『マンハッタン恋愛セラピー』:2006、アメリカ

ニューヨークの広告代理店に勤務するグレイ・ボールドウィンと研修医をしている兄のサムは、大の仲良しだ。2人は一緒に暮らし、同じダンス教室に通ってペアを組んでいる。グレイが同僚のキャリーやエレインたちを自宅に招いてパーティーを開いた時も、サムと恋人だと誤解されるほどだった。タクシーに乗ったグレイは、互いに合う恋人を見つけようとサムに提案した。グレイが自分のタイプを詳しく説明すると、それを聞いていた運転手のゴーディーが「それは無理だよ」と軽く笑った。
翌日、グレイはスポーツウェアの販促キャンペーンを決める会議に出席し、プレゼンを行った。幹部のジョーダンは気に入った様子を示すが、社長のジュリアは「ダメね」と一蹴した。グレイは出張セラピストのシドニーから、兄以外の人と共同生活することを意識すべきだと助言される。翌日、グレイはサムを誘い、ドッグパークへ出掛けた。彼女はチャーリーという女性に目を留め、声を掛けるようサムに促す。サムが消極的だったので、グレイは自らチャーリーに話し掛けた。
グレイが立て続けにプライベートな質問をすると、チャーリーは嫌がることも無く笑顔で答えた。チャーリーがサムにピッタリだと感じた彼女は、兄を呼び寄せた。チャーリーは動物学者で、水族館で研修中だった。サンフランシスコから3週間前に来たばかりで、現在は友人の家に居候しているという。サムはグレイに背中を押され、チャーリーを夕食に誘った。3人はスペイン料理店へ出掛け、音楽に合わせて楽しく踊った。
帰り道、3人は映画の話題で大いに盛り上がる。もう早朝になっていたがチャーリーは「目が冴えちゃったわ」と言い、サムは「僕もだ。もう一杯どう?」と誘う。チャーリーはOKし、グレイも乗り気になる。しかしサムが「朝の会議は?」と告げたのでグレイは2人にしてほしいのだと気付き、先に帰ることにした。グレイが家に入るのも待たずに、チャーリーとサムは熱烈なキスをした。その様子を見つめてから、グレイは自宅アパートに戻った。
チャーリーとのデートから戻ったサムは、「彼女にプロポーズしたら、OKを貰った。週末にはベガスで結婚式だ」と興奮した様子でグレイに話す。グレイは「結婚しろとは言ってないわ。出会って1日で結婚なんて」と動揺するが、サムの気持ちは変わらなかった。彼はグレイに、「明日、ウェディングドレスの試着に付き合ってくれ。彼女、こっちに友達がいないから」と言う。グレイはチャーリーに、「本当にいいの?」と問い掛ける。するとチャーリーは笑顔で、「正直に言うと、公園で彼に一目惚れしたの」と告げた。
グレイはキャリーに、兄が週末に結婚式を挙げることを明かす。グレイが「しかも止める理由が無い。彼女は賢くて美人で、いい子なの」と、嘆くように吐露した。週末、グレイ、チャーリー、サムは3人でラスベガスのホテルへ行く。サムはチャーリーと同じ部屋に泊まるつもりだったが、グレイは「結婚前夜は女たちだけで過ごす」という慣習を持ち出した。彼女は「花嫁に会うのは明朝よ」と言い、自分が予約した部屋に移るようサムに指示した。サムは嫌がるが、チャーリーの説得を受けて承諾した。
グレイとチャーリーは一緒に入浴し、シャンパンを飲んだ。チャーリーはグレイに、まだグレイとセックスしていないことを打ち明けた。グレイはチャーリーを連れて、グロリア・ゲイナーのショーに出掛けた。グレイはサプライズを用意しており、グロリアはチャーリーをステージに上げてデュエットに誘う。チャーリーがグレイも引っ張り上げ、3人で楽しく歌う。チャーリーは泥酔して部屋に戻り、グレイが彼女の服を脱がせる。チャーリーがグレイを抱き締めて頬にキスし、グレイもキスを返した。それを何度も繰り返した後、2人は唇を重ねた。グレイは「なんてこと」と動揺するが、グレイはそのまま眠り込んでしまった。
グレイは動揺のせいで一睡も出来ず、そのまま朝を迎えた。チャーリーが目を覚ましたので、グレイは「話し合いましょう」と告げる。しかしチャーリーは、昨夜の出来事を全く覚えていなかった。グレイは困惑の気持ちを隠したまま、チャーリーとサムの結婚式に参列した。ニューヨークに戻ったグレイはシドニーに電話を掛け、「どうやら自分はゲイらしいの。待ってた相手は女性だと気付いたの。その相手にキスした。彼女のことが好きだし、自分が嫌になる」と吐露する。
シドニーは穏やかな態度で接していたが、グレイが好きになった相手がサムの奥さんと聞かされると、さすがに狼狽を隠せなかった。彼女はグレイに、「貴方はゲイじゃないわ。貴方は彼女に嫉妬して、結婚を妨害しようとしたのよ」と告げる。グレイは納得できない様子を見せるが、シドニーは「サムのことは忘れて、外に出てデートしなさい」と述べた。グレイはトレヴァーという男性と出会い、少し会話を交わしただけで食事に誘った。その直後に同僚のコンラッドと会うと、グレイは同じ店で2時間前に食事する約束を交わした。
グレイはサムから引っ越してほしいと持ち掛けられ、「追い出すなんて。私が部屋を飾ったのよ」と抗議する。そこへチャーリーが来て事情を知ると、「私が職員になったら引っ越すわ。3人での生活は気に入ってる」と告げる。その夜、グレイがタクシーでデートの約束をした店へ向かうと、運転手はゴーディーだった。グレイがタクシーを降りると、ゴーディーは「帰りも乗せるよ。そうだな、深夜12時頃、迎えに来るよ。タダで」と告げた。
グレイはレストランでコンラッドと食事するが、彼が「僕は君のお仕置きを待つセックスマシーンだ」などと下品な様子で口にしたので、すぐに会計を済ませた。2時間後、グレイはトレヴァーと会食し、今度は話が弾んだ。しかしトレヴァーは、自分が同性愛者だと告白した。グレイは迎えに来たゴーディーに、落胆する気持ちを吐露した。するとゴーディーは彼女を高層ビルの屋上へ連れて行き、夜景を見せた。その見晴らしとゴーディーの優しい態度で、グレイは元気を取り戻した。
ゴーディーはグレイにキスをするが、その様子を見て、すぐに彼女がレズビアンだと気付いた。「どうすればいい?」とグレイが相談すると、ゴーディーは「簡単さ。自分の人生を行く。本当の自分を生きるんだ」とアドバイスを送った。グレイが帰宅すると、チャーリーが一人でミュージカル映画『雲流るるはてに』を見ていた。グレイはチャーリーを誘い、一緒に踊る。グレイはチャーリーにキスしようとするが、サムが来たので慌てて手を放した。しかし翌日、彼女は兄に真実を告白することにした…。

