『マーダー・ライド・ショー』:2003、アメリカ

ピエロの扮装をしたキャプテン・スポールディングは、フライドチキンとガソリンの店を営むだけでなく、伝説の怪人や殺人鬼に関する展示物を扱ったバケモノ博物館の館長も務めていた。1977年の10月30日の夜、覆面強盗2人組が彼の店に押し入った。スポールディングと常連客のスタッキーは拳銃を向けられるが、まるで動じなかった。レジの金を全て渡すよう要求されたスポールディングは、強気な態度で拒絶した。そこへ店員のラヴェリが乗り込んで強盗の1人を撲殺し、もう1人をスポールディングが銃殺した。
同じ夜、貧乏ライターのジェリーとビルは、それぞれの恋人であるデニースとメアリーを乗せて車を走らせていた。2人は給油のため、スポールディングに立ち寄った。バケモノ博物館に興味を抱いた彼らは、眠っていたデニースとメアリーを起こした。ジェリーたちは旅行しながら、面白い場所を取材して本にまとめているのだ。ジェリーとビルは博物館に入り、嫌がるデニースとメアリーを誘って、殺人鬼の世界が見られるというアトラクション「マーダー・ライド・ショー」を体験することにした。
ジェリーたちがラヴェリの押す乗り物に乗せられて先へ進むと、有名な殺人鬼のロウ人形が次々に飛び出し、スポールディングが解説を入れた。最後に登場したロウ人形は、スポールディングが「地元のヒーロー」と紹介するミスター・サタンだった。スポールディングの説明によると、有能な外科医だったサタンは精神病院の患者を拷問し、改造していた。自警団によってサタンは絞首刑に処されたが、その翌日に遺体は消えていた。絞首刑の場所は、博物館の近くにあるという。
博物館を出た後、デニースは父のドンに電話を掛けて居場所を伝え、少し帰りが遅くなることを告げた。テレビのニュースでは、高校のチアリーダー5名が行方不明になった事件の進展が無いことが報じられている。ジェリーはスポールディングに、「サタンが処刑された木が見たい。この目で確かめたい」と告げた。スポールディングは「時間の無駄だと思うが」と言いながらも、地図を書いてやった。
雨が降り出す中、ジェリーたちは車で地図の場所を目指す。女子2名は「どうせ作り話でしょ」と言い、ドクター・サタンに全く関心を示さない。ヒッチハイカーのベイビー・ファイアフライという女性に気付いたジェリーたちは、彼女を車に乗せてやった。家に帰るところだという彼女はサタンの木について問われ、「ウチの近くよ。案内してあげる」と口にした。物陰に隠れて待ち伏せていた男が発砲し、車のタイヤをパンクさせた。ジェリーたちは男の仕業だと気付かないまま、困り果ててしまった。
ベイビーが「ウチまで歩く?兄貴がトラックを持ってる。牽引してくれるかも」と言うので、ビルが彼女に付いて行くことにした。一方、ベイビーの父であるオーティスは拉致したチアリーダーたちを拘束し、「なぜ俺が、こんな平凡な家に生まれたのか。俺は普通の人間とは違う特別な使命を与えられているんだ。お前たちは何も出来ない役立たずだ。早く脱却しないと手遅れになるぞ」と熱く語っていた。
ベイビーは家に到着し、「もう兄さんは向かってるわ」と告げてビルを招き入れた。一方、ジェリーたちは男が車をノックしたので、「兄貴が牽引に来たんだ」と理解する。ベイビーはビルから「兄さんと2人暮らしなの?」と訊かれ、「いえ、他にも家族がいるわ」と答えた。ジェリーたちがベイビーの兄ルーファスの牽引で到着し、一行はテレビ番組を見る。デニースは「パパに連絡したいから電話を借りたいんだけど」と言うと、部屋にやって来たベイビーの母、マザーは「そんな物は無いわ」と陽気な態度で答えた。
ジェリーが「公衆電話まで息子さんに連れてってもらえます?」と言うと、マザーはベイビーにルーファスの様子を見に行くよう命じた。戻って来たベイビーは、「捜したけどいなかった。タイニーの話だと、タイヤを買いに出掛けたらしい」と告げる。戻るのは3時間後だと聞いたデニースが「タイニーに運転してもらうってのは?」と提案すると、マザーはベイビーと顔を見合わせて笑い、「タイニーに運転なんか無理よ。自転車だって漕げないんだから」と告げた。
