『マジック・マイク XXL』:2015、アメリカ
3年前にストリッパーを辞めたマイクは、念願だった注文家具の店を営んでいた。しかし商売は全く軌道に乗らず、サルヴァドールという従業員と2人で仕事をしても一向に儲けが出なかった。マイクは保険料も支払えず、辛い日々が続いていた。それだけでなく、彼は恋人のブルックとも別れていた。そんなある日、ターザンから電話があり、「悪い知らせだ。ダラスが旅立った」というメッセージが留守電に録音されていた。マイクは喪服に身を包み、指示されたモーテルへ赴いた。しかし通夜は行われておらず、ターザンはケン、リッチー、ティトらと共に大勢の女を呼んでプール・パーティーを開いていた。
困惑するマイクに、ケンたちはダラスがアダムだけを連れて新しいショーを始めるためマカオへ旅立ったことを説明した。「マイアミへ移ったのに、タンパで何してるんだ?」とマイクが訊くと、彼らはトバイアスをMCに起用して翌日のストリッパー大会に参加するのだと話す。店へ戻ったマイクは、昔の踊りをやってみた。翌朝、彼はケンたちの元へ行き、「今を楽しもうと思ったんだ」と同行を申し入れる。仲間は彼を歓迎し、トバイアスが友人から譲り受けたキッチンカーで出発した。
マイクがスマホばかり見ているので、リッチーは取り上げて車から投げ捨てた。マイクが抗議すると、リッチーは「大会では昔のお前を見せろ。それが駄目なら、今すぐ降りろ」と告げた。一行はジャクソンヴィルでカクテル・ラウンジに立ち寄り、ドラッグ・クィーンのトリー・スナッチが司会を務めるショーを見物した。ヴォーグのダンス大会が始まると、マイクはリッチーに勝負を持ち掛けた。2人だけでなくケンたちも参加し、会場は大いに盛り上がった。
マイクたちはラウンジで出会ったメーガンたちを伴って夜のビーチへ行き、酒を飲んで会話を交わす。ティトはモールのかき氷店で働き、リッチーは野球場のグラウンド整備で生計を立てていた。リッチーはコンドームとミントを1パックにした新商品を売り出す計画を明かすが、仲間から既に存在することを知らされた。マイクはケンの何気ない言葉を自分への攻撃だと受け取り、「恨んでるんだろ。俺を一発殴れ。それでチャラだ」と告げた。ケンはマイクの挑発を受けて仕方なく腹を殴るが、「最低の気分だ」と口にした。
マイクは仲間と離れて立ち小便に行き、ゾーイという女性と出会った。ドラッグ・クィーンが好きだと話すゾーイに、彼はマートルビーチのストリップ大会へ行くことを語った。ゾーイは車で旅暮らしをしており、ニューヨークへ向かう途中だった。マイクは彼女から向かいの島へボートで行かないかと誘われるが、断って仲間の元へ戻った。翌朝、マイクたちが出発すると、リッチーは大会の演目について説明する。マイクは得意の「ポニー」を指示されるが、「これが最後なら、新しい演目で派手にやらないか」と提案した。
大会まで2日しか無いことからケンたちは難色を示すが、マイクは説得を試みる。リッチーが「俺はお前と違って即興で踊るタイプだ」と悩むと、マイクは「自分を信じて心から表現しろ」と促す。彼は仏頂面をしているコンビニの女性店員を指差し、「彼女を笑顔にしてみろ。駄目なら昔の演目をやろう」と告げた。コンビニに入ったリッチーは、音楽に合わせてダンスを披露した。「チートスと水で幾ら?」と彼が言うと、女性店員は笑った。
キッチンカーに戻ったリッチーは、新しい演目を了承した。全員が1つにまとまるが、トバイアスが運転を誤って事故を起こしてしまう。車は修理に出され、怪我を負ったトバイアスは2日間の入院を余儀なくされた。リッチーが「旅は終わりだ」と苛立って吐き捨てると、マイクは仕事が上手く行っていないこと、ブルックに求婚して断られたことを打ち明けた。彼が「俺が旅に参加したのは、前に進むためだ。ここで終わらせるわけにはいかない」と語ると、リッチーはやる気を取り戻した。
