『メル・ブルックス/珍説世界史PARTI』:1981、アメリカ

今から約二千万年前、地球には猿に似た生き物が住んでいた。猿は立ち上がり、そして人間になった。
[石器時代]
当時の人間にとって火は最も貴重な財産だった。肉や魚を焼き、洞窟を温めてくれる火を起こすことが出来なければ、一族は死を待つしかない。原始的な人間も、物を創造する心は生まれながらにして持っていた。何かを作り出したいという欲求こそが、動物と異なる決定的な点だ。北米大陸の小さな洞窟で、約200万年前に人類最初の芸術家が誕生した。それは同時に批評家という副産物も生み出した。
様々な武器の中で、人間が最初に作り出したのは槍だった。死の意味や原因について、まだ古代人は良く知らなかった。そのために彼らは、より死を厳粛に受け止めた。だが、当時は手の込んだ埋葬の儀式など無く、死者への対応はあっさりしていた。音符という形式を取る以前から、音楽は存在していた。それは、ちょっとした偶然から誕生したものだった。仲間の叫び声のトーンが耳に心地良いと感じた男が、それを使うことで音楽を誕生させたのだ。
[旧約聖書]
シナイ山頂で、神はモーゼに啓示を与えた。神は「そなたに戒律を授ける。人々に広めるのだ」と告げ、15の戒律を刻んだ3枚の石板をモーゼに与えた。しかしモーゼは1枚を落としてしまったため、10の戒律になってしまった。
[ローマ帝国]
繁栄する町に様々な露店が出て人々が集まる一方、失業保険の支払い所には行列が出来ている。大道芸人のように哲学を説いている自称「即興哲学者」のコミカスも、行列の中にいた。そこにマネージャーのスイフタスが駆け付け、やっと仕事が入ったことを告げる。彼からシーザース・パレスの宴に出演できると聞き、コミカスは興奮した。2人が奴隷市が行われている広場を通り掛かると、売れ残った黒人のジョセファスがコロシアムに連行されるところだった。何とか免れようとして発した彼の嘘に、集まった人々は笑った。ジョセファスは「俺を生かしておけば大儲けできるぜ」と言い、得意のサンド・ダンスを役人の前で披露した。
転倒した馬を御者が鞭で打つのを見た修道女のミリアムが、止めに入った。御者が彼女を鞭で打とうとするので、コミカスが殴り倒した。コミカスは蹄鉄に挟まっている石を見つけ、それが転倒の原因だと気付いた。スイフタスは、それが競技場の戦車レースで優勝していたミラクルという名の馬だと思い出した。御者が立ち上がって背後からコミカスに殴り掛かろうとするが、ジョセファスが退治した。
ニンフ皇后の駕籠が広場にやって来たので、ミリアムはジョセファスの助命を嘆願して了承された。ローマ軍はスパルタとの戦いに勝利し、指揮官のマーカスが報告のためにシーザース・パレスへやって来た。彼が戦利品として財宝と美女を見せると、シーザー皇帝は大喜びした。財宝に夢中になっている間に、マーカスは好意を寄せるニンフへの愛を語るが軽くあしらわれた。コミカスはシーザー皇帝の前でジョークを連発し、笑いを取った。
調子に乗ったコミカスは不用意な発言でシーザーの怒りを買ってしまい、酒をこぼしたジョセファスとの決闘を命じられた。コミカスとジョセファスはローマ兵たちと戦い、ミリアムの協力を得て宮殿から逃げ出した。スイフタスと合流したコミカスたちは兵隊に見つかり、ミラクルの馬車で逃走した。マリファナの葉を見つけたジョセファスは紙に巻いて煙草を作り、追って来る兵隊に煙を浴びせた。
兵隊を撒いたコミカスたちだが、川に行く手を遮られる。だが、その場にいたモーゼが川を真っ二つに割ってくれた。船でユダヤに渡った4人は、仕事を探した。給仕になったコミカスは、小さな晩餐会が開かれているという部屋へ注文を取りに行く。すると、そこではイエス・キリストが12人の使徒と最後の晩餐を取っていた。そこへ依頼を受けたレオナルド・ダ・ヴィンチが現われ、肖像画を描くことになった。ダ・ヴィンチが全員に指示して場所を移動させると、絵の中にコミカスも入り込んだ。
[異端審問]
異端者たちは次々に捕まり、過酷な拷問を与えられた。裁判官のトルケマダは異端者に改宗を迫り、逆らう者は火あぶりの刑に処した。拘束された面々は、「誰にも迷惑を掛けちゃいない、ただヘブライ語のミサを聞いていただけなのに地下牢に入れられた」「座って鶏の羽根をむしっていただけなのに拷問を受けた」などと不満を吐露した。その日に改宗した異端者が1人もいないことを部下から聞かされたトルケマダは、尼僧たちを呼び出した。
[フランス革命]
パリ。ドヤ街で安宿を営むマダム・デファルジュは、不満を溜め込んでいる貧乏人仲間と共に集会を開いた。彼女は「私たちには新しい言葉が必要だ。その言葉で歌を作ろう。今こそ立ち上がる時だ」と訴え掛けた。一方、ルイ16世は宮廷で人間チェスを楽しんでいた。そこへ来たモネ伯爵は彼の愚かさに呆れるが、王冠を守り通す必要性は感じていた。ハンブルという美女がルイ16世の前に現れ、16年間も牢獄に入れられている父を釈放してほしいと嘆願した。ルイ16世は彼女に、体と引き換えに助けてやると持ち掛けた。
モネはルイ16世に、不満を抱く民衆が革命を起こしそうな雰囲気があることを知らせた。彼はパリを離れて身を隠すよう提案し、替え玉を見つけたことを告げる。その替え玉とは、宮廷で貴族の排尿をバケツに受ける仕事をしている小便男のジャックだ。ジャックの顔を見たルイ16世は、その案に同意した。そこでモネはジャックにホクロとヒゲを付け、服を着替えさせてルイ16世の影武者に仕立て上げた…。