脚本&監督はスー・クレイマー、製作はボブ・ヤーリ&ジョン・ヘルマンセン&ジル・フットリック&スー・クレイマー、共同製作はレイチェル・ピータース&トッド・ウィリアムズ、製作総指揮はアレクサンダー・ペイン&マーガレット・ライリー&ダイアン・ナバトフ&テッド・リーボヴィッツ&ジョーイ・ホーヴィッツ、製作協力はデイヴ・ギャレ、撮影はジョン・バートレイ、編集はウェンディー・スタンツラー、編集協力はヒラリー・ピーボディー、美術はリンダ・デル・ロザリオ&リチャード・パリス、衣装はシーラ・ビンガム、振付はA・C・クイッラ、音楽はアンドリュー・ホランダー、音楽監修はリチャード・グラッサー&ジム・ブラック。
出演はヘザー・グレアム、ブリジット・モイナハン、トム・カヴァナー、シシー・スペイセク、アラン・カミング、モリー・シャノン、レイチェル・シェリー、ビル・モンディー、ドン・アッカーマン、ウォーレン・クリスティー、グロリア・ゲイナー、エイプリル・アンバー・テレク、サマンサ・フェリス、ベンジャミン・ラトナー、ティモシー・ポール・ロペス、キャンベル・レイン、アレハンドロ・アベラン、ダン・ジョフレ、パティー・アレン、リチャード・イアン・コックス、ジリアン・ハッチソン、カレン・デ・ジルヴァ他。


