『ミニミニ大作戦』:2003、アメリカ

熟練の金庫破りジョン・ブリッジャーは、ヴェニスからアメリカにいる娘ステラに電話を掛けた。ステラは仮出所中の父が勝手にヴェニス へ行ったことを知り、腹を立てた。彼女はジョンが金庫破りをすると気付き、「足を洗う約束なのに」と怒る。ジョンは「これを最後に する」と告げ、電話を切った。ジョンは彼を慕うチャーリー・クロッカーに誘われ、今回の仕事に参加していた。他の仲間はスティーヴ、 ハンサム・ロブ、ライル・ナップスター、レフト・イヤーという4名だ。
チャーリーたちが狙いを付けたのは、ある屋敷の金庫にある金の延べ棒だ。彼らは天井と床を爆破して穴を開け、金庫を2階から落下させた。 その直後、ロブとライルが乗ったモーターボートが走り出した。金庫を盗まれた一味は、すぐにボートを追跡する。だが、それは囮で、 金庫は運河に沈んでいた。チャーリーやジョンは金庫を開け、延べ棒を運び出した。
3500万ドル分の金塊を手に入れたチャーリーたちは、アルプスに登って祝杯を挙げた。しかし車で山を降りる途中、彼らは2台の車に乗った 一味に包囲される。それはスティーヴの手下たちだった。彼は仲間を裏切り、延べ棒を独り占めしようと企んでいたのだ。スティーヴが ジョンを射殺したため、チャーリーは咄嗟に車をダムに転落させ、死んだように見せ掛けて別の場所から這い上がった。
1年後。堅気の金庫破りとして働くステラの前に、チャーリーが現れた。ステラは父を死に追いやったチャーリーを恨んでおり、かねて から会うことを拒んでいた。チャーリーはステラに、スティーヴがロサンゼルスにいると突き止めたことを告げた。スティーヴは盗んだ 延べ棒をワージントン10という金庫に入れており、それを開けるための人材をチャーリーは求めていた。チャーリーが共に復讐しようと 持ち掛けても、ステラは断った。しかし夜になって彼女はチャーリーに連絡し、参加することを告げた。
チャーリーはステラを仲間に紹介した。ハンサム・ロブは運転のプロ、ライルはコンピュータの天才でナップスターの真の発明者、レフト ・イヤーは爆薬の専門家だ。スティーヴが暮らすハリウッドに移動した5人は、延べ棒を奪取するための計画を立てた。まず屋敷に侵入し 、内部の様子を知ることが必要だ。逃走ルートの確保も考えておく必要がある。屋敷のセキュリティー・システムは、かなり厳重だった。 また、逃走ルートは渋滞が酷く、全ての信号を青に変えるためにライルが策を講じることとなった。
チャーリーたちは屋敷のケーブルを切り、修理業者として内部に潜入する計画を立てた。彼らはスティーヴに顔を知られているため、ステラ が修理業者に変装して屋敷に赴いた。ステラは胸に取り付けた小型の隠しカメラを使い、屋敷の内部を撮影する。スティーヴはステラが 気に入ったらしく、口説いてきた。屋敷を留守にさせるチャンスだと考えたステラは、デートの誘いを承諾した。
チャーリーたちは車で延べ棒を運び、ユニオン駅で貨物車両に乗り換える計画を立てた。渋滞の中での移動を考慮し、車は3台のミニを使用 することにした。延べ棒の重さに耐え得る構造にするため、彼らはロブの知り合いであるメカニックのプロ、レンチに車の改造を依頼した。 ライルはコンピュータを駆使し、交通管理センターを出し抜いて信号を操作するシステムを構築した。
スティーヴは延べ棒を換金するため、ウクライナ人イエヴェンの元を訪れた。だが、イエヴェンが延べ棒の刻印について言及したため、 ステイーヴは彼を射殺した。彼が立ち去った後、イエヴェンの従兄であるギャングの首領マシコフは死体を発見した。チャーリーは調達屋 ピートの元へ行き、爆薬の材料を手に入れるよう依頼した。マシコフはイエヴェンの元で仕事をしていた若者ヴァンスから、訪れたピート が刻印のことを話していたとの情報を得た。マシコフはピートを脅し、チャーリーのことを聞き出した。
ステラがスティーヴとデートする日が訪れ、チャーリーたちは計画に取り掛かった。だが、隣のベイカー邸でパーティーが催されたため、 屋敷の正門を爆破することが不可能となった。仕方なく、チャーリーは計画の中止を決定する。だが、ステラにはデートへ行くよう指示し、 再びスティーヴから誘われるよう魅力を振り撒けと告げた。
ステラはスティーヴとレストランで食事をするが、ふと口にした言葉がジョンの口癖だったため、その素性に気付かれてしまう。そこへ チャーリー達が現れ、スティーヴに宣戦布告した。スティーヴが金庫を移動させると知ったチャーリーは、その途中で奪取する計画に変更 した。そこへピートから電話が掛かり、マシコフがイエヴェン殺しをチャーリーの仕業だと思って探していると言ってきた。チャーリー はピートに、あることを依頼した。そして彼は延べ棒を奪うため、準備に取り掛かった…。