監督&脚本&製作はメル・ブルックス、製作協力はスチュアート・コーンフェルド&アラン・ジョンソン、撮影はウディー・オーメンズ、編集はジョン・C・ハワード、美術はハロルド・ミケルソン、衣装はパトリシア・ノリス、特殊効果監修はアルバート・J・ウィットロック、振付はアラン・ジョンソン、音楽はジョン・モリス。
出演はメル・ブルックス、ドム・デルイーズ、マデリーン・カーン、メアリー=マーガレット・ヒュームズ、ハーヴェイ・コーマン、クロリス・リーチマン、ロン・ケアリー、グレゴリー・ハインズ、パメラ・スティーヴンソン、シェッキー・グリーン、シド・シーザー、ジョン・ハート、スパイク・ミリガン、ヒュー・ヘフナー、ポール・マザースキー、ジャッキー・メイソン、アート・メトラーノ、ナイジェル・ホーソーン、ジャック・カーター、ルディー・デルーカ、ロニー・グレアム、アール・フィン他。


『ヤング・フランケンシュタイン』『サイレント・ムービー』のメル・ブルックスが監督&脚本&製作&主演を兼ねた作品。
ブルックスはモーゼ&コミカス&トルケマダ&ジャック&ルイ16世の5役を演じている。
人類創生を描くプロローグの後、「石器時代」「旧約聖書」「ローマ帝国」「異端審問」「フランス革命」という5つのパートがあり、パート2の予告編が最後に付いている。
パート2は存在しないが、実際に続編を作ろうと狙っていたわけではなく、偽の予告編というネタだ。

