『マッキントッシュの男』:1973、アメリカ&イギリス

英国議会に出席した議員のジョージ・ウィーラー卿は「英国人の生活を脅かす者と戦わねばならない」と語り、国内治安政策を承認するよう訴えた。リアデンがマッキントッシュの事務所を訪れると、秘書のスミス夫人が中に通した。マッキントッシュとスミス夫人は彼に、ダイヤの輸送について説明した。ダイヤは郵便局の小包で送られるが、配達人も受取人も中身を知らない。しかしマッキントッシュは配達時間も、どんな封筒でいつ配達されるのかも分かっているとリアデンに語った。
マッキントッシュは配達先と同じ階に部屋を借りており、そこへリアデンは出向いた。スミス夫人は彼に、航空券とパスポートを渡した。配達人が来ると、リアデンは油断させて殴り付けた。彼は配達人に重傷を負わせて封筒を奪い、アパートを後にした。彼がホテルで荷物をまとめていると、ブランスキル警部とジャーヴィス刑事がやって来た。リアデンは強盗容疑で逮捕され、署へ連行された。ブランスキルはインターポルから記録を取り寄せ、リアデンの過去を知った。
裁判が始まると、ブランスキルは匿名の電話で動いたことを証言した。リアデンは懲役20年を宣告され、刑務所に収容された。彼は囚人のパーマーから話し掛けられるが、冷たく拒絶した。囚人のバスターはリアデンに、共産主義のスパイであるスレードも収容されていることを教えた。リアデンから罪状を問われたバスターは、「スパイだがヘマをして捕まった。懲役5年で、2年前に入った」と語る。リアデンが「脱獄したことは?」と訊くと、彼は「出るのは簡単だが、外が厳しい」と述べた。
囚人のトレヴェリアンはリアデンに接触し、「スカーペラーという組織が受刑者を逃がしている。値は張るが、脱獄は保証する」と話す。「14万ポンドを盗んだんだろ。その半分を支払え」と言われたリアデンは、「俺の取り分は4万ドルだ」と告げる。「だったら、その半分を支払え。国外に逃がしてくれる」とトレヴェリアンが言うと、リアデンは承諾した。スカーペラーが用意した小切手でリアデンが前金を支払うと、トレヴェリアンは脱獄の日時を知らせてスレードも一緒だと教えた。
リアデンとスレードは脱獄に成功し、大型トラックで待っていた看護婦に注射を打たれて眠りに落ちた。リアデンが目を覚ますと知らない屋敷の一室で、スレードも同じ部屋にいた。彼が窓を調べると、鉄格子で外へ出られなくなっていた。ゲルダという女が来たのでリアデンが場所を尋ねると、「どこかは教えられない。また移動させるまでは、この部屋にいて。上手く行けば1週間後」と告げられる。彼女はリアデンに、新しい名前やパスポートを用意していた。
リアデンはブラウンという男に呼ばれ、小切手を現金化するための署名を求められた。「なぜ1週間もここに?」とリアデンが尋ねると、ブラウンは「知らない方がいい。君を国外に逃がして沈黙を守る。それがビジネスだ」と口にした。ウィーラーは国会でリアデンたちの脱獄事件に触れ、「全国の刑務所を徹底的に調べるべきだ」と提案した。彼は仲間のアンガスから呼び出され、「我々の案件の1つが解決しそうだ」と言われる。「スレードのことだろ」とウィーラーが言うと、アンガスは「そうだ。組織に部下を潜入させた。スレードは戻るか死ぬかだ。組織は1週間で壊滅する」と語った。
ブラウンたちはスレードに荷作りを指示した後、リアデンに正体を吐くよう要求した。リアデンがシラを切ると、彼らは暴行を加えた。スミス夫人は駅へマッキントッシュを迎えに行くが、彼は目の前でひき逃げされた。リアデンは策を講じて屋敷に火を放ち、ブラウンたちを殴り付けて脱出した。そこがアイルランドと知った彼はバスで港町へ行き、電話を掛けてスミス夫人と連絡を取る。彼はスミス夫人から、マッキントッシュがひき逃げに遭って昏睡状態に陥っていることを知らされた。
リアデンはスミス夫人に、ラウンドストーン近くにある館が燃えたこと、ブラウンが地元の名士を偽っていること、危険を感じて逃亡したことを説明した。スレードは行方不明だと彼が告げると、スミス夫人は飛行場で待つよう指示した。港にはウィーラーが船で現れ、地元の人々から歓迎を受けた。リアデンは飛行場でスミス夫人と再会し、「誰が密告した?」と質問した。スミス夫人は「計画を知っているのはマッキントッシュと私だけよ」と告げ、自分は潔白だと主張した。
リアデンが「俺は抜け出せないのか」と言うと、スミス夫人は「マッキントッシュが死ぬまでは。彼は手紙を書いていた。彼が死んだら、首相に渡される。弁護士が持っていて、死ぬまでは開封できない」と話す。「彼を殺せ」とリアデンが告げると、スミス夫人は「出来ない。私の父よ」と述べた。「昨日は何を?」とリアデンが訊くと、彼女は「ウィーラーと会う約束があった」と話す。リアデンはスレードが船に乗っていると確信して港町へ戻るが、船は去った後だった。
スミス夫人は電話を掛け、船がマルタに向かうことを知った。リアデンはスミス夫人を車に乗せ、尾行に気付きながらマルタを目指す。彼は車を運転しながら、ウィーラーはスパイだと告げる。さらにリアデンは、「マッキントッシュはウィーラーの正体を知っていたが、証拠が無かった。だから俺とスレードを餌にして、命懸けで罠を仕掛けた」と語った。彼は尾行の車を崖下に転落させ、マルタに到着した。スミス夫人はウィーラーの船上パーティーへ赴き、リアデンは警視総監に事情を説明して捜査を要請する…。