マザーは「今夜はハロウィンのイヴよ。私たちにとっては特別な夜なの」と嬉しそうに言い、「スペシャルなディナーを食べていって」と述べた。食卓へ案内されたジェリーたちの元に、不気味な仮面で顔を覆った大柄な男が現れて席に就いた。それがタイニーだった。マザーはメモを書いてタイニーに指示を出し、ジェリーたちに「あの子は耳が不自由なのよ。みんな父親のせいよ。ある日、悪魔に憑依されたようになって。家に火を付けようとしたの。地下で眠っていたタイニーは、炎に包まれたの。夫を責めるつもりは無いけど、タイニーは全身に火傷を負って、耳が聞こえなくなったの」と説明した。
ベイビーは部屋で監禁されているチアリーダーに、狂った笑顔で話し掛けていた。もう1人のチアリーダーは、ベッドで死体となっていた。祖父のヒューゴが食卓に来た後、ジェリーたちは仮面の装着を強要された。ジェリーがドクター・サタンに伝説についてマザーに尋ねていると、オーティスがやって来た。オーティスがホルマリン漬けの瓶を持参すると、マザーは「おチビちゃんを連れて来たのね。なんて素敵な夜なのかしら」と嬉しそうに受け取った。
オーティスはジェリーたちに、「スポールディングが店で売っているガラクタを売るために適当な嘘を喋ったんだ。これ以上、この話に首を突っ込むと、抜けなくなるぞ」と話した。ヒューゴは「ディナーは終わり。ショータイムだ」と言い出し、ステージでスタンダップ・コメディーを始める。それが終わるとドレスアップしたベイビーが現れ、流れてくる歌に合わせて当てぶりをした。ベイビーがジェリーとビルを誘惑するので、怒ったメアリーは彼女を突き飛ばした。ベイビーがナイフを持ち出すと、マザーが止めに入った。
ルーファスが戻って「車が直った」と言うと、マザーはジェリーたちに「そろそろ出て行った方がいいみたいね」と述べた。ジェリーたちは車に乗り込み、屋敷を去ろうとする。しかし門を開けようとしたビルがオーティスに棒で殴り倒され、助けに行ったジェリーはタイニーに抱え上げられて車に投げ付けられた。オーティスとタイニーは車を破壊し、悲鳴を上げている女2人を外へ引きずり出した。
翌日、ドンは保安官事務所のフランク・ヒューストン署長に電話を掛け、娘が戻っていないことを話した。メアリーが意識を取り戻すと、猿ぐつわで口を塞がれ、椅子に縛り付けられていた。彼女が悲鳴を上げると、オーティスが部屋に来て怒鳴り付けた。オーティスは脅した上で彼女の猿ぐつわを外し、無残に変わり果てたビルの死体を見せ付けた。保安官のジョージ・ワイデルと助手のスティーヴ・ナイシュはスポールディングの店を訪れ、デニースについて質問する。スポールディングは軽い口調で、4人がドクター・サタンの木を見に行ったことを教えた。
ベッドに拘束されているデニースが意識を取り戻すと、タイニーがやって来た。デニースが「縄を外して」と懇願すると、タイニーは簡単に拘束を解いた。しかし逃げ出そうとするとオーテイスが現れ、デニースを檻に押し込んだ。椅子に縛り付けられているジェリーの元にはベイビーが来て、連想ゲームを要求した。答えが外れると、ベイビーはカミソリを使ってジェリーの髪を乱暴に切り取った。
ワイデルとナイシュは廃棄されたジェリーたちの車を発見し、ヒューストンに連絡を入れた。車のトランクを開けると、チアリーダーの死体が入っていた。ワイデルたちはヒューストンの命令を受け、聞き込みにドンを同行させることになった。3人はファイアフライ家を訪れ、ナイシュはドンを連れて周辺を調べに行く。ワイデルは玄関のドアをノックし、マザーが応対に出た。マザーは適当に追い返そうとするが、仕方なくワイデルを招き入れる。一方、ナイシュとドンは納屋を開け、吊るされているデニースとチアリーダーたちの死体を発見した。無線連絡を受けたワイデルはマザーに射殺され、ナイシュとドンはオーティスに殺された…。