『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』の監督&脚本家であるアレクサンダー・ペインが製作総指揮を担当した作品。
監督のスー・クレイマーはUCLAフィルム・スクールの卒業生で、これが脚本家としても監督としてもデビュー作。
グレイをヘザー・グレアム、チャーリーをブリジット・モイナハン、サムをトム・カヴァナー、シドニーをシシー・スペイセク、ゴーディーをアラン・カミング、キャリーをモリー・シャノン、ジュリアをレイチェル・シェリー、ジョーダンをビル・モンディー、コンラッドをドン・アッカーマン、トレヴァーをウォーレン・クリスティーが演じている。

冒頭、ヘザー・グレアムとトム・カヴァナーが『Cheek to Cheek』に合わせて踊るシーンは、見ていて単純に楽しい。2人が恋人同士の設定で、そのまま「仲良し2人のハッピーな恋愛劇」という内容でも一向に構わないんじゃないかと思うぐらいだ。
恋人じゃなくて兄妹という設定だが、だったら仲の良い兄妹の絆の深さを描く明るく楽しい物語にすればいい。そんなにドラマティックな展開が無かったとしても、冒頭のダンスシーンのような楽しさを感じさせてくれるなら、それでもOKだと思った。
しかし残念ながら、そういう話になっていないどころか、兄妹の関係性は、あまり活用されていない。最初に「兄妹は恋人と間違えられるぐらい仲良し」という設定が描写されているのに、その要素は序盤だけで使われなくなってしまう。
もはや、「グレイとサムは、特別に仲がいいというほどでもないけど、ごく一般的なレベルで仲良くしていた」という設定だとしても、そんなに変わらないのである。

最初にグレイが同僚たちから勘違いされるほどサムと仲良しであることが描写され、次にグレイのアイデアがジュリアに一蹴される様子が示される。カットが切り替わるボウリング場になり、グレイがシドニーから「兄以外の人と共同生活することを意識すべき」と助言される。
この導入部の繋ぎ方が、どうにもスムーズじゃない。
兄妹の関係を描写した後、ひとまずグレイの仕事関係の様子を入れるのは、構成としては間違っていない。ただし、それ以降の展開を考えると、それも兄妹関係に繋げることを意識しておくべきだろう。この映画の導入部は、そこが上手く行っていない。
シドニーの助言の内容で兄妹関係に言及しているので、表面的には繋がっている形になっている。だが、それは「全く関係が無いのに、無理に繋げようとして粗いツギハギがモロに見えている」という状態なのだ。

まず、なぜグレイが出張セラピーを呼んだのか、その理由がサッパリ分からない。
その前に仕事で上司からプレゼンのダメ出しを受けているので、それぐらいしか理由は思い当たらないが、だとしても腑に落ちるモノではなく、むしろ「その程度でセラピーに頼るのか」と思ってしまう。
仕事で落ち込んだのなら、それこそ仲良しの兄に相談すればいいんじゃないのかと思ってしまう。
しかも、どうやらグレイは、以前からセラピーに通っている様子なのよね。ってことは仕事のダメ出しが原因ってわけじゃなくて他の理由でセラピーに頼っているってことなんだろうけど、その理由は全く分からない。

グレイはシドニーに「なぜ選択を間違えるの?」と相談しているが、ジュリアのダメ出しを受けた後、そういう相談内容になる感覚も良く分からない。
もしも仕事のダメ出しとは無関係の相談だとすれば、ますますグレイの心境は分からない。
その質問に対してシドニーが「兄以外の人と生活することを意識すべき」と助言するのも、まるで関連性が分からない。
だから、ものすごく強引に兄妹関係に繋げようとしているとしか感じられない。