リッチーが新しいMCを見つける必要性を口にすると、マイクは「心当たりがある」と述べた。彼は以前に働いていたストリップ・クラブへ行き、経営者のローマに会った。ローマは店を会員制に変更し、ストリッパーのマリクやアウグストゥスに女性客の相手をさせていた。店には歌手でラッパーのアンドレもいて、キャロラインという客に向けて歌った。8年ぶりに店を訪れたマイクは、ストリップ大会へ行く途中で会いたくなったとローマに告げる。ローマは頼み事があると見抜くが、マイクは「頼み事なんて無い」と嘘をつく。ローマに促され、彼は客にストリップを披露した。
マイクが「もう行くよ。旅を続けないと」と言うと、ローマは運転手としてアンドレを同行させた。歌手志望のアンドレは、役者志望のケンと意気投合した。一行はティトがジャクソンヴィルで仲良くなったメーガンの家に泊めてもらうため、メールで聞いた住所へ向かった。するとメーガンは友人たちと外出中で、彼女の母であるナンシーが出迎えた。ナンシーは友人のメイ、ジュリア、ダイアン、ジェシカと酒を飲んでおり、マイクたちを誘った。
マイクたちはナンシーに職業を問われて嘘をつくが、そこへメーガンが戻って来て「全員がストリッパーよ」と暴露した。ゾーイも一緒だったのでマイクが「NYへ行く予定は?」と尋ねると、彼女は「予定変更よ」と答えた。夫人たちは暴露話を始め、ナンシーは「関係を持ったのは夫だけ」と告白する。彼女はメーガンに、「私は夫のために人生を無駄にした。同じ失敗をしないで。理想の相手と出会って最高のセックスが出来るまで、外で遊び続けるのよ」と告げた。
メイが「明るい場所でセックスしたことが無い。いつも夫が明かりを消すの。私に魅力が無いのね」と話すと、ケンは「君を大切に愛する男は大勢いる」と告げる。ケンはメイの思い出の曲を歌い、彼女と抱き合って踊った。マイクは台所へ1人で行ってケーキを食べているゾーイに気付き、「どうした?暗いぞ」と声を掛ける。ゾーイはマイアミで既婚者のカメラマンと出会ったこと、助手にしてもらって深い関係になったことを打ち明ける。マイクが「落ち込んだ時は友達とバカ騒ぎすると気分が晴れることもある」とストリップ大会へ来ることを持ち掛けると、ゾーイは笑顔で「考えておくわ」と告げた…。監督はグレゴリー・ジェイコブズ、脚本はリード・カロリン、製作はニック・ウェクスラー&グレゴリー・ジェイコブズ&チャニング・テイタム&リード・カロリン、製作総指揮はスティーヴン・ソダーバーグ、共同製作はジュリー・M・アンダーソン、製作協力はエレイン・モンジェオン、撮影はピーター・アンドリュース(スティーヴン・ソダーバーグ)、美術はハワード・カミングス、編集はメアリー・アン・バーナード(スティーヴン・ソダーバーグ)、衣装はクリストファー・ピーターソン、振付はアリソン・フォーク、音楽監修はシーズン・ケント。
出演はチャニング・テイタム、マット・ボマー、ジョー・マンガニエロ、ケヴィン・ナッシュ、アダム・ロドリゲス、ガブリエル・イグレシアス、ジェイダ・ピンケット=スミス、アンディー・マクダウェル、エリザベス・バンクス、アンバー・ハード、ドナルド・グローヴァー、スティーヴン・“トゥイッチ”・ボス、マイケル・ストラハン、ジェーン・マクニール、ローダ・グリフィス、アン・ハミルトン、メアリー・クラフト、キャリー・アン・ハント、クリスタル・ハント、レーデン・グリア、ヴィッキー・フォックス、フアン・ピエドライタ、リンゼイ・モーザー、キンバリー・ドラモンド、アリソン・フォーク他。
チャニング・テイタムの実体験をモチーフにした2012年の映画『マジック・マイク』の続編。
脚本は前作に引き続いてリード・カロリンが担当。
前作で監督を務めたスティーヴン・ソダーバーグは、今回は製作総指揮と撮影と編集を担当。代わって監督を務めるのは、前作のプロデューサーだった『クリミナル』『デス・ロード 染血』のグレゴリー・ジェイコブズ。
マイク役のチャニング・テイタム、ケン役のマット・ボマー、リッチー役のジョー・マンガニエロ、ターザン役のケヴィン・ナッシュ、ティト役のアダム・ロドリゲス、トバイアス役のガブリエル・イグレシアスは、前作からの続投。