監督はF・ゲイリー・グレイ、オリジナル版脚本はトロイ・ケネディー=マーティン、脚本はドナ・パワーズ&ウェイン・ パワーズ、製作はドナルド・デ・ライン、製作協力はリンゼイ・シュマクラー・ジョーンズ、製作総指揮はティム・ビーヴァン&ジム・ ダイヤー&エリック・フェルナー&ウェンディー・ジャフェット、撮影はウォーリー・フィスター、編集はリチャード・フランシス= ブルース&クリストファー・ラウズ、美術はチャールズ・ウッド、衣装はマーク・ブリッジス、音楽はジョン・パウエル。
出演はマーク・ウォールバーグ、シャーリーズ・セロン、エドワード・ノートン、ジェイソン・ステイサム、ドナルド・サザーランド、 セス・グリーン、モス・デフ、フランキー・G、オレク・クルーパ、ガウティー、 サイモン・リー、オスカー・ヌネス、ジョン・アルデン、マーティー・ライアン、アーロン・スピーザー、ドクター・フランク・ナイ、 ボリス・クルトノグ、メラニー・ジェイン、トーマス・アレクサンダー、メアリー・ポーツァー、ショーン・ファニング他。


1969年に作られた同名映画のリメイク。
チャーリーをマーク・ウォールバーグ、ステラをシャーリーズ・セロン、スティーヴをエドワード・ノートン、ロブをジェイソン・ ステイサム、ジョンをドナルド・サザーランド、ライルをセス・グリーン、レフト・イヤーをモス・デフ、レンチをフランキー・Gが 演じている。
また、ナップスターの生みの親であるショーン・ファニングが、ライルの回想シーンで本人役として登場している。
監督は『交渉人』『ブルドッグ』のF・ゲイリー・グレイ。

まず、この邦題が大失敗。
配給会社としては当然、「旧作のタイトルで観客を呼び込もう」という作戦だったんだろう。
だが、そもそも旧作にどれほどの訴求力があるのかと考えた時に、その作戦が利口だとは到底思えない。
それに、この邦題によって観客をガッカリさせてしまう可能性が高い。何しろ、それほどミニは活躍していないのだ。
正直、車がミニである必要性さえ感じないぞ。

冒頭の泥棒シークエンスで、沈んだ金庫から延べ棒を取り出す過程が「1つずつ延べ棒を出して積み上げていく」という行動なんだが、 「もう少し手早くやる方法は無かったのか」と思ってしまう。
もうすぐ警官隊が来るという状況なんだが、「早くしないと」というスリルより、「モタモタせず手際良くやれなかったのか」という意識 の方が強い。そんなに手間が掛かるのなら、金庫を別の場所に移動してから開ければ良かったじゃねえか。そこで開けなきゃいけない 必然性ってあったのか。
その後、なぜチャーリーたちがアルプス山脈に登っているのかもサッパリ分からん。
チャーリーは「金の使い道を考えるより、まず山を降りるのが先だ」と言うが、なぜ登ったのよ。延べ棒強奪のシーンで、アルプスへ移動 する必要性を感じさせるような出来事は何も無かったはずだが。その後のスティーヴ裏切りシークエンスで、雪道や雪山が不可欠になって いるわけでもないし。
あと、ダムに落ちたチャーリーたちは、陸に上がって平然としているが、冷たい水の中にいたのだから、そんなに元気ではいられないだろ。

その滑り出しから、既にスティーヴは全く精彩が無い。
「それは裏切り者であることを隠すための意図的な戦略で、後からガラリと変化するのか」とも思ったが、ロサンゼルスに移っても 相変わらずだ。
どうやらエドワード・ノートン、この仕事はやりたくなかったらしい。
しかしパラマウントと「3本の映画に出演する」と契約していたため、嫌々ながらも出演したそうだ。
で、本人のやる気の無さが現れたためか、スティーヴが全く冴えないキャラになっている。
ただし、そもそもキャラ造形からして、中途半端な小悪党になっているようにも思える。
イエヴェンを射殺するシーンなども、「ちっちゃい男だなあ」と感じるし。