グレイが「サムに恋人を見つける」という目的でドッグパークへ連れ出すのも、お世辞にもスムーズとは言い難い展開だ。そんなに無理をしてまで、早急にサムの恋人を見つけようとする必要性が見えないからだ。
サム本人が望んでいるのならともかく、そういうことではない。そしてグレイにとっても、早くサムに恋人を見つけないと困る理由があるわけでもない。今まで兄妹で仲良く暮らしてきたわけで、それを壊さなきゃいけないという強い意識をグレイが持つに至る事情や心情がサッパリ見えて来ないのだ。
むしろ、例えば「兄妹で仲良くやっていたし、それで幸せを感じていたけど、たまたまチャーリーと出会ってサムと彼女が惹かれ合い、その関係性に変化が訪れる」という形にでもした方が、流れとしてはスムーズだったんじゃないかと思うのよ。グレイが今までの兄妹関係を積極的に変えようとする必要性なんて、全く無かったんじゃないかと。
サムとチャーリーが仲良くなるまでの経緯が本作品で描写されている形であろうと、私が提案した形であろうと、それ以降の展開には、それほど大きな影響を与えないはずだし。

最初はサムに恋人を作ろうと積極的に動き、チャーリーと仲良くなって喜んでいたグレイは、翌日に兄が結婚を決めたと知ると激しい動揺を示す。彼女は結婚に反対し、チャーリーに対しても「本当に兄でいいの?ゲームでズルするし、イビキはうるさいし、背中も毛深い」とサムの欠点をバラす。チャーリーのセクシーなランジェリーを見ると、「なんか、いやらしい」と顔をしかめる。
それは最初の内、「兄が他の女性に取られることを嫌がっている」という兄離れできない心情から来る態度なのかと観客には思わせる。
しかし、2人だけのバチェロレッタ・パーティーでグレイはチャーリーにキスして、自分が彼女に恋愛感情を抱いていると気付く。
その展開は、もちろん「最初は兄を取られたくない気持ちだと思わせておいて実は〜」というサプライズを狙ったモノだろう。実際、そこに意外性や驚きがあるのかと問われたら、答えはイエスだ。
ただし、意外性はあるが、「意外な展開」を考えたところで思考が停止していると感じる。ようするに、その展開に説得力を持たせるための作業が、全く行われていないのだ。

グレイがチャーリーに惚れていると気付いた時に、本来ならば、「あの時のアレは、そういう気持ちから来る行動や表情だったのか」と思わせるような伏線が用意されているべきなのだ。
しかし実際には、そういうのは皆無に等しい。
あえて伏線らしきモノを見つけるなら、チャーリーとサムのキスをグレイが見つめている時の複雑そうな表情ぐらいだ。
それを「兄を取られると感じた表情ではなく、チャーリーが好きなので複雑な表情になったのだ」と、後から解釈することは出来なくも無い。しかし、それだって、こじつけに近い。

バチェロレッタ・パーティーでキスするまでの展開の中で、後から考えて「グレイは自分でも気付かない内にチャーリーに惹かれていた」と感じさせるような描写は、全く見当たらない。
だから、「実はチャーリーに惹かれていたと気付く」という意外性は全く歓迎できるモノではなく、ただ唖然とするだけなのだ。
終盤、グレイが「私はゲイなの」と打ち明けるとサムは「昔から知ってた」と言うけど、こっちには全く分からなかったぞ。そもそも「グレイが自分は異性愛者ではなくレズビアンだと気付く」という展開の時点で、相当に無理があるし。
せめて仲良しの相手が姉で、「姉の結婚相手である男に自分も惹かれていることに気付く」というだけなら、まだ何とかなったかもしれない。
しかし、この映画は「同性愛」という要素を盛り込んでいるので越えるべきハードルが高くなっており、そのハードルを越えるだけの能力をシナリオが持ち合わせていない。