監督はジョン・ヒューストン、原作はデズモンド・バグリイ、脚本はウォルター・ヒル、製作はジョン・フォアマン、製作協力はウィリアム・ヒル、撮影はオズワルド・モリス、美術はテレンス・マーシュ、編集はラッセル・ロイド、音楽はモーリス・ジャール。
出演はポール・ニューマン、ドミニク・サンダ、ジェームズ・メイソン、ハリー・アンドリュース、イアン・バネン、マイケル・ホーダーン、ナイジェル・パトリック、ピーター・ヴォーン、ローランド・カルヴァー、パーシー・ハーバート、ロバート・ラング、ジェニー・ラナカー、ジョン・ビンドン、ヒュー・マニング、ウルフ・モリス、ノエル・パーセル、ドナルド・ウェブスター、キース・ベル、ナイアル・マクギニス、エディー・バーン、シェーン・ブライアント、マイケル・プール、エリック・メイソン、ロナルド・クラーク、アントニー・ヴィッカーズ、ディニー・パウエル他。


デズモンド・バグリイの小説『The Freedom Trap』(邦題は本作品と同じ)を基にした作品。
監督は『天地創造』『禁じられた情事の森』のジョン・ヒューストン。
脚本は『殺人者にラブ・ソングを』『ゲッタウェイ』のウォルター・ヒル。リアデンをポール・ニューマン、スミスをドミニク・サンダ、ウィーラーをジェームズ・メイソン、マッキントッシュをハリー・アンドリュース、スレードをイアン・バネン、ブラウンをマイケル・ホーダーン、トレヴェリアンをナイジェル・パトリックが演じている。

序盤から説明不足が甚だしく、話に入り込むことを妨げている。
まずリアデンとマッキントッシュが何者なのかが、サッパリ分からない。
分かるのは「マッキントッシュの依頼をリアデンが受ける」という関係性ぐらいで、どちらの仕事も不明だ。
警察の取り調べシーンで、どうやらリアデンは泥棒らしいってことが何となく見えるが、それもブランスキルの台詞からの推測に過ぎない。ブランスキルは資料に目を通したようだが、そこで知ったリアデンに関する具体的な情報は何も教えてくれない。

リアデンが泥棒なら個人で動くはずで、依頼を受けてダイヤを強奪するってことになると、職業としては別物になってしまう。
そもそも、なぜマッキントッシュがリアデンを知っているのかも良く分からない。「それぐらい有能な泥棒」という情報を得たのかもしれないけど、そんな風には全く見えない。何しろ、リアデンは配達人を殴って封筒を強奪するだけなんだから。
そんなの、誰でも出来そうな手口でしょ。少なくとも、プロの手口ではないぞ。
っていうか受取人と同じ階に部屋を取って配達人を待ち受けていたのなら、封筒の受取人を詐称すれば良かったんじゃないかと。

マッキントッシュとスミス夫人はリアデンが事務所を訪れた時にダイヤの輸送について説明するのだが、何を言ってんのか良く分からない。
ザックリ言うと、「ダイヤは郵便で運ばれ、大きさも形も様々な小包に色んなラベルを貼って分からなくする。送り主は不明で、ダイヤの商売とは無関係の様々な住所に送られる。同じ住所には続けて送られず、配達人も受取人も中身を知らない」という内容だ。
だけど、配達人も受取人も知らないランダムな場所にダイヤが届くって、どういうことよ。
注文していない人物にダイヤを届けて、それに何の意味があるのか。それは誰が何のためにやっているのか。

