『マダガスカル』:2005、アメリカ

ニューヨークのセントラル・パーク動物園。開演前、ライオンのアレックスは、親友であるシマウマのマーティーに声を掛けた。今日が マーティーの誕生日なので、アレックスはプレゼントを贈った。しかしマーティーは、あまり嬉しそうではない。マンネリな生活に退屈 していると打ち明けるマーティーに、アレックスは「今までと違うフレッシュなことをやればいい」とアドバイスした。
開園直前、アレックスはカバのグロリアとキリンのメルマンを起こした。いよいよ人々が来場し、人気スターであるアレックスは気分が 高まった。彼は人間が大好きなのだ。カメラを向ける人々に、彼はポーズを取った。マーティーはアレックスのアドバイスを聞き入れ、 新しいショーを披露した。子供達には大受けしたが、保護者は不快感を示した。
同じ頃、ペンギンの隊長、コワルスキー、リコ、新人の4名は、檻に集まった人々に愛嬌を振り撒いていた。しかし、その裏で、彼らは 地下の抜け穴を密かに掘り進めていた。マーティーは、地面に穴が開くのを発見した。そこからペンギンズの4名が現れた。彼らは動物園 から脱走しようとして、誤ってそこに出てしまったのだ。ペンギンズは、ここだけの秘密にすることを条件に、自分たちが野生の王国、南極 へ向かうつもりだと打ち明けた。
閉演後、アレックス、メルマン、グロリアは、マーティーのために誕生日パーティーを開いた。マーティーは仲間たちに、野生の王国へ 行きたいという願いを語った。自然に帰って生活することの素晴らしさを熱く語るマーティーだが、アレックスたちは動物園から出ることに 全く興味を示さない。パーティーはお開きになり、皆が檻に戻って眠りに就いた。
だが、夜中の内に、マーティーは動物園から脱走した。それを知ったアレックスたちは、慌てて後を追い掛けた。グランド・セントラル駅へ 赴いたアレックスたちは、マーティーを発見した。ちょうど駅には、ペンギンズや、クリントン夫妻にウンチを投げ付けようと企んで脱走 していた猿のメイソン&フィルもいた。アレックスたちは警官隊に包囲され、麻酔銃で捕獲された。
アレックスが目を覚ますと、木箱の中にいた。動物たちはセントラル・パーク動物園ではなく、アフリカの野生動物保護区へ船で移送されて いた。ペンギンズは檻を抜け出し、操舵室を占拠した。彼らは南極へ向かうため、船の方向を変えた。急に舵を切ったため、アレックスたち の木箱は海に転落した。アレックス、マーティー、メルマン、グロリアは、ある砂浜へと流れ着いた。
アレックスたちは、そこがサンディエゴの動物園だと思い込んだ。人間に会って手続きを済ませるため、アレックスたちは島のジャングルを 分け入った。すると、そこではキング・ジュリアンが支配するキツネザルの群れが踊っていた。フォッサが現れたため、群れは散り散りに 逃げた。キツネザルのモートは、フォッサに捕まった。そこへ何も知らずに現れたアレックスは、背中のクモに驚いて吠えた。その咆哮を 怖がって、フォッサは逃げ出した。結果的に、アレックスはモートを救ったことになった。
ジュリアンは側近モーリスと共に、物陰から様子を窺っていた。最初はアレックスたちを獰猛なエイリアンではないかと警戒していたが、 結局は歓迎することにした。彼らの話で、アレックスたちは、そこが野生の王国だと知った。そう、そこは動物園ではなく、マダガスカル だったのだ。アレックスは慌てて脱出しようとするが、「泳げないのに」とグロリアに止められた。
アレックスは脱出することばかり考え、メルマンはすっかり落ち込んだ。そんな中、マーティーだけは念願の場所に来られて浮かれていた。 それに怒ったアレックスは、砂浜に境界線を描いてマーティーと距離を置く。アレックスは篝火を炊いて助けを呼ぼうとするが、あえなく 失敗に終わった。メルマンとグロリアも、野生の暮らしに順応しているマーティーの元へ去ってしまった。意地を張っていたアレックス だが我慢できず、マーティーの仲間に加えてもらった。
ジュリアンは、アレックスを味方にすれば、フォッサから守ってもらえると考えた。彼はアレックスたちを、美しい景色の広がる場所へ案内 した。アレックスはマーティーと共に草原を疾走し、野生の暮らしが楽しいと思えるようになった。しかし海草で満足できる草食動物の 仲間3人と違って、アレックスだけは肉食動物だ。ずっと肉を食べていない彼は、仲間たちの姿がステーキ肉に見え始めた…。

監督はエリック・ダーネル&トム・マクグラス、脚本はマーク・バートン&ビリー・フロリック&エリック・ダーネル&トム・マクグラス、 製作はミレーユ・ソリア、共同製作はテレサ・チェン、編集はクレア・デ・チェヌ&マーク・A・ヘスター&H・リー・ピーターソン、 美術はケンダル・クロンクハイト、美術はシャノン・ジェフリーズ、音楽はハンス・ジマー。
声の出演はベン・スティラー、クリス・ロック、デヴィッド・シュワイマー、ジェイダ・ピンケット・スミス、サシャ・バロン・コーエン、 セドリック・ジ・エンターテイナー、アンディー・リクター、トム・マクグラス、クリストファー・ナイツ、クリス・ミラー、コンラッド ・ヴァーノン、エリック・ダーネル、デヴィッド・カウギル、スティーヴ・アポストリナ他。