他に、ロームをジェイダ・ピンケット=スミス、ナンシーをアンディー・マクダウェル、ストリップ大会主催者のパリスをエリザベス・バンクス、ゾーイをアンバー・ハード、アンドレをドナルド・グローヴァー、マリクをスティーヴン・“トゥイッチ”・ボス、オーガスタスをマイケル・ストラハンが演じている。脚前作ではナンバー1ストリッパーのマイクが引退を決める一方、新人のアダムが新たなナンバー1に登り詰める様子が描かれていた。
それを考えれば、この2作目でチャニング・テイタムの次に続投すべき役者はアダム役のアレックス・ペティファーだろう。
しかし彼は前作でチャニング・テイタムの怒りを買ったため、続投は有り得なかった。
アダムが今回の話にも登場していたら、たぶん映画のテイストは随分と変わっていたんじゃないかと思う。もう1人、前作のキャストで重要な人物がいる。それはクラブのオーナーであるダラスだ。
だから彼を演じたマシュー・マコノヒーも、当然のことながら続投すべきだ。そしてマシュー・マコノヒーの場合、チャニング・テイタムと険悪な関係になったわけではないし、本人は続投する意欲を持っていた。
しかし『ダラス・バイヤーズクラブ』でオスカーを獲得したことでギャラが跳ね上がってしまい、それを支払えないという事情で続投の話は消えてしまった。
これはアダムが登場しないことよりも遥かに大きなダメージだ。
ストリッパー仲間が誰も再登場しなかったとしても、ダラスだけがいれば充分にリカバリーできるぐらいのキャラなのよね。アダムを登場させられないことに関連して、彼の姉であるブルックも「プロポーズを断った」という設定で排除されている。
だけど、前作では彼女に背中を押される形でマイクがストリッパーを辞め、以前からの夢だった家具職人になることを選んだわけで。それなのに、その仕事が上手く行かないからってプロポーズを断ってマイクの元を去るって、どんだけ冷淡な女なのかってことになっちゃうぞ。
それは前作を台無しにしちゃってるだろ。
「ブルックを登場させなければ新しい恋愛劇を持ち込める」という計算があったのかもしれないけど、それはダメなやり方だわ。前作のマイクは「生活を改める」と決意し、ストリップの世界から去って家具職人になることを選んだ。それなのに今回のマイクは、最初からストリッパーに未練たらたらといった感じだ。
なので、前作を全否定するような状態になっている。
そりゃあ、前作はストリッパーという職業を全否定するようなエンディングだったので、そこには全く賛同できなかったよ。
ただ、だからって前作を否定する続編を作ってしまうのは、それも違うんじゃないかと。それは「今更」だし、下手な言い訳みたいになっちゃうし。それに、マイクは本気でストリッパーの素晴らしさに気付いたとか、その道を捨てた自分が間違っていたと感じたとか、そういうことではないのよ。
単に今の仕事が上手く行かないから、「昔は良かったね」ってことで仲間の元へ戻っただけだ。
「前に進むため」と言っているけど、実際は後ろを見ているだけだ。
前作のマイクは明確な将来のビジョンなど無く「オッサンのストリッパーになるのは嫌」ってことで辞めているようにしか見えなかったわけだが、今回も決断も似たような薄っぺらさを感じる。マイクが戻って来たのにスマホに夢中なのでリッチーがスマホを捨て、そこで対立が起きる。
マイクはケンが恨んでいると感じ、殴らせてチャラにしようとする。マイクは新しい演目を提案し、それまで仕切っていたリッチーが反発する。
そのように色々な対立や反目が用意されているが、あっという間に問題は解決する。修復に至るドラマなんて、皆無に等しい。
新しい演目に関する対立も、ヌルくてユルいエピソードで何となく片付けられる。
どのエピソードも薄っぺらいし、引き付ける力など無い。一応はロード・ムービーの体裁を取っているが、「様々な人々と触れ合ったり、多くの出来事を体験したりすることで主人公が何かを感じ、考え方が変化し、人間的に成長する」といったドラマの厚みは全く無い。
人々と出会っても、ただ出会うだけ。何かを体験しても、ただ体験するだけだ。
ザックリ言ってしまえば、「オッサンたちがバカ騒ぎしたり踊ったりするだけ」というペラペラの内容だ。