脚本&監督はロブ・ゾンビ、製作はアンディー・グールド、共同製作はダニエル・シリング・ラヴェット、製作協力はジョエル・ハッチ&ロバート・K・ランバート、製作総指揮はアンディー・ギヴン&ガイ・オゼアリー、撮影はトム・リッチモンド&アレックス・ポッパス、編集はキャスリン・ヒモフ&ロバート・K・ランバート&ショーン・ランバート、衣装はアマンダ・フリードランド、特殊メイクアップ効果はウェイン・トス、音楽はロブ・ゾンビ&スコット・ハンフリー。
出演はシド・ヘイグ、ビル・モーズリー、シェリ・ムーン、カレン・ブラック、マイケル・J・ポラード、クリス・ハードウィック、エリン・ダニエルズ 、ジェニファー・ジョスティン、レイン・ウィルソン、ウォルトン・ゴギンズ、トム・トウルズ、マシュー・マッグローリー、ロバート・ミュークス、デニス・フィンプル、ハリソン・ヤング、ウィリアム・H・バセット、アーウィン・キーズ、チャド・バノン、デヴィッド・レイノルズ、ジョー・ドブズ三世、ウォルター・フェラン、ジェイク・マッキノン、グレッグ・ギブズ他。


メタルバンド“ホワイト・ゾンビ”を解散後はソロで活動していたミュージシャンのロブ・ゾンビが、初監督を務めた作品。
2000年に撮影されたものの、内容の過激さに難色を示したユニヴァーサル・ピクチャーズが配給してくれずに塩漬け状態となり、何度も編集を入れてMPAA(米国映画協会)のレーティングをR指定まで下げることで、ようやくライオンズ・ゲートが配給を引き受けてくれたという映画。
しかし、いざ公開すると大ヒットを記録し、続編も作られた。
スポールディングをシド・ヘイグ、オーティスをビル・モーズリー、ベイビーをシェリ・ムーン、マザーをカレン・ブラック、スタッキーをマイケル・J・ポラード、ジェリーをクリス・ハードウィック、デニースをエリン・ダニエルズ 、メアリーをジェニファー・ジョスティン、ビルをレイン・ウィルソン、スティーヴをウォルトン・ゴギンズ、ワイデルをトム・トウルズ、タイニーをマシュー・マッグローリー、ルーファスをロバート・ミュークス、グランパをデニス・フィンプルが演じている。

幾つかのキャラクターの名前は、マルクス兄弟の映画の登場人物から取られている。
「スポールディング」と「ラヴェリ」は1930年の『けだもの組合』、「ドリフトウッド」は1935年の『マルクス兄弟オペラは踊る』、「ファイアフライ」は1933年の『我輩はカモである』といった具合だ。
ホラー映画なのに、名前を拝借する対象とするのはコメディー映画なのね。
ロブ・ゾンビの中ではマルクス兄弟とホラー映画に何か共通項や関連性があるのかもしれないが、私には良く分からない。

ホラー映画の熱狂的マニアであるロブ・ゾンビが、これまでのホラー映画から美味しいトコを色々とチョイスして作り上げた作品である。
大まかなプロットはモロに『悪魔のいけにえ』なんだけど、ロブ・ゾンビがやると模倣じゃなくて「オマージュ」ってことになるんだろう。
まあ模倣でもオマージュでも、どっちでも面白ければ別に構わないんだけど、確実に言えることは、つまんないってことだ。
単なる出来の悪い『悪魔のいけにえ』の亜流作品という印象だ。

原題の『House of 1000 Corpses』に対して、日本語タイトルを『マーダー・ライド・ショー』にした配給会社のセンスは正しい。
まさに「ショー」なんだね、これは。残酷殺人ショーなのだ。
でも、ショーだからダメってわけではない。ケレン味たっぷりに殺人劇を装飾し、上手く演出してくれれば、それはそれで楽しめたかもしれない。
だけど、この作品にはショーとしての面白さが備わっていない。

冒頭のスポールディングとスタッキーの会話シーンなんかは、愉快な雰囲気が漂っている。
強盗が押し入るシーンでも、まだ喜劇の匂いが漂っている。
そこから殺人シーンには移行するが、何となく「あれっ、マジなホラーじゃないのかな。コメディー寄りのアプローチをしてくるのかな」と感じさせる。
取材するビルにスポールディングが激昂して詰め寄り、BGMも不安を煽るように盛り上がり、だけど不気味に笑ったスポールディングが「嘘だよーん。からかってみたかっただけ」と言う緊張から緩和へのシフトなんかも、明らかにコメディー寄りのノリだし。

マーダー・ライド・ショーのアトラクションも、殺人鬼のロウ人形が次々に登場するという風変わりなお化け屋敷みたいな内容なのだが、怖さは薄い。
ジェリーが興奮するほど面白くは無いけど、まだホラー・コメディーのテイストを引きずっている。
でも、それがダメってわけじゃなくて、むしろ「そういうノリのホラー・コメディーなら楽しめそうだ」という期待感が序盤は強かった。