リアデンがダイヤを盗んだ後、「刑事が部屋に来て逮捕され、取り調べでシラを切り、裁判でブランスキルが証言し、判決が出てリアデンが刑務所に収容される」という手順はモタモタしすぎている。
「匿名の情報で刑事が動いた」という部分は必要な情報かもしれないけど、それ以外は完全に時間の無駄遣いだ。
もっとサクッと省略して、さっさと刑務所のシーンに移った方がいい。
いっそのこと、刑務所から話を始めて、「こういう経緯があって」ってのを回想で見せる形式にしてもいいんじゃないかと思うぐらいだ。

様々な出来事が起きているし、リアデンは幾つかのピンチを迎えているのだが、盛り上がりには欠ける。
それは前述した部分を回想形式にするだけで解決するわけではなく、もっと根本的な問題だ。
大まかにジャンル分けするなら「スパイ・サスペンス」ってことになると思うが、語り口が下手なので、謎めいた話というプラスではなく「分かりにくい」というマイナスの印象になっている。
その謎が、「グイグイと引き込まれる」という力になっていない。

アンガスがウィーラーに「部下を組織に潜入させた」と語るシーンがあり、続いてリアデンが暴行されるシーンが描かれると、「リアデンがアンガスの送り込んだスパイなんだな」ってことが分かる。
だが、そこも引き付ける力が弱い。伏線が不足しているため、「リアデンが実はスパイでした」と明かされても、唐突に飛び込んで来た設定にしか思えない。
あと、彼がスパイってことになると、なぜ泥棒としての記録がインターポールにあったのか分からない。
なぜマッキントッシュが彼にダイヤ強奪を依頼したのかも分からない。

マッキントッシュはリアデンにスパイとしての仕事を依頼しているのだが、そのために「ダイヤを強奪し、匿名電話で逮捕されて刑務所に入る」という手順を踏む意味が全く無いでしょ。そんな無意味な作戦のために、重傷を負わされる郵便配達人の不憫なことよ。
っていうか、そもそも「ダイヤがこういう運ばれ方をしていて、場所も時間も分かっている」と説明する手順からして、何の意味も無いでしょ。
それは観客を欺くためだけのアンフェアな仕掛けであって、真の任務を知っているマッキントッシュが嘘を喋る意味なんて全く無い。
だから、やっぱり刑務所のシーンから始めた方が良かったのよ。

リアデンが刑務所に入ったのは、スレードと共に脱獄してスカーペラーに潜り込むためだ。
でも、そのために配達人を暴行し、ダイヤを強奪する必要性があるとは到底思えない。インターポールの記録は捏造なんだろうし、それが出来るなら罪状も捏造しちゃえばいいんじゃないかと。
あと、リアデンが匿名の電話で逮捕されても、下手すりゃ別の刑務所に入れられるかもしれない。
それに、脱獄がスレードと一緒になるのも確定しているわけではない。
運任せの要素が多くて、計画としては杜撰と言わざるを得ない。

スカーペラーはリアデンがスパイだと睨んだから、正体を白状するよう要求して暴行しているはずだ。それなのに、彼らはリアデンを拘束せず、部屋で自由にさせている。
だからリアデンは策略を用意し、ブラウンたちを襲って脱出してしまう。
そもそもスカーペラーの暴行にしても、しばらくリアデンが動けなくなるぐらい激しくやっているわけではない。だからリアデンは元気でピンピンしており、窓から外へ飛び出して勢い良く走り去ることも出来てしまう。
スカーペラーのボンクラっぷりが酷いぞ。

リアデンが事件の真相を全て悟ったら、後は決着を付ける手順へサクサクと進んでしまえばいい。でも実際は、「尾行を蹴散らし、マルタへ移動し、スミス夫人をパーティーへ行かせたリアデンが警視総監と会って」ってな感じでモタモタする。
しかも、ウィーラーが先手を打っていたので、リアデンが警視総監を動かしても問題は解決しない。それは緊迫感を煽る効果に繋がらず、リアデンがボンクラだとしか感じない。
そんで最後、リアデンはウィーラーとスレードから取引を提案され、2人を逃がそうとするのだ。
最終的にはスミス夫人が2人を射殺するのだが、リアデンがどうしようもない奴に見えちゃうぞ。
「苦みのある結末」みたいなのを狙ったのかもしれないが、リアデンがヌルいとしか感じないわ。

(観賞日:2019年3月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会