シーザーをドム・デルイーズ、ニンフをマデリーン・カーン、ミリアムをメアリー=マーガレット・ヒュームズ、モネをハーヴェイ・コーマン、デファルジュをクロリス・リーチマン、スイフタスをロン・ケアリー、ジョセファスをグレゴリー・ハインズ、ハンブルをパメラ・スティーヴンソン、マーカスをシェッキー・グリーン、洞穴人のボスをシド・シーザーが演じている。
ローマ帝国のパートでは、『ミッドナイト・エクスプレス』『エレファント・マン』のジョン・ハートがキリスト役、『ハリーとトント』『結婚しない女』の監督で脚本家のポール・マザースキーがローマ将校の役、PLAYBOY社の創刊者であるヒュー・ヘフナーが興行師の役で出演。後に『ポリスアカデミー』シリーズの2&3作目でマウザーを演じるアート・メトラーノがダ・ヴィンチ役、『サイレント・ムービー』『メル・ブルックス/新サイコ』の脚本を手掛けたバリー・レヴィンソンがコラムを売る男の役で出演している。
異端審問のパートでは、捕まったユダヤ人の一人としてスタンダップ・コメディアンのジャッキー・メイソンが出演。フランス革命のパートでは、英国でコメディアンや作家として活躍したスパイク・ミリガンがハンブルの父親役で、後に『英国万歳!』で英国アカデミー賞主演男優賞を受賞するナイジェル・ホーソーンが役人として、1980年の映画『アリゲーター』で市長を演じるジャック・カーターがネズミ売りとして出演している。

冒頭シーンでは、紀元前3000年前の猿たちが登場する。『2001年宇宙の旅』のようにリヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラツストラはかく語りき』が流れる中、オーソン・ウェルズが「猿は立ち上がり、そして人間になった」というナレーションで猿たちが立ち上がり、オナニーを始める。
ここは、その下ネタを見せるだけのショートコント。
猿たちが倒れたところで、タイトルが表示される。
掴みからいきなり下ネタってことで、「この映画は、そういうノリのコメディーです」ってことをアピールしている。

石器時代のパートは、ショートコント集のような構成になっている。
まずは「洞窟を温めてくれる火を起こすことが出来なければ、一族は死を待つしかない」といったオーソン・ウェルズのナレーションに乗せて、火を巡るスケッチが描かれる。火打ち石で火を起こそうとしているが全く付かない男の元へ、仲間が松明の火を持って来る。男は感謝し、その火を集めた藁に付けようとはせずに、火であぶった石を藁の中に放り込む。
「芸術家も生まれ、批評家も生まれた」というスケッチは、批評家が馬の壁画に小便を引っ掛けて終わり。
それって、何のオチも付いていないぞ。
「紀元前百万年頃のホモ・サピエンスの結婚は、このようなものだった」と語られるスケッチでは、まず男が女を棍棒で殴って洞穴へ連れ込む。続いて「こちらはホモセクシャルの結婚」とナレーションが入り、男が男をこん棒で殴って洞穴へ連れ込む。
これまた、何のオチにもなっていない。
ひょっとすると、「ホモ・サピエンス」と「ホモセクシャル」の言葉遊びだけなのか。

男が槍を作るスケッチでは、それを投げて仲間の腹に突き刺さっても、武器の威力に喜ぶだけで放置する。
続いて死や埋葬の儀式に関するナレーションが語られ、「死者への対応はあっさりしていた」とう言葉と共に、洞穴人たちが死体を外へ荒っぽく放り投げる。
これはオチが付いているとは言えるが、「まあ、そうなるだろうな」という予想の最低限のレベルにしか達していない。
予定調和でも笑えるモノもあるだろうけど、これは笑えない。

「原始時代の人々にも、笑いは必要だった」というナレーションが入るスケッチでは、1人の洞穴人が変な動きで笑わせようとするが仲間は笑わず、恐竜に食われて大笑いする。
ここも前のスケッチと同様で、先に恐竜が出て来るから不意打ち的な笑いにもなっていないし、笑えない予定調和でしかない。
この辺りは、オーソン・ウェルズの厳粛なナレーションに乗せて、厳粛ではない内容が描かれるというギャップだけに頼って、そこで 何とか喜劇としての形を保っている。
残念ながら、決して面白くはないが。