前作も薄味だったが、まるで比較にならないほどだ。しかも弾けたコメディーになっているわけではなくて、ただの空虚なバカ騒ぎなのよね。
ストリップのシーンにも、まるで高揚感や充実感が見られない。
それでも「マイクたちは最後のパーティーで盛り上がろうとしているが、どこかで寂しさを感じている」という風に描いているなら分かるけど、そういうことじゃないのよ。細かいことなんて何も考えず、ただバカ騒ぎしているだけ。
それが空虚に見えてしまうんだから、描き方を失敗していると言わざるを得ないわ。マイクは新しいMCについて「心当たりがある」と言い、会員制クラブへ赴く。彼は経営者のローマと会うが、「いや誰だよ」と言いたくなる。
前作のキャラではなく、初めて登場するキャラクターだ。その店でマイクが働いていたことも、そこで初めて示される設定だ。
別に初登場のキャラや設定がダメってわけじゃないけど、そこはキャラの使い方で勿体無いことをしていると感じるのだ。途中で「マイクの昔の仲間」を登場させるなら、そこは前作のキャラの方がいいんじゃないかと。
なので最初からストリッパー仲間を全て揃えず、マイクが去った後に参加したメンバーも入れておいて、「誰かが怪我をして代わりが必要になったので、マイクが昔の仲間に参加を要請する」という形を取れば良かったんじゃないかなと。
ぶっちゃけ、専任のMCはいなくても何とかなりそうだし。そのクラブのシーンも、特にこれといったドラマも無いまま終了する。
マイクとローマの過去に関連した会話はあるが、まるで膨らまないし、後の展開に繋がることも無い。マイクはMCを依頼することも無いまま、店を去ってしまう。
アンドレは車内でケンと意気投合するが、それで終わりだ。
だからクラブのシーンはザックリ言ってしまえば、「マイクたちがストリップを披露し、アンドレはラップと歌を披露する」というだけなのだ。ようするに、この作品ってミュージカル映画におけるミュージカルシーンと同じような感覚で、ストリップを配置しているのよね(としか思えない)。
だけどミュージカルと違って、この映画におけるストリップには、それだけで観客を掴むような力なんて全く無いのよ。
それに、前作では曲がりなりにも「ボーイレスク」を見せようという意識が感じられたけど、今回はもっと安っぽくなっちゃってる。
いわゆる「ダンスの魅力」ってのが見えないのよね。メーガンの家ではアンディー・マクダウェルが登場するぐらいだし、さすがに何かドラマがあるだろうと思ったが、ここもスッカスカだ。
含蓄の有りそうな台詞も用意されているが、実際は何の中身も無い。そこでの台詞や出来事がマイクに影響を与えたり、行動が変化したりすることも無い。
何の狙いかはサッパリ分からないが、徹底して空虚な中身にしてある。
一応はマイクとゾーイの恋愛劇っぽいモノも用意されているが、こちらもペラッペラだ。マートルビーチに到着すると、なぜか当たり前のようにローマが待ち受けている。彼女はMCとして参加することを承諾しているんだけど、そこに「予想外の面白さ」なんて無い。
また、マイクは大会主催者のパリスと旧知の仲という設定なのだが、これまたローマと同様で「いや誰だよ」ってことになる。
そんなパリスはマイクだけでなくローマとも旧知の間柄で、彼女の弟子のような存在なので大会への出場を特例として認める。
そういうチープな御都合主義のためだけに、「旧知の間柄」という設定を用意しているようなモンだね。さすがにストリップ大会のシーンはクライマックスなので、ショーやボーイレスクとしてのステージングが意識されている。
もしかすると、そこを際立たせるために、あえて終盤までのストリップはあまり見栄えを重視しない演出を狙っていたのかもしれない。
そんなことをしても全くメリットを感じないので、たぶん違うとは思うけど、そうだとしたらドラマの方を充実させないとダメでしょ。
あと、最後のストリップ大会にしても「なんかバカ騒ぎしてる」ってだけで、スッカラカンのまま終わっちゃうしね。(観賞日:2017年10月11日)