ところが、いざファイアフライ家に舞台が移ると、テンションの高い変態一家による悪趣味な様子が延々と描かれるだけだ。
ホラー・コメディーとして演出しようという意識は、すっかり消え失せている。そこに「惨劇と喜劇は紙一重」としての面白さは感じられない。
っていうか、もしかするとファイアフライ家に舞台が移るまでの場面にしても、そもそもホラー・コメディーのテイストで演出しようという意識は無かったのかもしれない。
たまたま喜劇的なノリが混じっただけなのかもしれない。

コメディー的な要素が消えても、純然たるホラー映画として面白ければ別にいいだろう。
しかしメリハリとかチェンジ・オブ・ペースとか、そういうことに対する意識が乏しくて、とにかく悪趣味なシーンを順番に描いているというだけなので、まるで気持ちが高まらない。
退屈なアトラクション、もしくは退屈なプロモーション映像を延々と見せられているという感じだ。
これが5分や10分程度ならPVとして楽しめただろうけど、長編映画としては厳しい。
ただ単に狂ったキャラクターや残酷描写を幾つも盛り込めば、それだけで面白いホラー映画が出来上がるわけではないのだ。

イメージ・ショット的に粗い画質の映像が何度も挿入されたり、分割画面を使ったりという演出も、あまり効果的に作用しているとは思えない。
むしろ、それによってPV的なテイストが強まることが、映画としての「軽さ」に繋がっているように思える。
そう、これってファイアフライ一家のキャラクターにしろ、残酷な殺人劇にしろ、なんか軽いんだよな。
ファイアフライ一家は確かに変態で残虐的な連中なのだが、キチガイっぷりに今一つ深みや厚みが感じられないし。

そういったファイアフライ一家だけでなく、惨劇がショー的に演出されていることも含め、背筋がゾッとするような恐怖ってのは感じない。
あくまでも「絵空事」だなあっていう印章が強くて、だから安心して見ていられるっていうか。
そうなると、ホラーとしてはどうなのかってことになる。
それなら、最後まで徹底してホラー・コメディーとしての色合いを強くしちゃった方が良かったんじゃないかと。

あと、ファイアフライ邸に入ると、どう考えても不気味でヤバそうな連中が揃っていて、すぐにでも逃げ出したくなるような雰囲気なのに、ジェリーやビルは能天気にサタンのことを尋ねたり、ショーを見て喜んだりと、まるで危機感が無いんだよね。デニースとメアリーにしても、ファイアフライ家の面々を恐れている様子は薄い。
劇中で危機感を持つべき立場にいる奴がアーパー丸出しで、ちっとも怖さを感じていないんだから、こっちが感じる怖さが薄まるのは当然だろう。
4人は一家に襲われて、ようやく本気で怖がるのだが、それは開始から40分辺りだから、裏を返せば、それまでは本気で怖がっていないってことになる。それは遅いんじゃないかと。
ビルに至っては本気で怖がる暇も無く、襲われた次のシーンでは殺されてるし。

それと「殺人劇」とか「殺人ショー」って書いちゃったけど、実は殺害を実行するシーンの描写って、あんまり無いんだよね。チアガールにしろ、ジェリーやビルにしろ、その手順を省略して死体になってしまう。
もしかすると、殺害シーンを撮影していて、レーティングをクリアするためにカットしたのかもしれないが。
ワイデル、ドン、ナイシュが次々に殺されるシーンは直接的な描写があるけど、全て淡白な銃殺であって、何の残虐性もケレン味も無いからね。
メアリーがベイビーに何度も刺される終盤のシーンにしても、そんなに残虐風味は濃くないし。

終盤には、ゾンビ化した連中が襲って来るとか、洞窟にドクター・サタンの手術室が設置されているとか、改造人間が追い掛けて来るとか、そういった展開が待ち受けているが、明らかに欲張り過ぎ。
なんで恐怖の対象をファイアフライ一家に限定しておかないのかと。
それと、ファイアフライ一家よりスポールディングの方が、よっぽどクレイジーな奴に見えてしまう。
彼を大活躍させてくれた方が、面白かったんじゃないかと思えてしまう。
序盤でアクの強い存在感を発揮していたのに、それ以降はほぼ消えちゃってるのが勿体無いと思う。

(観賞日:2013年10月3日)


第26回スティンカーズ最悪映画賞(2003年)

ノミネート:【最悪の助演女優】部門[カレン・ブラック]
ノミネート:【最もインチキな言葉づかい(男性)】部門[ウォルトン・ゴギンズ]
ノミネート:【最もインチキな言葉づかい(女性)】部門[カレン・ブラック]
ノミネート:【最もでしゃばりな音楽】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会