「音符という形式を取る以前から、音楽は存在していた」と語られるスケッチでは、男が誤って石を仲間の足に落としたら叫び声が上がりで、それを再び聞くために、また石を落として叫ばせる様子が描かれる。
そこに笑いは無いけど、オチに向けた流れとしては理解できる。
ところが、「かくして音楽は誕生した」と語られて描かれるのは、男が仲間たちを並ばせて普通にハレルヤを歌わせているだけの映像だ。石を持っている奴はいるけど、そいつらは地面を叩いて音を鳴らしているだけ。
だから、そこに面白味は何も無い。

旧約聖書のパートは、一発ネタのショートコント。
ここはモーゼに関する有名なエピソードを茶化す形になっているので、喜劇としては非常に分かりやすい。
続くローマ帝国のパートは、元ネタになる物語が無いのが大きなマイナスになっている。つまり、パロディーとして成立しないのだ。
「モーゼが両手を掲げて川を真っ二つに割ってくれるけど、実は強盗に襲われてホールドアップしていただけ」とか、「キリストと12人の使徒の絵をダ・ヴィンチが描く時にコミカスも入り込む」とか、歴史上の有名人の有名なエピソードを使ったネタは含まれているものの、それは後半部分に少しだけ。
メインの4人は有名人じゃないから、そういうパロディーも多くは使えない。

パロディーが少ないので、基本的にはドリフの超劣化版みたいなヌルいコント、これっぽっちも笑えないコントを見せられる羽目になる。
たまにストレートで幼稚な下ネタが出て来るが、そういうのを増やして、徹底して「下ネタだらけの下品な喜劇」にしてしまった方が、まだ何とかなったんじゃないかと思ってしまう。
コミカスのジョークより、ニンフが下半身丸出しで並ばせたローマ兵(でも甲冑や兜は着けている)のチンコをチェックするシーンとか、そういうネタの方が、まだ何とかなりそうなんだよな。

もっとドタバタ劇の色が濃くなっていれば、もうちょっと楽しめたんじゃないかという気もするけど、アクションよりも言葉で笑いを取ろうとする意識が強いんだよな。
その一方、オーソン・ウェルズのナレーションは、このパートは使われていないんだよな。
そんで、ここが全てのパートの中で最も残念な仕上がりなのに(他が面白いわけでもないけど)、困ったことにダントツで長いんだよな。
45分ぐらいあるのよ。全体が92分だから、ほぼ半分を割いているのよね。
正直に言って、かなりキツいぞ。

異端審問のパートは、ミュージカル形式になっている。
メル・ブルックスはミュージカル好きな人だから、ここは丁寧に作られている。メル・ブルックス本人がメインとして登場するのだが、歌も踊りもキッチリとやっている。
バックダンサーの踊りも、動くタイミングはもちろんのこと、手や足の角度まで見事に合わせている。尼僧たちが登場すると、水着姿になって水中レヴューが繰り広げられる。
このパートは、MGMミュージカルが好きな人なら間違いなく楽しめるはずだ。
個人的にも、ここは文句無しで楽しかった。

フランス革命のパートは、ローマ帝国のパートと同じような構成になる。
しかし、こちらはローマ帝国のパートより短い約25分の尺だし、下ネタが多めということもあって、かなりマシ。とは言え、貞淑に見えて実は好きモノっぽいマドモアゼル・ハンブルのキャラや、王の影武者というネタが中途半端な扱いに留まっているなど、笑いの爆発力は無い。
で、最後に続編に向けた予告が入り、「氷上でフィギュアスケートをするヒトラー」「葬儀でヴァイキングが兜を取ったら、兜に付いているように見えていた角が実は頭から生えていた」という短いネタが描かれる。
最後は「宇宙のユダヤ人」というネタで、宇宙船で戦うユダヤ人が勇ましい主題歌と共に描かれる。
その「宇宙のユダヤ人」だけは、仮に話を膨らませたとして、ちょっと面白くなりそうな可能性を感じさせるモノではあるかな。

(観賞日:2014年9月12日)


第4回(1981年)スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:作品賞

 

*ポンコツ映画愛護協会