あと、そもそもキスのシーンからして、グレイが激しく動揺している様子が腑に落ちないんだよな。
頬にキスする流れから唇を重ねているだけで、そこまで変だとも感じなかったのよ。別に女性同士であっても、そこまでエロエロな雰囲気じゃなくて、まあ酔っ払った弾みだし、遊び半分、軽い気持ちでキスしただけにしか見えなかったので、「どうしよう、大変だわ、ああ神様」と激しく動揺するのが、どうも「無理にキャラを動かしている」という印象に写ってしまうのだ。
あえて擁護すると、それは「キスをしたことで自分がチャーリーに惚れているという感情をハッキリと示してしまったので、そのことに対して動揺したのだ」と解釈することは出来る。
ただし前述したように、そこまでにグレイがチャーリーに惚れていることを示す描写が皆無だったので、その解釈を受け入れることは難しい。
それに、そこでグレイを激しく動揺させるのであれば、彼女がチャーリーに惚れていることを隠したまま進めるのではなく、むしろ「密かに惚れているけど、兄の結婚相手だから気持ちを隠している」ということを示して話を進めた方がいいし。

しかも、キスの時点では、まだグレイは「自分はレズビアンである」ってことを、完全に自覚しているわけではないんだよね。そのキスがきっかけで、「ひょっとするとレズビアンなのではないか」と疑いを抱くようになるのだ。
そうであるならば、「キスして激しく狼狽し、大変だと焦りまくる」というリアクションは、ちょっと引っ掛かる。
それは「兄の結婚相手に恋する気持ちを態度で示してしまった」というひとに対する同様にしか見えないからだ。
しかし、自分がレズビアンだと気付いていなかったのであれば、それだけでなく「まさか自分は女性が好きなのか」ということに対する戸惑いも生じるはず。そのことが、そのシーンからは全く伝わらないのだ。

ニューヨークに戻ったグレイはシドニーに電話を掛け、チャーリーに恋したことを相談する。しかし、その前に「グレイはホットドッグ屋台の近くを歩く女性と目が合い、彼女の下着姿を妄想してしまう」という描写があり、その直後にシドニーと連絡を取っている。
そうなると、「チャーリーに惹かれてしまった」ということが問題なのではなく、「レズビアンだと分かった」ということが問題なのだという風に見えてしまう。
そして、そういうことで悩んでいるのであれば、「自分はレズビアンである」という自覚を持つことが出来れば問題は解決するし、恋の相手がチャーリーじゃなくても別にいいんじゃないかと思えてしまうのだ。
結局、「ヒロインが兄の結婚相手に恋をしてしまう」「ヒロインが自分はレズビアンだと気付く」という2つの要素を盛り込んだ結果、それを相乗効果を生まず、互いに邪魔し合ってしまったということなのだ。

グレイはゴーディーから「本当の自分を生きるんだ」と助言され、キャリーの「なぜ社会は素直な生き方を認めないの?」という言葉に突き動かされる。
「自分に正直に生きるべきだ」というメッセージが「同性愛者であることを隠す必要は無い」ということに繋がるのなら、それは理解できる。しかし本作品の場合、グレイがレズビアンをカミングアウトしても、それで問題は解決しない。
彼女の場合、好きな相手が兄の奥さんだという問題がある。
そして、そこは基本的に、分けて考えるべき問題なのだ。

グレイがレズであろうと、そんなのは一向に構わない。しかし惚れた相手が兄の奥さんだと、話は別だ。
そこに関しては、「弟が兄の妻を好きになる」という設定でも、同じ内容になる。
そして、そこに関しては、「素直に生きるべきだから、真実を告白する」ってのは賛同しかねる。
そこは兄と奥さんが愛し合っているんだから、遠慮すべきだろう。本当の気持ちは、隠しておいた方が共感しやすい。

この映画だと、「グレイはレズビアンである」ということを理由にして、彼女がサムに本当の気持ちを明かすのを「賛同できる行為」として描いているけど、実際には全く共感を誘わないのよ。
なぜなら、それは「自分の悩みを解消するために、周囲に迷惑を掛ける」という、ただの自己中心的な行為でしかないからだ。
本当の気持ちを打ち明けたところで、実際には何が解決するわけでもない。むしろ問題を増やすだけなのだ。
だから、ヒロインに共感させたい、同情させたいと思うのであれば、彼女が告白するのではなく、本人は悩みながらも隠したまま生きようとしていたけどサムが気付くとか、ゴーディーが余計なお節介で暴露するとか、サムがアクシデント的に真実を知ってしまうとか、そういう形を取るべきだったのだ。

(観賞日:2015年3月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会