ステラはチャーリーを恨んでおり、1年前にも「父を死に追いやった」と言っていたようだが、そこの設定は全く引きずらず、あっさりと 仲間に入る。「最初は恨みもあったが、共に行動する中で反目から和解へ、そして恋愛へと変化していく」といったドラマは全く無い。
まあ、そもそも厚みや深みのある人間ドラマなんて最初から期待してないから、どうでもいいけどさ。
ステラが仲間に加わった後で、初めてチャーリーたちのキャラ紹介が入る。ロブが運転のプロだとか、ライルがナップスターを本当に発明 したが学生時代にショーン・ファニングがパクったとか、そういうことが回想シーンも挿入しつつ説明される。
それなら、いっそ冒頭のシーンは、チャーリー&スティーヴ&ジョン以外は無しでやったことにしても良かったかもね。
皆が復讐の目的を持っている必要性も無いし。なんせ復讐を目的に掲げているけど、かなり軽いノリだしね。
チャーリーとステラはともかく、他の奴らは「金が目的」ということでも大して変わらん。

ステラが修理業者として屋敷に赴くまでに、スティーヴのロサンゼルスでの生活風景が全く描写されていないのは手落ちだろう。
仲間を裏切って金塊を独占したことで裕福な暮らしをしているにせよ、すさんだ暮らしをしているにせよ、ともかく彼の状況は見せて おいた方がいい。
あと、裏切った時には手下4人がいたスティーヴだが、舞台がロサンゼルスに移った後、手下がいる様子は無い(屋敷の警備員が1人いる だけ)。金庫を移送するシーンになって警備関係者数名が現われるが、それまでは一人ぼっちの印象。
そのことが、スティーヴの悪党としての貧弱なイメージにも繋がっている。

途中でステラが見事な運転技術を見せるのだが、そうなるとロブの「運転のプロ」という特技設定の意味が無くなってしまう。
ステラだけでなく、チャーリーもミニを運転するしね。
実際、ライルは信号を操作し、レフト・イヤーは道路を爆破するという独自の役割があるが、ロブだけはチャーリー&ステラと同じ仕事 しかやっていない。
不憫な男だね、ハンサム・ロブ。

ステラがスティーヴに素性を気付かれたところで、チャーリーたちが現れて強奪計画を明らかにする。
そうなると、「スティーヴがステラの正体を知らずに口説いて接近する」という展開の意味が無くなってしまう。
そこは「スティーヴがステラの正体を知らないまま計画に突入」→「途中でスティーヴが気付いて阻止の行動を取る」→「危機に陥った チャーリーだが別のプランへ」という風に話を盛り上げるべきではないのか。
もしくは、計画遂行までスティーヴがステラの素性に気付かない形でもいいが。
ノコノコと姿を見せて「延べ棒を奪うぜ」と宣戦布告するなんて、アホすぎるだろ。
あと、そこでチャーリーがスティーヴを殴り倒すのも違うよ。そこで怒りや復讐心を晴らすような行動を取ったらダメじゃん。

途中でマシコフというギャングが登場するが、こいつが「最後にスティーヴの始末を付ける」という部分でしか意味の無いキャラになって いる。
チャーリーはイエヴェン殺しの犯人と間違われるのだが、それによって計画に支障をきたすとか、命を狙われることでサスペンスが 盛り上がるとか、そういうことは全く無い。
正直、「要りますか、そのキャラ?」という感じ。

チャーリーのクライマックスにおける計画が実行に移された後、スティーヴが取り替えた金庫を開ける作業でアクションがピタリと止まる 。
だけど、そこは立ち止まっての「金庫が無事に開けられるか」というサスペンスよりも、軽快なアクションを優先すべきだったな。
そこに留まらず、全体を通して、どうにもテンポが悪いと感じる。
特にアクションが無くてダイアローグだけで進める場面は、例えば計画の説明に図面やシミュレーション映像を挿入するなどしながら、 もっとサクサクと軽快に進めてほしい。

この映画、実は話の内容から外れた部分で大失態をやらかしている。
ヴェニスのロケにおいて、スタッフは運河を遮断してモーターボートのアクションシーンを撮影した。
しかし、幾つものゴンドラを壊し、さらには観光地リオ・デ・アントロ・ヴァソの堤防を損傷させた。
ヴェニスの被害総額は2億円を超え、市は一切の映画撮影を禁止した。
つまり、この映画のせいで、他の作品までヴェニスでのロケーション撮影が出来なくなってしまったのだ。
犯罪映画だけに、罪作りってことかい。

(観賞日:2008年4月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会