・A・ホール、製作協力はジム・ミラー、製作総指揮はジョー・ドレイク&ネイサン・カヘイン、撮影はロマン・オーシン、編集はサブリナ・プリスコ&スティーヴン・ワイズバーグ、美術はテレーズ・デプレス、衣装はクリストファー・ハーガドン、視覚効果デザイナーはケヴィン・トッド・ホーグ、音楽はアレクサンドル・デスプラ&アーロン・ジグマン。
出演はダスティン・ホフマン、ナタリー・ポートマン、ジェイソン・ベイトマン、ザック・ミルズ、テッド・ルジック、ジョナサン・ポッツ、レベッカ・ノーザン、マイク・リアルバ、マット・バラム、キール・サンチェス、デヴィッド・コリンズ、マーシア・ベネット、ポーラ・ブードロー、ディラン・オーザーズ、ダッシュ・グランディー、ダニエル・J・ゴードン、サマンサ・ハーヴェイ、クアンセティア・ハミルトン、デヴィッド・レンドール、マシュー・パート他。


『主人公は僕だった』の脚本で注目を集めたザック・ヘルムが、自身のシナリオで監督デビューを果たした作品。
マゴリアムをダスティン・ホフマン、モリーをナタリー・ポートマン、ヘンリーをジェイソン・ベイトマン、エリックをザック・ミルズ、ベリーニをテッド・ルジック、ダンをジョナサン・ポッツ、エリーをレベッカ・ノーザン、モリーの大学時代の旧友デイヴ・ウルフをマイク・リアルバ、店が反乱を起こした時に訪れていた歯科医をマット・バラムが演じている。

モリーはコンチェルトが書けなくて悩んでいる設定なのだが、その時点で違和感がある。
世の中には、作曲しないピアニストだって大勢いるはずだ。そういう人たちは、みんな「才能が無いピアニスト」ってことになるのか。そうじゃないはずだ。
例えばスタニスラフ・ブーニンは作曲家ではないが、天才ピアニストと称されている。天才ピアニストが全て、作曲の才能も持っているわけではない。
だから、モリーの苦悩が今一つ理解できない。

それと、モリーは幼少の頃から天才と呼ばれてきたピアニストであり、少なくとも演奏能力は際立っているはずなのに、なぜ音楽とは何の関係も無いオモチャ店で働いているのか。
ピアノや音楽関係の仕事に就こうと思えば、そう難しくないはず。
「あえて音楽から遠い職場を選んだ」ということなのかもしれないが、そこで働いている理由に言及されていないので、まるで分からない。
しかも、そこでの仕事は楽しそうにやっているから、ちっとも悩んでいる風には見えないし。

これが例えば、「コンチェルトが書けずに悩んでいるモリーが街を歩いていたら、帽子が引っ掛かって困っているエリックと出会い、彼の導きでオモチャ店に足を踏み入れ、マゴリアムと対面し、成り行きで働くようになる」という流れだったりすれば、かなり分かりやすい。
で、「魔法に彩られているオモチャ店で不思議なことが幾つも起きて、モリーはビックリする」ということにでもすればいい。
ベタかもしれないが、変に捻ろうとして本作品みたいになるぐらいなら、そこはベタでもいいんじゃないか。

エリックのナレーションで物語は始まり、まずは地下室でベリーニが本を書いていることが説明される。続いてモリーの説明に移り、次にエリックが画面に登場する。モリーがオモチャ店へ出勤し、そこで初めてマゴリアムが姿を見せる。
この導入部の段階で、既に「なんかゴチャついてるなあ」と感じる。
ベリーニなんて、まるで要らない人でしょ。それなのに、なんで一番最初に説明されるのが彼なのかと。
最後まで、彼の存在意義は全く分からなかったぞ。

それと、エリックを語り手にするのであれば、彼とマゴリアムの関係を軸にすべきではないか。しかし実際には、それよりもモリーとマゴリアムの関係の方が重視されている。
エリックがナレーションを担当しているのだが、それにふさわしいと思えるほど、彼の扱いは大きくない。エリックの視点から、モリーやヘンリーとマゴリアムの関係が描かれているわけでもないし。
あと、モリー、ヘンリー、エリックと、語り手になってもいいようなキャラが3人もいて、そこの捌きも上手くいっておらず、ゴチャッとしている。
マゴリアムを狂言回しにして3人を描こうという狙いがあったのかもしれないが、だとしても失敗している。