ドリームワークスが製作した、全編CGによるアニメーション映画。
演出は、『アンツ』のエリック・ダーネルと、『SPACE JAM』などにアニメーターとして参加し、これが初監督となるトム・マクグラスが 共同で担当している。
声の出演は、アレックス役がベン・スティラー、マーティーがクリス・ロック、メルマンがデヴィッド・シュワイマー、グロリアがジェイダ・ピンケット・スミス、ジュリアンがサシャ・ バロン・コーエン、モーリスがセドリック・ジ・エンターテイナー、モートがアンディー・リクター。

日本語吹き替え版の声優は、アレックスが玉木宏、マーティーが柳沢慎吾、メルマンが岡田義徳、グロリアが高島礼子、ジュリアンが 小木博明(おぎやはぎ)、モーリスが矢作兼(おぎやはぎ)、ペンギンズ隊長が山崎弘也(アンタッチャブル)、ペンギンズ新人が 柴田英嗣(アンタッチャブル)。
複数の有名タレントをメインキャストに起用して宣伝効果を上げようという、最近の海外アニメ映画では御馴染みとなった戦略が本作品 でも用いられている。
タレントを起用するのは仕方が無いにしても、それは脇役やチョイ役に留めて、主要キャストはプロの声優陣に任せて欲しいというのが、個人的 な意見だ。下手な吹き替えのせいで、映画が台無しになるケースも良くある。
ただし、本作品のタレント陣の吹き替えは、柳沢慎吾が柳沢慎吾以外の何者でも無いということを除けば、そんなに悪くない。
特に、お笑い芸人が違和感無くこなしているのは良かった。
芸人の中では、アンタッチャブルの柴田が、かなり良い感じだ。

マーティーはアレックスたちに、ルーツである野生の場所に帰ることを説き、「動物園の外のことを何も知らないのは気にならないか」と 問い掛ける。
これがディズニーやピクサーのアニメだったら、どのような展開になっていただろうかと推測してみる。
マーティーがそのような問題提起をしたのであれば、まず動物たちは野生に放り出されるか、もしくは望んで脱出することになる だろう。まあ、そこまでは、この映画と全く変わらない。
ただし、ディズニー映画であれば、その後は、例えば「思い描いていたイメージと違って苦労するが、最終的には野生の素晴らしさを 感じる」とか、あるいは「動物園に連れ戻されそうになるが、野生で知り合った新しい仲間たちの協力で無事に脱出し、ジャングルで幸 せに暮らす」とか、そんな感じにするのではないか。
どうであれ、「野生の素晴らしさ」を描くのではないかと思うのだ。

しかしドリーム・ワークスのアニメは、行儀の良いテーマ、健全な教訓を求められるディズニーのアニメとは違う。
ドリーム・ワークスのアニメには、『シュレック』に限らず、「ディズニーへのアンチテーゼ」が見え隠れする。というか、まずアンチ・ ディズニーありきで企画が立ち上がっているんじゃないかと邪推してしまうぐらいだ。
なので、「動物園の動物たちは、そこで暮らすのが一番さ。野生に戻っても馴染めないぜ」という話になっており、「動物たちはルーツに 帰って幸せに暮らすべき」という自然保護活動家の主張を皮肉るような内容になっている。
この企画は、そもそも動物園の檻から動物を解放する活動家に着想を得たらしい。
「野生に戻せ」という動物愛護団体の抗議なんて、人々の前でポーズを取るのが大好きなアレックスにとっては迷惑なだけなのだ。

劇中には、様々な作品のパロディーが含まれている。
篝火用の木製の像を作る時に、アレックスがバスケットボールと会話を交わすのは、『キャスト・アウェイ』のパロディー。
アレックスが降ってくるステーキ肉に囲まれる夢を見るのは、『アメリカン・ビューティー』のパロディー。
児童向け映画でありながら、子供達には分からないだろうと思われるようなネタを持ち込んでいる。
「子供向け映画だから、こうでなければ」という、ディズニー映画のような縛りが無い分、かなり自由にやっているということなん だろう。

ただし、だからって大人向けになっているとか、子供には難しい内容になっているとか、そういうわけじゃない。
頭をカラッポにして楽しむ類の映画である。
「動物園に馴染んだ動物たちが、野生でどのように生きていくのか」「肉食動物と草食動物が、どうやって仲良く暮らしのか」という 難しいテーマを持ち込みながら、その解決方法は「仲間がいるから大丈夫」「肉が駄目なら魚を食べればいい」という、なんとも安易な もの。
それが悪いということじゃなく、気軽に楽しむ類の映画なので、それで構わない。
何しろアレックスやマーティーたちの友情ドラマでさえ、薄っぺらくて簡単なものにしてあるぐらいだから。

まあ、わざわざ劇場に足を運んで見るには厳しいかとも思うが、家で楽しむ児童向け作品としては、充分な出来映えと言っていい だろう。
ドラマやストーリーは全く頭に残らないが、幾つかのキャラの可愛さは印象に残るし、小木博明の「踊るの好き好き」という節回しは、耳 に残る。
ただし、「いかにもカートゥーン的」といった感じの映像表現も取り入れているようだが、絵として惹き付けられるものは感じない。

実はアレックスと仲間4人よりも、クリクリの大きな目玉が可愛いモートや、ペンギンズといった脇役キャラの方に魅力を感じて しまう。
南極に到着して「ここ、最悪っすね」と言ってしまうペンギンズは元々、エリック・ダーネルがロックバンドのドキュメンタリー風アニメ 映画を企画していて、そのバンドのメンバーとして考えていたキャラだったそうだ。
その企画がポシャったので、この映画に組み込んだらしい。
その没になったという企画の方が、この映画よりも興味をそそられてしまうんだが。

(観賞日:2009年3月9日)


第28回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪のアニメーション映画】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会