オモチャ店で起きる不思議な現象を、モリーとエリックは最初から受け入れているし、店に来る常連の子供たちも同様だ。ヘンリーは魔法を信じていないが、しかし店で起きる不思議な現象を全く見ていない。
だから、店で起きる不思議な現象に驚きを示す役回りは、途中で登場するチョイ役の子供が担当している。
それは違うんじゃないか。やはり主要キャラの誰かに、その役を振るべきだろう。
モリーとエリックが既に内部の人間である以上、適任者はヘンリーしかいない。だから、店で不思議なことが起きても全く見ていないというのは、役目を放棄させているとしか思えない。
これが「別に主要キャラがいて、そいつは不思議な現象を見て驚くが、それを知らされたヘンリーは見ていないので信じない」という役割分担をさせているならともかく、そうじゃないんだから。

っていうか、ホントは「魔法に驚く」という役回りは、モリーに担当させるべきだと思うんだけどね。
前述したように、「悩んでいる時にエリックと出会い、店に入る」という流れでオモチャ店やマゴリアムと関わるようになるキャラクターにした方がいいとは思うけどね。
モリーは内部の人間として魔法のオモチャ店に馴染んでいて、そこへ部外者のヘンリーがやって来るという形にするのであれば、モリーが個人的な悩みを抱えているという設定は邪魔になる。
モリー、ヘンリー、エリックの3人にそれぞれのドラマを用意したのは、明らかに欲張り過ぎで、まるで処理できていない。

主要キャラの中では唯一の部外者がヘンリーだから、彼を主役に据えて、モリーとエリックは「ヘンリーが出会うマゴリアムの風変わりな仲間たち」ってことにしてしまった方がいい。
そういうポジションに配置したとしても、ヘンリーがモリーに惹かれる話は描写できるし(っていうか、そこの恋愛劇って薄っぺらいし、ホントは要らないけど)。
あるいは、繰り返しになるが、モリーを部外者のポジションに据えて、「マゴリアムと知り合い、次第にオモチャ店に順応していく」という話にするのがベターじゃないかなと。

終盤、モリーは退院したマゴリアムと共に店へ戻り、彼と会話を交わす。マゴリアムに行かないでほしいと懇願するモリーだが、「君に訪れたチャンスだ。掴みなさい」などと言われ、最後は泣きながらも笑顔で別れを告げる。
そういう別れのシーンになっているので、「モリーはマゴリアムと話して彼の死を受け入れ、納得して店を引き継ぐことを決意した」ということなのかと思っていたら、マゴリアムが死んだ後、「私には無理」と言い出し、店を売りに出してしまう。
なんじゃ、そりゃ。
そこはマゴリアムが死ぬ前にモリーが「頑張って店を引き継ごう」という決意を固め、「マゴリアムは安心して天国へ旅立ちました」という流れになるべきじゃないのか。
なんでマゴリアムが旅立った後、「自信の無いモリーが店を売りに出したので、エリックが阻止しようと動く」という展開になっちゃうんだよ。そうなると、マゴリアムの死がストーリー展開の上で無駄死みたいになっちゃうでしょ。

それと、モリーって最初に「幼少時代は天才ピアニストと呼ばれていたが、コンチェルトが書けなくて悩んでいる」という設定が示されていたのに、その部分って、完全に捨てられてるよな。
序盤は少しだけ触れているけど、途中から彼女がコンチェルトを書こうとしていることなんて、まるで物語に無関係な要素になってしまう。
最後も「店を引き継ぐことにしました」ってなってるけど、ピアニストとしての未来は、どうでも良くなったのか。
「いいコンチェルトが思い浮かんだけど、やっぱり店を引き継ぐことを選択する」とか、そういう形で使われることも無いし。

モリーはエリックの相談を受けたヘンリーから「店を売るべきじゃない」と言われるが、考えは変わらない。
で、木のキューブについて「魔法がある人が使えば、助けてくれるはず」とモリーが説明し、「ただのキューブ」だとヘンリーが言い、モリーが「違うわ、魔法のキューブよ」と反発すると、そのキューブが動き出し、そして店を飛び回る。
でも、そのキューブって、それだけなんだよね。
「それがきっかけで、モリーは店を続けることを決める」とか、そういうきっかけとしては機能していない。

もっと重要なアイテムなのかと思っていたんだけど、キューブが飛び回っても、まだモリーは店を売却する考えを変えないんだよね。
だったら、そのキューブが飛んだことの意味が弱くなっちゃうでしょ。
「キューブが飛ぶのを見たヘンリーが翌朝になって再び説得する」→「モリーにきらめきを感じる」→「モリーが手を動かすとオモチャたちが元気に動き出す」→「魔法が使えるようになったのでモリーが喜ぶ」という手順を踏まなきゃいけないってのは、かなり不格好な構成じゃないかと。

(観賞日:2013年9月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会